『Anything is done for you』





初えっち編 ACT5







 
 俺もしたい、と。

 極めて前向きな言葉が、その可憐な唇から零れ出た瞬間。


「アルヴィス・・さん・・・・・・っ」


 インガは誘われるように、唇を重ねていた。


 そんな、可愛らしい顔で。

 そんな、・・・恥じらいながら熱っぽい瞳で此方を見て。


 ――――――俺もしたい、・・・なんて言われたら。

 僅かに残っている理性だって、全部吹き飛んでしまう。



 アルヴィスが可愛すぎて、頭がクラクラした。

 眩暈(めまい)を起こし掛けているのかも知れない。
 それくらい今のアルヴィスは、凶悪に可愛らしかった。


「・・・・・・・・・・」


 先程は、逸(はや)る気持ちのままに長く唇を押しつけ過ぎて、アルヴィスが少し苦しそうだったから。
 ――――――今度は、優しく何度も唇を啄(ついば)むようなキスを繰り返す。

 アルヴィスの唇の柔らかさを感じて、インガはまた脳の芯が甘く痺れていくような気がした。


「ん・・・んっ、・・・」


 アルヴィスの手がインガの背を彷徨(さまよ)い、引き寄せるような動きを見せる。

 キュッとインガのTシャツを掴む、まるで幼子(おさなご)が甘える時のような仕草だ。
 その手の感覚にまた、インガの心臓が跳ねる。


「・・・・・、」


 抱き締めても良いと、お許しが出た気分で。
 インガは、自分からも腕を回してアルヴィスを抱き寄せた。

 脳裏にチラリと、数時間前に目にしたアルヴィスの細腰が浮かぶ。

 触れてみたいと・・・・両手で掴み、その細さと華奢な骨の感覚を確かめてみたいと思った、アルヴィスの腰が今――――――触れられる近さにある。
 インガは、Tシャツ越しに指先で、アルヴィスの背中からウエストへのラインをなぞり・・・手の平を脇腹(わきばら)へ押し当てるようにして、その身体を抱き締めた。


「・・・・・・・・・・・」


 細い。

 見た目もだが、改めてしっかり抱き締めると、本当に細い。

 弓道で鍛(きた)えているから、それなりに筋肉が付いているらしいのは皮膚越しに伝わる感触から分かるのだが――――――何せ、肉付きが薄かった。
 無駄肉1つ無い・・・といえば聞こえはいいが、アルヴィスの場合は必要な脂肪すらが余り付いて無いような気がする。

 しかも骨格自体が華奢だから、こうして抱き締めていると余計にアルヴィスの細さが実感できた。

 身長は、僅かにアルヴィスの方が高く。
 体格に至っては多少、彼の方が細いくらいか―――――と思っていたけれど、比較にならない。

 身体がまだ、全然出来上がっていないのだ。
 高校に入り徐々に大人の男の身体へ近づいているインガと比べ、アルヴィスの成長スピードは、まだまだゆっくりペースらしい。

 手の平を通してジワリと伝わる、アルヴィスの体温と薄い肉の感触に、インガは感動すら覚えた。
 未成熟な白い身体は、まるで妖精のような・・・まだ不完全である故の、儚げな美しさを創り出していて。
 それらが酷く、インガの中の庇護(ひご)欲を誘った。

 気分が高まるまま、インガはアルヴィスの柔らかな唇に吸い付き、キスを深める。


「んうっ、・・・ん・・・・っ!」


 唇を吸った途端にアルヴィスがビクリと身体を震わせ、大きく目を見開いてきた。


「・・・・・!」


 もしかして嫌だったのかと、アルヴィスを抱き寄せたままでインガも身構える。
 極度の興奮状態にあるとはいえ、もしもアルヴィスが少しでも嫌がるようならば、問答無用で即座に中断しなければならない。

 だがアルヴィスは、またすぐ目を閉じて、ますますギュウッと目を瞑(つむ)っただけだった。


「・・・・・・・・・・」


 拒絶されるのかとドキリとしたが、どうやら嫌がったわけでは無いらしいと判断して。
 インガは内心で、ホッと胸をなで下ろした。

 それどころか、アルヴィスが懸命にインガに合わせようとしてくれている気配を感じて、余計に幸福感で胸が一杯になる。

 縋るように、インガのシャツを握りしめている手や。
 一生懸命、自分から唇を押しつけて来ようとしている仕草が可愛すぎだ。
 力を込めて目を閉じすぎて、プルプルしている瞼(まぶた)や長い睫毛が堪らなく愛しい。




 ――――――かわいいな、・・・。





 気付けばインガは、自然とアルヴィスを強く抱き寄せて。

 薄く開き掛けた唇を吸い―――――そのまま、舌先を彼の口内へと滑り込ませそうになっていた。


「!?」


 そしてアルヴィスの歯に舌が触れ、その滑らかな硬い感触で我に返る。





 ――――――――ボクまた・・っ、むしろさっきよりもすごいこと・・・っ!!





 慌てて身体ごと唇を離し、インガはその場で起き上がった。


「あっあっ・・すみません・・・!」


 真っ赤になりつつ、まだ呆然と横になったままインガを見上げているアルヴィスへと頭を下げる。


「・・・・・・・・、?」


 謝っても、アルヴィスはトロッとした目つきでインガを見つめ、黙ったままだった。

 目元をほんのりと薄紅色に染め、何度も吸われ朱色に染まって濡れている唇で此方をぼんやり見上げるアルヴィスは、酷く艶めいていて。
 身体を横たえている場所がベッドの上ということもあり、・・・どうしてもインガの思考は『そっち方面』へ向かってしまう。

 インガは再びその身体を抱き締めて、思い切りその唇に吸い付きたくなる衝動に駆られたが、そこは唇をキツク噛みしめ、グッと自分を抑える。


「・・・・・・・・・・」


 もう1回、などと言っておきながら――――――何度もキスを繰り返してしまったことを。
 今更だが、アルヴィスに申し訳無いと思った。

 まして、断りも無しにディープキスを仕掛けようとするなど、失礼にも程があるだろう。


「・・・すみません・・・・・・」


 インガはベッドの上で正座して、居住まいを正し。
 いつにないくらい、今日はとくに謝ってばっかりだ・・・そんな自己嫌悪に陥りつつ、再び謝罪を口にする。


「・・・・・・なに、・・が・・?」


 ようやく、アルヴィスが言葉を発した。
 声が酷く擦(かす)れていたのと、彼のぼうっとした表情が未だに崩れていないせいなのか、怒っているようには見受けられない。


「何って・・・ですから、キス・・・1回って言ってたのに・・・ボク・・・」

「・・・・・?」


 インガにしてみると言いにくい、内容をボソボソと説明すれば、アルヴィスはとても可愛らしく、ゆっくりと首を傾げただけだった。

 その様子に、本当に非礼を怒ってはいないのだと理解する。






 ――――――・・・ってことは。
 アルヴィスさんは、嫌がってなかった・・ってことなのかな?

 怒ってもない・・みたいだし・・・?





「・・・嫌じゃ、ありませんでした・・・?」


 恐るおそる、確認してみる。

 さりげなさを装ってはいるが、この質問はインガにしてみるとかなりドキドキものである。

 もしも、もしかして、・・・・アルヴィスが『嫌じゃない』と答えてくれるとしたら。
 それはつまり、さっきのキスは『しても良い』ということになるワケで。
 ずっと手を繋いだり、唇を押しつけるだけのキスしか出来なかった関係からの、大きなステップアップだ。

 果たして、固唾(かたず)を呑んで見守ったアルヴィスからの答えは、積極的な肯定では無かったものの、OKの意味合い的な言葉だった。


「・・・・嫌じゃ、・・・・・・ない」


 真っ赤な顔をして俯いたまま、小さな声でそう言ってくれた。


「ホント・・ですか・・・?」


 そう言われてしまうと、インガも気持ちが抑えられなくなって来る。

 アルヴィスの気持ちが最優先なのは大前提だが、インガだってアルヴィスと先に進みたい気持ちが無い訳では断じてない。


「また、さっきみたいにしても・・大丈夫です・・・?」


 そっとアルヴィスの顔を覗き込み、顔を近づけるようにしながら返事を乞うた。

 出来れば、せっかくステップアップしたキスが無かったことになってしまう前に。
 もう1度して、ちゃんと恋人同士のキスは『こういうモノ』だと、アルヴィスに印象づけて置きたいのだ。


「あっ、・・・・それはっ、・・・その・・・」


 顔を近づけた途端に、アルヴィスがびくっと身体を震わせて、ひっくり返った声を出す。

 少し怖がっているかも知れない。


「その・・・なんですか・・・?」


 インガは慎重に、アルヴィスの次の言葉を待った。

 無理強いはしたくないし、嫌と言われれば、それはそれは切ないことだけれど・・・・アルヴィスの意志を、尊重(そんちょう)したい。
 だから、勝手な早とちりや勘違いをしないように、言葉尻の最後まで聞き取ろうと冷静にアルヴィスの言葉に耳を傾ける。


「・・・・・・・・・・・」


 アルヴィスは忙しくなく目線を泳がせ、何やら酷く葛藤(かっとう)しているようだった。

 真っ赤な顔でインガを見て、慌てて目を逸らしたかと思ったら、次の瞬間には何だかとっても気遣わしげな目で此方を見る。
 そうかと思ったら、また目線を外して俯(うつむ)いて――――――・・・そのまま深呼吸を何度か繰り返し、再び意を決した顔でインガの方を見つめてくるのだ。


「・・・・・・・・・・・」


 その間、インガはおとなしくアルヴィスの返事を待っていた。

 何となく、アルヴィスの思考が読める気がしたのである。





 ――――――大丈夫って答えたら、キスされるんだろうなって思って。

 だけどそれって、キス待ってるみたいで恥ずかしいな、なんて考えちゃって。

 でも、だからってヤダって言ったら、アルヴィスさん優しいから。
 ボクが傷付くだろうなとか、気を回したりして・・・・・。

 やっぱりココは、大丈夫って言わないと!! なんて考えたりしてるんだろうな・・・。






 そんな風にアルヴィスの心の動きを、彼の態度に当てはめたりしてみる。

 恐らくピッタリとまでは言わないが、遠からずと言った所だと思う。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 激しく葛藤している様子のアルヴィスを、見守りつつ。
 それでもインガは助け船を出さなかった。

 アルヴィスに無理強いしたくないとは、本心から思っている。

 けれど、それだけが全てじゃない。

 大好きだからこそ、愛してるからこそアルヴィスがもっともっと欲しいし、――――――関係が進められるものなら、進めたい。

 そんなチャンスを自らフイにしてしまうような勿体ないことは、・・・・流石に出来なかった。


 だから。


「・・うっ、・・・・・・その、・・・」


 散々、葛藤した挙げ句。


「・・・・・・・・・・・・ぃぃ」」


 アルヴィスが、とてもとても小さい声でそう口にした時は。
 インガは、良かったーーーー!!と、心の中で叫んでしまっていた。


「は〜・・・・・・」


 思わずホッとし過ぎて脱力し、アルヴィスの顔を覗き込んだ体勢のまま俯(うつむ)き、安心感を噛みしめる。

 どんなに消え入りそうな小さな声でも、『いい』と肯定してくれたのが何より嬉しかった。

 アルヴィスは、優しい性格である。
 だからインガが傷付くんじゃないかと、それを思いやってただ『嫌じゃない』と言ってくれた場合、―――――――意味が全然変わってきてしまう。





 そのアルヴィスの言葉だけで、幸せを感じていたインガだが。


「・・・・・・・・・!?」


 次の瞬間、体温が1度上昇した。

 正座した膝の上に置いていた手を、アルヴィスが掴んで自分の方へと引き寄せ。
 その手に甘えるように、顔を擦り寄せてきたのである。

 ――――――まるで。するのは、嫌じゃないよ・・・と言わんばかりに。


「・・・アルヴィス・・さん・・・?」


 奥手な彼がそういった態度を示してくれたのが、肌で感じ目で見ても信じられなくて。
 インガは赤い顔で、自分の手に頬を擦り寄せるアルヴィスを見つめた。

 吸い込まれそうな青の瞳と、一瞬だけ眼が合う。


「・・・・・・・・・・」


 するとアルヴィスは恥ずかしそうに、すぐ目を逸らしてしまった。

 けれど、それがまたどうしようも無く可愛らしく感じ―――――そして、逆に誘われているようにも感じて。
 インガはそっと、アルヴィスの顔との距離を近づけた。


「・・・・・・・・、」


 アルヴィスは、おどおどとした様子で一瞬インガを見て、また逸らし。
 それからまたインガを見て、ギュッと目を閉じる。

 けなげにも、心の準備を決めてくれたらしい。


「・・・・・・・・・・」






 ――――――・・・・・いいってことですよね・・・?





 心の中で、そう確認し。
 彼の身体に覆い被さるようにしながら――――――インガはそっと、アルヴィスの唇に自分のそれを重ねる。

 彼の息が苦しくならないように、優しく・・・アルヴィスの唇を啄(ついば)むようなキスを繰り返した。


「ん、・・・・・」


 鼻に抜ける甘い声を耳にすると、インガは再び身体がカッと熱くなるのを感じる。
 アルヴィスの、柔らかで程よい弾力のある唇の感触が心地よくて・・・・思わず、少し強めに唇を食(は)んだ。


「・・・んっ、・・・・ん・・ふぁ・・・・!」


 途端に少し高めの、くぐもった声がアルヴィスから発せられて、薄く唇が開いてくる。


「・・・・・・・・・」


 それに誘われるように、少しだけ自分の舌を差し込み掛けたインガだが。
 チラリと様子見した、アルヴィスの眉間にまたシワが寄っているのを発見して、舌先を引っ込めた。


「・・・アルヴィスさん・・・・苦しい・・ですか・・・?」


 キスを止めてしまうのは惜しくて、唇だけを触れ合わせたまま確認すれば。
 アルヴィスは、顔を顰(しか)めたままで首を横に振った。


「・・・・んっ、・・・・だい・・じょぶ・・・・」


 アルヴィス本人は薄目を開け、そう答えてきたが。
 ―――――縋るようにインガのTシャツを握る指に込められた力や、表情が『苦しい』と訴えている気がする。


「・・・・・・っ・・」


 だが、その寄せられた眉や表情がまた、色っぽくて。

 インガは、アルヴィスを気遣いつつ・・・・キスを止めることが出来ないでいた。

 普段のアルヴィスが清純そのもので、そういったイメージとはまるきり無縁である為に、そのギャップは凄まじいものがある。
 逆にアルヴィスが漏らす声に煽られ、強めに甘い唇に吸い付き、華奢な背に回した腕に力を込めた。


「・・ん・・・・・っ、・・・!」


 びくっ、とそれに呼応するかのようにアルヴィスの身体が震える。
 もっとアルヴィスにキスで感じて欲しくて―――――・・・インガは夢中で、アルヴィスの唇に吸い付いた。


「・・んっ、・・んぁ・・・・っ・・!?」


 それに驚いたのか、アルヴィスから今度はハッキリと戸惑いの色が篭もった声が漏れる。

 その声に、インガはようやく唇を離した。


「・・・・・・・・・」


 つい、また夢中になって結構長くキスしてしまった気がする。

 けれど、まだ終わらせたくないと言うのが本心で。
 インガは、名残惜しさと、恋人を腕の中から解放しなければならないという寂しさに、アルヴィスの身体を更に強く抱き締めた。


「・・アルヴィスさん・・・」


 このまま、融合してしまえればいいのに―――――そう自然と思ってしまうほど、腕の中にいる彼が愛しくて堪らない。

 好きで好きで、大好きで。
 こうして抱き締めているのが、幸せで堪らなくて。

 このまま、離れたくないと思ってしまう。


「・・・はぁ・・・・っ、・・・・」


 インガの腕の中で、可愛いらしい吐息を付いているアルヴィスを、なかなか解放出来なかった。

 1度味わってしまった、この充足感が――――・・・・忘れられない。


「・・・・・・・・・・・」


 抱き合って、キスして。
 それだけで、こんなに幸せで満たされるのなら。

 アルヴィスと1つになれたら、どれほど大きな幸福感を得られるのだろうか。


「・・・・・・・・・・」


 アルヴィスと、最後までしたい。
 1度そう思ってしまったら、―――――気持ちが抑えられなくなった。


「・・・・・・・・」


 覚悟を決めて、インガは緊張した面持ちでアルヴィスを見つめる。

 腕はアルヴィスを抱き締めたまま・・・心持ち、彼の身体を引き寄せて口を開いた。


「・・・アルヴィス・・さん・・・」

「ん?」

「・・あの・・・もっと・・先まで・・・」


 なんだ? とアルヴィスの大きな瞳に見つめられ。
 インガはモゴモゴと言葉を続けるが、その声は段々小さく消えていく。

 このキレイな青い目が、インガが口にした言葉を聞いた途端、軽蔑の色でも浮かべたらと思うと――――――・・・お願いを切り出すのには、相当な勇気が必要になる。

 出来る事なら今の雰囲気で、インガが言わんとすることをアルヴィスに察して欲しいところだが、・・・鈍い恋人にそれは期待出来ない。


「・・・・・さき・・・?」


 案の定、アルヴィスはワケが分からなそうに、その可愛らしい顔に怪訝な表情を浮かべた。


「っ・・・キス・・だけじゃ、なくて・・・」

「・・・・・・・・・・・」


 言いにくくて口籠もりながらインガが言葉を続けても、アルヴィスは真剣に考え込んだままである。

 このままでは到底、いつまで経っても意思疎通が出来そうも無かった。


 しかし。


 インガsideの諸事情が理由で。
 そうゆっくり、意思疎通を図っていられる状況じゃないのが辛いところだ。


「・・・・・・・・・・・」


 アルヴィスの扇情(せんじょう)的な姿を沢山見せられて、――――――実はさっきから、下半身的が切ない状態なのである。

 好きな子とこんな密着した体勢で、あんなキスを繰り返していれば、それはもう当たり前な生理現象だ。
 興奮するし、反応しちゃうし、1つになりたいと身体が準備を始めてしまう。

 これで勃たないようなら、男じゃない。
 アルヴィスだって、それは例外じゃない筈だ。


「・・・・・・・・・、」


 そこまで考えて、インガはハタと気付く。




 ―――――あれ? じゃあアルヴィスさんだって、今ツライんじゃないか?



 同じ性を持つ身体だ、その可能性は充分あり得るだろう。
 ならば、まどろっこしく聞くのは、逆にアルヴィスも焦らされていて辛い可能性はある。

 ダメだ。そんなのは可哀想だ・・・アルヴィスにそんな辛い思いはさせられない。
 インガだって今、こんなに辛いのだ。

 アルヴィスに、――――――そんな我慢をさせるのは忍びない。


「・・・・っ、・・」


 インガは思いきって、アルヴィスに分かるようストレートな言葉を口にした。


「その・・下も・・辛くないですか・・・・・・!?」

「!??」


 ぴきっ。

 その瞬間、アルヴィスが思い切り凍り付いたのを感じる。
 そして、その直後にボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤にした。

 表情を見る限り、意味はちゃんと伝わったらしい。


「そっ、・・・そんなワケっ、・・・ワケ、は、・・・っ、・・・!!」

「・・・本当・・ですか・・・・・?」


 アルヴィスは、嘘が下手だ。

 真っ直ぐに育ち、偽りなどとは無縁の誠実で純真な性格だから――――――嘘を言うと途端に落ち着きが無くなり、目が泳いで、口調も酷くぎこちなくなる。
 今の彼の態度は、その典型だった。






 ――――――本当に、アルヴィスさんの言うとおりなら。
 ボクだけみたいで、すごい恥ずかしいんだけど・・・・・。





 そう思いながら、アルヴィスの様子を伺っていると。
 アルヴィスが、すごく困ったような顔でインガを見つめ、口をパクパクさせてきた。


「・・・・・・・・・、」


 何か言いたいらしいが、声を出す勇気が無いようである。
 赤い顔で口をパクパクする様子が、水槽の中から外を覗く金魚みたいで、ちょっと可愛い。


「・・・・・・・・・・」


 辛抱強く、アルヴィスの言葉を待っていると。
 恋人は耳まで真っ赤にして、インガの胸に顔を隠すように埋めながら、ようやく声を発する。


「う、・・・いや、・・あの・・・・・・・・少し、・・・は・・・」


 反応、してる――――――語尾は更に小さい声だったが、インガの耳に確かに届いた。

 その言葉に、インガもますます顔が熱くなる。

 付き合ってはいるが、こういった内容は今まで互いに話したことがない。
 だから、アルヴィスの口からそんな言葉を聞くだけでも、何だか心臓が面白いくらいに跳ねた。

 けれど努めて、その動揺は表に出さない。
 こういうことだって、恋人同士なら話題にするのが当たり前なのだと――――――アルヴィスに思わせたい。


「このままじゃ・・寝られない・・ですよね・・・?」


 おずおず、と言った調子で。
 だがこの機を逃してなるものか・・・そんな決意も込めて、インガは言葉を切り出す。


「・・・・・・・っ、う・・・・」


 らしくない、インガのストレートな物言いに、アルヴィスは完全に面食らっているようだ。


 けれどもインガだって、今この場で急に思い立ったワケでは無い。
 ずっとずっと、付き合った当初から・・・・いずれは、と思っていた行為である。

 そのチャンスが巡ってきたのが、今だというのなら。
 それは、―――――・・・逃したくなかった。


「それに・・・・・・出来たら、アルヴィスさんと・・・・・・体、繋げたいです・・・・・・」


 アルヴィスの縮こまった身体を、優しく力を込めて抱き締めつつ。
 インガはハッキリ、アルヴィスを抱きたいのだという意思表示の言葉を告げた――――――――。












NEXT ACT6



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言い訳。
ようやく、次回からタイトル通りなことが出来そうです(笑)
今までの展開だけだと、嘘になっちゃいますよねー(爆笑)
18禁表示外さないとデス(笑)
ていうか、キスだけの内容でこんな長々書いたのって初めてかも?☆
インアルって、やっぱ特殊なカップリングなんでしょうか(笑)
ファンアルだったら、キスなんてさらっとこなしちゃいますよねディープまで。
ファントムが、アルヴィス戸惑ってても一切気にしませんかr(爆)
次回からは、インアルでちゃんと濃ゆいことさせたいです・・・vv