『Halloween&Birthday−side光−焔編8』





※『君ため』の番外編です。







 ふわふわと。
 身体が、何か柔らかで優しいものにくるまれている。

 素肌に当たる、その感触が心地よくて。
 もっと、それが味わいたくて。



「・・・・ん・・・っ、・・・」


 アルヴィスは無意識に身体を捩り、頬をそれに擦り寄せようとした。


「・・・・・・・・・?」


 そして、何度も自分の髪を優しく梳いてくれている、指先の感触に気がつく。
 地肌を通して伝わる、撫でてくれている手の平の大きさや指の長さは、・・・アルヴィスが良く知っている人間のモノだ。


「・・・・・・・」


 まだこのまま、心地の良い微睡(まどろ)みの中に身を浸していたいと思う気持ちを抑え。
 アルヴィスは、ゆっくりと眼を見開いた。

 全身を柔らかく包まれ、頭を撫でられている今の感触は、とてもとても心地がよいけれど。
 身体の重み全てを預け、完全に脱力しながら夢心地でいられるのは、・・・・・すごく気持ちが良いのだけれど。

 それよりも、この撫でてくれている指の主(ぬし)の姿が知りたかった。
 この心地よさを与えてくれているのが『彼』なのだと、・・・・自分の眼で、ちゃんと確かめたい。

 ただ気持ちの良い夢を見ているだけじゃなく、――――――この感覚が現実のものだと知りたかった。


「・・・・・・・・・・・、」


 心地の良い睡魔に、自然と引き下ろされそうになる重たい瞼(まぶた)を懸命に持ち上げ。
 アルヴィスは何とか、眼前に焦点を合わせようとした。

 最初に視界に飛び込んできたのは、光沢のあるベージュ色。

 アルヴィスが見慣れたその銅(あかがね)色は、・・・普段寝起きに使っているベッドの枕カバーの地色だ。
 美しい花や鳥の模様が同系色で描かれた高価そうな布地は、ファントムと一緒に眠る大きなベッドに幾つも積み重ねられた枕のモノである。



 それでは今、自分はあの寝室で寝ている・・・・・?



 ――――――漠然と、アルヴィスはそう考えた。

 いつから眠っていたのだろう。
 ・・・・それより、出掛けていた筈だった気がするのに、いつの間に自宅へ戻っていたのかも分からない。

 だが何となく・・・感覚的に。
 ここが、いつも使っている『ベッド』だというのだけは分かった。

 身体を横たえ、その重みを全て預けた箇所から伝わる『感覚』が、それを告げている。
 アルヴィスの身体を支える、適度な硬さを保ちつつ柔らかなマットの感触も肌に触れるシーツのサラサラした心地よさも・・・・・覚えのある、それだ。


「・・・・・・・・・」


 自分が、良く知っている場所に居るのだと確信して。
 アルヴィスは、ハッキリしない意識の中で小さく安堵の吐息をつく。


 けれど、それだけでは足りなかった。

 『彼』の存在を、確かめなければ。
 アルヴィスが本当に安心できるのは、『彼』の傍に居ると確信出来た時だけである。

 彼が居ないのなら、彼の姿が見つけられないのなら。
 ・・・・・・・・・・何処に居たって、アルヴィスは落ち着けない。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 視線を少し、枕より向こうへと移動させ。
 視界の端に、濃緋色がチラリと見えた途端・・・・・・・・・アルヴィスは知らず、口元をほころばせた。


「・・・・あれ、起こしちゃったかな?」


 その途端。
 アルヴィスの髪を撫で続けていた指先の動きが止まり、甘く優しい声が降ってくる。


「・・・・良く眠っていたね・・・気分はどう?」

「・・・・・・・・・・」


 声がした方向・・・視線を巡らせたその先へと眼を向ければ、赤いガウンを纏った青年の姿があった。

 アルヴィスが予想し、強く願っていた通りの光景だ。
 白く輝く銀糸の髪をした、同じ人間とは思えないような美しい顔の青年の姿。

 大好きで、1番大切な―――――・・・アルヴィスが、誰より傍に居て欲しいと願う人。


「・・・・・・・ふぁんとむ」


 擦れた声で、青年の名を呼べば。
 アルヴィスが眠る横に腰を下ろしていた青年が、ニッコリと笑いかけてくる。


「顔色も良くなったし、もう平気だよ」

「・・・・・・・・・・・」


 風呂上がりなのか濡れた前髪を掻き上げ、白く形良い額を露わにした青年の顔は、見慣れているアルヴィスが見てもゾッとする程に美しかった。

 普段は長く伸ばした前髪で、顔のほぼ右半分が隠されているのを今は全て晒しているせいなのか。
 その完璧な配置を誇る、左右対称の顔立ちが強調されて・・・・・・・彼の美貌を、余計に人ならざる存在へと追いやっている気がする。

 優雅で繊細なのに、女々しさの無い理想的なカーヴを描いた、輪郭と細めの眉。
 見つめれば賞賛(しょうさん)の溜息しか出なくなる、蠱惑的な輝きを放つアーモンド型の双眸。
 高貴さと典雅さを併せ持った、高い鼻梁といつも笑みを絶やさぬ薄く形良い唇。

 プラチナの糸で作ったサラサラの銀髪に、最高級の象牙を用いて造られた白皙の肌した――――――・・・天上に住まう、人ならざる存在。
 地上を遙かな高みから見下ろす、神々ならばこんな姿をしているに違いないと・・・・そんな、人間離れした印象を抱く美しさ。

 頭身が高く、バランスが取れたモデル顔負けのプロポーションといい、整いすぎてる程整った顔立ちといい。
 アルヴィスの幼なじみであり恋人である青年には、――――――――・・・いつもそんな人外のイメージが付きまとう。

 今のように、前髪を掻き上げ額を出している時は余計に顔立ちのキレイさが引き立つから、尚更だ。

 だが、今は少しだけその印象が和らいでいる。
 それを、不思議に思い。



「・・・・・・・・、」


 怠い腕を持ち上げ、アルヴィスは傍らの青年の顔の方へと手を伸ばした。

 
 左側の、吸い込まれそうに美しい紫色は、アルヴィスも良く見知っているファントムの瞳だ。

 けれど、右目がいつもとは違う。
 露わになったファントムの右目に、アルヴィスは違和感を覚えたのだ。


 余り知られていない事だが、ファントムの眼は左右で色が異なる。
 厳密には『虹彩異色症(こうさいいしょくしょう)』とかいう、先天性の症状らしい。

 左目は美しい紫色をしているけれど、右目は陽に透かした蜂蜜のような黄金色なのだ。
 世界中に様々な色の瞳は在るだろうが、金色の眼はかなり珍しい部類に入るに違いない。

 地中深くで何千年の時を越えて熟成された、琥珀(こはく)のような。
 いつかファントムに見せて貰った、最高級のトパーズだというシェリー酒の色をした宝石である、インペリアル・トパーズのような。
 単なる、金色がかった黄色い瞳では無くて。
 ファントムの眼は、―――――――・・・本当に透き通った蜂蜜色の虹彩をしている。

 両眼の色とも、アルヴィスはとてもキレイだと思うのだが・・・・・ファントムは人目に晒すのを嫌っているらしく、滅多に右目を露わにしている事は無かった。
 パーティーなどへの出席で前髪を上げる時は、必ず紫のカラーコンタクトレンズを填めていたし、そうでない時は常に前髪を下ろして隠している。

 左目の紫色も、そうありふれた瞳の色では無いから人目を引くといえば引くのだが。
 それでも、右目の色の珍しさとは全く比較対象にならないし、そもそも左右で色合いが違うという事自体が極めて稀(まれ)である。






 ――――――・・・・右の眼と、左の眼の色が違うのは・・・・にゃんこだと、良くあることなんだ。

 にゃんこだったら、青色と金色の子が多いかなあ?

 青色の目の方の耳がね・・・・聞こえない事が多いんだよ、にゃんこは。

 僕は別に、両耳とも平気だけどね・・・・。



 ――――――・・・色がさ。

 ちょっと他に、あんまり無い色なんだよ。

 アルヴィス君も、僕以外の人で見たこと無いでしょ?

 だからさ、目立っちゃうんだよね・・・・すっごく!

 注目を浴びるのは大好きだけど、動物園の珍しい生き物みたいに面白がられるのは嫌いなんだ。

 僕は愛でる側で在りたいんであって、鑑賞対象になるのは御免だからね・・・・。







 いつだったかファントムは、アルヴィスにそう言ったことがあった。
 幼い頃の事だから、当時のアルヴィスには半分以上ファントムの言った内容は難しすぎて理解出来なかったのだが、今なら分かる。

 ―――――――ファントムは、他人に自分の左右色違いの眼を晒したくないのだ。
 だがそれは、あくまで外に居る時の話であり・・・・・他人の眼がある所での、事である。

 寝室や、風呂上がりの時に濡れ髪を掻き上げて顔を露わにしているような時。
 そして、その場にアルヴィスしか居ない時に――――――――ファントムは、眼を隠そうとはしない。

 濡れ髪の時のファントムは、・・・・・・・金と紫の瞳でいるのが、アルヴィスにとっては『自然』である。
 そしてアルヴィスは、彼のその色違いのキレイな眼を見るのがとても好きだった。


 それなのに、今の彼は左右共に紫色の瞳でアルヴィスを見つめている。

 ・・・・・・気に食わない。



「ん?」


 自分の方に差し出された指に、ファントムが怪訝そうな表情を浮かべた。
 だが、すぐに笑顔に戻ってアルヴィスが伸ばした指の方へと顔を寄せてくる。


「なあに? どうしたの・・・まだ、寝ぼけている?」

「・・・め」


 恋人の、長い銀色の睫毛に指先で軽く触れながら。
 アルヴィスはボソリと、感じた違和を口にする。


「いろが、・・・・へん」

「・・・・」

「髪あらったんだろ? ・・・なのに色、へんだ・・・」

「・・・・」


 アルヴィスの指先を、長い睫毛が何度か掠めて・・・・ファントムは大きく瞬きを繰り返した。
 少しチクチクとする、しなやかな睫毛の感触がくすぐったい。


「・・・・変って、・・・・?」


 戸惑ったような顔で、ファントムはアルヴィスの手に重ねるように、自分の指先を目元に当て。


「・・・・ああ、そういえばまだコンタクト填めていたね」


 ようやく合点がいったように、ニッコリ笑った。


「パーティー会場から、真っ直ぐアルヴィス君連れ戻しに行って、そのまんま忘れてたよ」


 言いながらファントムは一端、アルヴィスから身を離し。
 無造作に右手の人差し指で、右目の下瞼をペロッとめくり・・・・もう左手の親指と人差し指で、右の眼球を摘み取るようにして紫色のコンタクトレンズを外し傍らへ捨てる。


「これで、変じゃない?」

「・・・うん」


 ようやく見慣れたアメシストとトパーズ色の双眸を見ることが出来て、アルヴィスは満足げに頷いた。


 ファントムの左右色違いの瞳を見る事が出来るのは、恐らく彼にごく近しい存在の人間だけなのだと今は知っている。
 普段は前髪で右目が隠れているし、どうしても前髪を上げなければならない状況の時でもカラーコンタクトレンズを填めて、他人には決して晒さない。

 アルヴィスは、ファントムのコンタクトレンズを填めた右目が好きじゃなかった。
 どことなく違和感があるし、左目と比べると色合いが似通ってはいても、キレイじゃないと感じてしまう。
 それにレンズを外した裸眼は、とても美しい金色で・・・・隠すのは勿体ないと、どうしても思ってしまうのだ。




 ―――――――きれいだね。

 ファントムのお目々は、すっごくきれいなブドウとオレンジのアメみたい。

 きれいだね、・・・だいすき!!




 初めて両眼を見せて貰った時に、驚きながらそう叫んで喜んだのを覚えている。
 それからというもの、風呂上がりや寝る前のファントムの姿は、アルヴィスにとって"これ"が自然だった。

 アルヴィスの気持ちを汲んでくれたらしく、ファントムはアルヴィスの前でだけはその瞳の色を隠そうとはしない。
 躊躇いなく左右色違いの瞳を露わにして、その紫と金の眼で優しくアルヴィスを見つめてくれる。

 幼い頃から、それはずっと変わらない2人の間での『決まりごと』だった。



「・・・・やっぱり俺、ファントムのこの金色の眼・・・キレイですごく好きだ・・・」

「そう? ありがとう」


 思わずといった様子でポロリと零れたアルヴィスの本音に、銀髪の青年は唇の両端を機嫌良く吊り上げる。


「僕もアルヴィス君の眼が、とてもキレイで1番気に入っているよ。・・・もちろん、他の部分も全部大好きだけれどね」


 そう言って、アルヴィスの身体を抱き起こすように腕を伸ばしてきた。
 早くファントムのもっと近くへ寄りたくて、アルヴィスからも青年に抱き付く。


「・・・・俺の方が、もっと好き」

「それは、・・・光栄だね」

「だから・・・・俺の前では隠すな。コンタクトの色は、・・・嫌いだ」

「・・・・・・・・うん」


 ファントムの胸に、顔を寄せて甘えながら。
 彼の規則正しい鼓動と体温を感じて抱き締められている状態こそが、アルヴィスにとって幼い頃から最も安らぎを覚え、落ち着ける一時(ひととき)なのだ。

 深い緋色のガウンを纏った青年の胸板に頬を擦り寄せ、猫のように懐いているアルヴィスの頭を何度も、ファントムが優しく撫でる。
 その心地よさに、アルヴィスは再び眼を閉じて眠りの世界へ入り込みかけた。


「でもね、アルヴィス君」

「・・・・?」

「僕がコンタクト外すの忘れた理由は、結構キミのせいなんだけどなあ」

「俺のせい?」

「・・・・・・僕がパーティーに出席している間、良い子で待っていてねって。僕、・・・そう言ったよね?」


 変わらず甘く優しい声音で、ファントムが続けて口にした言葉に――――――――――アルヴィスは一瞬、思考が真っ白になる。


「・・・・・・・・・・・、」


 何処か希薄で、おぼろげに霞んでいた意識が一気にクリアになった。


「・・・・・・・・・え、・・・・・と・・・・」


 出掛けていた気がする・・・じゃなく、しっかりと出掛けた。

 しかも、・・・ファントムが出掛けるのをコレ幸いと、彼の眼を盗んで・・・・ナイショでだ。


「アルヴィス君が良い子だったら、絶対近寄らないような場所だと思うんだけどね・・・・?」

「・・・・・・・う・・・」


 ファントムが言葉を紡ぐ度、その気まずさに、ざぁーっと血の気が下がりアルヴィスは青ざめる。

 そう、・・・確かに出掛け先は、彼が知れば絶対に激怒するに違いない、何かよく分からないが『いかがわしい店』だった。


「可愛らしい格好させられてたみたいだけど、それってちゃんとアルヴィス君が自分で着たのかなぁ?」

「・・・・・・・・着ろって、・・・・言われた・・・から」


 ネチネチとした口調でファントムに言われ、店でヒラヒラとしたメイドファッションを命じられた事も思い出す。
 そして芋づる式に、何だかベタベタとキモい親父にあちこち触られてのし掛かられて―――――――未成年なのに酒を飲まされてと、散々な目に遭ったような記憶も蘇ってきた。


「・・・・・その、俺は・・・・・、」


 でも俺だって!
 俺だって、色々苦労して大変だったんだ!!

 怒られると冷や汗を掻きながら、そうファントムに事情を訴えようとして。


「だからその、・・・俺・・は、・・・・?」


 アルヴィスは、その飲まされた後からの記憶が殆ど無い事に気付く。
 すごく大変で、嫌で・・・・怖くて気持ち悪かった感覚だけはハッキリと覚えているのに。


「・・・・・・・・・・・あれ、・・・??」



 そこからは、・・・どうなったのだったろうか。

 酒に咽せて苦しくて・・・・頭がぼやけてきて、・・・・それから?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 思い出そうとしても、そこからの記憶全てがハッキリとしなかった。
 記憶を強引に引き出そうとすると、頭の中がごちゃ混ぜになり、ただ猛烈な不安や恐怖、気色悪さと・・・・・・・・そして何故か、安堵感や心地よさという相反する感覚が同時に蘇ってくる。




 なんだ?

 なんで覚えてないんだ・・・・?

 気持ち悪い・・・・・。



「・・・・・・・・・・・・・・・」


 思い出せない気味悪さに、アルヴィスが表情を強張らせたその時。


「僕が可愛い格好させようとしたら、いっつもすごく嫌がるのにねえ。あそこでは嬉々として着たんだよね、納得いかないなあ!」


 その思考を払拭するような、アルヴィスには聞き捨てならないファントムの言葉が発せられた。


「あ・・当たり前だろ!? 俺は男なんだ、お前が着せるようなビラビラした格好とか遊園地に居るような着ぐるみなんかになりたいもんか!!!」

「でも、自分で着たんでしょ?」

「それは、・・・・頼まれたからだ!」


 ぶすっとして、アルヴィスは言い返す。


「嬉々としてなんて着てないっ!! 着たけど、アレは嫌々だったんだから・・・・・・あ、・・・?」


 言い返したついでに、そうやって嫌々でも女装したのはこのファントムにあげるプレゼントの為で。
 そういえばその『プレゼント』はどうなったのだったかと、ようやく大切な事に思い至った。



 シャンパン。
 15万円もするっていう、超高価なシャンパン。

 くれるって話だったけど、・・・・・俺はちゃんと最後までバイトをしたんだろうか・・・・・・・・!?

 ・・・駄目だ覚えてない・・・最後までバイトした覚えも、シャンパンを貰ったっていう記憶も無い・・・・・。



「・・・・・・・・・・」


 やっぱり、途中から完全に記憶が抜けている。

 ファントムの目を盗んでバイトに行き、何処かのオヤジの相手をして、・・・・それからの記憶が無い。
 今こうして、自宅のベッドでファントムと寝ながら話している場面までの記憶が、完全に途切れているのだ。

 そもそも、今は一体何時なのだろう?

 記憶があるのは、せいぜい夜の8時過ぎくらいまでだった。
 ファントムがパーティーから帰ってくるのは、10時過ぎになると言っていたから――――今は11時くらいだろうか?
 だがアルヴィスがいつから此処で寝かされていたのかが分かっていないから、それはあくまで不確かだ。

 日付が変わって過ぎていたら、アウトなのに。
 時間経過がまるで分からないし、時間以外の事も分からない事だらけだ。
 記憶が無いから、全部がアヤフヤになってしまう。

 ただ1つ確かなのは、(アルヴィスの意識的には)今日がファントムの誕生日という事である。
 アルヴィスは、そのファントムに贈り物をしたいが為に、彼の目を盗んでバイトを頑張ろうと思ったのだから。

 ファントムの誕生日なのに何も贈らないなんて、―――――――アルヴィスは、絶対に嫌だった。


 それなのに記憶どころか、・・・・軽く辺りを見回して探しても、手に入れようと頑張っていた筈のボトルも見つからない。
 それはやはり、作戦が失敗した事を示しているのか・・・・・・・その線が濃厚な気はしていたが、アルヴィスは認めたく無かった。

 記憶が途中から途切れている不自然さも忘れ、アルヴィスはプレゼントを用意出来ていない事への焦りに頭がいっぱいになる。




 ――――――・・・どうしよう。

 あんなに、前から悩んでたのに。

 あんな前から、何にしようか考えてたのに・・・・・。

 結局、何も。

 俺はファントムに、あげられないのか・・・・・・・?



 ――――――・・・そんなの、嫌だ・・・・・・・!!





「・・・・・・・・・っ、・・・」


 アルヴィスの唇が、への字に引き結ばれる。


「どうしたの、アルヴィス君?」


 左右色違いの瞳で、ファントムはただじっと、そんなアルヴィスを眺めていた。


「・・・・・・・・ファントム、・・・・」


 神秘的な色合いの双眸に、自分の姿が映るのを見つめながら。
 アルヴィスは途方に暮れた顔をファントムに向け、身体を起こして居住まいを正す。


「ファントムは、・・・・俺にいつも何でもくれるのに・・・・ごめん」


 済まなさそうに眼前の美貌を見つつ、そう言って。
 アルヴィスは、ションボリと項垂れた。


「俺には、ファントムが喜べそうなモノはあげられない・・・から、・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「だから、・・・こんなんじゃ全然、駄目だって分かってるけど、・・・・・」


 言いにくそうに、モゴモゴと言葉を紡ぎ。
 アルヴィスは、着せられていた青年とお揃いのバスローブ・・・・色は白だが・・・・の襟元に手を掛けて、するりとその細い両肩を露わにした。


「・・・・・・お、・・・俺・・・・・!」


 恥ずかしさと酷く大胆な事を口走っているという想いと、とてつもなく履き違えた事を言っているだろうという自覚に、声を震わせながら、アルヴィスはギュッと目を閉じて一息に言葉を吐き出す。


「・・・・俺を、・・・す・・好きにしていいから・・・・っ、・・!!!」

「・・・・・アルヴィス君・・・」


 真っ赤になって、そう叫んだアルヴィスを。
 ファントムは大きく見開いた紫と金の瞳で、ただただ呆気にとられたように凝視していた――――――――――。

 






 NEXT Halloween&Birthday−side光−焔編9

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言い訳。
あれー?
終わると思ったんですけど、終わらなかったですn?(殴)
スンマセン、話が逸れちゃったせいでまとめられませんでした!
次回。
次回こそ終わりです(←ホントです!)
なので今回は短めに終わらせてみました☆
次回はひたすら甘く、イチャコラさせます。
スウィートonlyなファンアル(笑)
そして完結させます・・・って何回書いたんでしたっけね今回の番外編小説は・・・・(遠い目)