『君のためなら世界だって壊してあげる』




ACT 42 『交差した道の行方 −35−』





※少々、残酷でグロい発言が出てきます。
苦手な方はご注意を・・・・!!(汗)
そういった意味で、R18です><











「ねえペタ。僕は今、すごく気分がいいんだよ」


 リビングでオフホワイトの絹張りのソファに寝転がり、同色で揃えられたベルベットのクッションを抱えながら。
 そう言ってファントムは、機嫌良く微笑む。


「・・・・だからねぇ・・・・寛大になってやろうかなって思うんだ」


 穏やかな昼下がり。

 レースのカーテン越しに差し込む日差しが柔らかく青年の髪と肌を照らし、その整った顔立ちを更に神々しい物へと演出していた。
 光に白く透けた、長い睫毛の奥で紫の瞳が蕩けそうな色合いを見せ、天使が実体化すればこんなだろう―――――――などという幻想を抱かせるような美しさだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 天与の美貌に、甘く柔らかな声、優雅な物腰・・・長椅子に寝そべる主の存在が、一幅の絵画のようだと思いながら。

 ペタは黙って、ファントムを見つめる。
 何か気分が高揚する事があったのだろう、主はひどく楽しそうだ。

 ファントムは白い頬を擦り付けるようにクッションに懐かせつつ、楽しそうに言葉を続ける。


「もう、滅茶苦茶に切り刻んでやろうかと思ってたんだけど。枝切り鋏(ハサミ)とかでさ、身体の末端部分から骨ごと寸断していってやろうかなって! あ、その前に皮膚ぜんぶ剥いでやってさ? ペンチで爪と歯を引っこ抜いてやる予定だけど。・・・肉が剥き出しになった所に塩塗りこんでやるのも楽しそうだよねー・・それから急所外して簡単に死なないように、空腸や回腸(小腸の部分名称)辺り引き摺り出してやってー・・・ふふっ、・・・簡単には絶対殺さないでおいて。最後の最後に、串刺しにしてやろうかなーって思ってたんだけどね・・・・」


 口調はとても柔らかで、まるで楽しみにしている旅行の予定をアレコレと選んでいるかのような話し方だ。

 しかし口にした内容は、ゾッとする程に残酷極まりない。
 天使のように美しい顔を持ちながら、ファントムは楽しくて堪らないといった様子で血染めの処刑を口にしている。


「・・・だって、許せないよね。僕のアルヴィス君に、そんな酷いことした奴なんて。しかも僕より先に触れたんだよ彼の身体に! ・・・あり得ない、万死に値するよね!? だから絶対に僕自ら手を下して――――――生きながら内臓引き摺り出して、苦痛の呻きを上げながら息絶えるのを見なくちゃ気が済まないって思ってたんだ・・・・生臭い鉄錆の臭い嗅ぎながら、熱くてぬめる血液の感触をこの手で味わわないと気が済まない、・・・・って」


 朱色い舌をぺろりと出して、唇を舐め。
 アメジスト色の瞳を細める、酷薄そうなその表情は堕天使のようであった。

 その優美な白い手に、血の色のワインを満たしたグラスが握られていればさぞかし似合うだろう。


「・・・でもね、やめるよ!」


 ファントムはクスクスと笑って、厚い絨毯が敷かれた床へと抱き締めていたクッションを放り投げ、ソファの上で仰向けになる。


「それやると、僕の手が穢れるからナシにする。解体も結構手間掛かるしね」

「・・・・・・・・・では、デス・ペナルティ(処刑)は無いということで・・・・?」


 クッションを拾い上げペタが確認するように問えば、ファントムは背もたれに手を付いて上体を起こした。


「・・・まさか。もちろん奴はExecute(実行)!・・・だよ」


 そして、唇の両端を吊り上げ蠱惑的な笑みを浮かべる。


「寛大な気分になったから、僕自身が直接触れないだけ。・・・やり方を変えるだけだ。直に手で触れて手足ちょん切ってやらなくてもさ、ニンゲンの身体の肉削ぎ取るのなんて簡単だもんね!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 とんでもない物言いだが、いつもの事なのでペタは黙って頷いた。

 ファントムの、人を人とも思わない物言いは、今に始まったことではない。
 アルヴィスの行方が分かり一緒に住むようになってからは、破天荒で他人の見解など意に介さないファントムでも多少は隠したいと思うらしく、幾分その傾向は控えめになってはいたが――――――――――早々、本性が変わる訳も無いのだ。

 寝室で熱を出し眠っているらしいアルヴィスの目を気にする必要もない今、ファントムは生き生きと自らの嗜好の赴くままを口にして――――――・・・・とても楽しそうである。


「いつにしようかな! ・・・居場所は常に掴んでいるんだよね・・・?」

「はい」

「じゃあいつにしようかな・・・・・アルヴィス君の熱が下がるまでは付いててあげたいしねえ・・・来週かな。ペタ、・・・準備頼むね?」


 暫くぶりに射撃が楽しめそうだよ。苦痛を長引かせないとだから、ちゃんと狙って撃たないとね――――――そう言い添えて、ファントムはくつくつと笑い声を立てた。


「ああ、・・・逃げまどうのが見たいから、用意するのは広い場所じゃないと嫌だよ? 後ね、最後はケモノは獣らしく喰われて死んで欲しいから・・・・・・・ご飯を数日抜いた猟犬7〜8匹連れてきて」

「はい」

「・・・・うんと凶暴なのがいいなァ。油断したら僕にも飛びかかってくるくらい、反抗的な犬。そしたらそれも撃てるし、もっとスッキリするよね! ていうか汚らわしい肉を食べちゃうんだから、そいつらも殺してあげた方が優しさかもね。・・・きっと生きていたくないよねえ、そんなの食べちゃったらさ?」


 狩りを楽しむような口調。

 だが、獲物は紛れもない人間である。


「・・・手配します」


 身の毛がよだつような会話だが、ペタは反論することもなく言葉少なに頷いた。

 ファントムが溺愛しているアルヴィスの、幼少時に起こった『事件』を調べた時から今回の事態は容易に想像出来ていた。
 アルヴィスに危害を加えた者を、ファントムが見逃すはずも無い。

 自分以外の者がアルヴィスに触れる事を、ファントムは決して許さない。

 アルヴィスが、というよりファントムの保身の為に・・・・ペタとしては出来るだけ彼に非合法的な事には手を染めて欲しくないのだが・・・・・今回の件は止められないだろうと悟っていた。

 幼少のアルヴィスを襲ったという男は、ファントムの逆鱗中の逆鱗に触れたようなものである。

 速やかに拉致して、向こう10年ほど借り切った倉庫を手配し、ファントムの気が済んだ頃には恐らく原形を留めていないだろう遺体を、跡形もなく薬品で処理しなければならない―――――――そんな風に考えていた。

 けれどもファントムが、趣味の射撃を楽しみ犬をけしかけて遊びたいと言うのならば、また違う算段を立てねばならないだろう。


「・・・では、そのように手配いたします」

「よろしくね」


 お茶でも頼んだ時のような軽い返事をするファントムに一礼し、ペタはリビングを後にした。

 どのみち、ファントムが違法行為をやりたがっている事に変わりは無い。
 ならば自分は、速やかに事を成せるよう・・・またその証拠を残さないように奔走するのみである。

 ファントムがご機嫌でいられるのならば、それで構わない。

 ペタが知る中で、容姿も頭もその才能も、思考すら、全てが突出した理想の存在であるファントム。
 彼がこの世で、楽しく過ごしていられる為ならばペタは何でもするのだ。


 例え彼の望みが、著しく世界の常識から見て異端であり、逸脱し過ぎる事であろうとも――――――――――。











 NEXT 43


++++++++++++++++++++

言い訳。
アルヴィスと本懐遂げることが出来たって、もちろんファントムは報復措置だって忘れていませんとも!(笑)
自分以外がアルヴィスに触れたなんて、絶対に許しません。
・・・・インガ、バレたら絶対ヤバイですよ(爆笑)
証拠隠滅が手間なので、ペタが懸命に気を逸らし隠すでしょうけどね!(笑)
ハロウィン・・・じゃない、パンプの命はもう風前の灯火です・・・。
次回は一転して、ファントムがアルヴィスの尻に敷かれてますよ(爆笑)
ホントは、同じページでアップしようと書いてたんですけど、あまりに今回のとイメージ違い過ぎるので分けます☆