『君のためなら世界だって壊してあげる』




ACT 14 『交差した道の行方 −7−』








 翌日。

 アルヴィスはほんの僅かうつらうつら出来たくらいで、殆ど眠れないままに朝を迎えた。
 それが良くなかったのだろう。
 精神的な安静が取れなかったせいか朝から熱が出て、点滴が更にもう1本追加され再び酸素マスクを顔に押しつけられる羽目となってしまった。
 処置の間。意識はハッキリしているのに瞼を開く事すら億劫で、アルヴィスはファントムが点滴のボトルを交換したり増やしたりしている間、ただ黙ってされるがままになっていた。

 珍しく、ファントムも何も言わなかった。
 チラリと少しだけアルヴィスが目を明けて様子を伺えば、口許にもあの柔らかな微笑は浮かんでおらず、その整った顔は美しく整った彫像のように無表情で、いつもの彼とは別人のようだった。
 黙ったまま酸素供給の機械や点滴の様子をチェックし、アルヴィスの方を見ないままに作業をしている。

「・・・・・・・・・・」

 その姿を視界に納め、―――――アルヴィスはまた目を閉じた。


 本当に壊れてしまったんだな、と実感する。

 幼い頃から大切にしてきた、大事なだいじな、掛け替えのない『宝物』。
 それが、粉々に壊れてしまった。・・・元から、砕けていたのかも知れないけれど。
 気付かずに、大事に箱に入れて仕舞っていたから見えなかっただけで。
 それどころか、最初からそんなモノは・・・存在していなかったのかも知れないのだけど。
 空っぽの箱を、ずっと大切にしていただけ。

 大切なモノが入っているのだと思いこんで、空の箱を抱えていた。




―――――─なんて滑稽なんだろう。




 とても奇妙な感覚だった。
 胸の内を哀しみが荒れ狂っているというのに、何故か笑い出したいような気持ちが込み上げてくる。
 それでいて、大声で泣き出してしまいたいような気も同時にして―――――本当に、自分の気持ちが良く分からない。

「・・・・・・・・・・・・」

 もう一度ゆっくりと目を開ければ、隣の部屋へ戻るファントムの後ろ姿が見えた。
 いつの間にか、処置は終わっていたらしい。
 本当にひと言もアルヴィスには声を掛けずに、黙って部屋へ引っ込むつもりらしかった。

 腕時計を見ていたから、これから今日は大学へ行くのかも知れない。

「・・・・・・・・・・・」

 その後ろ姿を見送り、―――――アルヴィスは確信する。

 本当の本当に、自分に飽きたのだ・・・・と。

「・・・・・・・・・・」

 不思議と、酷く静かな気持ちでその事実が受け入れられた。





 だって、ずっとずっと、・・・・・不安だった。




 こんなに、良くして貰える理由が無かったから。
 いつ、放り出されたって不思議じゃなかったから。

 それはいつなんだろうって、・・・・ずっと怖かったから。




―――――『要らない』って、・・・・言われる日が来るのを怯えていた。



 だけど。


「・・・・知らなかった・・・」

 酸素マスクに覆われ、外には殆ど漏れない小さな声でアルヴィスは呟く。

「・・・・いっそ、言われてしまった方が・・・楽だったんだな・・・・」

 そして、笑うように唇の両端を吊り上げた。




 出来れば、幼い頃の思い出のまま・・・・大切にしておきたかったけれど。





「・・・・もう俺、・・・・要らないんだ・・・・・」

 ゆっくりと、溜息のように呟いて。

 アルヴィスはまた静かに目を閉じた―――――。















 夢を見た。



 薄暗い部屋の中、アルヴィスはいつの間にか幼い子供になっている。

 最近繰り返し見ている悪夢を、また見ているのだと、ぼんやり思った。






―――――──髪を短く刈り、ギョロ目で鋭い目つきをした小狡そうな顔の男が近づいてくる。

 男は幼いアルヴィスに向かって手を伸ばしきて、あろうことか両足を押さえ付け下肢を弄び始めた。




―――――─やだっ、・・・・。




 嫌悪と恐怖に怯え、幼いアルヴィスは必死に抗うが、力の差は歴然だった。




―――――─ほら、おとなしくしてろよ・・・・!




 大きく足を開かれ、乱暴な仕草で身体の中心を握り込まれて扱かれる。

 性的に熟していない身体では、いくら刺激を受けても大人のように快楽は得られない。

 それでも無理に扱かれ続け、アルヴィスは射精の真似事のような透明な液体を排出させられた。

 経験した事の無い、全身を突き抜ける感覚にアルヴィスは怯え、泣き叫んだ。

 だが、男は許さない。

 アルヴィスがいかに怯えようと泣き叫ぼうと、・・・・・構わずに更に身体の奥を乱雑な動きの指で探られる。



―――――─やぁ・・っ、痛いっ、痛いよぉ・・・・・!!




 太い指を挿れられ、グリグリと掻き回され。

 余りの痛みに、アルヴィスの身体が硬直する。

 指を指し挿れられた箇所から、身体が2つに裂けてしまいそうな気がした。

 男の指が内部で動かされる度に、目の奥に白い光が走り喉が引き攣る。

 二つ折りにするかのように、身体を屈曲させた体勢で後ろに指を突き入れられている為、アルヴィスは身動き一つ出来ない。

 指を入れられている箇所や、無理な体勢で臀部を持ち上げられているために背筋の方へと伝ってくる滑った液体が気持ち悪かった。

 恐らく出血しているのだろうと思うと、それも恐怖に繋がって、アルヴィスはしゃくり上げた。




―――――煩い、静かにしてろっ!



 そんなアルヴィスの頬を、男が平手打ちする。



―――――─いいか、お前なんてこんな事くらいしか役に立たねぇんだよ・・・・、病気持ちで何にも出来ねぇガキなんだから、これくらい我慢しやがれ!



 怒鳴りながら、散々掻き回したアルヴィスの傷付いた箇所へと、ゴソゴソ取り出した何かをピタリと押しつけた。



―――――─お前なんて、こうやって男を受け入れるくらいしか、やれる事ねぇだろが・・・!




 アルヴィスは声も無く、目の前の光景を凝視する。

 自分の身体に押し当てられている、見慣れない物体を。

 赤っぽく変色した、肌色のモノ。青黒い血管が膨らんで絡みついた――――異様なモノ。

 指では有り得ない太さで、棒状の・・・・・・。


 それがゆっくりと、押し入ってくる。


 入り口が裂け、血で濡れたアルヴィスの箇所にゆっくりと・・・・・・・・・・・・・・











「―――――・・・・・・っ、!!」

 声にならない悲鳴を上げて、アルヴィスは目を開いた。

「・・・・・・・・・・・・・・」


 また、あの夢を見た。

 それも・・・・いつもより、ハッキリと。


「・・・・・・・・・・・」

 まだ、動悸が収まらない。
 あまりの恐怖に、全身にビッショリと冷や汗をかいていた。

「・・・・・・・・・・・・」

 何とか気持ちを落ち着けようと、アルヴィスはそっと起きあがり額の汗を拭った。

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 何故あんな夢を見てしまうのか―――――それはアルヴィスにも未だに分からない。
 けれど、・・・・決して認めなくは無いが、あの夢が単なる悪夢では無いだろう事をアルヴィスは悟り始めていた。

 恐らくアレは、―――――・・・・現実にあった事。

 あんな男は知らないし、記憶を探っても全く引っかかっては来ないのだけれど。


「・・・・・・・・・・・」


 昨日、ファントムに遊ばれた時。

 フラッシュバックしたみたいに、あの夢の光景が目に映った。
 想像で、・・・・想像だけで、あんな夢は見ないだろう。


「・・・・・・・・・・・・・」


 それに、自分でも異常だと思える性的なモノへの嫌悪感・・・・・。

 アルヴィスは、時折自分に沸き起こる、ある種の感覚が堪らなく嫌だった。
 それは健康な男子ならば誰でもあるだろう衝動なのだが―――――─アルヴィスはどうしてもそれが受け入れられない。

 性的な関心を煽る雑誌や映像、話題、その他全てを避けて生きてきた。

 年齢的に数日に一度は起こるだろう衝動も、精神力で抑えつけ―――――─自然に任せて生活してきた。

 それが異常な事なのだと、分かってはいたがアルヴィスにはどうしようも無かったのだ。

 多分その原因が―――――悪夢の中で繰り返し見せられている、幼い頃の体験なのかも知れない。




―――――─お前なんて、こうやって男を受け入れるくらいしか、やれる事ねぇだろが・・・!




 あの心を覆うガラスの壁を引っ掻くような・・・耳障りな声を、確かに覚えている。

 夢の中の声を思い出すだけで、アルヴィスの身体は恐怖と嫌悪に震えた。

 けれど、同時に納得する。





―――――──そっか、俺・・・・・そういう事でしか・・・必要とされてないんだ。



―――――──だからファントムも、あんな・・・・。




「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 熱のためか力の入らない指で、思わずぎゅっと布団を握りしめる。

 本当に愚かだなと、アルヴィスは自分で自分を哀れんだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 昨日、思い知って。

 さっきだって、―――――悟った筈なのに。
 自分は要らない人間なのだと、分かってる筈なのに。
 何故今更、悔しいと・・・・悲しいと思っているのだろう。

 心の何処かでまだ、そんな筈はないと信じたがっていたのか?・・・愚かな事だ。




―――――でもこれ以上、無様な真似は晒したくない・・・・・・・・・・。




 真っ白な布団を見つめたまま、アルヴィスはそう思った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 その為にはどうしたらいいだろう?

 これ以上、幼なじみという関係に甘えてファントムの世話になり続けたくない。
 けれども、彼が言った通り、・・・・アルヴィスには何の力も無くて。
 かといって、ダンナやギンタにだけは絶対に迷惑を掛けたくも無い。





 だったら、―――――───。





「・・・・・・・・・・・・・・」

 アルヴィスはふと、窓の外に目を向けた。
 レースのカーテン越しに、柔らかく陽射しが透けている。いいお天気だ。
 アルヴィスはおもむろに、自分の顔に掛けられている酸素マスクに手を伸ばした。
 そしてそのまま、頭の後ろで固定されていたゴム紐を取りマスクを外す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 シューシューと酸素の漏れ出るマスクを無造作に、ベッドの上に放った。
 すぐに冷たい空気の刺激と息苦しさを覚えたが、それを無視し手の甲でガッチリとテーピングされている点滴の針を抜きに掛かった。
 テープを外す時に留置されている針が引っ張られズキリとした痛みが何度か走ったが、構わずに抜き取る。
 抜き取った箇所から血がプツリと小さく盛り上がり、見る見る間に大きくなって手の甲から伝ったが、気にしない。
 放った針から、ポタポタと薬液が漏れ出てシーツを濡らしたがそれにも頓着しなかった。


 心が、麻痺しているのだろうか―――――何も、感じない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 熱のためにふらつく身体で、アルヴィスは窓の方へと向かう。
 レースのカーテンを開け、冷たいガラスに手を当てて、そっと窓の金具に触れようとして―――――安全対策にしっかりと別の金具で施錠されている事に気が付いた。
 これでは、窓は開けられない。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 少しの落胆と共に、アルヴィスは窓から離れた。


 窓を開けて、そのままフワリと飛び出せたら―――――とても気分が良いと思えたのに。




 今度は、部屋に設けられているバスルームへと向かう。
 脱衣場と一緒に設置された鏡付きの洗面所。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そこに用意されている、剃刀を掴んだ。
 カバーを外し。無表情に、アルヴィスはその刃を手首の血管に当て。

 プツッと力を込めてみた。

「・・・・・・・・つっ、・・」

 ピリッとした痛みと共に、押し当てた真っ直ぐな刃に沿って、赤い線が盛り上がってくる。
 ぱたぱたと、赤い液体が水でも垂らしたかのように手首から少し、零れ落ちた。
 その赤が、先日の自分が吐いた血を連想し、アルヴィスはまた更に顔を顰める。

「―――――手首って、死ねないんだっけ・・・・」

 ぼんやり呟き、手首に押し当てていた剃刀を離した。

「首筋なら、間違いないだろうけど・・・」

 言いながら、鏡に映る自分の青白い顔を見つめ―――――カシャン、と血が零れた洗面台の中に剃刀を放った。


 血。血はやはり、見たくない。


 それに――――頸動脈など切ったら恐らく、ここら一帯が血塗れだ。
 それは・・・・この部屋を酷く汚す事になる。
 ただでさえ役立たずで迷惑を掛けているのに、それを上塗りはしたくなかった。




「・・どうしよう・・・・」

 虚ろに呟いて、アルヴィスは周囲を見渡した。
 そして、部屋の壁にあるウォークインクローゼットに目を留めた。
 数日前、本来なら退院日の近かったアルヴィスの為に、退院時用の服が用意されている事を思いだしたのである。


 外へ、行ってしまおうか? ふとそんな事を考えた。


「・・・・・・・・・・・」

 けれど、と思いとどまる。


 行く宛など無いのだし、何処へ行くというのか。


「・・・・・・・・・・・・・・」

 しかし抑揚のない表情を浮かべたまま、アルヴィスはのろのろと緩慢な動作でクローゼットに近づいた。
 そして、その場で着ていた患者衣を脱ぎ捨てる。
 手首や甲の血も拭わぬまま、アルヴィスはパーカーに袖を通しジーンズを履いた。

「・・・・・・・・・・・・・」


 行く宛など考える必要無いじゃないか。だって俺は、もう―――――─・・・・そこまで考えて、アルヴィスは自嘲気味な笑みを浮かべる。
 それから、ベッド脇のテーブルに用意されていたペンとメモを手に取った。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 少しだけ考えて、アルヴィスは月並みな文章をメモに書き込む。



『お世話になりました。今までありがとうございます。でも、もうこれ以上、迷惑は掛けたくありません。』



 そこまで書いて、アルヴィスは暫し逡巡し。


『ファントム、俺は、』



 再びそう書き添えかけて―――――─グシャグシャと線を引いた。

 今更、何を伝えるのも無駄だと思ったから。

 せめて去り際くらいは・・・・キレイに逝きたい。



「・・・・・・・・・・・・・」

 ペンを放り、アルヴィスは周囲を何となく見渡す。
 持って行くモノ――――は、無い。必要なモノなど、何も無かった。
 携帯用の発作時に使用する気管支拡張剤スプレーの缶の姿が目に入ったが、アルヴィスはそれを手にはしなかった。

 もう、どうでも良かったのだ。どこで苦しくなろうと・・・・どこで倒れようと。

 何故なら、アルヴィスはそれを望んでいるのだから。
 こんな身体要らないと――――この前からずっと、思ってきた。
 でも、その為にはどうしたらいいのか分からなかった。

 簡単な事だった。・・・・捨ててしまえばいい。

 早く捨てるべきだった―――――真実を知る前に。

 そうすれば、こんなに虚しい気持ちを知る事はなかったのに。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 部屋を少し歩き回り、着替えをしただけで簡単に上がってしまった息を整えながら、アルヴィスは必死に座り込みそうになる自分を叱咤し、部屋のドアに手を掛ける。

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 此処を出たら。
 二度と、ファントムには逢えないだろう。
 優しく笑う、彼の姿を思い出し・・・・アルヴィスは少しだけ、躊躇した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 けれど昨日見た、美しいが悪魔のように微笑む彼の姿を思い返す。
 アルヴィスはかぶりを振って、ふらつく足を無理に動かしドアの向こうへと歩を進めた。




 もう、どうでもいい。―――――そんな投げやりな想いに駆られながら・・・・。































 熱に浮かされ、フラフラする頭と身体で、病院内を彷徨い出て、外をうろつき―――――───何処をどう、歩いたのか。

 アルヴィスは、公園らしき場所のベンチにいつの間にか辿り着いていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 もう、一歩も歩けない。

 息が苦しくて、身体が怠い―――――。

 ベンチの背もたれに掴まるように上体だけを捻って、頭をその上に乗せる。
 身体が怠すぎて、頭の重みすら支えていられなかった。
 すっかり筋肉が落ちてやせ細った腕の骨に、堅い材質で出来たベンチが当たってゴリゴリと痛い。腕だけじゃなく、腰や背中、尻も、触れている箇所が皆苦痛だった。


 けれどもう、動けない。


「・・・ごほっ、・・・・・・ぜぇー・・・」

 軽く咳き込みながら、アルヴィスはグッタリとますますベンチに懐いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 目の前には陽射しを受けて柔らかく揺れている草花の光景が広がっていて、とても気持ちよさそうに感じる。
 それなのにアルヴィスは少しも温かく感じなかった。
 むしろ、寒いくらいなのは・・・熱が上がりかけているせいなのだろうか。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 けれどもう、アルヴィスに動くだけの気力は無かった。
 本来ならば、病室で点滴を受けながら酸素を吸入していなければならない状態なのだ―――――─それを全て外し、こんな場所に佇んでいれば病状が悪化するのは当たり前だろう。


「・・・・ごほっ、」


 肩で息をしながら、アルヴィスはただベンチの上でジッとしていた。
 肺の奥から響いてくる嫌な喘鳴と痛み、そして酸素が上手く吸えず不満を訴える心臓の苦しさに耐えながら、アルヴィスはボンヤリと霞み始めた目の前の光景をただ見つめる。


「・・・・・・・・・・・・」




 小さい頃もこんな風に―――――公園で急に具合が悪くなった事があったっけ。


 公園で、隠れんぼをしていて。
 走り回って隠れ場所を探してる間に・・・・・息が、苦しくなって。
 ちょっとだけと思って、ベンチに横たわったら――――動けなくなった。
 助けを呼びたくても、苦しくて声が出なくて。

 急に、怖くなった。

 だって、少しだけ、と思って・・・・隠れる場所、違うところにした。
 ココとココで隠れてね、って言われたのに・・・すぐ見つけられるから、違うところに。

 ここは、隠れたら駄目なところ。

 きっと、探して貰えない。どうしよう。




「・・・・・・・・・・・」




 苦しくて、怖くて泣いていたら。



―――――だいじょうぶ?



 白くて優しい手が、頬に触れてきて。

 紫色のキレイな目が、アルヴィスを見つめていた。



―――――こわかったの? だいじょうぶだよ。



 そう言って、抱き締めてくれた。



―――――─どこにいても、僕が見つけてあげる。



 安心するように、頭を撫でてくれた。



―――――─僕が、アルヴィス君を守るから。平気だよ。



 すごく、安心した。

 この笑顔と優しい手さえあったら、なんだって平気だと思った。

 苦しいのも怖いのもつらいのも・・・・平気。

 この手に撫でて貰ったら、それだけで――――・・・・。






「・・・・・・・・・、」


 幼い頃の思い出を脳裏に描きながら、アルヴィスはゆっくりと目を閉じた。

 幸せな記憶。

 けれど今は――――・・・・かえって、痛い。

 もう二度と、あの手がアルヴィスに伸ばされる事は無いのだから。

 次第に遠のき始めた意識の中。
 アルヴィスはその霞む思考と一緒に、それらの甘やかな思い出ごと消えていけばいいのにと、切に願った。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 その、意識が暗闇に落ちていくと思った瞬間。

 何か優しい感触を自分の頬に感じて・・・アルヴィスは再びゆっくりと目を開いた。
 最初に目に入ったのは、陽射しを受けてキラキラと輝く、真っ直ぐな銀色の髪。
 陽が眩しくて、顔が良く見えない。


「・・・・・・・・・・・・・?」


 息苦しさに霞む意識の中で、アルヴィスは何度か瞬きを繰り返した―――――──。









Next 15

++++++++++++++++++++

また病院抜けだしちゃいましたよ、アルヴィス(爆)
でも病院って、パジャマとか着て患者です!て風じゃないと
意外と警備員さん通してくれちゃうんですよね。患者と分からなくて(笑)
てかこの話、ファンアルの甘々書きたくて書き始めた筈ですのに・・・・
微妙にずっと擦れ違いですね!
ていうか痛い話でマジ申し訳ないです。
書いてるゆきのだけが楽しいような・・・・辛いような(謎)。
いえ、苦しんでるアルヴィスは可愛いと思いますg(殴)