『君のためなら世界だって壊してあげる』 ACT 35 『交差した道の行方 −28−』 壮麗な門をくぐり、入り口まで傍寄せされた車から降り立ち。 ファントムに肩を抱かれながら、マンションの広々としたエントランスホールに足を踏み入れ――――――――アルヴィスは暫くぶりに見るその豪奢さに思わず、辺りを見回してしまった。 「・・・・・・・・・・・」 高い天井からつり下がる、巨大なシャンデリア。 至る所に彫刻が施され、高そうな絵画や鏡が飾られた白い壁。 顔が映るくらいに磨き込まれた、大理石と思われる白い床。 そして、やたらと装飾されたデザインの、あちらこちらに置かれた椅子やテーブル・・・その上に飾られている花々。 ご丁寧に、美術館に置かれているようなギリシャの彫像らしき物もふんだんに設置されている。 ホール正面にでんと構えられたフロントにはスーツ姿の男達がずらりと並び、近寄る人間に恭しい態度で何かを話しかけている姿といい、―――――――まるで高級なホテルのロビーさながらな様相だ。 「・・・・前から思ってたけど、ここ・・・変じゃないか?」 以前は驚き過ぎて質問も出来なかったアルヴィスだが、流石に今度は初めてでは無いから少しだけ聞く余裕が生まれた。 「ん? 変って、・・なにが?」 アルヴィスの質問が分からなかったのか、ファントムが聞き返してくる。 「だから、・・・・普通のマンションって・・・こんなじゃない・・・・気がするんだけど」 うんと高級な所でも、入る時に暗証番号とかを入力しなくてはならないとか、管理人がいるとか・・・そういった物では無いかとアルヴィスは思う――――――テレビや本で見る限りでは、だが。 「こんな。・・・警備の人が入り口にいたりとか、・・・するモノなのか?」 けれど、アルヴィスが知らないだけでこういうのも有り触れているのかと思い、自信なさげに聞くと。 ファントムはようやく合点がいったように、ああ・・と声を漏らした。 「此処はねぇ・・・正確にはホテルだから。僕はそこの1フロアを長期滞在って事で借りてるんだ」 「・・・ホテルっ!?」 まるで凄く高級なホテルみたいだ・・とは常々思っていたが、本当にホテルだったとは思わず、アルヴィスはつい素っ頓狂な声を上げてしまう。 「うん、此処はRCホテルだよ。・・・気付かなかった?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 当たり前のようにホテル名を上げられ、気がつかなかったと問われても。 アルヴィスにはそのホテルがなんなのかも、高級なマンションがどういったものなのかも判断が付かなかったのだから、知りようも無い。 実質、RCホテルは世界的に有名な最高峰に位置する高級ホテルなのだが・・・・それもアルヴィスは知らないことである。 そんなことより、何より。 アルヴィスはホテルなのに、長い間借りたままだということに動揺した。 ホテルということは、つまりは宿泊料金を払うということで。 1日幾ら、・・・とお金が掛かる筈である。 もちろん、どこか借りたって何だって家賃というものが発生するのは当たり前だが、・・・ホテルなんて泊まっていたら、そんな家賃など目じゃないような金額が月々に掛かってしまうのでは無いだろうか!? しかも、こんな豪華なホテルなど借りていたら、幾ら掛かるのだか想像も出来ない。 1泊するのだって気が引けるような思いなのに、・・・連泊なんて。 ―――――――いや、こんな長く住んでいたら連泊なんて言うのもおこがましい・・・!! 「場所が便利だし、部屋も気に入ったし、従業員も教育行き届いてるしね・・・・帰国してとりあえず借りたんだけど、まあ新たに物件探して買うのも面倒だし・・・」 「・・・・・・・・・・・・・」 だがアルヴィスの気持ちをよそに、ファントムはつらつらと卒倒してしまいそうな事を話し続けている。 「でもアパートメントだったら無いかもしれないけど、コンドミニアムならコンシェルジュは居る場合あるし、気分的にあんまりホテルでも変わらないでしょ? それとも、・・・マンション買った方がいい?」 「・・・・・・・・・・・」 さらには、また意味不明な(けれど絶対にとんでもない内容なのは分かる)話題を振ってきた。 アパートメントがアパートの事だというのは分かるし、コンドミニアムが海外で言う分譲のマンションだと言うことも一応分かる。 コンシェルジュが、フロントに立っている人たちらしき事も、何とか理解できている。 だが、ファントムには恐らく貧相に映るんだろうアパートと比較し、分譲マンションとこの高級過ぎる気がするホテルをイコールとし、こんなフロントに待機している方々が居るとか居ないとかという・・・そこら辺の話は、全く意味が通じない。 しかも、さらっとマンション買うとか言うのはどうだろう。 マンションなんて、何千万とかする買い物では無いだろうか!? 「・・・マンション買うなんて、さらっと言うな! 何千万とかするんだぞ・・!!」 思わず、指摘したら。 ファントムはそのキレイなアーモンド型の瞳を、一瞬丸くして。 すぐに笑った。 「やだなあ、アルヴィス君。一桁は違うでしょ・・・それじゃ買えないよ?」 「っ!?」 一桁違うと言われ、アルヴィスは目をつり上げる。 「・・・お前、まさか億ションとかを・・・・!!!」 つい、声が大きくなった。 買う気か、とまでは何となく空恐ろしくて言葉に出来ない。 「・・・・・・・・・・、」 そのアルヴィスをファントムは何か面白いモノを見るように眺めていたが、やがて勝手に納得したように頷いて再び口を開いた。 「ああ、そっか。・・こっちじゃアパートメントがマンションで。マンションは一戸建て、って言わないとなんだっけね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・?」 「ごめんね、ややこしかったかな。・・・僕が言いたかったのは、賃貸のマンションには無いかも知れないけど分譲の所だったら、コンシェルジュ・・・色々と用事を足してくれる為の従業員が居る場合もあるから、それだったらこのホテルとあんまり変わらないよね?って事なんだよ。それで、もし君がこういう集合型住宅タイプは嫌いで一戸建てがいいって言うんだったら――――――建てる事にしてもいいよ? って事なんだけど・・・」 かみ砕き、わかりやすいように言い直してくる。 「・・・・・・・・・・・・・!!」 だがその内容に、アルヴィスは慌てて首を横に激しく振った。 「・・・いいっ! ここで俺は全然いいから!!」 此処に居るのだって何だかとても気が引けているアルヴィスだったが、新たに家を購入などとんでもない。 青ざめて断るが、ファントムは軽く首を傾げただけだった。 「そう? ・・・まあでもそれは、後々考えてもいいか。じゃあ今は此処で我慢してね・・・?」 大したことでは無い様に言い、アルヴィスの肩に回したままだった手にわずかに力を込め、歩くように即してくる。 「・・・・・・・・・・・」 即されるまま歩きながら。 アルヴィスは心底、さっきのファントムの言葉がジョークであることを祈った。 コンシェルジュ達?に会釈されるのを横目にしながら、エントランスホールを抜け、奥の特別フロア専用エレベーターのあるホールへと向かい、ベルボーイの操作でエレベーターに乗り込む。 エレベーターを降りてすぐ、今度はファントム自身が暗証番号を打ち込んで開いた自動ドアからフロアへと入り―――――――・・・もう一度、今度は瞳の虹彩認証をしてパスを解除してからようやく、中に入れる。 外から帰ってきて、誰と顔を合わせることもなくすぐに部屋に入れる環境でしか育っていないアルヴィスには、酷くまどろっこしくて煩わしいシステムだ。 けれどきっと、これくらいで無いと防犯的に良くないのだろう。 金持ちって、・・・・いろいろ面倒くさいんだな・・・・・。 こっそりとファントムに同情してみたりするアルヴィスだが、当の本人は慣れっこになっているらしく、大儀そうにしている様子も気負っている風もなく極々当たり前に操作をこなしていた。 彼にしてみれば、生まれ育った世界がそもそも『こういう場所』なのだろうから、今更嫌になったり面倒に思うことは無いのに違いない。 しかしアルヴィスは、自分が何かをした訳でもなくただ見ていただけだというのに、どっと疲れが襲ってくるのを感じていた。 所謂、気疲れというヤツかも知れない。 「さあ、着いたよアルヴィス君。・・・久々にちょっと歩いたから疲れたでしょ? 食事まで少しベッドで休んでる?」 着いた途端、ファントムはそう言って声を掛けてきた。 「・・・・・・・・・・・・・」 アルヴィスはそれに応えず、ゆっくりと室内を見渡した。 相変わらず現実離れした豪華な部屋だが、内装がエントランスホールとどことなく似ている気がするのは、此処がホテルの一室だったからなのだと今更ながら理解する。 そして理解と同時に、憂鬱な気分になってくるのが押さえられなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 やはり、何もかもが別世界なのだという気が否めない。 住む環境が違う。 育った境遇だって違う。 金銭感覚だけじゃなく、・・・・それらはきっと、全般的に感じられる格差で。 この場に、自分が居てはいけないような・・・・そんな気さえした。 だって、こんな世界は知らなかった。 あることだって想像してなかったし、・・・また知りたいとも思ったことは無い。 普通に、慎ましく・・・最低限のモノに満たされていれば幸せだと思うし、ささやかに暮らせていればそれでいいとアルヴィスは思う。 「・・・・・・・・・・・・・」 自分の知る世界とのあまりのギャップに、眩暈(めまい)を起こしそうだった。 恐らく、目の玉が飛び出るくらい高価なのだろう大きなガラステーブルの上には、1つで何万円もしそうな豪華な薔薇の花々が生けられた花瓶が二つも飾られており。 エントランスほどでは無いが、立派なシャンデリアが手前と奥に下がっている。 その他の調度品や飾られている絵画や彫像なども、とにかく値が張りそうなシロモノばかりだ。 それに、・・・広い。 床に直に座ってテーブルに着いたら、周囲にある大抵の物に手が届いたアルヴィスの家とは雲泥の差だ。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 今までいた病院の個室も、それはそれは広くて立派なモノだったが此処に戻ってくると比較にならない気がする。 いや、こちらの部屋の方が装飾がゴテゴテしているから、そう思ってしまうのか。 ――――――どちらにしろ、所詮アルヴィスに審美眼は備わっていないから判断は付かないのだが。 「・・・・・・・・・・・・・・」 そんな所に自分が居るということに、酷く気後れを感じて。 アルヴィスは竦むように、その場で立ち尽くした。 「・・・・アルヴィス君? どうしたの、気分でも悪くなった・・・・?」 黙り込んでしまったアルヴィスを心配し、ファントムが顔を覗き込んでくる。 「ちょっと、血圧でも下がっちゃったかな・・・少し歩かせ過ぎたね――――――」 ファントムはさりげなくアルヴィスの手首を取り、脈を確かめ。 ついでのように前髪を掻き上げて、アルヴィスの額に手を当て滲んできていた冷や汗を拭ってくる。 そしてそのまま、ひょいとアルヴィスを抱き上げてきた。 「よし、ベッド行こ? ご飯になったら起こしてあげるから」 「・・・・・・・あっ、・・?」 気付いたらもう背と膝裏を支えられて横抱きに・・・・所謂(いわゆる)お姫様抱っこというヤツだ・・・・され、アルヴィスは寝室へと運ばれてしまう。 抵抗する隙など一切無い、素早い行動だった。 リビングと同様に豪華な寝室の、これまた豪華なふかふかのベッドに身体をおろされて。 ベッド上に用意されていた、柔らかなパジャマに有無を言わさず着替えさせられる。 「・・・・ファントム、・・」 丁寧な仕草で上掛けをアルヴィスに掛ける幼なじみに、ようやくボソッと口を開いた。 「俺、・・・べつに具合悪くなんて、・・・」 けれど久しぶりに見る、このキンキラな部屋に眩暈がしただけだ――――――という本音までは言えずに口籠もる。 ファントムは、にっこり笑って首を横に振った。 「ずっと寝てたからアルヴィス君、血圧下がりやすくなってるんだよ。・・・まあ普段から低めだけど。だからまだ、横になっていた方がいい」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 なんと説明すればいいのか分からなくなり、アルヴィスは口をつぐんだ。 こういう時に、自分の口下手ぶりを疎ましく思う。 口が達者ならば、ファントムにちゃんと自分の意志を伝えられるのだろうに。 具合なんか悪くないと、思ってるのは別のことなのだと・・・・言えるんだろうに。 「・・・・・・・・・・・、」 アルヴィスは酷く落ち着かない心地で、鼻先まで掛けられた上掛けをぎゅっと両手で掴み。 幼なじみの秀麗な顔を、ただ見上げる。 「・・・・・・・・そうだ、」 その様子を、ファントムは暫く黙って見つめていたが。 やがて何かを思いついたかのように口元に笑みを浮かべ、ポンポンとアルヴィスの頭を軽く叩くように撫でてきた。 「いい物持ってきてあげる。、・・・待ってて?」 そう言って怪訝な顔をしたアルヴィスを残し、寝室を後にする。 そして数分も経たないウチに戻ってきたファントムは、何やら大きな物体を抱えていた。 「はい、コレ」 「・・・・・・・・・・?」 受け取るのが当然とばかりに手渡され、アルヴィスは半身を起こし思わずそれを抱き締める。 「・・・・・・・・・・・・・」 淡くグリーンがかったシルバーの、ふわふわした毛並みが美しい、ウサギのヌイグルミ。 晴れた日の海みたいな、明るい水色のつぶらな瞳が愛らしい。 ウサギは真っ白な手袋とドレスシャツに、黒の蝶ネクタイとタキシードの上着、そして真っ赤なベストを身につけ。 手には、アルヴィスでも知っている超高級有名店のブランドのロゴが入った金色の懐中時計が、それを持つ形に青いロゴ入りリボンで括られていた。 「・・・・・・・・・・これ・・・・?」 一抱えもあるウサギを抱いたまま、アルヴィスはファントムを見上げる。 4歳上の幼なじみは、何が嬉しいのか機嫌良さそうに微笑んでいた。 「この前、ショップ行ったらコレ見つけてさ。アルヴィス君に似合いそうだから、同じのをオーダーして買ってきたんだよ! 可愛いでしょ?」 「・・・・・・・・・・・う、・・・ん・・」 同意を求められて、アルヴィスは生返事をする。 かわいい。 作りは妙に凝っているし、確かに顔も可愛らしい。 そこは、賛同出来るのだが。 ―――――――それが自分に似合うと言われてしまうのは、微妙な所だ。 「アルヴィス君がそのウサギ抱っこしてるとこ想像したら、すっごい可愛くって! 見たいなって思ってたんだけど・・・・やっぱり良く似合うよ!! ていうかホントに可愛いーッッ・・・!!」 「・・・・・・・・・・・・・」 手放しで嬉しそうに絶賛されてしまうと、余計に複雑な気持ちになってくる。 しかも感極まったように叫ばれては、・・・・・尚更に。 「・・・・・・・・・ぁ・・りがと・・・ぅ」 引きつり笑いをしながら、小さな声で礼を言い。 アルヴィスはさりげなくウサギを、広いベッドの自分から離れた場所へと置いやった。 「あ、ダメ!」 だが、すぐにファントムがウサギを掴んでアルヴィスの横へ寝かせるように、くっつけてくる。 「このウサ公は、僕が傍に居ないときのアルヴィス君のナイト代わりなんだから! ・・・一緒に寝ないと意味が無いよ? こうやってたら寂しくないでしょ・・?」 「・・・・・・・・・・・」 ヌイグルミが無いと、1人で寝れず。 ファントムと一緒に寝れない日は寂しいとグズっていた、幼き日の事を思い出す。 ――――――だがそれは、遠いとおい、昔の事だ。 ちゃんと自分との思い出を逐一覚えていてくれるのはすごく嬉しくて、・・・けれど同時に酷く・・・・面映ゆい。 「・・・ファントム、俺はもう、・・・」 ヌイグルミを恋しがる歳じゃないし、抱いて寝る趣味も無い――――――と遠慮がちに切り出せば、幼なじみはキョトンと紫色の瞳を瞬かせた。 「え、どうして? 似合うのに!」 「いや、・・・だから・・・」 論点がずれている。 似合うとか似合わないとか・・・・いや決して似合いたくないが、そういう問題では無い。 「そもそもこんな、・・・デカイの抱いてたら邪魔で寝れないだろ・・・・」 アルヴィスが、何とか理解して貰おうと更に言い募ると。 「あ、・・・そういう意味?」 ようやくファントムは合点がいったように、頷いた。 「そっか、・・・もう少し小さいのがいいのかな?」 そう言いながらヒョイッとウサギを抱き上げ、傍らのチェストの上に置く。 「じゃあもっと小さいの持ってこようね。・・・確かあった筈なんだ」 そのまま、寝室を出て行くファントムにアルヴィスは慌てて声を掛けた。 「・・・・えっ、・・・おい!?」 だが、ファントムは振り返ることなく寝室を後にする。 「・・・・・・・・・・・・・・まさか・・」 その姿を一瞬呆然と見送ったアルヴィスだが、嫌な予感が頭から離れなかった。 「・・・・・・・またなんか、持ってくる気じゃ・・・!?」 どう考えても、その線が濃厚である。 しかも、いい残した言葉の内容からして、またヌイグルミの類を。 「・・・・・っ、」 舌打ちをして、アルヴィスはベッドから起き上がった。 ファントムのあの口ぶりでは、アルヴィスが気に入ったというまで何がしかを持って来かねない。 下手したら、何か買ってしまう恐れもある。 自分のせいで、また何か無駄遣いする気なのでは? ・・・・・そう思うと居ても立っても居られなくなった。 ベッド下に用意されていたルームシューズを履くことも忘れ、アルヴィスは裸足のままファントムの後を追う。 そして寝室を出た途端、そこにファントムの姿が見えない事に躊躇した。 「・・・・・・・・・・・・・、」 ホテルの筈なのに、やたらと部屋数が多いのでアルヴィスはまだ此処の全ての部屋を把握していない。 第一、自分の家じゃないのに勝手にうろつくのはいけない事だと思っていたから、リビングと勉強に使えばいいと宛がわれた個室と寝室、そして寝室に続くバスルーム付近しか入ったことが無いのだ。 「・・・・・・・・・・・」 寝室からリビングへと続く廊下の左右にある、複数の白い扉をアルヴィスはきょろきょろと見回した。 片っ端からドアを開けて、中を確かめてみればいいのだろうが・・・やはりそれは気が引ける。 ここの物は全部、自分の物として使ってくれていい――――そう言われてはいても、やっぱり遠慮をしてしまう。 このままリビングへ行って、そこにファントムが居なければ諦めて寝室へ戻った方がいいだろうか? 「・・・・・・・・、」 そう思い始めた時、アルヴィスは扉の1つが僅かに開いているのに気がついた。 足早に駆け寄り、そっと隙間から中を伺う。 予想通り、揺れる人影が見えた。 「ファントム、・・・・・・っ・・!?」 もう何も持ってこなくていいから――――――そう告げようとして中に足を踏み入れ。 そこで目にした光景に、アルヴィスは思わず息を呑んだ。
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言い訳。 |