『君のためなら世界だって壊してあげる』
ACT 66 『真夏の雨−5−』
意識的に足を前に繰り出す動作を速めつつ、自分からナナシへの距離を取ってしまったのだと、アルヴィスの胸中を後悔にも似た想いが過ぎったが――――――必死にそれを振り払う。
「・・・・・・・・・」
だって、先にまたアルヴィスから遠ざかろうとしたのは、ナナシの方だ。
いつだって彼は・・・自分に対してだけは、差し障りない程度に優しくて人懐こくて・・・そしてある場所からは一線を引いて、決して中へは踏み込ませない。
線引きする場所は決まって、あともう少しでナナシとわかり合えるのでは無いか、もしくはもっと親しくなれるかも知れない、という時であり・・・・それを考えれば、やはりアルヴィスは彼から避けられているのだろう。
「・・・・・・・・・・」
――――――やっぱり、今日は最悪の日だ。来なければ良かった・・・・!!
1度浮上した気持ちが再び落ち込むと、精神的な疲労も相まってドッと疲れが身体に溜まってくる。
足が重くなってきて、舗装(ほそう)などされていない雑草が生え放題になっている、山道というよりは獣道(けものみち)と呼んだ方が良さそうな道は気を抜けばあっという間に草に足を取られて転んでしまいそうだった。
「・・・・・・・・・」
けれど、ナナシにあんな捨て台詞めいた言葉を吐いて先を急いだ手前、転ぶなんて恥ずかし過ぎるから、断じてコケるわけにはいかない。
アルヴィスは意地で、足を前に踏み出し続けた。
少し視線を転じれば、蔦(ツタ)が絡まった幹やら映画などに出てきそうな不気味な枝張りの巨木、陽に透けて明るいエメラルドグリーンに輝く茂った葉や、木々の間を縫うように覗く真夏の澄んだ青空なんかが見えるのだが―――――――そんなのはもう、アルヴィスの眼には入らない。
そもそもはギンタが言い出した事であり、頂上へ登ることなどにアルヴィス自身は全く意味など見出してはいなかったのだが・・・・ナナシに追いつかれたくない一心で、先を急ぐ。
気付けばアルヴィスが先頭で、後ろからパラパラと数名が続くといった状態になっていた。
端から見れば、アルヴィスが率先して山に登りたがっているというような状況だ。
実状は、単にアルヴィスがナナシに追いつかれたくないと思って足を早めているだけであり、頂上だとかそんなのは、全く眼中には無いのだが。
「・・・・はあ、・・はあ、・・・」
普通の道と違い山には傾斜があるから、歩いているだけで、それなりに体力が消耗してくる。
気温の暑さとは別意味に、額を流れ落ちる汗を拭いながら。
アルヴィスは、徐々に苦しくなってきた息を堪えこらえ、足を動かした。
さっきまではナナシと手を繋いでいたから、案外と楽に歩けていたのである。
ナナシに重心を預けていたつもりは無かったのだが、さりげなく彼はアルヴィスの手を引っ張るようにして歩いていてくれたのかも知れない。
だが、そう気付いたら気付いたで余計に、アルヴィスの勘に障(さわ)った。
「・・・・くそ、・・・!」
喉元の苦しさを無視して、アルヴィスは更に足を早める。
もう、ヤケクソだった。
このモヤモヤと鬱屈(うっくつ)した気持ちを、吐き出せる場所が無い。
訴えたい相手は明確だったが、それを吐き出す為の巧みな会話能力がアルヴィスには備わっておらず・・・せいぜい、苛立ちを八つ当たりのようにぶつけるのが関の山だ。
「・・・・・・・・・・」
だから。
このモヤモヤとした気持ちから気を逸らすには、・・・・身体を酷使するしかない。
身体のある場所が耐え難い痛みを訴えている時は、別の場所に痛みを与えると、その部分に神経が向いて最初の箇所の痛みが和らぐ。
心と身体の場合も同じようなモノで、・・・・心が痛い時は身体に痛みを、身体が苦しいときは精神的にもっと辛いことや重大な関心があることを思い浮かべれば、気が逸れるに違いない・・・そう思ったのである。
「・・・はあ・・・はあ・・・、・・・」
オーバーペースで、ちょっと胸が苦しいような気はしたが、これくらいの方が余計な事は考えずに済むかも知れない。
そんな風に考えて、アルヴィスはただ無心に足を動かしていた。
別にそんな無理をしてまで登る必要は無く――――――自分だけ、さっさと下山してしまおうかともチラリと考えはしたが・・・途中でどうしたってナナシと顔を合わせることになるだろうし、ギンタともまた遭うのは必至である。
そうなったらまた、下山理由を問い質されて面倒な事になるだろう・・・それはそれで、鬱陶しい。
だったらもう、苦しかろうと何だろうとサッサと頂上へ向かい、速やかに降りるのみである。
「・・・くそ、やってやる・・!」
足に絡まる下草をブチブチと力任せに引き千切りながら、アルヴィスは、あって無いような名ばかりの道をハイペースで登り続けた。
真夏という季節柄。
灼熱の太陽が地上を照りつけ、茹(う)だるような気温と咽せ狩るような湿気に、外に居れば辟易(へきえき)とするのが普通だが・・・・木が密に生え、たっぷり山肌を覆い隠すように葉が茂る山中では、それらが多少和らぐようだ。
暑くないわけでは無いけれど、アスファルトの照り返しを受けながら交差点などで信号待ちしている時に比べれば、遙かにマシである。
街中の暑さを、フライパンの上で焼かれる目玉焼きに例えるなら・・・・山の中は差し詰め、じんわりと温められる砂風呂のようで、まだ耐えられる余地がある。
「登ってやる・・・意地でも1番で、・・・・誰よりも早く登って、・・・・そしてサッサと降りて・・・・やるんだ、・・・・っ、・・・!!」
羽織っていたパーカーを脱ぎ、それを腰に巻いたTシャツとジーンズ姿でアルヴィスは、どんどんと先を歩いた。
それもこれも、―――――――・・・・ナナシに追いつかれたくない、ただその一心で・・・・。
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言い訳。
短めですが、切りが良いのでここでページを切っておきます(笑)
次回ようやく、タイトルに相応しい展開に出来るかな。
真夏の雨って、涼しいのは最初だけで・・・すぐそれ通り越してすっごく寒くなってくるんですよね〜☆
果たして、ナナシはすっかり機嫌損ねてるアルヴィスを宥めることが出来るのでしょうか・・・・。
そしてすっかり、内容的にナナアルっぽくなってますが何処からファンアルになるんでしょー。←?
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