『Anything is done for you』
初えっち編 ACT7
――――――無理じゃない。
・・・・インガと、・・・したい――――――。
意識が吸い込まれそうに深く、鮮やかな・・・その青の瞳で。
真っ直ぐ此方を見つめてきたアルヴィスに、そんなセリフを言われた瞬間。
そのあまりに可憐な姿と、口にした内容に対するいじらしさ、そして健気(けなげ)さに。
――――――インガの心臓が、ギュウッと。
息苦しくなるほどの愛しさで、握りしめられたような気がした。
「・・・・・・・・・、」
高まる感情のままに、抑えが効かなくなって――――――つい、本音を口走ってしまったものの。
実際、本当にアルヴィスがOKするとは、インガは思っていなかった。
アルヴィスに、恋人同士が普通するだろう行為に対する予備知識が殆ど無いだろうことは、今までの清すぎる程のお付き合いで確信している。
唇を触れ合わせるだけの軽いキスですら、恥ずかしがって戸惑う様子を見ていれば・・・・とてもじゃないけれど、その先になんて進むどころではない。
思わず激情が迸るまま、本音をポロリと零してしまったが・・・・眼前のアルヴィスの様子を伺えば、明らかに困惑しているようで。
こういった性的な行為とは一切無縁に純粋培養で育ってきた彼に、なんて性急な物言いをしてしまったのかと、後悔することしきりだった。
―――――――ここは、とりあえず。
『今、言ったのは本気じゃなかったんです』とか何とか、言い訳をしよう。
それで、無かったことにしよう・・・・いや、しなくっちゃ!
そう考えたインガだったが、謝ろうと口を開いた途端。
慌てた様子のアルヴィスから、予想外の言葉が飛び出てきた。
それも信じられないことに、OKの返事だ。
「いい・・んですか・・・? 無理・・してないです・・・?」
あんまり自分にとって、都合の良い返事だったから。
空耳かと思って、確認してしまう。
今更そんなことは言ってないとか、やっぱりダメだとか言われたら非常に困るが、すごく嬉しかった言葉だから―――――・・・出来る事なら、もう1度聞きたい。
―――――・・・どうか、今の言葉が本当でありますように。
祈るような気持ちで、インガは確認を続けた。
「ボク・・アルヴィスさんに、むりやり・・なんて・・・・・・っ」
無理強いは、する気無いですよ。
だから、正直な気持ちを言ってください――――――そんな態度を、取りつつも。
受け入れる立場のアルヴィスの方が、身体に負担も掛かることですし・・・というマイナス部分は口にしない辺りが、内心自分でもズルイなとインガはひっそりと思う。
けれどやっぱり、アルヴィスが欲しい。
その心は既に自分に向けられていて・・・手が繋げて、キスが出来るだけでも幸せだとは思うけれど。
でも、出来る事なら丸ごと欲しい。
心も身体も、余すことなく全て。
大好きだから、―――――アルヴィスの全てが欲しい。
手の中には今、ずっと欲しかった青い小鳥。
それが自ら、舞い降りて来てくれたのなら。
両手で囲い、・・・そのまま空へ放しはしない。
――――――無理じゃない。
・・・・インガと、・・・したい――――――。
アルヴィスの言葉が、もしもインガの真意を理解しないままの返事だったとしても。
インガは今、自分の腕が抱いている身体は離せないだろうと思った――――――。
「・・ん・・っ、」
徐々にキスを激しくして、アルヴィスの華奢な背骨のラインをなぞりながら、インガは細い腰を抱き寄せる。
意図せずして、それは2人の腰を密着させることとなった。
「っ・・・」
「・・っあ・・・っ、・・・!」
今までの行為で既に興奮を示していた下腹を、布越しにアルヴィスへ押し付けてしまう。
アルヴィスがびくっと身を竦ませて、息を呑んだのが分かった。
明らかに官能の響きが篭もった悲鳴のような細い声と、布越しに伝わるハッキリと形を変えたアルヴィス自身の感触に・・・・インガは、ますます気分が高揚してくるのを感じる。
想像の中だけでしか知らない、アルヴィスの感じ入っている姿。
それを今、実際に目にしている――――――これで興奮しないでいられる筈が無い。
「・・・アルヴィスさん・・感じて・・くれてるんですね・・・」
うっとり呟き、インガはますますアルヴィスの腰を引き寄せた。
「・・・は、・・あっ、・・・インガっ・・・そ・・そこっ・・・!」
途端にアルヴィスが、余裕のない声を上げてギュッとインガに抱き付いてくる。
「はい・・? ここ・・・ですか?」
前部分の張り詰めた感触と、アルヴィスの態度に、我慢できなくなったのかと勝手な判断をして。
インガは、くんっと自分の腰でアルヴィスのそれを刺激するように動かしてみた。
まだ流石に、直接触れるのもアルヴィスが驚きそうだし、抱き締めた状態のために両手が塞がったままだから――――――という、インガなりの配慮である。
「・・・ああっ、・・・っ!」
すると、アルヴィスから一際(ひときわ)高い声が上がり、インガはその声の艶っぽさに自分の下腹がズクリと疼くのを感じた。
「だ、駄目だ・・・っ、そこっ、・・・・も、・・・しないで・・・」
ビクビク身悶えながら必至に訴えてくる様が、壮絶な色っぽさだ。
切なげに寄せられた眉に、フルフル震えながら伏せられる長い睫毛、その合間から覗く青の瞳にうっすら浮かぶ涙――――――・・・上気した白い頬に、薄く開いた赤い唇と吐息の熱さ・・・もう、その全てが艶(なま)めかしい。
「・・・・・、」
思わず、ゴクリと喉が鳴った。
「・・でも、アルヴィスさん・・すごく気持ちよさそうです・・・」
アルヴィスの様子に見惚れながら、それでもインガは彼の言うとおりに少しだけ引き寄せる力を弱めた。
すごく感じているみたいだが、本人がダメと言うのなら無理強いは出来ない。
アルヴィスが嫌がることは、したくないのだ。
「ここがダメでしたら・・・どこが、いいですか・・・?」
ならば、どうしてあげれば良いかと問えば、アルヴィスは真っ赤になった顔に困った表情を浮かべた。
「・・んっ、・・・どこ・・・って・・・・・、」
自分の身体のことながら、具体的には分かっていないようである。
「わ・・・からな・・いっ、・・・・・!」
赤くなって戸惑ったようにそう叫ぶアルヴィスの様子は、とても可憐で。
うっとりと、ずっと堪能していたい気分になるが・・・・キスで一杯いっぱいになっている彼に、そんな質問は意地悪すぎるというものだろう。
「でしたら・・順番に、辿ってみましょうか。・・・少し、失礼しますね・・・?」
言いながら、インガはアルヴィスの唇にちゅ、と吸い付いてから自分のそれをそっと離し。
そのまま華奢な輪郭を描く、アルヴィスの顎へと唇を滑らせた。
顎の先から首へと唇を辿らせ、そのまま首筋へと舌先を触れさせる。
「・・・あっ、・・・・ん・・・・っ・・・!」
アルヴィスの肌は滑らかできめ細かく、その薄い皮膚の下にある、肉の柔らかさまで感じられて――――――その心地よさに思わず、何度も皮膚を吸い上げてしまった。
肌が透けるように白いから、吸い上げた箇所にクッキリと濃いバラ色の鬱血痕(うっけつこん)が残って。
それがまた、インガの劣情(れつじょう)を誘った。
「ん、・・・んっ。・・・あ・・・っ・・・」
舌先で肌を味わう度、唇で薄い皮膚を吸い上げる度に、アルヴィスが喉元を戦慄(わなな)かせる。
恥ずかしそうに漏らす甘い声が、感じているのだと教えてくれているようで・・・・インガは嬉しくて、ますますアルヴィスの首筋への愛撫を強めた。
Tシャツの首回り、ギリギリのラインまで寛(くつろ)げさせて。
喉元だけでは無く、耳の後ろ側から辿るようにしたり、首を逸らした時に浮き出る筋の辺りをなぞるようにしたり、鎖骨を舌先で舐めあげる。
「・・っ、は・・・っ、は・・・あっ、・・・・」
その都度、アルヴィスは甘い声を漏らして、耐えきれないといった様子で首を弱々しく振った。
「アルヴィスさん・・ボク、嬉しいです・・・」
自分が彼のそんな姿を引き出しているのだと思うと、インガの心は幸福感で一杯になった。
「ボク・・もっとアルヴィスさんに気持ちよくなってもらえるように、頑張りますね・・・!」
そんな様子を見たら、もっともっと、快感を感じて貰いたくなる。
「でも・・ここ(首)は、少しくすぐったい・・かもですよね?」
ずっと首筋だけを責められるのは、くすぐったいだろうかと、インガは少し自分の身体を下へとずらした。
そして、そっとアルヴィスのTシャツの裾へと手を掛ける。
行動が性急になり、アルヴィスが怖がらないよう気を逸らす為に唇へのキスを繰り返しながら、―――――――片手でシャツの裾を捲り上げた。
もう片方の手は、あやすようにアルヴィスの背を撫であげる。
「・・・・シャツ、・・・脱いじゃいましょう・・・?」
何でも無いことのように、インガは努めて冷静に言葉を発したが。
その実、心臓は、手がアルヴィスの背に直に触れ、その少し汗ばんで、しっとりとした感触にドキドキだ。
「・・・・ん・・」
インガが少し、アルヴィスの背を支えた手に持ち上げるように力を込めれば、アルヴィスは素直に両腕を上げて脱がせやすいような体勢を取ってくれた。
ぎゅっと目を閉じて脱がされるのを待ってくれている仕草が、何だか幼い子供みたいで可愛らしい。
アルヴィスを待たせてしまうのは申し訳無いので、インガは自分の激しく鼓動する心臓を抑えつけながら、手早くTシャツの袖と襟部分をアルヴィスから抜き取り脱がし終える。
「・・・・・・・・・」
その途端、こんな至近距離――――というか、組み敷くような体勢でアルヴィスの露わになった上半身を目にしてしまい。
インガは、思わず息を呑んだ。
「・・・・・・・・・・・」
『美』。
―――――頭の中に、その文字ひとつきりしか浮かんでこない。
夕方も目にした筈のアルヴィスの肌が、今の薄暗い部屋の中では、仄かな淡い光を発しているかのような妖しい白さで・・・・インガの目を誘う。
細い首から肩、腕・・・手首や手、指の先。
薄く平らな胸に肋(あばら)がうっすら透けて見える様子や、両手でその殆どが掴めてしまいそうな細い腰――――――その何もかもが、白くて・・・キレイだった。
「・・・・・・・・・」
大人しく上半身を脱がされたアルヴィスは、ただじっとあどけない様子でインガを見上げている。
青みがかった黒髪と、白い肌・・・そしてアルヴィスの深い青の瞳が絶妙なコントラストを形作り、真っ白なシーツとそれに寄ったシワの青い陰影が扇情的にその光景を引き立てていた。
充血が全く見られない、赤子のように澄んでいる大きな瞳の無垢さと。
シャツを脱がせる時に上がったままの両腕のせいで、薄く浮き出た脇(わき)から上腕に掛けてのラインと脇腹の筋。
そして胸元の、色素の沈着がまるで無い・・・淡く色づいて存在を主張するようにツンとした2つの小さな突起が――――・・・・首筋に咲かせた朱色の花が、妖しい美しさでインガを誘惑する。
見上げてくるアルヴィスが、子供のように純真で信頼しきった表情をしているから。
その相反するイメージのせいで、余計に彼の肢体に艶が生じている。
「・・・・・・・・っ」
―――――この身体に。今から、・・・・・触れる。
間近にある、アルヴィスの肌の艶めかしさに目を灼かれ。
インガは自分の脳が、白く溶けていくのを感じていた―――――――。
再び、アルヴィスの身体へと自分の身体を重ね。
インガは引き寄せられるように、その白い喉元へと唇を触れさせる。
「・・・・・・・・っ、んっ・・・・」
アルヴィスは大人しく、されるがままだった。
抵抗されないのをOKサインと見なし、そのまま徐々に唇をずらして・・・鎖骨の辺りをキツク吸い上げた。
鎖骨の上に新たなバラ色の花を咲かせ、アルヴィスの身体のラインを味わうように、背に回した両腕を引き寄せながら肩口にキスをする。
それから、薄い胸板の中心にある胸骨に唇を落とし――――――肌に頬を擦り寄せた辺りで、ようやくアルヴィスが高い声を上げて身体を跳ねさせた。
「・・・あ、・・・・っ、インガ・・・・っ・・・!」
それまで大人しくインガに身を委ね、時折切なそうな吐息をつきながら身体を震わせていただけだったアルヴィスが、戸惑うように此方の肩を掴んでくる。
「・・・はい?」
今のキスでビックリしちゃったかな―――――そう考えながら、インガは顔を上げた。
身体を繋げる、と2人の間で決まった以上。
繋げるまでの準備行為として、色々と繋げられる側はされるのが普通である。
アルヴィスもしたいと答えてくれたのだから、当然、こういうことをされるのは了承している筈なのだけれど。
相手がアルヴィスであるからして、――――――そこら辺をちゃんと分かっているのかは、微妙と言わざるを得ない。
これがアルヴィス以外の相手にだったら、今更この状況で何狼狽えてるんだよスル気が無いんじゃないかと、不機嫌に言ってやるところである。
もちろん今のお相手はアルヴィスなので、インガはそんなことは言うどころか思考の端にもそんなことは浮かばないが。
「大丈夫ですよ。
・・・アルヴィスさんが不安になるようなことは、ボクしないですから」
目線を合わせて、笑顔でそう口を開く。
「・・・でも・・っ、・・・、・・」
しかし、アルヴィスは尚も困った顔で恥ずかしそうにインガを見つめていた。
それはそれで、とてつもなく可愛らしい表情なのだが・・・まだ気になっていることがあるらしい。
「・・・・・・・・・」
―――――・・・何だろう?
アルヴィスのことだったら何だって、望み通りにしてあげたいと思うインガは、恋人の可愛らしい顔を見返しつつ考えた。
そして、密着した腰に布越しに伝わっているアルヴィス自身の状態に気がつく。
スウェット越しに伝わる彼のモノは、もうかなり張り詰めているようで―――――・・・これはかなり、辛いのかも知れない。
「・・・・・あ・・前、・・・苦しいですか・・・?」
言いながら、片手をアルヴィスのウエストの方へと伸ばす。
「それにこのままだと・・・濡れちゃうかも・・ですよね・・・?
下着は・・ボクの貸すわけにもいかないですし・・・・」
自分の現状を踏まえ。
何でも無いことのように、ただひたすらアルヴィスを気遣ってますよ・・・という態度を取りつつ、そろそろとアルヴィスのスウェットに包まれた部分へと手を降ろしていった。
本当は、初めてアルヴィスの秘められた箇所に触れるという状況に、インガの緊張も最高潮である。
とりあえず性急なのはダメだと思い、インガはアルヴィスの腰骨の辺りに手の平を触れさせた。
いきなり脱がすのは、アルヴィスだって恥ずかしがって嫌がるかも知れないと考えてのことだ。
「!? ・・・うあ・・・っ、あっ、あっ、・・・・・!」
ところが、インガの手がアルヴィスの薄い皮膚に覆われた腰骨付近に触れた途端。
アルヴィスの身体がびくーっと大きく跳ねて、明らかに感じている声を出した。
「えっ・・え・・えっ・・・?!」
その反応に、インガも驚いて手を止めてしまう。
アルヴィスは荒く息をつき、真っ赤になった顔でインガに縋るように抱き付いてきた。
「ここ・・いいんですか・・・?」
感じる部分なのかと、ドキドキしながら控えめに撫でてみれば、また身を捩るようにしてアルヴィスが恥ずかしそうに口を開く。
「・・やっ、・・・そこ・・・んっ、・・・・・よ・・弱いんだっ・・・・・!」
途切れとぎれの、切なさが篭もった訴えである。
乱れた息や、悶えるように身体を捻る様が、かなり色っぽい。
一見気持ち良さそうにも見えるのだが、アルヴィスが嫌がっているのだから、ここはやめておくべきだろう。
「そ・・だったんですか・・・」
アルヴィスが、素直に弱いと教えてくれたことで。
もし彼の意に反して、ここを撫で続けたらどんなに乱れてくれるんだろうか・・・なんてことにまで想像が及び、恥ずかしくなってインガはパッと手を離した。
そして、慌てて話題を変える。
そう、こんな所で行為が頓挫(とんざ)してしまえば―――――――自分は勿論、アルヴィスだって辛いままの状態となってしまうのだから。
「・・あの・・ホントに・・・。
もう・・脱いじゃった方が・・・いい、・・ですよね・・・?」
少しだけ上体を起こし、アルヴィスの下腹で布越しに形を変えている箇所を見やりながら遠慮がちに声を掛ける。
すごく感じやすい様子だから、このまま愛撫を続ければ達してしまうかも知れないと思っての配慮であり。
決して、アルヴィスを恥ずかしがらせたいワケでは無かった。
下着を汚してしまえば、他ならぬアルヴィスが後で恥ずかしい思いをするのじゃないかと慮(おもんぱか)っての言葉である。
それで恥ずかしがって、もう2度としない――――――なんてことになったら、それこそインガにも相当の大打撃だ。
「・・・・・・・・・っ、・・・・」
インガの言葉に、アルヴィスは耳まで赤くして俯いた。
いつもは透けるように白い耳朶(じだ)が、今は血色が増しキレイな桜貝色になっている。
やっぱり抵抗あるのかな・・・・と、インガがアルヴィスの様子を伺っていれば。
「・・・・・・・・・・」
アルヴィスは無言のまま、また顔を上げて縋るような目でインガを見てきた。
恥ずかしそうにはしているが、その目に拒絶の色は見受けられない。
それを彼なりの了承と取って、インガはそっとスウェットのウエスト部分を締めている紐(ひも)へと手を掛ける。
「あの・・失礼・・します・・・」
努めて冷静さを装って、断りを入れた。
こういう時に自分が恥ずかしがる素振りを見せたら、相手のアルヴィスがもっと羞恥を感じてしまう。
何でも無いことのように・・・・こうやって脱がされるのは当たり前なのだと思って、受け入れられるように、平気な振りをしなければならない。
けれど。
本当の、本当に、―――――インガは自分が生まれてから1番緊張した、と言っても過言じゃないくらいの緊張で、手が震えた。
これは夢の世界で、自分が現実じゃない場所にいるような気さえした。
夕方、彼の腰に揺れる紐を見て・・・・それに手を伸ばし、解きたい衝動に駆られたから。
その時の光景が忘れられなくて、その願望が夢に出てきているのだと言われたら、悲しいけれどスンナリ信じてしまえそうである。
「・・・・・・・・・・」
紐を引っ張りつつ、こっそりアルヴィスの顔を覗いたら―――――――彼は真っ赤な顔をして、ギュッと固く目を閉じていた。
アルヴィスもきっと、この緊張感を必死に耐えているのだろう。
脱がす側と脱がされる側、立場は違えど、緊張の度合いは同じかも知れない。
何せ、お互いに初めて同士である。
「・・・・・・・・・・」
正直に言えば。
行為をすること自体は、インガは初めてというワケじゃ無かった。
アルヴィスには決して打ち明けるつもりは無いし、自分の中の記憶としても永久に葬り去ってしまおうと思っているが――――――たった1度だけ、中学生時代にクラスメイトと関係したことがある。
流されついでの行為だったし、相手も初めてでは無かったらしいし、相手が積極的で・・・・・何より、その子はインガが別段好きな相手でも何でもない存在だった。
抱いて欲しいと、しつこくて鬱陶しかったし。
1度くらいなら、という興味が勝った結果の行為だ。
そうして試してみたら、自分でスルのとさして変わらない程度の快感しか得られなかった。
むしろ他人と素肌が触れ合い、密着することに嫌悪を覚えたインガである。
こんなのだったらもうしなくてもいいな、などと。
――――――当時やたらと冷めていた中学生のインガ少年は、性行為に関する虚しさを感じ、そう結論づけたのだが・・・・・。
だけど、アルヴィスに対してだけは、最初から全てが違ったのだ。
自分から惹かれたのも初めてなら、彼に近づきたいと思ったのも、アルヴィスが初めて。
アルヴィスの為なら何でもしたくて、彼が言うことならば何でも叶えてあげたくて。
自分より大切だと思える存在に、初めて出逢った。
そして、――――――いつしかアルヴィスの全部が知りたいと思うようになった。
相手が、自分が心から好きで大切にしたいと思っている存在であるというだけで。
同じ行為が、全然別物に思えてくるのが不思議である。
アルヴィスにはとにかく、優しくしたかった。
怖がらせたり、不安にさせたり・・・・苦痛を感じさせたりは、絶対したくないと思った。
服を脱がせるだけの、謂わば行為の前段階ですら、こんなに緊張している。
それだけ、アルヴィスが大切なのだ。
以前に抱いた女の子相手になんて、そんな殊勝なことなど欠片(かけら)も思わなかったというのに。
対象相手がアルヴィスになった途端、こっそりとhow to本なんかをチェックする心構えからして、全く態度が違っている。
「・・・・・・・・・・」
自分の身体の下で、恥ずかしそうに目を閉じて耐えているアルヴィスを見て。
何回も恥ずかしがらせるのは、可哀想だから――――――と、インガはアルヴィスの、スウェットと下着の両方に手を掛けた。
「アルヴィスさん・・少し、腰を浮かせてください・・・・・」
声が少し、上擦る。
ついにアルヴィスの赤裸々な姿を目にするという状況に、インガも平静ではいられない。
相手がアルヴィスだからこそ、少しの失敗だって許されないと思うから・・・緊張も増す一方だ。
「・・・・・・あ、・・・ああ」
恥ずかしそうに言われるまま腰をあげるアルヴィスを見ていると、あんまりその仕草までが可愛くて、クラクラとした眩暈(めまい)がインガを襲う。
「失礼・・しますね・・・?」
だが、目を逸らしたら上手く脱がせないかも知れないと思い、インガはその可愛いアルヴィスの姿をしっかり見つめた状態で、そろそろと手を下へ降ろしていった。
意識したわけでは無かったが、下げる時にうっかり指がアルヴィスの腰骨を撫であげる。
「ぅあ、・・・っ!」
途端に。
アルヴィスの唇から、切羽詰まったような声が漏れ・・・細い腰がインガの眼前に突き付けるようにして跳ね上がる。
「っ・・!? すみません・・・!!」
アルヴィスが弱いと訴えていた箇所に、うっかり触れてしまった。
ちょうど、アルヴィスからスウェットごと下着を尻部分までズラした所だった為、彼の全てを目にしてしまい、インガも動揺する。
「・・・・っ」
ドキドキして、謝った後の言葉が続かなかった。
「・・・・・・・・・・」
想像通りというか、イメージと寸分違わない――――というか。
キレイな容姿を持つアルヴィスは、もちろん彼の性別を彼たらしめている箇所だって、美しかった。
普段から陽に晒さない部分であるせいか、他の場所の皮膚よりも更に白く透き通るようで青みがかってさえ見える下腹。
髪と同じ色合いの――――・・・地肌が透けて見えるくらい、淡い翳り。
そして、その下に息づいているアルヴィス自身は色素の沈着などまるで見受けられない、可愛らしいベビーピンク色をしていた。
天使の裸体、という形容がしっくりくるような、未成熟で全てが穢れのない美しさに満ちた身体だ。
今、アルヴィスの『全部』を目にしている。
その事実に、インガは息苦しい程の感動と歓びを覚えた。
「・・・・はっ、あ・・・・は・・・・っ、・・・」
幸い、アルヴィスは腰骨付近を撫でられた衝撃で荒い息をついていて。
インガが思わず、じっと彼の全てを見ていたことは関知出来ていないようだった。
再び目をギュッと閉じてしまったアルヴィスには、そんな余裕など多分、少しも残されていないのだろう。
「・・・・・・・・・」
下手にアルヴィスの羞恥心を刺激しないよう、インガは彼の気が逸れている内にと、そっとまだ脱がし掛けだった衣服を足から抜き去った。
だが、随分感じ入ってくれているようなので、もしかしたら少々脱がしてあげるのが遅かったかも知れない。
男の場合でも、感じてくると、射精の前に潤滑剤(じゅんかつざい)代わりの成分が先端から滲み出てくる。
所謂(いわゆる)、『先走り』というモノだが・・・・アルヴィスの様子を見るに、彼はかなり濡れやすい体質のようだ。
「あ・・すみません、・・・・・」
脱がすのが遅かったかな――――――そう思いながら、アルヴィスの下着を確かめ。
「ボクが気づくの遅かったみたいで、もう下着、・・・濡れちゃってます・・・」
布に濡れて変色している箇所を見つけ、インガは申し訳無さそうに報告した。
インガとしては、アルヴィスのこんな状態は感じてくれている証拠なので非常に嬉しい。
だが、下着を汚してしまうとアルヴィスが困るだろうと思っての、咄嗟の発言だ。
アルヴィスだって、事が終わった後に下着が付けられ無いというのは非常に心許(こころもと)ないことだろうし、嫌に決まっている。
アルヴィスに少しも嫌な思いを味わって欲しく無いインガとして、そんな状況は許されない。
これはもう、すぐにでもアルヴィスの為に、コンビニへ買いに走らなければならないと決意する。・・・する事さえ、終わったら。
「ボク、後で買いに・・・・」
――――――アレ、でもコレ元々ボクの下着だっけ。
そう言いかけて。
そういえば、この下着は自分のモノだったことを思い出す。
―――――――そうだ、アルヴィスさんのは水で濡れちゃったから洗濯して。
乾燥機掛けて、もう持って帰れる状態になってるんだよな・・・・。
「あ、でもコレはボクのですから、別に全然問題無かったですね!
着替えは乾いてますし、・・・良かった・・・・」
勝手に問題を解決した気分になって、インガはホッと息をついた。
安心して少し気がゆるみ、本音がつい、口をついて出る。
「それに、アルヴィスさんのが・・こんなに反応してくれててボク嬉しいです・・・・・・」
下着を濡らしてしまうくらい、感じてくれているのが嬉しくて。
インガは、眼前ですっかり形を変え苦しそうに先端から蜜を溢れさせているアルヴィス自身を見ながら、うっとりと口走ってしまった。
見た目が清純そのもので、それこそ天使のような穢れの無い美しさに満ちた彼なのに――――――その彼が、こんな淫らな姿を晒しているという光景がとてつもなく扇情的だ。
今のアルヴィスは、間違いなく性的な興奮を覚え・・・解放を求めて身悶えている状態であり。
しかもそれを引き出したのは、他ならぬ自分自身だということがインガは嬉しくて堪らなかった。
「・・・っ、・・!?」
インガの言葉に、アルヴィスがパッチリと音がしそうな勢いで眼を開く。
「・・・・っ、あ・・・っ、も・・・そんな・・・・見ないで・・・くれっ・・・・!!」
そして、恥ずかしくて居たたまれない様子で、両手で顔を覆ってしまった。
足も何とかして指摘された部分をインガの目から逸らしたいのか、足掻いても意味はないのだがモジモジと蠢(うごめ)く。
どうやら、反応を指摘されたのが堪らなく恥ずかしかったようだ。
「っすみません・・・! ボク、こんな不躾(ぶしつけ)に失礼なこと・・・!」
アルヴィスの言葉と様子に我に返り、インガは慌てて謝った。
嬉しさと感動の余り、うっかりと彼の局部をガン見してしまっていた・・・これではアルヴィスが恥ずかしがるのも当たり前である。
失態だ。
恥じらっているアルヴィスもそれはそれは可憐で可愛らしいが、彼の顔が大好きなインガとしては、そのまま隠されているのは切ない。
いつでも、どんな時でも。
彼のどんな表情も―――――余すところ無く、見ていたいのだ。
アルヴィスが浮かべる表情ならば、インガは全てを知っていたい。
「すみません、・・・」
もう見てませんよ、とアピールする為に。
インガは、アルヴィスに覆い被さるようにして抱き締める。
「もう見たりしないですから・・顔を隠さないで下さい・・」
そう言って、顔を覆ったままのアルヴィスの手に自分の手を重ね、外して欲しいと訴えた。
「・・・・・・・っ、・・・」
インガの言葉にアルヴィスはそろっと腕を降ろし、真っ赤な顔で此方を見つめてくる。
胸がキュンとなるくらい、素直な仕草だ。
白い頬を赤く染め、どこか所在なさげにインガを見つめてくるアルヴィスは、思わず彼の華奢な骨が軋むほど、力いっぱい抱き締めて―――――そのまま実際に、白い肌に歯を立て貪(むさぼ)り尽くしたくなるような、いっそ凶悪なほどの激しい衝動に駆られる可愛らしさである。
「・・・・・・・、」
衝動に駆られるまま、けれどちゃんと加減して抱き締めたインガの背に、アルヴィスが腕を回して抱き付いてきた。
「・・・・・・・・・」
インガの身体を引き寄せるようにして、何も言わず首元に顔を埋めてくる。
やはり、顔を見せるのがまだ恥ずかしいらしい。
首元に掛かるアルヴィスの吐息が熱くて、その熱にインガの体内温度が更に上昇した。
こうして抱き締めていると、アルヴィスの身体は小刻みに震えて熱を持ち――――――押し寄せる官能の波に、必死に耐えているのが容易に伝わってくる。
「・・・・・・イン・・・ガ・・・・・っ、・・・」
甘えるように首元へと頭を擦り寄せる仕草が、酷く可愛らしくて・・・・インガはつい宥めるように、アルヴィスの髪をクシャリと撫でてしまった。
今まで、恋人だが1つ上の先輩であるアルヴィスには、殆どしたことの無い行動だ。
そういった、少し子供扱いというか可愛がるといった仕草は、僭越(せんえつ)な気がして・・・普段の凛とした空気を纏っているアルヴィスには、とても出来ないからである。
けれど今のアルヴィスは、・・・とにかく可憐で、可愛らしくて。
すぐ不安そうな表情を浮かべる彼に、何とか安心して貰いたくて。
そう思ったら・・・・自然と、あやすように彼の頭を撫でていた。
――――――強い憧れから、溢れるような愛しさへ。
それはインガの中で、アルヴィスへの感情が確かに変化した瞬間だった――――――。
NEXT ACT8
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言い訳。
ようやく、内容が濃くなってきましたね!(笑)
タイトルに相応しい展開になって参りました☆
ここから、初々しいんだけど何故か結構濃いことヤってる2人になっていくんでs(爆)
いや、中身自体はフツーのエッチなんですけどね。
この2人でそれをすると、何故かエロくなります(爆笑)
初々しさって、・・・逆にエッチ度を上げてしまう効果があるんですかn?(笑)
次回はちゃんと、アルヴィスを気持ちよくさせてあげたいです・・・!
ホントはイくトコまで載せようかと思ったんですが、長くなったので次回に持ち越しましt(笑)
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