鶯丸×大包平アンソロジー告知サイト【柳は緑花は紅】

ゆきの茉理

おまけ1

※時系列的には小説冒頭(116ページ)辺りの、鶯丸と大包平くんのやり取りの翌日です。
本編では鶯丸の回想の中の場面(ほっぺた引っ張ったりしてじゃれあってたシーン)ですが、実際にはこんなやり取りを大包平くんと光忠でやってました。

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「えっと……」

 大包平の話を聞いて、燭台切光忠が困ったような笑みを浮かべる。

「他にはない? 頬を引っ張られたとかお菓子食べられたとか、せっかく敷いた自分の布団で寝られたとか以外のことはないの? 大包平さん?」

「今言ったもので十分だろう!」

 まるで告げた内容では不足だと言われているような気がして、大包平は盛大にむくれた。

「とにかく少し前からアイツが変なんだ! それまでは何ともなかったのに、いきなり頬は引っ張ってくるわ俺の分の練り切りをこれ見よがしに口に入れるわ、俺が敷いたばかりの布団に我が物顔で寝転がって熟睡するんだぞ!? 挙げ句に俺が途中まで読んでいた本を勝手に読み始めるし、とにかく俺の邪魔ばかりしてくる!! それが何度も繰り返されてみろ!! いい加減に我慢の限界だろう!!」

「うーん。それは確かにそうだよねえ。でも鶯丸さんに限ってそんなこと理由もなくやらないと思うんだけど……大包平さん、鶯丸さんに何かし――――」

「してない!! 一切してないぞ俺は。心当たりなど全く無い!!」

「そ、そうなんだ。そっかぁ……」

「いや、……心配してもらっているのに済まない」

 彼の部屋に居候させてもらっている身でこの言い草はないだろうと反省し、自分の勢いに気圧された様子の光忠に頭を下げる。

 一昨晩、鶯丸と初めて喧嘩らしいことをした。
 鶯丸から何度となく仕掛けられてきた、前後の脈絡のない仕打ちに対し、大包平も鶯丸らしい気まぐれかと最初の内は放置していたものの(その都度怒ってはいたが)、回数が嵩めば腹立ちも募る。

 一昨晩はついに鶯丸の前から立ち上がりそのまま伊達のメンツに混ざって飲み明かしてしまった。
 長いとは云えるほどではないものの、けして短くはない大包平の堪忍袋の緒が切れたワケだ。

 腹立ち紛れに酒を勧められるままに呑んだためか(実際は鶴丸国永が何処かから持ち込んだ怪しい飲み物のせいらしく、その場で呑んでいたほぼ全員が悪酔いし潰れた)、酔いの回りが早く、気が付いたら光忠の部屋で眠っていた大包平である。

 宴会が開かれていた場は古備前部屋から遠く、伊達部屋は近い。
 酔い潰れた大包平を運ぶ手間を惜しみ、一番大包平に酒を勧めていた鶴丸国永がこちらの方が手間が省けると放り込んだようだ。
 宴に参加せず酒の肴を拵えてくれていた光忠にしてみれば、とんだ災難だっただろう。

 翌朝目覚めたら酷い二日酔いだった。
 出陣明けで内番の予定もなかったのを良いことに、大包平は頭痛と吐き気に苦しみながら光忠の介抱を受けた。
 たかが二日酔いで手入れ部屋を使用するなど以ての外なので、ひたすら回復を待つしかない。

 そんなこんなで古備前部屋に帰るタイミングを失い、今に至る。
 呑んだのは一昨晩のことで、流石にもう二日酔いはすっかり治っているのだが、どうにも気まずくて帰りにくいのだ。


「それにしても原因はなんなんだろう。大包平さん達が喧嘩するようになったのって、少し前くらいからだよね?」

「ああ。言っておくが以前から俺は何もしていないし心当たりもない! あいつがいつもいきなりこの俺の顔を引っ張ったりお八つを取ったり本を取り上げたりしてくるんだ!! あまつさえ俺が敷いたばかりの布団に寝転がりそのまま寝ようとするわ、……一体何のつもりなんだ鶯丸は!? いつもいつも、俺が機嫌良く何かを為している時に限って水を差すような事ばかりしおって!!」

「うーん……こればっかりは鶯丸さん本刃に聞かないと行動の理由なんて……んん? ちょっと待って? 機嫌がいい……機嫌、ねえ……? もしかして……」

「光忠?」

 大包平の言い分にウゥ~ンと唸って考え込む様子を見せるだけだった光忠が、何かに思い当たったかのような表情になる。


「大包平さんが上機嫌の時……楽しそうにしてる大包平さん……つまり笑って? あー…、そんなの見たら……。あ、なんか僕分かっちゃったかも」

「何だと!? 分かっただと!?」

 同じ古備前派として、兄弟のように互いを近しい存在として認識している大包平がどれだけ考えても分からないのに、光忠には鶯丸の行動の理由が察せられたというのだろうか。
確かに刀剣男士として顕現し過ごした時間は、実装が遅れた大包平より光忠と鶯丸の方が長いのは認めるけれど。

 理由は知りたいが――――何となく、少し面白くないのは何故だろう。

「うん。確証はないけど、多分そうかなって。鶯丸さんそういうタイプに見えなかったけど……大包平さんのこと構いたいだけだと思うよ。チョッカイ掛けたいだけ」

「チョッカイ!? 迷惑なんだが!?」

 そんな可愛いものではない。
確かに一度や二度ならそう流せるかも知れないが、繰り返し繰り返し唐突に前触れなくほっぺた引っ張られる身にもなって欲しい。

「大体、何故そのようなチョッカイをかける必要がある? 何のために刀剣男士たる俺たちに口や耳が付いていると思うのだ……何か意思を伝えたいなら口で言えば済むことだろう」

「うーん、何となく伝えたいことは分かってるんだろうけど、なんて言えばいいか分からないんじゃないかなあ。恐らく鶯丸さんは大包平さんが大好きなんだよ」

「は? 俺を好きで何故に俺の頬を抓らねばならん? 俺を好きなら好きだと言葉にすればいいだけだ! それにそんなこと敢えて言う必要もない。鶯丸が俺を好いていることなど遙か昔から知っている。大体あいつは、この俺の美しさを事あるたびに称え伝えてきている……好きだなどと口にするくらい出来ない筈もない!」

「――――そこ豪語できちゃうとこ流石は〝名物大包平〟だなあって惚れ惚れしちゃうよ、大包平さん。実際、本当のことなのが尚更に……」

「フハハ! そうだろうそうだろう俺は大包平だからなっ!」

「ねえ大包平さんは? 大包平さんは鶯丸さんのことどう思うの?」


 胸を張った大包平を見つめ、光忠がぽつんと聞く。


「好きだが? 当たり前だろう。鶯丸はこの大包平と刀派を同じくする古備前の太刀。美しく、強く、俺が最も信頼し背を預けられる兄弟のように近しき存在」

「あぁ……」


 大包平の言葉に、何故か光忠が嘆くような声を上げた。
 
ゆるく笑みを浮かべたまま器用に眉尻を下げ、目を閉じる。

 そういうことじゃなくて、と小さな声で呟くのが聞こえたが大包平にはその意味がよく分からなかった。
 ただ、光忠にとって大包平の返答は満足できるものではなかったらしい。

 光忠が何を正解としているのか大包平には分からないけれど。


「ごめんね。僕はこれ以上このお話聞くべきじゃないって思うから、もう何も言わないよ」


 しかし大包平が更なる言葉を紡ぐ前に光忠が口を開く。


「そういうところが大包平さんらしくって、そんなところも鶯丸さんは大好きだって思ってるんだろうなって分かるから」

「すまん光忠、俺にはお前が言っていることが段々分からなくなってきたんだが……?」



 困惑する大包平に対し、光忠は両手の人差し指を己の口元に近づけて小さな×印を作って見せた。
 〝言わない〟の意思表示だろう。


「ごめんね?」


 光忠はもう一度大包平に謝る。そうして言葉を続けた。


「僕、馬に蹴られたくないから」


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【本編回想】
 アンソロテーマが喧嘩だったので、とにかくこの二振りを仲違いさせねば!!という使命感のみで書きました。
鶯大をいちゃつかせつつ、喧嘩……コミカルポップでいくか、超弩級シリアスでいこうか(バランス良く両方混ぜるというのは不器用な私には、無理ゲーだったので)悩み、どっちかっていうとポップな可愛い話を読むのは大好きでも書くの苦手だったんで、シリアスでいきました。
鶯丸と大包平くん、どっちの視点で書くかも迷ったんですが鶯丸視点の方が書きやすいのと、後で書きますが〝※とある最大の理由〟があった上に、鶯丸が精神的に追い詰められる姿がとても愛おしいので鶯丸視点といたしました。

この話を書く中途まで全然タイトル浮かんでなかったんですけど、不意に脈絡なく大包平くんが彼岸花に埋もれてる光景が脳裏に降って湧いたので、そこの描写を堪能するためにも大包平くん視点は出来ませんでした(※最大の理由)

『緋色の夢~喪うなんて無理なので足掻きました~』は、自分が大包平くんに抱いている感情を理解しないまま、人間みたいに衝動的についつい大包平くんに構って関心を引きたがる鶯丸が、その己の想いを自覚するまでのお話です。


しっかし、今回は気合いが入りすぎたのか、元々書いてから削る作文タイプなのですが滅茶苦茶にボツりました。
書いてはボツって書き直して、また軌道修正のために新たに書いて、それもボツって……お陰で何パターンも話ができました(泣)
本編として選んで載せたものも、それなりにシリアスだったと思うんですが、削った方は更にエグい内容でした笑
勿体ない精神+アンソロ発行記念のオマケに何か少しでも…という気持ちで、そちらの選ばなかった方の喧嘩&大包平くん行方不明シーンを載せたいと思います☆(ホントにえぐい描写のとこはカットしてます)



おまけ2

こちらは最初に考えた喧嘩の理由で、めっちゃ鶯丸が病んでしまいアンソロに載せるネタには相応しくないからボツにしたやつです。
ひたすらに鶯丸が悔いて心を病んで、大包平くんを追い求めてる感じのネタ。

(ラストは同じようにするつもりだったので、死ネタに見えつつ死ネタではなかったです)

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 あれは、いつもと何ら変わらない特別でも何でも無い日のことだった。
 いつも通りに天下五剣の三日月達に突っかかろうとする大包平を止め、その拗らせを軽くからかって、ついでに彼の良く伸びる頬を引っ張り……大包平が拗ねたら謝る〝いつも〟の繰り返し。

 けれどいつになく大包平が反発しキツい物言いをしてきたものだから――――つい、鶯丸も彼にとって地雷だろう言葉を投げ付けてしまった。


「俺たちは刀派は同じだがそう近くもないだろう! 前から思っていたがお前は何故そんなに俺に絡むんだ鶯丸!?  兄弟と言うからにはもっと――――」

「大包平。どんなに面白くなかろうとお前が天下五剣に数えられなかったのは事実だ。そう熱くなるな、些細なことだろう。それより今は自分の練度上げに専念すべきじゃないのか?」


 売り言葉に買い言葉。

 その場は互いに謝らず立ち去ったものの、どうせまた直ぐに元通りになれると高をくくっていた。
 ……軽く考えていた割に、大包平の言葉は鶯丸の胸に突き刺さっていたが。


 そんな風に喧嘩した空気となっていたせいで〝あれ〟はきっと起きたのだ。


 普段と違いどことなくギクシャクしたまま共に出陣した鶯丸と大包平の隊は、赴いた先の時代で出現するはずがない検非違使と遭遇した。

 出現条件を満たしておらず対・検非違使の編成が出来ていなかった隊は壊滅的な損傷を受けることとなった。
 練度上げではなく単なる資源調達のための隊編成であり、練度差がまちまちであったことが災いした。
 編成された部隊には最高練度の者が鶯丸ともう一振り居たからである。

 検非違使の強さはこちらの部隊最高練度の者に合わせて編成されると云われている。
 お守り等の備えもなく資源目的で気軽に組まれたこちらと、練度最強の検非違使部隊では戦う前から勝敗は決していた。

 敵を拡散して各個撃破すべく隊は分散することになり、自然と男士達は刀派同士で固まったのだが、そこで大包平が鶯丸を拒んだ。
 練度差に20以上の開きがある鶯丸との共闘は、先の喧嘩で意固地となった彼のプライドが許さなかったのだろう。

 自分と逆方向に駆け出す大包平を、鶯丸も呼び止められなかった。
 頭の片隅で大包平が走った方角に検非違使が向かう気配が感じられなかったせいもある。

 しかし鶯丸が躊躇った本当の理由は他にあった。
 刀派が同じとは云え、〝兄弟のようなもの〟と自分と大包平の関係性を当てはめたのは鶯丸であって、大包平ではない。
 彼が否定してしまえばそれで消えてしまう儚いものである。


(俺と大包平を繋ぐもの。それに名付けるとしたら、〝兄弟のようなもの〟……それ以外、何と呼び表せればいいんだ?)


 まだ互いが刀剣男士ではなく付喪神であった頃。
 その本体の見事さもさることながら、彼の心根の真っ直ぐさ純真さに、鶯丸は出逢った瞬間から惹かれた。
 神品とも謳われる、威風堂々として燦然と輝くその刀身同様に目映い魂に眼を灼かれてしまった。
 大包平は鶯丸にとっての古備前の誇りであり、憧憬の存在であり、一目見たその時から常に己の心の芯に置くべきもので在り続けた。

 それは、時間遡行軍によって歴史が改変されるという未曾有の危機が訪れ、時の政府によって刀剣男士として顕現された今となっても変わらなかった。

 鶯丸と違って顕現するまで数年を要した大包平を、鶯丸は待ち続けた。

 待って。待って。
 待ち続けて――――新たな刀剣男士が顕現するとの知らせを聞くたびに大包平ではないかと心を躍らせ、違うと知らされる都度に内心で肩を落として――――それでも、いずれ必ず彼が顕現する番が来ると待ち続けて……そうしてようやく、彼と刀剣男士として再会したのである。

 こんな風に想いを傾ける存在を――――ただ〝同派〟というだけで言い表すのは厭だった。
 互いの作刀年月に開きがあり刀工も世代が離れているため兄弟と称するのが正確には相応しくないと理解してはいたが、鶯丸はそれ以外に関係性を当てはめられる名を見つけられなかったのだ。


 しかし大包平にその呼び名を否定されてしまい、鶯丸はいつものように強気に彼との距離を詰めることが出来なかった。
 鶯丸に背を向け走り去っていく姿がみるみる小さくなっていく。

 そして、それが鶯丸の見た大包平の最後の姿だった。
 六振り中、鶯丸を含め五振りが刀剣破壊寸前の重傷を負い本丸へ強制帰還――――残る一振り大包平は、出陣先で消息を絶った。


「先輩が『審神者は刀剣男士と繋がってるから、〝そういう時〟は分かるもんだよ』って言ってたけど……僕には大包平のこと感じられなかった。だから、最悪なことはないって思いたい、けど。でも…でもね、き、切れちゃった……! 大包平と、僕の霊力、つな、繋がりッ、…繋が……おおかねひらと、きれちゃって、」


 審神者とその本丸で顕現した刀剣男士は霊力で繋がっている。
 主から流れる霊力によって、男士達は顕現し続けていられるのだ。

 つまり、その霊力の繋がりが絶たれれば――――。

 落ち着いた様子で、手入れ部屋から帰還した鶯丸達に説明を始めた審神者が途中から嗚咽しつつ訴える内容は、何処か遠い世界の自分に関係ない物語の中の話のようだった。

 それから我に返って、取り乱し彼がいる筈の時代に戻ろうとして暴れ、強制的に部屋に閉じ込められて呆然と時間を過ごし――――落ち着いたかと話し掛けてくれた仲間に感情の整理が付かぬままに噛みついて、また部屋に戻され、出され、独断で時間遡行しようとしてまた部屋に封じられ――――数ヶ月が過ぎた。

 その頃には鶯丸の心はすっかりと擦り切れてしまい、出涸らしの茶のようになっていた。
 出陣も内番もこなすことなく、食事もとらず大好きだった茶も飲まず、部屋でぼうっと顕現を解かれた刀の如く身動きせず過ごす。

 大包平がいない。そのたった一つの事実が鶯丸を打ちのめし、鶯丸の世界の色を奪った。
 顕現した頃はそれなりに歴史を守りたいという気概があったし、戦うことが嫌いだから戦わなければならない歴史など作ってはいけないし、それを阻止せねばという自負もあった。
 刀剣男士として、主を支え時間遡行軍を打ち倒すという使命も抱いていた。

 だけれど――――、大包平が失われた。

 自分の前に現れてくれた彼はもう居ない。
 本霊から分かたれた、この本丸に降り立った大包平はあの大包平だけ。
 その彼がもう何処にも居ないのだ。
 それがどうにも苦しくて辛くて、悲しくて……鶯丸を雁字搦めにしていた。

 刀解されても仕方の無い有様だったし、そうしてくれた方が有り難いと思っていたが主も他の男士達も鶯丸を処分することはなかった。
 抜け殻となった鶯丸は大包平が居なくなった古備前部屋で、半ば物に戻ったかのように微動だにせずうつらうつらと微睡み続ける日々を送っている。

 穏やかな眠りが訪れることのない鶯丸の夢は、その殆どが大包平と過ごした日々であり、繰り返し繰り返し彼が失われる直前の言い合いと、彼岸花の中で倒れた大包平の姿だ。

 仲違いの夢を見るのは分かる。鶯丸が深く悔やんでいるからだ。
 あの時、鶯丸があんなことさえ言わなければ――――大包平が出陣先で単身あんな行動を取ることはなかっただろうに!

 ただ、彼岸花が咲き乱れる〝あの光景〟が何なのかは分からない。

 恐らく、いや主が言うのだから確実に……大包平はあの場で折れたんだろう。
 だから、あんな風に倒れた可能性はある。

 しかし彼岸花などあの出陣先で一切見ていないし、あんなに夥しく咲き乱れた箇所などは絶対になかった。

 それに。
 大包平がもし、あの通りの場所であんな風に倒れていたとしたら――――鶯丸は絶対に、何が何でも彼の傍に駆け付けた。
 審神者の強制帰還指令が発動していても、無理に逆らえば折れていたとしても、己の魂を賭して大包平の傍に向かった。


「……おおかねひら」


 目を閉じ静かに彼を想うのは今の鶯丸にとって、唯一の安らぎだ。
 微睡みの中でなら彼と逢えるから。
 彼を失うこととなった出陣前の言い合いは後悔が募って酷く心が痛むけれど――――まだ彼が存在し、大包平と笑い合える時間に身を浸せる。
 夢の中なら、大包平がまだ生きていると信じていられるから。

 だが彼岸花の中で横たわる大包平の夢だけは頂けない。
 花に埋もれる彼は凄惨なほどに美しくて、鶯丸の目も心も奪って離さないが一人で逝く彼を見ているのは耐えられない。
 共に逝きたい、連れて行って欲しい。
 お前だけを逝かせるものか……心が苦しくて痛くて堪らなくなって、いつも嗚咽して鶯丸は覚醒する。

 いっそ、あの夢は彼が折れるキッカケを作った自分への罰なのだろうかとも考える。
 大包平が鶯丸へ科した罰。大包平がどれだけ天下五剣に対して拘っているかを知っていながら、鶯丸との練度差を埋めようと必死になっていた彼を見ていながら……他愛のない彼の犯行に勝手に傷ついて浅はかな報復をした鶯丸に、大包平が。

 いや、性根が真っ直ぐで清廉潔白を形にしたようなあの刀がそんな行為は望むまい。


「……段々、あの夢が鮮明になっていく気がする。俺はいつまで耐えられるだろうか……」


 最初は、彼岸花ばかりが目に映って小さく大包平が倒れている姿が見えるだけだった。
 それが段々、夢を重ねるごとに大包平に近づいて、さきほどの夢は彼の傍に転がった、破壊寸前の大包平本体までがよく見えた。傷だらけになり血に塗れた彼の拳も。


「そういえば何かを握っていたように見えたが……」




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※この後は、大体アンソロ本編の同じ流れにするつもりでした☆

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