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プロローグ


清くすべらかな羽根、優美な首の線やほっそりとした華奢な体。
神に最も愛された民と呼ばれるラグズの鳥翼族、鷺の民。

実を言えば子供の頃から、美や聖と引き換えの脆弱さを民族の特性としている鷺の民は苦手だった。
嫌いなわけではない。
どう接していいのか分からなくて、触れただけで壊しそうなところが苦手だったのだ。

獲物を狩り、己の強さのみを頼みに空を翔けて生きる、鷹の民である自分とはあまりに違う。

神に似た者という意味を持つ、ベオクと呼ばれる者たちが、神と獣の狭間の者、我々ラグズの中でも特に、鷺の民を虐げ、そのくせ酷く尊んだのか…実を言えば分からなくもない、と思っていた。
彼らは概して嗜虐欲と保護欲を同時に刺激するのだ。
それは、足跡ひとつない真っ白な雪原を前に、誰よりも先に踏み荒らしたくなる衝動と同時に、美しく儚い風景を誰にも穢させず守りたいという思いが湧くのに良く似ていた。


そして、だからだろう。
鷺の民の国セリノスが、ベオクのとある国に蹂躙され森を焼かれた時、同じ鳥翼族とは言え、国交もあまりないというのに、とにかく残ったものだけでも守らなくては、と思ったのは。

それは美しいものが蹂躙されたからこそ働いた、強い保護欲だった。



ああ、でも。

鷺の民の数少ない生き残りであるセリノス王とその末弟を保護して20年、とみに思う。
美しさは力、そしてある意味弱さも力なのだ、と。


『鷺の民』は、あるいは『詐欺の民』と読み替えた方が正しいのかもしれない。


 

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