『君のためなら世界だって壊してあげる』
ACT 63 『真夏の雨−2−』
――――――ギンタに、悪気がないことは分かっていた。
彼は良かれと思って、皆で楽しめる場にアルヴィスも参加すればいいと誘ってくれたのだ。
バーベキューをするというのも、それが河原でというのだって、嘘じゃなかった。
参加する皆だって、どういう人間が集まるのかだってちゃんと言ってくれていた。
だから、陥っている状態は、・・・・・・・ひとえにアルヴィスが確認を怠ったから、ということに他ならない。
ギンタが、嘘は言わないけれど、何と言っても・・・かなり色んなコトを大雑把(おおざっぱ)に考え、端折(はしょ)って説明する性格であることを、他の誰よりもアルヴィス自身が知っていたというのに。
―――――――アルヴィスは、聞くべきだったのである。
河原は河原でも、『何処の』河原でするつもりのバーベキューだったのかを。
けれどもう、既に参加してしまっている現在、後悔しても全ては遅いのだった・・・。
ギンタと一緒に歩いていたら、気分はますます下降の一途を辿るだけ。
そう思ったアルヴィスは、先を歩いていたジャック達を目指して足早に歩き始める。
「お、おい待てよアルヴィス・・・!」
ギンタの慌てた声が後ろから聞こえたが、構わずに歩を進めた。
「待てっつーの! 俺も一緒に・・・・」
「ギンタ! やっと追いついたー!」
そのまま走って追いついて来たら鬱陶しいなと思ったアルヴィスだったが、タイミング良くギンタの名を呼ぶ声がして、誰かが駆け寄るらしい足音が聞こえた。
「あ、スノウ・・・」
「ねえねえアタシと一緒に歩こっ?」
「や、えと俺・・・」
明るく伸びやかな女の子の声に、何か答えるようなギンタの声が続いていたから、きっともうアルヴィスを追いかけては来ないだろう。
「アルちゃん、えらい張り切っとるやん。山登りとか、こういうん好きなん?」
しばらく黙々と歩いていたら、不意に後ろから声がした。
「・・・・・・・・・」
軽く後ろを振り返れば、長い金髪を後ろで括った端正な顔立ちの青年が笑顔でアルヴィスの方を見ている―――――ナナシだ。
「けど、今からそんな飛ばしてたら後でバテてまうから、気ィ付けなあかんで?」
言いながら、アルヴィスの横に並んでくる。
「ほらほら、周り見てみぃ? 緑がキレイやろー?
ちょっと横道逸れただけでも、遭難してまいそうな山深さや・・・・こんなとこ歩く機会早々無いんやから、楽しまな!」
「別に登りたくないし、景色なんかどうでもいい」
八つ当たりしてると分かりつつ、答えるアルヴィスの口調はぞんざいなモノとなってしまった。
ナナシは参加してるだけで別に悪くないのだが、彼もまた『今の状況』を知っていたのかと思うと苛立ちが募ってくる。
待ち合わせ場所で会った時に、何故ひとことでいいから『こんな場所』へ来てのバーベキューなのだと言ってくれなかったのかと思ってしまうのだ。
普段は良く喋ってるくせに、肝心なことを言わないって何なんだ・・・などと、自分でも酷く身勝手だと思うけれど、責めたくなってしまう。
「・・・・河原でバーベキューって言うから、俺はてっきりT河の河川敷だと思ったのに・・・」
理不尽だと思いつつ、口調もどうしたって恨みがましいものとなってしまった。
「T河じゃないにしても、こんなN県まで来るなんて・・・・」
「え、・・・・・まさかアルちゃん知らんかったん?」
不機嫌さを丸出しにしてそう言ったら、ナナシは大袈裟なくらい顔を引き攣らせる。
「スノウちゃんのオジサン、車出してくれるいうて、N県まで遠出しよかーいう話になってたの・・・アルちゃん、知らんかったってこと!?」
「知らない」
そして、アルヴィスの顔付きが怖いからなのか何なのか。
アルヴィスが頷けば、引き攣った顔を更に青ざめさせる。
「け、けどアルちゃん、車ん中ずっと大人しかったやん・・・!
いっくらアルちゃん鈍うても、流石に何時間も車乗っとったら気付かなかったん!??」
何だか、鬱陶しいくらいのオーバーリアクションだ。
「・・・・・・・乗ってすぐ、酔ったんだ。気分悪くて寝てたから、それどこじゃなかった」
ギンタと待ち合わせした場所へ出向いたら、すでにバーベキューのメンバーは集まっており。
アルヴィスが到着した途端、何も言う余地も与えられないままギンタに抱え込まれるように大きなワゴン車に乗せられた。
車中で、この車がクラスメイトのスノウの伯父のものであり、せっかく車を出してくれると言うのだからチョット遠い場所にバーベキューしに行こうという話になっている・・・と説明された。
その時点で何処へ行くのだと聞けば良かったと思うのだが、不覚にも乗った途端にアルヴィスは乗り物酔いを起こして酷く気分が悪くなり―――――・・・それどころでは無くなってしまったのである。
本当に、久々に経験した酷い乗り物酔いだった。
乗せられた車が、やたらに揺れていたせいなのか、車内に漂うアルコールと珍味が混ざった異臭のせいなのか何なのか・・・・理由は定かでは無いけれど、とにかく本当に酷く気分が悪かった。
乗り物酔いした時は、降りられない場合はとにかく、眠ってしまうのが最良の策である。
アルヴィスもそれにならい、車の中はひたすらに眠って過ごした。
そうしていなければ、殴りつけられるようにガンガンと痛む頭と、胃の中がひっくり返りそうになる吐き気に死んでしまいそうだったのである。
―――――――そして目覚めてみれば、その場は山に囲まれた大自然の世界。
とてもじゃないが、日帰りは不可能だろうという遠い場所だった。
アルヴィスは、その大自然のまっただ中に佇んで、呆然とした。
呆然として、次に思ったのはファントムに怒られるだろうということである。
近場の河川敷に行くくらいなら、無断で行っても後で注意されるくらいで済んだだろうが、こんな場所まで来てしまったら、絶対に怒られることは確定だ。
怒られるだけならまだいいが、お仕置きと称してどんなことをされるか分からない。
慌てて、せめてメールで連絡をと思ったら・・・・大自然というか田舎にありがちな『圏外』になっている。
アルヴィスは真っ青になった。
無断外泊なんてした日には、―――――――どんなお仕置きが待っているか想像も付かない。
時折とんでもないことを口にしたりはするけれど、ああ見えてファントムは優しいから。
いくら怒っても叩いたり殴ったりだとか、そういった暴力的な行為をされる気はまるでしないのだが(事実アルヴィスは、ファントムに1度もそういったことをされた経験は無い)、その代わりにどんな意地悪をされるかと考えたら、思い浮かべるだけでも怖ろしい。
アルヴィスのことなら、何だって本人以上に把握しているファントムである・・・アルヴィスにとって最も耐え難く最も困り果てるような、凄まじい意地悪をしてこないとも限らないのだ。
けれど、連絡する手段は無く。
・・・・運転も出来ないアルヴィスは、皆と帰るしか術(すべ)は無い。
電車で帰ろうにも、その電車に乗るための駅が遙か彼方だ。
かといって、皆が乗り気なところを帰りたいなどと水を差す行為にも出られない。
そして自分の主張より他人を優先してしまう、典型的なA型気質のアルヴィスである。
帰りたいのが自分だけなら、帰ろうなどと言える筈も無い。
更に更に、最悪なことに。
近場に低い山があり―――――・・・その頂上に何か風変わりな白い建物があるのをギンタが発見して、バーベキューをする前に皆で登ってみようと言い出した。
既に色んなショックで打ちのめされ、ヤケクソになっていたアルヴィスは、もうどうでもいいとギンタに誘われるままに山へと足を踏み入れたのであるが・・・考えて見たら、登山なんてそれこそファントムが許す筈も無く。
バレたら、本当にシャレにならないようなお仕置きをされるだろうことに気がついた。
体育は勿論、電車通学ですら禁止され、近場へだって車で送迎されるような生活をしている自分が、登山なんて許されるワケが無いだろう。
ここで発作なんか起こした日にはもう、本当に目も当てられない。
山は気圧が変わるから、喘息患者は特に注意しなければならないことくらいはアルヴィスだって知っていた。
まあ流石にこの山は、気圧が変わるほどの高さは無いようであるけれど。
どのみちファントムにバレたら、かなりのマイナス評価になるだろうことは必至。
――――――――お仕置き、確定である。
NEXT 64
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言い訳。
とりあえず現在は、アルヴィス総受テイストでお送りしておりまs(爆)
次回から、そこはかとなくナナアル風味になってくるかと。
とはいっても前提ファンアルなので、たかが知れてますけどね・・・(笑)
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