『君のためなら世界だって壊してあげる』







+注意+

これは、パラレルなSTORYです。
メルヘブンとはキャラ名以外、何の関係もありゃしません(汗)
ファントムもアルヴィスも、ごくごく普通?な人間です・・・。
もし彼らが、ギンタ達の世界で普通に生まれ育って恋に落ちていたら・・?
ていうか、医学生ファントム×患者アルヴィス萌え!そんな妄想の元に生まれた話ですので、了承できる方のみ、読み進めて下さいませ・・(ぺこり)


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ACT1 「運命的な?再会-アルヴィス編-」









 ゴホ・・・ゴホゴホッ・・・ゼェー・・・・


「・・・・っく、なんで・・・今更また・・、」

 激しく咳き込み、口元を押さえつつ。
 アルヴィスは傍らの壁にズルズル寄り掛かりながら屈み込んだ。

「・・・・喘息なんて・・・子供の時以来、出て・・、なかった・・のに」

 咳き込み、喉元から聞こえるゼーゼーという嫌な気管支音をさせながら途切れ途切れに、誰に言うでもない不満を口に出す。

「・・・・・・・・はー・・・・・・」

 夕暮れ時とはいえ、もう春先。空気は喉を刺激するほど冷たくは無いし、汚れてもいなかった。今、急に咳き込み始めるまで普通に街の歩道をゆっくり――――いやボンヤリと歩いていただけだし、肺に負担をかけるような爆走をかましていた訳でも無い。



 それなのに何故―――――───。



 幼い頃の持病だった、気管支喘息。
 良く発作を起こしては4才年上の幼なじみに心配されていた。入退院を繰り返しては幼稚園やら小学校を休まなければならなかった幼い頃。
 けれども、アルヴィスが10才を過ぎた頃から余り発作は起きなくなって、高校を卒業し来月から大学に通う現在となっては既にその持病は過去のものとなりアルヴィス自身、忘れ去っていたのだが―――――───。




 困る・・・・今更喘息なんて、本当に困る・・・・・!!




 ゼーゼーと荒い呼吸を繰り返しつつ、アルヴィスは心の中で強く思った。

「・・・・・・・・、」

 だが、そう思う本人の意志とは裏腹に、呼吸はどんどん苦しくなってくる。気道が収縮し、酸素が上手く取り込めない。

「ゴホゴホ・・・・ッ、」

 息を吸おうとすれば激しく咳き込み、アルヴィスは苦しさの余り、喉元を抑えていない逆側の手で壁に爪を立てた。




―――――─だいじょうぶ?




「・・・・・・・、」

 酸欠で霞み始めた脳裏に響く、柔らかい声。




―――――─だいじょうぶ? 咳、くるしい?



―――――─・・・いき、できないよぉ・・・




 部屋のベッドの上。発作で苦しくて半べそをかいていた幼いアルヴィスの傍で、いつも心配そうに付き添っていてくれた年上の少年。
 大きくてキレイな白い手で、いつまでもアルヴィスの手を握っていてくれた。
 アルヴィスが具合が悪くてグズってると、必ず落ち着くまで頭を何度もなんども優しく撫でてくれて―――――辛い筈の発作だったが、幼なじみがずっとそばに居てくれるので、何とか乗り越えられていた気がする。
 その年上の少年は、とてもキレイな顔をしていた。
 サラサラの銀色の髪。長めに伸ばしていた前髪のせいで、顔の半分がほぼ隠れていたけれど、露わな部分は切れ長の目もスッキリと筋の通った高い鼻も薄い唇も・・・・とてもキレイで。
 とくに綺麗なアーモンド型を描いた紫色の瞳を見るのが、アルヴィスは大好きだった。
 少年は、顔だけじゃなく声も心地よくて―――――───アルヴィスは彼に『だいじょうぶ?』と声を掛けられるだけで・・・何だか少し、具合が良くなったような気がしたものである。
 実際、喘息は精神的なものがかなり影響してくるらしいので、少年の笑顔はアルヴィスにとってある意味特効薬だったのかも知れないが。







 ゴホッ、ゴホゴホッ・・・・・・、

 壁に寄りかかったまま蹲って、アルヴィスは懸命に呼吸をしようと努める。
 けれども、炎症を起こし始め腫れ上がり始めてるだろう気管の為に酸欠は進む一方で苦しくて堪らない。

「―――――───ッ、」

 剥がれそうな程強く、壁に爪を立てながらアルヴィスは喘いだ。




―――――──だいじょうぶ?




 また、幼なじみの少年の声が脳裏に木霊する。
 いくら願ったとしても、その少年の手が・・・・自分に触れてくることは有り得ないのに。
 頭を撫でて、大丈夫だよと安心させてくれたあの白い手は、もう遠いところにあるというのに。

「は・・・・ぁ、っ」

「大丈夫?」

 不意に、ふわりと優しく頭に何かが触れた。

「MDI・・・スプレー式の吸入器、持ってないの?」

 声が単なる脳裏に残っていたものでは無く、現実のものであり頭に触れているのがその人物の手なのだとアルヴィスが認識するより早く、問いかけが重ねられた。

「・・・・んなの、持って・・・ない、」

 MDIという言葉に聞き覚えは無かったが、吸入器といわれて幼い頃に持たされていたスプレー式の薬の事を思い出す。
 けれどアルヴィスの喘息が酷くて病院通いしていたのは、すでに10年以上前の事であり、当然薬など持ってはいなかった。

「駄目だなぁ。喘息持ちの子は、持ち歩いてないとダメでしょ?」

「・・・・・・・・・・・、」

 今の今まで、発作なんて出てなかったんだ! そう言い返したいが、息が苦しすぎて言葉が出ない。
 何となく話し方からして喘息に対する知識がありそうだったが、けれども別に何をしてくれる訳じゃないのならアルヴィスとしては放っておいて欲しかった。
 話しかけられても答えている余裕などないし、鬱陶しいだけである。

「うーん、・・・僕もMDIなんか持ち歩いて無いし・・・・」

 けれど、声を掛けてきた男は早々に立ち去るつもりは無いらしく。

「・・・そうだなぁ・・・・缶のアイスティーあるけど、飲んでみる?」

 軽い口調で言いながら、アルヴィスの顔を覗き込んできた。

「紅茶にはテオフィリンっていう気管支拡張剤と同じ成分が入ってて・・・・、」

 と、そこで男の動きが止まった。

「・・・・・・・・・・・?」

 苦しい息の中、何事かと霞む目で男を見上げると

「―――――─アルヴィス君?」

 驚いた口調で、自分の名が呼ばれた。




 何故? 自分は、名前を告げてなどいない。
 こんな声など、知らない―――――──本当に?


 頭が回らない。

 もっとしっかり、声を聞いて。相手の顔を見て。

 そう思うのに、目は霞み頭の芯がズキズキとして、心臓は酸素を求めてバクバクと破裂しそうに脈打って、思考は全然纏まらない。



 それでも懸命に、自分の肩を抱く相手の顔を仰ぎ見ようとして、―――――───そこでアルヴィスに限界が訪れた。

 街灯に照らされ銀色に光る髪を視界に入れたのが最後。

 アルヴィスは重心を預けたアスファルトの地面ごと、奈落の底へ落ちていくような感覚に陥り、そのまま意識を失った―――――───。


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