LOVE PORTION 04 トクン、と胸の高鳴る音がして。 「・・・・・・」 レンの視線は、櫂の顔へと吸い寄せられたまま動かすことが出来なくなった。 いや、違う。 動かせないのではなく、動かしたくない―――――櫂から視線を外したく無いのだ。 ふわりと笑んだ、櫂の顔。 それは普段の何処か人を寄せ付けない雰囲気を纏う、毅然とした彼のそれでなく。 とても優しくて甘い―――――レンが思わず見惚れてしまうような表情だったのだ。 「・・・・・・・」 櫂の、凛とした強い眼差しが好きだ。 ファイトをしている時の、溌剌(はつらつ)として堂々たる姿の彼に憧れた。 およそ欠点の見当たらない、いつだって落ち着き払い大人びた態度の彼のようになりたくて、馬鹿みたいに真似をした。 一緒に居られれば、それだけで楽しくて。 憧れそのものの、櫂の傍に居られるだけで自分も彼みたいな存在になれた気がして嬉しかった。 自分は、『櫂トシキ』になりたかった。 だけど、櫂は櫂で。 レンはレン・・・当たり前のことだが、雀ヶ森レンでしか有り得なかったから。 その不完全さを埋めるためにも、レンは櫂の傍に居続けることに固執した。 櫂が何を思って、レンの傍に居てくれたのかは分からなかったけれど。 何を気に入って、レンの隣に居てくれたのか分からなかったけれども。 レンは、櫂の傍に居たかった。 そうして、それを願う余りに結果―――――櫂を失って。 「・・・・・・・・」 先導アイチや、その他様々な経緯を経て、ようやく『和解した』と言える関係へと修復された自分達なのだが。 「はい。―――――変わらないですよ、僕は」 そこまで考えを巡らせて。 知らず、レンはそう口にしていた。 「出会った時からずっと、―――――・・・僕は櫂に夢中です」 口に出した瞬間に、自分の本当の心に気付いた。 「レン・・・?」 目の前で、レンを魅了した笑みを引っ込め、櫂がポカンと口を開けるのが見えたが構わずに言葉を続ける。 「初めて見た時からキレイだな、って思って。目が離せなくなって―――――・・・それからずっと、僕は櫂ばかりを見てるんです」 「レ、・・・」 「ファイトしてるのも格好良いなって思いますし、勉強とか出来るのも流石だなって思ってましたし、色んなことに落ち着いててクールなのも素敵で憧れますし、僕は櫂の全部が凄くて好きだなって―――――」 「お、・・・おいレン―――――」 「櫂の、顔を見ただけで嬉しくなります」 1度、口を開けば、止まらなくなった。 堰を切ったみたいに、レンの口からは次から次へと、矢継ぎ早に言葉があふれ出てくる。 「声を聞いただけでも、何だかドキドキするんです」 考えなくても、するすると言葉は口から零れていった。 「櫂の後ろ姿見つけたら、すぐ走り寄っていって背中から抱き締めたくなっちゃいます」 だけどきっと、それは当たり前だ。 考えた言葉では無くて、これはレンの心からの言葉で『想い』なのだから。 憧れた。 彼みたいになりたかった。 それは嘘じゃない。 けれども、―――――決してそれだけが真実ではなかった。 それだけだったなら、あんなに苦しみはしなかっただろうし、あんなに彼を逆恨みすることも無かった。 それに、こんな風に彼だけに拘りはしなかっただろう。 そして、こんなに―――――今さっき、櫂が浮かべたあの笑顔に心奪われることも無かった筈だ。 迸る感情のままに、レンは櫂への想いを言い連ね続けようとした。 「櫂と目が合ったら、何かそれだけで僕、胸がぎゅうっと苦しくなって―――――」 「レンッ!!」 が、それは櫂の珍しく慌てたような声によって阻まれる。 「・・・櫂?」 思わず口をつぐんでレンが眼前の彼を見れば、櫂の白い顔がそれと分かる程に赤く染まっていた。 何か怒っているのだろうか。 「い、・・・いい加減にしろ、そんな、・・・そんなふざけたことを、」 「ふざけてなんて居ません、僕は大まじめです」 「・・・馬鹿だろ、お前」 彼らしくない、酷く動揺した言葉をレンが一蹴すれば、櫂はアイスを持っていない方の手で顔を覆うようにしてテーブルに頬杖をつく。 やはり櫂は、何かに立腹しているようだった。 レンに心当たりは無いのだけれど―――――ああ、先ほど櫂が洗ってこいと言ったのに手を洗いにまだ席を立っていないことに機嫌を損ねたのかも知れない。 櫂は潔癖なくらいにキレイ好きだから。 せっかく自分の気持ちが理解出来てスッキリしたから、櫂にそれを全部伝えてしまいたいのだが、ここはやはり手を洗ってきてからの方がいいだろうか。 「――――――――――・・・」 そう考えて、レンが腰を浮かしかけた、その時。 レンの耳に、消え入りそうな声で呟く櫂の言葉が飛び込んできた。 「その言い方じゃ、まるで―――――まるでお前、俺のことが・・・」 ―――――好キダト言ッテルヨウニ聞コエルダロ―――――。 Next 05 |