『生まれる前から愛してる−2−』








 ―――――――・・・イタチの弟を見てみたい。



 カカシがそう思ったのは、最初は純粋な興味からである。



 イタチはアカデミーをわずか1年・・・それも首席で卒業し、10才で中忍にまでなった格別に優秀な忍であり、今や暗部でのカカシの同僚だ。
 カカシの場合は親友からの形見だが、正当血統として受け継いだ写輪眼を開眼している存在でもある。

 だが、感情の起伏に乏しく常に言葉少なで、周りの誰とも積極的に関わろうとしない――――――まあぶっちゃけて言ってしまえば、かなり取っつきにくい男で。
 カカシは、イタチと同僚として上辺だけは親しく見える間柄になりつつも、いつも腹の中を見せないヤツだと思っていたものだ。

 まあそれは、お互い様というヤツだったのかも知れないが・・・とにもかくにも良く分からないヤツ、という印象が強かった。

 顔立ちはキレイなのに、その身の内には得体の知れない深淵がある。
 その深みを覗いてしまったら、闇に引き込まれて二度と戻れないような・・・・そんな怖さを感じさせる男。

 それが、『うちは イタチ』という人物だった。

 だが、そんなイタチが唯一その取り澄ました表情を崩すのが・・・・年の離れた弟、サスケを話題に出した時だ。
 もう歩けるようになっただの、片言を喋るようになっただのと、その時ばかりは嬉しそうな顔でカカシに語っていた。

 寡黙な男だったが、弟の話題を出された時だけは、饒舌になる男だった。



 ――――――・・・とにかく、・・・可愛いんです。



 表情も乏しく、笑っても上っ面だけな男が・・・そう言った時の表情を、カカシは忘れられない。
 とてもとても、満ち足りた・・・幸せそうな顔だった。

 その様子に内心かなり驚きつつも、微笑ましい所もあるのだな、とそれをキッカケにカカシはイタチを見直したのであるが。



 そうなると、イタチの並々ならない鉄面皮を崩した『弟くん』なる存在が気になってきた。
 あの、そんじょそこらのことには顔色1つ、表情筋の欠片も動かさないイタチが、『可愛い』と言ってのけた存在だ―――――――見たくないワケが無い。


 可愛いと言ってのけた対象が『弟』に限定されているため、イタチの美意識がどのようなものか比較対象が無いので、実際のところ本当に可愛いのかは分からないが・・・・とにかくイタチの動かない表情を変えられる存在なのだから、見に行って損は無い筈だ。


 だからして、何度となくイタチに、彼の弟に逢わせて欲しいと申し出たカカシだが――――――――最初の言い方が悪かったのか、イタチは頑として首を縦に振らなかった。

 暗部の同僚として頼んでも、気心の知れた?友人として言ってみても、人生経験豊かな目上の男としてお願いしても、一向に自宅へと連れて行ってくれることは無かった。

 うちはの家は、木の葉でも名門で、かつ写輪眼を保持する由緒ある血筋・・・・自分の身も守れないような子供が、うちはの敷地内から出てくることは無い。
 写輪眼を狙う輩など掃いて捨てる程居るのだから、誘拐される恐れがある内は里内だろうと敷地内からは外へ出して貰えないのだろう。

 カカシがイタチの弟に逢おうと思えば、どうしたってうちはの敷地内へ入る必要がある。

 けれども、その敷地内に一族の許可無しに入れるほど、張られている結界は緩くない。
 というよりか、勝手に踏み居れば、その場で命を絶たれたとしてもおかしくないし・・・・幾ら自分自身も写輪眼持ちとはいえ、カカシだって『うちは一族』と揉めるのは御免である。
 下手をすると、友人から譲り受けた掛け替えのない形見の、その眼を返せと言われかねないのだ。


 それ故に、カカシが幾ら弟に逢ってみたいと主張した所で・・・・兄であるイタチの許可無しには、それは為しえないことだった。








「ねえ、イタチお前さー・・・俺のこと絶対誤解してるよ」

「何がですか」

「俺ってこんなに人畜無害よ? なんでそんなに警戒してるの。いいじゃない、ちょっと見せてくれるくらいさぁ・・・」

「カカシさん、貴方は肉も女も食べるんでしょう。それに、年端もいかない俺の弟を変な眼で見るような人間は、人畜無害とは言えないんじゃないですか?」

「や、そりゃ完璧に無害とはいかないけど・・・ていうか何なの、その酷い言われ方?! だから言ってるでしょイタチ・・・俺べつに、お前の弟を変な眼でなんて見てないから!」

「里の女性に手を出すのは、俺には関係無いですからどうでもいいですけど。・・・俺の弟は許しませんから」

「あのねェーー・・・」

「弟に変な真似したら、冗談じゃなく殺しますよ」

「・・・・お前が冗談言ったことあったっけ・・・・?(汗)」






 何度頼んでもダメで。
 何年か経てば、その内に顔を合わせる機会もあるさとカカシが諦めかけた頃に、チャンスは突然やってきた。

 相変わらずイタチは難色を示していたが、何と木の葉の警務部隊の隊長が直々にカカシに会いたいと言って来たのである。
 カカシの左目に埋め込まれた写輪眼の様子を見たいという、招く内容自体は余り嬉しくない件でのことだったが、招かれる場所が好都合だ。

 うちは一族で占められている警務部隊の隊長は、うちは一族の頭領である『うちはフガク』・・・・イタチの父親なのだから。
 つまりカカシは堂々と、イタチの弟が居る同僚の自宅へ招かれることとなったのだった。







 息子の、職場での上官を招いての夕食――――――・・・との名目でのお呼ばれをされ。
 訪れた途端、早々に写輪眼の状態を調べられたカカシは食事が出来るまでの僅かな間、1人にされたのをいいことに屋敷内を散策しようとした。

 本来なら同僚であるイタチが案内をするところだろうが、タイミング悪く彼は任務が立て込んでいてまだ家には帰ってきていない。
 カカシはフガクに呼ばれていたからこそ、早くこの場へ来られたのである。

 まあ、カカシにしてみればイタチがまだ帰らないのは好都合だ。

 あれだけ、弟に逢わせるのを嫌がっていたイタチである―――――――彼が帰ってきていれば、自分の可愛い弟を隠してしまいかねない。





 とは言っても。
 カカシは実際に、彼の弟自体にそう期待しているわけでは無かった。

 何故ならイタチ自身がまだ充分に、子供と称してイイ年齢だ。
 本人の能力の高さと、それ相応な異端視されてしまう程に輝かしい経歴のせいで、カカシを含め周囲の人間は彼をオトナとして対等に扱いがちではあるけれど。
 
 そんな彼の弟は、当たり前のことだがイタチよりも年下である。
 それも、5歳も下なのだ―――――――・・・幾ら顔立ちの良いイタチの弟だからといって、カカシはロリコン・・・もといショタコンな趣味は無いからして、流石に『そこら辺』は期待出来ないというのが実状だ。

 男として生まれ、それなりの年齢になっているカカシとしては、やっぱりお付き合い出来る年齢対象の相手にこそテンションが上がる。

 だから、あのイタチに可愛いと言わしめるのがどんな存在なのかと、どちらかと言えば珍獣を見るような興味を持って『逢ってみたい』と思ったのだ。
 最初にイタチに『見たいんだけど』と言ってしまったのは、素直な気持ちからである。

 人間というよりは、珍しい動物を見るような好奇心からだった―――――――――実際に、クナイ片手に飛び出してきた生き物を眼にするまでは。










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言い訳。

次回、次回こそは兄さんとサスケがちゃんと出てくると思います!
その前にもう少し、カカシがサスケをおちょくって遊ぶかもですけど(笑)