『HAUYNE−アウィナイト− 前編』













 ――――――・・・アルヴィスが、『それ』を手渡されたのは、何の変哲もない週末のある日のことだった。




「・・・・・・え、・・・?」


 ファントムが珍しくデスクに向かい、レポートを片付けているその片隅で。
 書棚の本を物色しながら、大人しく彼が課題を終えるのを待っていたアルヴィスは、不意に渡された箱に戸惑う。

 手の平に乗る大きさの、白の革張りな立方体の箱。

 ファントムがテキストを片手に、ふと思いついた様子で机の上にあったそれをアルヴィスに渡してきたのだが。
 ・・・・・・当の本人は、そのまま何も説明することなく視線を紙面に戻してしまった。

 黒縁の眼鏡越しに、銀色の長い睫毛が白い頬に影を作り。
 アメシスト色の瞳がうっすらとその隙間から覗く様は、見惚れるくらいに美しい。

 テキストを手にして、ただそれを眺めているというだけの姿なのに、―――――――まるで一幅の絵画のようだ。

 その姿が余りに決まっているから、つい。
 アルヴィスは、彼に声を掛けるのを・・・・・躊躇(ためら)いたくなってしまう。


「・・・・・・・・・・・」


 ファントムの隣に寄せた椅子に、腰掛けながら。
 アルヴィスは、手持ち無沙汰に、とりあえず自分の膝に載せた小箱へと目を落とした。

 何が入っているのか全く予想が付かない上に、何故ファントムがコレを渡してきたのかも分からない。
 今日は別に誕生日でも、特別なイベント事がある訳でも無い、ごくごく普通の週末なのだ。

 ファントムが、何の脈絡も無くアルヴィスに何かをくれることは珍しくない。
 けれど、それらの類は大抵、知り合いからの土産だったり、気紛れに手に入れた菓子だったりすることが殆どだ。
 稀(まれ)に、大きなヌイグルミや花束だったりすることもあるのだが――――――それは、彼の気に入りブランド店の限定商品だったり、たまたま目に入ったから、などという理由からだったりする。

 そして。
 この白い箱の中身はけして、菓子では無いだろう。

 誰から、とも言わない所を考えたら、知り合いから貰った土産でも無い気がする。

 じゃあ、たまに貰うことがある、ファントム気に入りの店の『何か』だろうか。
 それならそれで、『○○のノベルティーだよ』とか何とか、ファントムが説明しそうではある。


 ――――――・・・全く、見当が付かない。



「・・・・・・・・・・・」


 それでも。
 とにかく渡してきたということは、開けてみろという事だろう・・・そう考えて、アルヴィスは小箱の蓋を開いた。


「・・・・・・・・・あっ、・・・」


 一瞬、小さく声が漏れる。

 箱の中に収まっていたのは、繊細な細工が施された銀色のリングだった。
 中心に、7〜8ミリはあるだろう大きな青い宝石が填め込まれている。

 その石の色の見事さに、アルヴィスは息を呑んだ。


「・・・・・・・・・・・・・」


 目が覚めるような、とは、こういった色合いのことを言うのかも知れない。

 網膜に突き刺さるような――――・・・決してボンヤリしていた訳では無いのに、意識が一気にクリアになるような、そんな刺激を受けた。
 以前に実験で硫酸銅の結晶を見た時にも似たような感動を覚えたが、この色合いはそれよりも更に数段色鮮やかだ。

 それ自体が、発光しているかのように鮮やかな、・・・・透き通った青色。

 こんなに見事な青色を、アルヴィスは見たことが無かった。

 夜店などで売っているオモチャの指輪のような、わざとらしくさえ見える程の鮮やかな青。
 けれど、そんな安くてちゃちな存在であり得ないだろう事は、貴金属などさっぱりよく分からないアルヴィスにだって感じられる。

 宝石の魔力に囚われたかのように、アルヴィスは石の色に魅入った。


「キレイでしょ?」


 不意に、ファントムが話しかけて来る。


「・・・・あ、・・・うん」


 顔を上げれば、いつの間にか年上の恋人はテキストを机に置いてアルヴィスの方へと椅子ごと身体を向けていた。
 この方が勉強してるって気分になれるから――――――と、演出?に掛けていたダテ眼鏡を外している所を見れば、もう課題は終わったのだろうか。


「・・・すごい色だな。・・・サファイアか?」


 素直に賛同してアルヴィスが聞くと、ファントムは笑って首を横に振った。


「違うよ。・・・・サファイアなんかよりよっぽどレアな石」


 H・A・U・Y・N・E−アウィナイト−っていうんだ――――――そう、言葉を続ける。


「アウィ・・・ナイト?」


 聞いたことのない名だった。


「アウインとか、アウイナイトとも呼ばれるけど正式名称はアウィナイトだよ。
 藍色の宝の石って書いて、『藍宝石(らんほうせき)』とも言うんだけど・・・・・・・・・」

「そうなのか・・・・・知らなかった・・・」

「まあ、知らない人の方が多いと思うよ」


 素直にアルヴィスが言えば、ファントムは気を悪くした風も無く微笑む。


「――――――でも、キレイな石でしょ?
 アウィナイトは、産出が少ない上に石自体が脆くて加工がすごく難しいんだけどね。
 その手間を掛けてでも、・・・・手元に置きたくなるような色でしょう」

「うん、・・・すごくキレイだ」


 言われるままに、アルヴィスは再び指輪の石・・・アウィナイトに魅入った。

 小指の爪半分ほどの大きさである青い石は、ファントムに繰り返されるまでもなく、とても美しい。


「アウィナイトを構成してる結晶が、とっても小さな粒だから。
 その大きさは結構レアなんだよ。
 しかも※F品質でSランクカラー(※10倍ルーペで内包物を見ることが困難な品質であり、数多く存在しない稀産に位置するカラー)だし」

「・・・・・・・・・なんかすごく高そうだな」


 ファントムが口にした言葉は、アルヴィスにはよく分からなかった。
 けれども、とりあえず相当に高価な石であろうことだけは悟り、・・・・手に持っているのは気が引けて。

 アルヴィスは、ファントムの方へと箱を差し出した。
 それを見て、ファントムが不思議そうな顔をする。


「なに?」

「そんな貴重なモノ、俺が持ってるの何か嫌だし・・・」


 脆いって言ってたし・・・落としたら大変だから。

 もごもごとそう言えば、ファントムは困ったように眉を寄せた。


「・・・それは、ボクがキミに贈った指輪だよ?
 アルヴィス君が持っていてくれないと駄目じゃないか」

「でも、・・・」


 駄目と言われたって、アルヴィスはそんな高価そうなモノを受け取る訳にはいかない。
 第一、宝石のことなど全く知らない自分が持っていても、勿体なさ過ぎるというものだ。

 こういう、価値があるものは―――――やはり、それ相応の知識を持った適切な人間が所持するものである。


「ボクがキミに似合うと思って、わざわざ作らせたんだからね」


 だが、アルヴィスの戸惑いを余所(よそ)に。
 ファントムは差し出されていた箱を受け取り、中から指輪を取り出した。


「はい、左手出してアルヴィス君」

「・・・・・・・え、」


 アルヴィスが条件反射のように、言われたとおりに、うっかり手を差し出すと。
 ファントムが手にしたリングを、スルリと薬指に填めてくる。


「ふふっ・・・ピッタリだね」


 緩すぎずキツ過ぎず、丁度良く収まった指輪を見てファントムが笑った。

 填められた瞬間。
 受け取るわけにはいかないと咄嗟に抜こうとしたアルヴィスだが、そのファントムの顔を見て動きを止めてしまう。

 とてもとても、嬉しそうな表情をしていたから。
 ―――――――出来るだけ長く、その顔を見ていたいと思ってしまって・・・拒絶出来なかった。


「キレイな指輪でしょう」


 アルヴィスが見とれているのを、知ってか知らずか。
 ファントムは、その美しいアーモンド型の瞳を指輪に向けながら、そっと長い指先でリングを撫でる。


「一見、蔦(ツタ)が絡まってるだけのデザインなんだけど・・・実は、2匹の蛇も中に混ざってる細工なんだ」

「・・・・・・・ホントだ・・・」


 余りに石のインパクトが強すぎて、指輪本体のデザインにまで気が回っていなかったアルヴィスだが。
 言われてみれば、蔦に蛇が絡まり合っている非常に凝った細工だ。

 銀色の蔦と蛇が複雑に絡まり合い、中心部にある青い石を守るように抱いている。


「ゴシック調で、ちょっとデザインがゴツいんだけど。
 ・・・中の石が脆いから、そういうのじゃないと壊れちゃうからね」


 でも、ちゃんとアルヴィス君に似合う、繊細なデザインにしておいたから。
 ―――――――そう言って、ファントムがアルヴィスの指からリングを外す。


「とはいっても、日常使いくらいは大丈夫な強度にはしてあるんだよ。
 でも・・・・アルヴィス君、どうせ気にしちゃうだろうから」

「・・・・・・・・・・・」


 そして何処から取り出したのか、1本の銀色のチェーンを取り出してきて、リングをその鎖に通して見せた。


「ほら、こうやってネックレスにしてしまえば。
 アルヴィス君も、気兼ね無くしてくれるよね?」

「え、・・・いや、俺は・・・・」


 催眠術でも掛けるかのように、目の前でネックレスと化した指輪を揺らされても、『そうか』なんて頷けない。

 アルヴィスが1番気にしているのは、その指輪に付いている石の希少性だ。
 希少性が高い・・・つまりはべらぼうに値段が高いんだろうその石を、貰うということ自体に抵抗がある。

 しかも脆くて壊れやすいなどと聞いてしまえば、余計に持っているのが怖いし、気兼ね無くだなんてとんでもなかった。


「こんな貴重なの、・・・貰えない。
 好きな石なんだろう? だったらお前が持っていた方が・・・・」


 差し出されたリング付きのネックレスに、アルヴィスは慌てて首を横に振る。


「好きだけど、・・・ボクは他にも沢山持ってるし」


 しかしファントムは、ケロッとした顔でそう答えてきただけだった。


「でも、この、・・・なんだっけアウィナイト・・・は、貴重だって言うしそんなに数は持って無いんだろ?」


 他の宝石を沢山持っているという意味だろうと思い、アルヴィスは食い下がる。
 ファントムが手元に置きたいと言っていた石なのだから、それはやっぱり彼が持っていた方が良いと思うのだ。

 自分なんかが持っていては、ブタに真珠とか猫に小判といった表現の代表的な具体例となってしまう。


「ううん? アウィナイトは売れるくらい持ってるよ」


 だが、ファントムが続けてきた言葉の内容は、アルヴィスの予測したものとまるで違っていた。


「・・・・・・・・・・売れる?」


 ファントムの言葉に、アルヴィスは思わず聞き返してしまう。

 さっき稀少だとか、高価な宝石であるサファイアよりレアだとか言ってた気がするのだが、アレは何だったのか?
 売れるくらいに所持出来るというのなら、それは稀少とは言わない気がする。


「さっきも言ったけど、ボクはアウィナイトが大好きでね。
 それで、結構前から色々集めてて――――――・・・・それなりに数は持っているんだ」

「・・・・・・・・・・」


 アルヴィスの戸惑いを余所に、ファントムの説明は続いた。


「今はやめちゃったけど。
 ボクは結構、有名なコレクターだったんだよ。・・・アウィナイトの。
 だからね、売れるくらい大量に持ってるのさ」

「・・・・・・・・・・・」


 コレクター・・・収集家。

 つまり、ある特定のモノを沢山集める人間のこと。
 この場合なら、アウィナイトを趣味で沢山集めていることを言うのだろう。

 だが、高額だろう宝石を沢山所持するということ自体が、アルヴィスにはスケールが違い過ぎて想像が付かない。
 だって、記念切手だとか、菓子のオマケカードを集めるのとは次元からして違うのだ。


「何なら、見せようか」


 困惑しているアルヴィスの気持ちを、一切気にしない様子で。
 ファントムはそう軽く言い、机上に置いてあるインターフォンへ手を伸ばした。


「ボクの、アウィナイトのコレクションケース持ってきてくれる?」

「・・・・・・・・・・」

「今、持ってきて貰うから見てみるといいよ」


 呆然と4歳上の幼なじみを見つめたアルヴィスに、ファントムがにっこり笑いながら言う。


「ちょっとしたコレクションだと思うから、見て損は無いと思うな」

「・・・・・・・うん」



 ――――――別に、ファントムの言葉を疑っている訳では無いし見せて欲しかった訳でも無いんだけど・・・。



 そう思いつつ、ファントムの勢いに乗せられて、つい頷くアルヴィスだった。
















 実際のところ。

 程なくしてペタが持ってきたファントムの『コレクション』は、彼が自慢するだけの事はあるシロモノだった。

 ベルベット素材が貼り付けられた、薄べったい・・・・だが大きさは小型のトランクケース程は有りそうなケースが、・・・3箱。
 しかも中を開ければ、先ほどのような鮮やかな色合いの青石が、柔らかそうな黒布に埋まってびっしり、所狭しと陳列されている。

 丸っこいのや四角っぽいもの、それからギザギザした尖ったモノなど形状は様々で、色合いもやや薄いモノから濃いもの、そして黒っぽいものまで多種多様だ。
 けれどそれらは、総じて『青』と言われる色をしており―――――いずれも、『アウィナイト』なのだろうと思われた。

 だが、アルヴィスに差し出された指輪の石よりも、かなり小さいモノが殆どである。
 それどころか、あれ程の大きさのモノは一つも見当たらない。


「・・・・・・・・随分、小さい、・・・?」

「―――――通常、『アウィナイト』は、希少性が高くその殆どは0.05カラット以下のモノが多い。
 ここにあるのは、0.5カラット前後のモノばかり・・・・『アウィナイト』としては、かなり大きなサイズだ」


 自然、漏れた言葉に応えたのは、ファントムでは無くケースを持ってきたペタだった。


「・・・・・じゃあ、・・・」


 それを聞いて、再びアルヴィスの顔が曇る。

 このケースに並べられているので0.5だというのなら、先ほど見せられた指輪の石は、いったい何カラットなのだろうか。

 ――――――少なくとも、倍の大きさはある。


「ファントム、やっぱり俺、それ貰えない・・・!」


 堪らずアルヴィスは、そうファントムに言い募った。

 そもそも、アルヴィスは別に宝石に興味などが無い。

 見て綺麗だなと思っても、ただそれだけである。
 欲しいとも思わないし、持っていても分不相応な気がしてしまうだけなのだ。

 そんな、高価な宝石を贈られても。
 ―――――――嬉しいよりも、気後れしてしまうだけである。


「ええ?
 でもボク、・・・これはアルヴィス君にあげたくて作らせたんだよ?」


 だが、ファントムはまた困ったように笑うだけで、アルヴィスの言葉を取り合おうとしてくれなかった。


「アルヴィス君に似合うように、アルヴィス君のことを考えて、作らせたんだからね」

「でも、・・・持ってる中でも1番イイ石なんだろそれ?
 そんなの俺、・・・貰えないよ・・・・・・・!!」

「はい、・・・・ちゃんと受け取って?」


 それどころか、アルヴィスの眼前にネックレスをぶらん、と垂らし――――――・・・そのまま落とそうとしてくる。


「・・・・・ばっ、・・!?」


 硬い床に落下するのを、すんでの所でアルヴィスは両手で受け止めた。


「・・・・ファントム!」


 水を掬うように、両手で受け止めた体勢のまま。
 アルヴィスは、落とした張本人を睨みつけた。


「何考えてる!?
 これ壊れやすいんだろ!? 割れたらどうすんだ!!!」

「だって、貰って欲しいんだもん」

「・・・・・・っ、・・・」


 驚きすぎて、激昂したまま怒鳴ったアルヴィスだが、ファントムがあまりにも動じないので二の句が継げない。


「こうでもしないと、アルヴィス君受け取ってくれなさそうだったしさー」

「・・・・・・・・・・俺が受け止め損ねてたら、どうする気だったんだよ・・」

「そりゃあ、・・・・」


 アルヴィスの言葉に、ファントムは仕方ないというように肩をすくめた。


「・・・・勿体ないけど、仕方ないよね。また違うの探して、贈らないとだなあ」

「・・・・・違うのって、・・・お前・・・・」


 そんな風に言われてしまったら、アルヴィスも流石に突き返せなくなってしまう。


「いいの。ボクはアルヴィス君にこそ、その石を贈りたいんだ」

「・・・・・・・・・だけど、」


 咄嗟(とっさ)に、反論するための接続語を口にしたアルヴィスだが。
 唄うように言葉を続けて来るファントムにより、やんわりと遮られてしまった。


「――――――この素晴らしい青色は。
 同じ・・・いや、それ以上にキレイな瞳を持つキミにこそ相応しいから」

「・・・・・・・・ひとみ?」

「どんな最高級のアウィナイトだって、アルヴィス君の目の色には敵わないけどね」


 キミに、良く似合うと思ったから――――――。

 そう言って、ファントムはアルヴィスの顎をすくい、軽いキスをしてくる。


「・・・・・・・・・・、あっ」


 その流れるような仕草と、甘い口付けの感触に酔わされ。
 思わず弛んだ手の中からネックレスが滑り落ちそうになり、アルヴィスは慌てて鎖を掴んだ。


「・・・・・・・・・・・・・」


 そのまま、鎖の先端で揺れる指輪へと視線を向ける。

 キレイな色の、石だと思っていたが。
 それがまさか、自分の目の色に喩えられるなんてことは、考えてもみなかった。


「・・・・・・・・・・・・・」


 キレイなキレイな、青色の石。

 鏡で見る、自分の眼は確かに青い色をしているけれど。
 でも、この石に喩えて貰えるほど、大した色では無い気がするのに。

 確かに今まで、目の色を他人から賞められたことは多かったが。
 それは単に、アルヴィスの目の色が濃くて珍しいせいだろうと思っている。

 薄いブルーの目は珍しくないが、アルヴィスほどクッキリと濃い青色をしている目は、他に見かけたことが無かったから。

 でも、珍しいのとキレイというのは、全く別モノだ。
 美しい眼というのは、――――――目の前の、彼みたいな眼をこそ言うべきだと思う。


「それにね・・・・」


 そんなアルヴィスの様子を、機嫌の良い猫のような顔で見ていたファントムが、言葉を続ける。


「一応コレ、エンゲージリングのつもりでもあるから。
 多少は値段張ったの贈っておかないとって思うし――――――――」

「・・・・え?」

「まだ正式じゃないけど、ボクの意思表示ってことで」

「・・・・・・・・・・・」


 余りにも気負いなく、さらっと言われてしまったので聞き違いだったのかと疑ってしまいそうな程だった。


「もちろん、『プレ・リング』だよ?
 正式な婚約指輪は、ちゃんと演出とか日にち設定とか、練りに練って贈ってあげるから」

「・・・・え、・・っと・・・・」


 にっこり微笑まれながら言われても、思考が真っ白になってしまっているアルヴィスは言葉が出てこない。


「だから、ちゃんと受け取ってね――――――」


 そう言われた言葉も。
 耳から入って脳へ到達する前に、甘く霞みがかって消えていく。


「・・・・・・・・・・・」


 微動だに出来なくなったアルヴィスを抱き締めて、ファントムが自分の手からネックレスを取り、そのまま首に掛けてきても。


「・・・・・・・・・・・」

「うん、すごく素敵だ。
 やっぱりこの石の青は、アルヴィス君に良く似合うね」

「・・・・・・・・・・・」


 満足そうに笑って、ファントムがまた、今度はペタも居るというのにキスを仕掛けてきても。

 真っ赤な顔をして、アルヴィスは反応出来ないままだった。


「――――――ボクの気持ちだよ。
 ボクだと思って、いつも身に付けてくれてたら嬉しいな?」


 だから。
 絶対に受け取らないと思っていたのに・・・・・・そう言われた時は、頭が上手く働いてくれなくて。

 大好きで、お願いされたら何だって条件反射で頷いてしまう、その神々しいほど美しい笑顔で言われたら。
 アルヴィスにはもう、それに対する異論など浮かぶはずも無く。

 赤い顔のまま、夢見心地で・・・・・ファントムの言葉に頷くしか無かったのであった――――――――。

 






 NEXT 後編

++++++++++++++++++++
言い訳。
(後半に続きます☆)
宝石をネタにと考えていたら、ファンアルだと何故か余りネタが思いつけず(汗)
困った挙げ句に、月並みなエピソードを書いてしまいました(笑)
でも、宝石は最初から決まってたんです。
アウイン、アウイナイトとも呼ばれる宝石『アウィナイト』。
機会があったら、検索してでも見てやってください(笑)
マジでキレイな石です。
ゆきのは、サファイアより好きです(笑)
アルヴィスの目の色、こんなだったらなーって思う、超キレイな青さ。
硫酸銅の結晶みたいに鮮やかな色の石なんですよーvv
希少性高いので、手には入れにくいんですけどね☆
(良質なのじゃなかったら、お手軽な値段・・・と言える物もあるそうです)