『君のためなら世界だって壊してあげる』




ACT 60 『Anniversary-3-』



 

 

「世界を変えるには。取りあえず、それなりな資金が必要だと思うんだ―――――・・・・」


 輝くような、という形容がぴったりだろう美貌の持ち主である銀髪の少年は、ペタをしっかりとアメシスト色した左眼で見つめて。
 その言葉を皮切りに、極めて大がかりで妄言と受け取られかねない、それでいて酷く具体的な『世界改造計画』を説明してきた。


「手駒を増やす手っ取り早い手段はやっぱり、『金銭で釣ること』だからね」


 言っている内容も口調も、齢(よわい)10足らずの子供が言うとは思えないほどに大人びている。

 しかも、彼の話す日本語は相変わらずとても流暢で、少しもおかしな所が無い。
 これが彼の母語なのでは、と思ってしまうほどに滑らかだ。


「幾らボク達が、こんな醜い世界が嫌で変えてしまいたいと願っていても・・・・どうしたってそれには、色々と準備が必要だ」


 説明も順序だっていて、この年頃にありがちだろう情報を上手く幼い脳で整理出来ず、思いついたまま支離滅裂に言葉を並べる様子も無い。
 ファントムの言葉は、極めて明快で簡潔であり・・・・ペタは、徐々に自分が彼の話に引き込まれていくのを感じていた。

 とはいえ、その話に素直に賛同するには少々―――――いや、かなりの部分で問題がある。

 話には筋道が通っており矛盾なども見当たらないが、その前段階・・・テーマが、壮大過ぎるのだ。
 大言壮語だと思われても仕方がない、夢物語にしか思えない。

 この少年には確かに、抗いがたいような・・・何か得体の知れぬ、人間を強く惹き付ける不可思議な『ちから』を感じてはいる。
 けれど、その口から発せられる言葉すべてを信じるには・・・・その内容がかなり、壮大過ぎた。


「――――・・・その為には、優秀な手駒を幾らでも増やす必要があるのは分かるよね?」


 黙り込んだままのペタに構わず、少年は話を続ける。


「だから、資金は幾らでもあった方がいい」

「・・・・・」


 ペタは無言で肯定した。

 確かに、その通りである。
 そして、世界で大きなことを為そうとすれば―――――・・・そこで、大抵の者が躓(つまず)くのだ。

 誰だって、金は欲しい。
 あればあるだけ困るモノでは無いし、この世界である意味、最も信頼しても良い・・・対等な取引を成立してくれる媒体(ばいたい)だ。
 それ以上もそれ以下も無い・・・・出した金額の分だけ、欲しい物が手に入る。
 この世界で生きていく以上は、有るに越したことは無い物である。

 だが、誰もが欲しがるが故に――――――大量に手に入れることも、また難しい。
 普通に働いて、対等の代価を受け取るだけの生活では、あくまで普通レベルの資金しか集められないだろうし、・・・・彼・・・ファントムが言う『資金』は、そんなレベルでは無い莫大な金額を指しているのだろう。

 事実上、そんな大金を集めるなんて不可能だ。


「・・・まあ、そこは一切、問題無いんだけれどね」

「・・・?」


 けれど次の瞬間、ファントムの口から紡がれた言葉に、ペタは耳を疑った。

 ファントムの祖父、セルシウスは確かに大層な資産家である。
 その孫であるファントムも、セルシウスの希望に添えている間であれば裕福な生活は約束されているだろう。
 しかし、・・それはあくまでセルシウスの資産で、ファントムのモノでは無い。
 それに、如何にセルシウスだとて・・・彼が言う『世界を変える』ほどの資金が有るわけではないのだ。

 それなのに、事も無げにそう言ってのける自信は何処から来るのか。


「・・・・・・・・・・」


 自分は彼の異質な美しさに惑わされ・・・やはり大言壮語な夢物語を信じ込まされているのでは無いか――――――という気持ちが、また頭をもたげてくる。

 そう、考えて見れば彼はまだ10歳であり・・・年端もいかないただの少年なのだ。
 虹彩異色症による、神秘的な色違いの瞳に魅せられてしまったのか、思いがけず意識からその基礎データが抜け落ちかけてしまっていたけれども――――――・・・彼は、単なる10歳の子供。

 そんな彼に、一体何が出来ると言うのか。


「・・・・・・・・・・・」


 自分は常の判断力を失い、大変な間違いをおかし掛けているのかも知れない。


「・・・ああ大丈夫だよ、ペタ。 ・・・ボクは正気だ」


 その微かな感情の揺らぎを察知したのか、少年はペタに向かって柔らかな笑みを浮かべた。


「ボクはね・・・お金なら、欲しいだけ世界から貰えるんだよ」

「・・・・・・・?」

「ふふ、・・・信じられないって顔してるね?」

「・・・・・・・・・」


 それはそうだ――――そんな都合の良いことが、信じられる筈は無い。


「今の世界、ボクは大嫌いだけど。・・・それなりに便利なツールがあることだけは、感謝してるんだ」


 ペタの無言の肯定に、ファントムは気を悪くした風も見せず、身を捩ってベッド上に置いてあった、薄っぺらい四角い物体・・・ノートパソコンを手に取る。
 そして徐(おもむろ)に蓋を開き、素早く何度かキィを打ち込んだ。


「・・・ほら、世の中には『株』っていうステキなアイテムがあるんだよ」


 言いながら、ファントムはペタにパソコンの画面を向ける。


「・・・・・・・!」


 その画面に映っていたのは、色々な曲線を描くカラフルな線・・・・グラフだった。
 所狭しと、幾つも画面上に立ち上げられたウィンドウの中で様々な形をした折れ線グラフが並んでいる。

 各グラフの横に小さく表示されている会社名は、どれも誰もが知っているような一流上場企業のものだ。
 ファントムがペタに見せたパソコン画面は、各会社の株価の推移が表示されているグラフで埋め尽くされていたのである。


「これはまあ、・・・単なる観察の為の画面だけど。株ってさ、・・・要は安く買って高く売れれば利益が出るワケでしょ」


 その仕組みさえ分かっていたら、お金なんて幾らでも作れるよね―――――そう言って少年は、まだあどけなさの残る整った顔で得意げに言う。


「・・・・・ですが、」


 しかしペタとしては、その説明だけで納得出来る訳も無い。

 確かに、株で儲けようと思えば彼の言うとおりである。
 だが、そう上手くいかないのが株でもあるのだ。
 株価は、様々な理由により常に変動する――――――それらを見極め、的確に各会社の株を売買しなければ、あっという間に負債を抱えることとなる。

 彼の年齢で、株価にまで知識が及んでいるのは大したモノだが、やはり素直に納得は出来よう筈もない。


「It's taken care of.(安心してよ)」


 ペタの困惑した様子を、意に介さず。
 ファントムは、言いたいことは全て承知だというように微笑んで見せた。


「ボクは別に、正々堂々と普通に株取引をするつもり無いから」

「・・・・・・・・・」


 少年が口にする内容は、相変わらず不穏な色に満ちていて先が読めない。
 ペタはただ黙って、彼の言葉を聞くしかなかった。


「キミが心配しているのは、持ち株が下落した場合のこと・・・だよね?
 だけど考えてみてよ。・・・最初からどの株が上がって、どの会社の株が下がるのか――――――それをボクが分かっているとしたら?」

「・・・・・・・」


 それならば確かに、得はしても損をすることは有り得ない。
 あらかじめ株価が上下する企業を知ってさえいれば、損な取引をすることなど有り得ないからだ。


「しかしそれは俗に言う※インサイダー(※あらかじめ株情報を事前にキャッチし、その重要事実が発表される前に株取引を行う違法行為)と呼ばれるモノで・・・・」


 もちろん違法行為であり、発覚すれば重大な罪に問われ、利益を得るどころの話では無くなる。

 その前に、そんな情報を手に入れられるようなポジションに、この年端もいかない少年が居るとは、流石にどうしても思えないが。


「あー、まあそうとも言うんだけど。ボクが言いたいのは、チョット違うんだよね」


 けれどファントムは、そんなことはどうでもいいとばかりにペタの言葉を聞き流した。

 どうやら彼が言いたいのは、別のことらしい。


「情報を事前に仕入れるだけじゃない―――――・・・・情報の価値と行き先を、操作するんだよ」

「・・・・・・・・・・」

「ボクが各企業の情報を操り・・・・必要に応じて、彼らの価値をアップダウンさせてコントロールする。
 例えば、ある企業の完成間近な研究データを破壊して・・・そのライバル企業にリーク(情報漏洩)してあげたりね?」

「・・・・・・・・・っ、!?」


 少年が言わんとしている真意を理解し、ペタは驚きの余り軽く目を見開いた。

 有利な情報を手に入れるどころではなく、彼は企業の内部情報を自在にコントロールすると言っている。
 そんなことは許されることではないし、また各企業のセキュリティシステムだって節穴(ふしあな)では無い―――――常識的に考えれば、不可能な話だ。
 それこそ、ハッカーなどと呼ばれるコンピューター精通者でも無ければ、厳重なセキュリティがしかれている各企業の『心臓部』に、侵入することなど出来はしない。

 けれど。


「・・・・・・・・・・」


 けれども、――――・・・もしかして彼ならば。


「・・・・・・・・・・」


 この、目の前にいる美しい少年ならば・・・・そんな、高度な技術を要するコンピューター精通者であると言われても、信じられる気がしてしまう。
 この少年には、見た目の年齢では計れない、『何か』を感じるのだ。


「ボクの言うこと、信じられない?」

「・・・・・・・・・・・・」


 だから。
 少年の問いに、ペタは顔を横に振ることは出来なかった。

 しかし、信じると言うのも躊躇(ためら)われる。

 信じたいという方向に、心が傾いているのは確かだが――――――・・・如何せん、話が突拍子も無さ過ぎるのだ。
 素直に受け入れるには、少年の話は壮大で都合が良すぎる上に、現時点では何一つ証明するモノが無い。

 とはいえ、信じられないと首を縦に振る気にもなれず・・・結果、ペタはただ押し黙るしか無かった。


「OK。じゃあ証拠見せてあげるよ」

「・・・・・・・・・・・・」


 ファントムは、ペタの逡巡(しゅんじゅん)を予測していたのか軽く肩をすくめただけで、此方の反応に不満を示したりはしなかった。

 本当に、たかが10歳とは思えない大人びた様子である。
 幼く見えるのは、姿だけだ。


「――――――ねえ、キミは○○社の株、持ってる?」


 不意にファントムは、その膝上においたノートパソコンのキーボードを鮮やかな指使いで打ち込みながら、そう聞いてきた。


「・・・・いえ、」


 ペタが首を横に振ると、じゃあいいか・・・と小さく呟いて、再び何やらキィを打ち込み始める。
 そして真剣な顔で画面を見つめて、暫く何やら作業をすること、数分。


「ほら、これ見て」


 ファントムは再び、ペタの方へとパソコンの画面を向けた。

 画面には、とある企業のサイトのトップページが掲載されている。


「この○○企業・・・近々、優れモノの新製品が開発されるって業界では噂になっててね。
 その製品への期待から、ここのところ株価が急上昇してたんだけど・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


 ファントムに説明されるべくも無く、○○企業は衣料品メーカーとしては大手の会社で良くCMなどもされているから、ペタも大まかにはその企業のことを知っていた。


「投資家の、注目株になっている企業ですね・・・」

「―――――でも明日辺りから、大暴落するよ?」


 パソコンのディスプレイを横目にして、ファントムが意味深に微笑んだ。


「ボクがラボ(研究室)のデータを今、ぜぇーんぶ壊しちゃったからね!
 研究成果は全てサーバーのデータごと消しちゃったし・・・技術開発者のマシンにも侵入して、バックアップデータも全部破壊したから、絶対回復出来ないよ」

「・・・・・・・・、」


 少年が、サラリと明日の天気予報でもするかのように語った内容は、ペタの想像を遙かに超えているものだった。


「ちょっと質の悪いウィルス流したから・・・アハハ、研究データ以外も壊れちゃうかもね・・・!」

「・・・・・・・・・・!!」


 厳重に管理されたセキュリティの網をかいくぐっただけでなく、少年は大切に守られていただろうデータを破壊したというのだ。


「・・・・・・・・・・・」


 ペタの胸の内は、彼が今してみせたと言う行為とそれによってこれから起こるだろう騒乱――――――・・・それから果たして、少年の口が本当に真実を語っているのかという疑念が渦巻き。
 返す言葉を失って、ただ眼前の少年を見つめるしか出来なかった。


「ふふっ、・・そのことを隠せないようにマスコミの方にもこっそりリークしといたからね。
 ・・・明日辺りには全部知られて、騒ぎ始めるんじゃないかな?」


 呆然とするペタを余所に、説明を続けるファントムは酷く楽しそうだ。
 きっとニュースに出るよ、と楽しげに言う顔は変わらず天使のような愛らしさだが・・・やっている所業は、これが真実なのだとしたら、まさに悪魔のそれである。


「ね、・・・コレで信じる気になってくれた?」


 しかも、ただ単にそれはペタの信用を得るためのモノであり、・・・・この少年はたったそれだけの為に、一企業の生命を絶ちかねない行為をやってのけた。

 その業界で、噂になるほど優れた機能を持つ『新製品』。

 それを開発するために、その企業が費やした時間と費用は膨大なモノであったに違いない。
 それこそ、社運を賭けての開発作業だったかも知れず―――――――この企業が、少年の行為によって倒産に追い込まれる可能性も少なくないだろう。
 大企業と呼ばれる会社には、必ず下請けの中小企業が傘下にあり・・・それらにまで影響が及ぶのも確実である。


「・・・ですが、これは・・・・」


 ようやっと、ペタはそれだけを口にした。

 口の中がカラカラに乾いて、たった一言喋っただけなのに喉が痛む。
 知らず知らずのうちに、極度の緊張を強いられていたようだった。

 それでもペタは、言及せずにはいられず口を開く。


「これはもう、明らかに犯罪行為だ・・・・!!」


 今、彼が目の前でやってのけた行為が真実なのだとしたら。
 これはもう、インサイダー取引などとは比べものにもならないほどの『大犯罪』である。

 子供の悪戯とは、到底呼べないだろう悪質な罪だ。

 ペタだって別に常に正攻法で生きていきたいとは思ってもいないし、非合法だろうとまかり通っているような事柄であれば、目を瞑(つむ)るくらいの処世術は心得ている。
 だがしかし、これは明らかなる犯罪であり―――――――隠し通せるとは思えない、社会を混乱に陥れる大それた行為だ。

 ネットだから顔もばれないと思って、非合法なことを好き放題やれるなんて考えたら大間違い。
 各パソコンにはIPアドレスという、個々を特定できる識別番号があり・・・警察などの組織は、その情報を各プロバイダなどから引き出せてしまう。

 ファントムが言葉通り、仮にその大企業にアクセスし侵入したのが可能だったとしても―――――――『足跡』が残り、罪に問われるのは時間の問題である。


「・・・・・・・・」


 だが、ペタの糾弾(きゅうだん)に少年は、笑みを消してキョトンと小首を傾げたのみだった。

 まるで、言われている意味が分からない・・・といった風な、無邪気にさえ見える態度だ。
 それからファントムは、再び唇の両端を笑みの形に吊り上げて見せる。


「・・・did you hear ?(知ってるかな?)
 Offender(犯罪者)って呼ばれるには、――――・・・・罪が問われてからじゃないと無理なんだよ」

「・・・・・・・・・」

「だからね、・・・」


 細い指で、銀糸の髪を掻き上げて。
 少年は意味深に、ペタを見つめてきた。


「その行為をしたのがボクじゃないって思われてるウチは、ボクは犯罪者にはならない」


 左右色違いの虹彩が、ペタを映す。


「・・・ですが、・・・」

「――――――大丈夫。キミが心配するような失敗を犯すほど、ボクはバカじゃないよ」


 ペタが、もう何度目かになる同じ言葉を言いかけるのを遮り、少年は薄く笑った。


「ボクは、『足跡』なんか残さない。
 二重にも三重にも・・・世界中の他人のパソコンを『踏み台』にして、パソコンの住所(IPアドレス)を消しながらアクセスしてるんだからね」

「・・・・・・・・・・・・・」

「アクセスした痕跡なんか、絶対残さない」


 自信たっぷりにそう言い放つ少年は美しい子供の顔を持ちながら、表情はけして子供のそれでは無かった。

 神秘的な金と紫の双眸を細め、嫣然(えんぜん)と此方に向かって微笑む少年を。
 ペタは軽い酩酊(めいてい)感を覚えながら、呆然と見つめた。


「・・・・・・・・・・」


 ペタの懸念を払拭し、確かな専門知識に裏打ちされているだろう言葉を並べて説明してみせたファントムにの言動に―――――――今までの大言壮語としか受け取られないであろう言葉の数々が、全て『真実』なのだと思い知らされる。


「ボクにはこれくらい、造作もないんだよ。
 今の時代って便利だよね・・・・ボクみたいな年でもさ、裏じゃウィザードって言われて崇められるくらいの立場になれるんだ」

「・・・・・・・・・・・」

「まあ、顔を見せなくて済む世界だからこそ、出来ることだけれどね」


 だからこそ、キミのような人間が欲しかったんだ―――――――・・・そう言って、此方を見上げる少年は、天使と呼ぶのではいささか役不足では無いかと思うほどの威厳に満ちていた。

 神に楯突き、その座を取って代わろうとした光り輝く堕天使が生まれ変わったら、こんな姿をしているのかも知れない。
 その頭脳も思考も洞察力も、・・・・並の人間など遙かに超えている。


「・・・・何故です? こんなにも自在に、世界を操れるのなら・・・誰の協力も要らないのでは無いですか?」


 それ故に、疑問だった。

 そんな彼が、何故自分を求めるのだろうか。


「要るよ」


 しかしファントムは、ペタを見つめたままアッサリと否定した。


「だって、ボクはまだ子供だからね。
 ・・・見ての通り、あの爺ぃの許可無しには部屋からだって出れない身分だ」

「・・・・・・・・・・・」

「ネットで大金を動かせても、それはあくまで仮想現実での世界のこと。
 実際に現金を引き出したりするのは、子供のボクじゃあ無理でしょ?」

「・・・・・・・・・・・」

「信用だって、子供の姿じゃなかなか得ることは難しいし・・・どうしたって『大人』の協力が要るんだよ」

「・・・・・・・・・・・」

「だけどそれは、――――――誰でもイイって訳じゃない」


 そう言って、ファントムは浮かべていた笑みを消す。


「ボクの考えに同調し、今の世界なんて壊してしまいたい・・・って本気で思ってる人間じゃないとダメなんだ。ねえペタ・・・ボクには、同志が必要なんだよ」


 非の打ち所が無い美しい顔立ちの堕天使に見つめられながら、耳へと甘く優しい・・・鼓膜(こまく)を快く擽(くすぐ)る声に―――――――脳が浸食されていく。


「キミなら分かってくれるよね・・・?」


 何億年何千年かけて、ゆっくりと熟成された樹脂のような黄金(きん)と。
 炎のような揺らめきを内包し、不可思議な色合いを見せる透き通った紫の瞳がペタの姿を映し出していて。

 見つめていると、・・・・まるでその一対の宝石の中に自分が閉じ込められているような気分になる。


 そしてその感覚は、――――――・・・ペタにとっては酷く快いものだった。


 全てを支配されるという、快さ。

 普段であれば、損得を考え最も面倒が起こらない事態を計算した上で、仕方なく従うというスタンスでしか無かったものが・・・・・こんなにも快い。

 それは、ペタにそれを要求するのが彼(ファントム)だからなのだ。

 この、世界を統べるべき素質と、権利を持っている彼だからこそ・・・・相応しいからこそ、ペタはファントムの全てを受け入れることが出来る。


「キミはボクのものだよ。
 ボクだけがキミを分かってあげられる・・・・そしてボクを分かってくれるのはペタ・・・キミだけなんだ」





 ――――――・・・一緒に、清浄な世界を作ろう。





 そう言われて、ペタは唐突に理解した。

 彼こそ、自分にとっての『神』に等しい存在なのだと。
 自分の全てを理解し、その手を差し伸べてくれた彼こそが、・・・ペタの全てを献げるべき相手なのだと。


「・・・・・・・分かってくれたみたいだね?」


 その証拠に、ペタが何を言わずとも。
 『ファントム(神)』は、ペタの本心を言い当てている。


「――――――Let's support each other to reach our dreams.(ボク達は、同じ夢を描く共同体だよ)」

「・・・・・・」


 美しい少年の姿を借りた『御神』の言葉に、ペタはその場で静かに首肯(しゅこう)した―――――――。




 

 

 

 NEXT 61

++++++++++++++++++++
言い訳。
ファントムの特殊さ、特別製を強調しようとしたら。
何かもう、ペタさんとファントムしか出せませんでした(爆)
今回こそアルヴィス出すつもりだったんですけどね・・・!!><
次回。次回こそ、アルヴィス(という存在と)ちゃんと絡ませたいです・・・(笑)