『Anything is done for you』





初えっち編 ACT1







 アルヴィスと付き合うようになって、数ヶ月。

 それなりに、彼の近くに居られるようになったし。

 恋人同士しかしないような事だってするようになった。



 前みたいに、待ち伏せて一緒に朝学校へ行ったりとか。

 以前のように、必死に彼の後を追って一緒に帰ったりとか。

 そんな努力しなくても、朝だって帰りだって、自分が遅ければ待ってくれるようになったし、待って下さいなんてお願い出来るようにもなった。


 予定を立てて、一緒に何処かへ出掛けるようにだってなったし。

 抱き寄せても、拒まれることは無いし、キスだって普通に出来るようになった。






 だけど。

 やっぱり。


 それだけじゃ、―――――今時の健全な男子高校生として満足出来なかったりする。




 好きだからこそ。

 大好きで、自分だけの存在だって確信したいからこそ。


 キスだけじゃなくて。

 抱き締め合うだけじゃなくて。



 ―――――――身体の深い所で繋がりたい。






















 けれども、今のところインガの思惑はいつも外れ。

 ―――――─・・・相手のアルヴィスがそういう部分に本当に疎い事もあって、未だにその願いは遂げられていなかったのだった・・・・。























「・・・じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

「あ、では送ります・・・!」


 せっかく、家の近くの図書館まで来てくれたのに。

 僕の家に寄って行きませんか? なんて、誘う最高のタイミングだった筈なのに。

 結局、そういうムードに持ち込めないまま、時間が来て。


 暇(いとま)を告げるアルヴィスを引き留める手段も思いつかないままに、インガは内心で落ち込みながら彼に続いて立ち上がった。







「いつも駅まで送ってもらって悪いな・・・? 帰る時くらい、いいのに・・・」

「あ、いえ、送ります!」


 そんな風な、いつもと変わらぬ内容のセリフを繰り返し。
 いつもと同じに、2人でインガの自宅から程近い位置にある図書館から、駅へと向かう。

 せっかくこうして、たまに2人きりになれるチャンスが訪れても―――――─経過というか結果というか・・・・時間が来ればアルヴィスは帰ると言うし、インガも近いので家に寄っていって下さいと言えないまま彼を送って駅まで行く―――――という代わり映えのしない状況になってしまうのだ。






 はぁー・・・。今日も駄目だったな・・・・・。







 内心で深い溜息を吐き。

 インガが、少し前方を歩くアルヴィスを見やった時である。


「・・・あ、」


 そのアルヴィスの更に前方で、家の門の前に立ち、水撒きをしている中年女性の姿が見えた。

 周囲に全く気を遣わずに、バシャバシャと勢いよく水を撒いているその姿にインガは咄嗟(とっさ)に声を上げる。


「アルヴィスさん・・・・!」

「え?」


 インガの声にアルヴィスが振り向くのと、女性が水を勢いよくブチ撒けたのが同時だった。


「・・・ぅわっ!?」


 水が―――――と、声を掛けたのが裏目に出てしまったらしい。

 振り向いたせいで水撒きに反応が一瞬遅れ、アルヴィスは盛大に頭から水を被ってしまった。


「アルヴィスさん!?」

「あらー!ごめんなさいね!? アンタ大丈夫!!?」


 インガの声と、水撒きをしていた女性の声が同時に被る。


「・・・はあ、まあ・・・・平気です・・・」


 頭から水を浴び、まるで服を着たままシャワーを浴びてしまったかのようにズブ濡れになりつつ、アルヴィスが苦笑して答えた。


「・・・今日は・・・暑いですし・・・このまましておけば乾くと思うので。僕もぼーっとしてましたから―――――」


 いまだポタポタと水滴が落ちる目元に張り付いた前髪を掻き上げながら言うアルヴィスは、全身びっしょりで。
 暑いとはいえ放っておいて乾くレベルとはとても思えない状態である。

 素肌に纏ったYシャツが水に濡れて、肌にピッタリと張り付き華奢な身体の線が露わになって―――――白地にうっすら胸元が透けているのが酷く卑猥(ひわい)・・・・というか、目に毒だ。


「そうお!? じゃあ、大丈夫かねえ・・・・」

「はい、平気です。こちらこそ、すみませんでした」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 けれども、アルヴィスと水掛けオバサンの会話はそんな風にアッサリと進んでいき。
 通常だったらクリーニング代だとか、せめて身体拭く用のタオルくらいは持ってきてくれるだろう筈の立場のオバサンは、和やかに手を振って家の中へと引っ込んでいってしまった。

 それを、別に咎(とが)める風も無く見送ったアルヴィスは、そのキレイな顔に仕方がないな、という風な表情を浮かべて。


「・・・・濡れちゃったものはどうしようもないし・・・帰って着替えるか・・・・」


 そのまま、駅へ向かって歩き出そうとした。

 スポーツバッグから取り出したタオル片手に、軽く頭を拭いながら。


「・・ちょ、ちょっと待って下さいアルヴィスさん!!」


 それを、そうですねじゃあ行きましょうか・・・なんて言って付いていく訳には断じていかないのがインガである。

 濡れたアルヴィスの手首を掴み、慌てて制止する。


「?」


 不思議そうに振り返った可愛らしい顔に躊躇しつつも、こればっかりは譲れない!との気持ちを強く持ち、勇気を振り絞って口を開いた。


「そのままじゃ風邪引いちゃいます。・・・僕の家で・・・・着替えを・・・・!」


 ずっと言いたくても言えなかった、ひと言。
 『僕の家に来て下さい』・・・・・言いたくて言えなくて、ずっと心の中に温めていたセリフ。

 やっと言えたと思ったら、思い浮かべていた状況と180度違って。

 下心とか、ムードとか。
 そういうのが一切関係ない、単なるアクシデントなだけだったけれど。

 それでもインガは勇気を出して、アルヴィスに言った。


「・・・・あ・・・・でも、悪いだろ・・? このままでも・・・」


 インガに遠慮しているのか、苦笑してアルヴィスは答える。

 けれども、インガだって引き下がる訳にはいかない。

 だって、何度も繰り返すが、アルヴィスは全身ズブ濡れ状態なのだ。
 肌にピッタリまとわりつく様に濡れたYシャツのせいで、色々な部分が透けてたり身体のラインが露わになってたりする。
 部活の時に上半身脱いだ姿なんかより、よっぽどいかがわしく感じるのだ。

 しかも濡れた前髪を後ろの方へ無造作に掻き上げたりするから、元より大層キレイな顔立ちが妙に大人びて見えて色っぽい。


「いえ、そういう問題じゃないですよ!!それに、そのままなんて風邪ひいちゃいますし、濡れたまま電車に乗るのも・・・」


 他の人に迷惑じゃないですか――――とまで言ったら、流石に失礼かなと言葉尻を濁しながらインガは言い募った。


「・・・・・・・」


 そのインガの言葉に、アルヴィスはちょっと考え込むような顔をする。
 それから、遠慮がちに口を開いた。


「・・・そうだよな、このまま乗ったら他の人が濡れるよな。・・・じゃ、・・・いいか?」


 願ってもない事態に、インガの頬も自然と弛む。

 アルヴィスにしてみれば、突然湧いた不運だし。
 インガにしても、自分が声を掛けたせいで逆にアルヴィスをそんな目に遭わせたと思えば、決して嬉しくないハプニングではあったのだけれど。

 それでも、―――――彼を自分の家に呼べるのは嬉しい。
 単純に、もう少し一緒に居られるのだという事だけでも嬉しかった。


「はい! あの・・ボクの服じゃ、サイズ合わないかもですけど・・・」

「そうか? ・・・悪いな。サイズは身長あんまり変わらないから、平気だと思うが・・・・」


 2人、インガの自宅へと向かって歩く。


「・・あの、すみませんでした・・・ボクが不注意に声掛けたから却ってアルヴィスさん、こんな事になってしまって・・・!」

「いや、インガのせいじゃない。俺が少し考え事してて避けられなかっただけだよ」

「でも、・・・」

「夏だしな。涼しくていいよ・・・もっとキレイな水なら良かったけどな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 本当に気にしていない、という素振りで笑うアルヴィスを横目で見ながら。

 インガは次第に高まる緊張を持て余して、意味もなく口数が増えていった。
 喋るのを黙っていると、アルヴィスを意識してしまって仕方ないのだ。









 着替える、だけなんだから。

 ちょっと、身体拭って、・・・それでもう着替えたら帰っちゃうんだから。

 ボクの部屋に入ると言っても、それだけの用事なんだから。

 ・・・・だけど他の誰も存在しない空間に、2人きり。

 もしかしたら、・・・そういう雰囲気にだって・・・・なるかも。

 いやいや、そんな訳無いから!

 ああでも・・・・!







 そんな事を内心グルグルと考えながらも、口はアルヴィスにとってどうでもいいような内容をどんどんと口走る。

 それがまた、アルヴィスには本当にどうでもいいだろうし、クダラナイ内容だと思われるに違いないと考えると余計に緊張が増してきて口が止まらない。

 焦って、インガはついに核心部分的な話題を口にしてしまった。


「・・・そ、そういえば・・・アルヴィスさんてウチに来るの初めてですよね・・?」






 駄目だろボク!!

 そんな事言ったら、アルヴィスさんだって変に意識しちゃうかも知れないじゃないか!!

 別にそんな、変な意味で申し出たんじゃないんだから(今のところは)!!






 言った瞬間、後悔したが、もう口を飛び出した言葉は取り返しが付かない。

 果たしてアルヴィスがどういう反応をするのか・・・・まさかやっぱり帰るなんて言われたら凄いショックなんだけど・・・・などと思いつつ、インガが様子を伺うと。

 アルヴィスは特に何も変わらない様子で、可愛くにっこり笑っただけだった。


「・・そうだな、インガの家寄らせて貰うのは初めてだよな」

「です、・・・よねっ!?」


 拍子抜けして、おかしな相づちを打ちながらインガは微妙な邪念を頭から振り払う。





 よ・・良かった・・!

 これで帰るとか言われたら、本当に凹むとこだった・・・・!

 色々作戦立てて、それで拒否られるんだったらまだしも。

 普通に状況的に、人道的に、好意でお誘いして、―――――――それを誤解なんてされていたら立ち直れないトコだった・・・・!


 あとはもう、余計な事は言わないようにして。

 アルヴィスさんを普通に案内しなくっちゃ・・・・!








「・・・あの、狭いところで・・少し散らかってるかも・・・」


 アルヴィスを招くと分かっていたら、朝、きちんと片づけてきたのに―――――─などと思いながら、インガはそう言いかけて。

 ―――――・・・・アレ? ホントに散らかってなかったっけ!?? と俄(にわか)に不安になってくる。


「・・・・・・・・・・・・・・」



 ベッド――――は、ちゃんと朝起きた時に直した。

 机の上は、・・・昨日宿題を終えた後に片づけたし。

 棚のモノは昨日使ってない筈だし、カーペットの上にも何も放りだしてるモノは無い筈だ。


 ・・・・けれど。


 今朝脱いだTシャツ、ちゃんと洗濯機に入れたんだったろうか?

 朝、登校時間前まで読んでた雑誌・・・・ベッドの上に置きっぱなしじゃなかっただろうか?


 いやそもそも、・・・・棚に、アルヴィスが見てマズイような本などを、入れてなかったか―――――─?








 アルヴィスさんが来ることになるならもっとちゃんと片付けておくんだったーーー!!






「・・・・・・っ、」


 今更ながらに青ざめて、心の中で頭を抱えた。

 そう、恋人なのだ。
 恋人だから2人きりになって、恋人同士だからこそ出来ることを満喫したい。

 そして、その状況をインガだって望んでいた筈だ。
 望んでいたんだから、そしてそうなるようにと、色々画策していたのだからして。


 ―――――─いつ、アルヴィスが自宅を訪れたって不思議では無かったのに!







 ボクのバカバカ!! 肝心の詰めが全然甘いじゃないかッッ!!






 しかし、アルヴィスはインガの心境など知らぬ気に、柔らかく笑う。


「・・・散らかってても平気だ。ウチもスゴイからな・・・ギンタが」

「・・・・・・・・・・」


 ギンタ。――――アルヴィスの兄弟の名前だ。

 彼と同い年の少年だが、双子という訳では無く血は繋がっていない。
 何でもアルヴィスが幼い時に預けられたのが、今のギンタの家だったとか・・・・。

 明るい色合いの金髪と、若葉みたいなグリーンの瞳の元気な少年だ。


「・・・・・・ギンタ先輩」


 ギンタとは、挨拶程度しか話したことは無いが色々知ってはいる。

 血が繋がらないとはいえ兄弟なのに、同じクラスで、成績は体育以外は壊滅的だとか。
 肉が大好きで、ピーマンを筆頭に野菜嫌いな事だとか。
 単純で少々頭の血の巡りは良く無いが、気は優しくて面倒見は良くて。
 未だにおとぎ話が大好きで、ファンタジー物のゲームには目がない・・・など、色々と。


「ああ、・・・良く散らかすんでしたっけね・・・」


 もちろん、ギンタが散らかし魔だって事も知っている。




 ――――――なぜならアルヴィスが、事あるごとに彼のことを話すから。

 家族思いのアルヴィスは、インガと話していても頻繁にギンタや彼の養い親であるダンナの事を話題にする。

 ダンナのことは、別にいい。
 幼い頃から彼がどんなに尊敬し、憧れ、大切に想っているのかを感じるから。
 本当の父親のように慕い、とても懐いているのが分かるから・・・それは別に全然構わない。

 物心つかない内に両親と死に別れ、引き取り手が無く親戚中をたらい回しにされたという彼がようやく見つけた『家族』なのだから。

 むしろ話を聞いていても、可愛らしくてつい和んでしまうほどだ。


 だが。


 ギンタの事となると、そうもいかない。

 同い年の、血の繋がらない兄弟であるギンタ。

 彼は話を聞くに――――・・・・いや、インガが挨拶などをしたときの表情や目つきを見れば明白なのだが、絶対にアルヴィスに好意を抱いている。

 それも、兄弟とかそういった家族に間に発生する感情ではなくて、・・・・恋愛感情として。


 これはもう確信できる。


 同じ、アルヴィスに恋している者として、感じ取る事が出来るのだ。

 更に、良く言えば裏表が無く感じたことを素直に態度に表すギンタは、とても感情が分かりやすい。
 ギンタのインガに対する態度は、きわめて明快だ。

 幼い子供のヤキモチそのままに、アルヴィスからインガを遠ざけようとしてくる。

 具体的な例を出せば、平日は部活がある為(アルヴィスとインガは弓道部・ギンタは帰宅部)にアルヴィスとインガは仲良く一緒に帰るのだが。
 付き合っているのだから当然、寄り道だって時たまするし門限ぎりぎりまで遊んだりすることもある。

 そしてそんな時必ず、邪魔をするというか雰囲気に水を差すようにギンタから『今どこ?』コールやらメールが入るのだ。

 インガの家とアルヴィスの家は、学校を挟んで真逆にある。
 アルヴィスは家から学校までは電車通学だから、普段帰るときは自転車通学であるインガがアルヴィスを学校の最寄り駅まで乗せて送っていき、見送るのが恒例だ。

 それなのに帰りが遅くなるとギンタは、わざわざ電車に乗って(定期だから運賃は無駄に掛からないのだろう)駅までアルヴィスを迎えに来る。

 一刻も早く、インガをアルヴィスから引き離したいのだろう魂胆が見え見えだ。

 週末だって、遊びに行こうとしたらかなりゴネているらしい。
 連れて行けだの、俺と遊べだの、その他いろんな手を使ってアルヴィスを困らせているらしいのだ。

 そういった恋愛感情面にすこぶる疎いアルヴィスは、幼い頃からの兄弟としてのじゃれ合いの延長上の事だと信じ込んでいるらしく、何も感じていないらしいが・・・・。

 アルヴィスの恋人という立場を手に入れたインガにとっても、ギンタは厄介な相手である。


 ―――――――血が繋がらないというのに、兄弟という名目でアルヴィスと同じ屋根の下で暮らしているだけに。




 アルヴィス自身がギンタを恋愛対象として見てはいないのだから、気にしなくていいと思いつつ・・・・彼の唇からその名前が出る度にインガは不愉快な気分になる。
 とても仲がいいのが伺えるから、余計に癪だ。


「だから大丈夫だぞ。・・ちょっとやそっとじゃ驚かないから!」


 まあインガは散らかすって言っても大したことなさそうだけどな・・・此方の気も知らず、アルヴィスは相変わらず可愛い無邪気な笑みを浮かべていた。


「っそんな! ・・・アルヴィスさんが来てくれるのに・・・・」


 話を聞いている限りでは、アルヴィスとギンタの共同部屋は結構な惨状らしい。

 アルヴィスがマメに整頓し、時折ギンタを叱りつけながら片付けて何とかゴミとがらくたの山になるのを免れているらしいのだ。

 そんなの(いやアルヴィスの部屋でもあるのだからして、あんまり貶したくはしたくないけれど) と同レベルと思われるのは、インガにしても心外である。


 基本キレイ好きで、そもそも余分な物が殆ど無いインガの自室は、元からそれなりに片付いているのだ。

 アルヴィスが来ると知っていたならば、それはもう塵1つないくらいに掃除しまくりたい心境で。
 その厳しい目で見たら『散らかっている』と、自ら辛口に評したくなってしまっただけの事だ。

 そんな複雑なインガの男心?は分からないのだろう、アルヴィスは笑顔のままで言葉を続ける。


「―――――最近なんかさ、変なゲームとか漫画とか・・・そんなのまで散らかしておくから、もう手を焼いてるんだ・・・」

「変なゲーム・・・・ですか?」


 普段あまり、そういった関連の物に興味が無くやらない傾向が強いインガには、それがどう変なのかは予測が付かない。

 オウム返しに問えば、アルヴィスは少しだけ照れたように頬を赤く染めた。


「・・・アレだよ、アダルト系・・? あんなのダンナさんに見られたら俺まで疑われる・・っ、・・!!」

「!? っ・・・そう・・・なん、ですか・・・・・」


 アルヴィスの言葉に、インガまで顔を赤らめてしまう。


 そんなのは知らない、とは言えない。

 見たことがないとも、―――――――言えない。

 ゲームは知らないがマンガや雑誌など、そういったアダルトなアイテムは健全な男子高校生として、それなりに興味はあってそれなりに、必要な『資料』だったりするのだから。

 興味はあっても、未経験な分野。
 しかも失敗は絶対にしたくないときたら、――――――それはもう他の勉強科目よろしく、予習あるのみ!!

 実施の前に、予備知識(学科)を取得するのは当然のことである。

 だがまさか、その実施対象な相手にそれをバラす訳にはいかない。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 赤い顔で押し黙ったインガの前で、やはり真っ赤になりながらアルヴィスがブツブツと不平を漏らす。


「ほんともう、・・・俺が居るときでも気にしないでやってるしさ・・・・目のやり場に困るんだよな・・・」

「えっ!??」


 思わず、大きな声が出た。


「・・・き、気にしないでって、・・・えぇ・・・・っ、・・・!!!?」


 そういったアダルトグッズ。

 普通セオリー通りに使うなら、―――――――人目を忍び右手と仲良し・・・な状態になるのでは無いだろうか。


 それを、ギンタはアルヴィスの目の前で?

 そしてアルヴィスも、照れて怒りながらも黙認・・・・・・??

 そんなのはもう、単なる兄弟じゃないだろう。

 爛(ただ)れている。腐れ切っている!!





 そんなんじゃ、いつ近親ピーッ・・・姦になるか分かんないじゃないかーーーーー!!!?








「・・・・・・・・・・・・・・」


 そんな衝撃的な事実発覚に、インガは一瞬頭が真っ白になる。

 言葉も出ない。

 インガの様子に、アルヴィスは自分の意見に賛同してくれたと判断したのか、不満そうに話を続けた。


「だよな? 嫌だよな。・・・・俺べつにそういうの見たくないのに。
 同じ部屋に居るからって構わずにその変なゲームずっとやったりしてるんだから・・・」







 ―――――・・・あ、なんだ。ゲームか・・・良かった〜〜〜〜。






「・・・そう、・・・ですね」


 笑みを浮かべて返事をしながら、インガはこっそりと安堵の溜息を吐く。

 危うく衝動的に、アルヴィスを掻っ攫って逃避行でもしてしまいたくなる所だった。

 インガの心に、余裕が戻ってくる。


「・・・だからな? ちょっとくらい散らかってるのは全然平気だぞ」


 笑ってそう言ってくれる、アルヴィスの気遣いも今度は素直に受け止める事が出来た。


「あ、はい・・っありがとうございます!」


 インガも笑って、アルヴィスに返事をする。

 考えてみると身内の恥?であるギンタの所業を打ち明けてくれたりするのは、アルヴィスにしてみれば結構恥ずかしいことだったに違いない。
 それでもギンタを引き合いにして、大丈夫だと気遣ってくれたのだ。

 そう思うと、ひどく嬉しい。


「じゃあ、早く行きましょう! そのままじゃアルヴィスさん風邪引いちゃますもんね」


 現金な物で、足取りまで軽くなった。

 インガはアルヴィスのと自分、2人分の鞄を籠に入れた自転車を押しながら、足を早める。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 家に連れて行って、タオルと着替えと―――――・・・着替えはサイズが合うだろうか。

 アルヴィスの方がインガより、身長がわずかに高いくらいで体型的には似たり寄ったりな感じだから、着られないことは無さそうだ。


「・・・・・・・・・・」


 よし、大丈夫!・・・などとこっそり、内心でシミュレーションをして。

 インガは笑顔で、ぐしょ濡れになったアルヴィスを自宅へと案内する。









 ――――――それがまさか、記念すべきアルヴィスとの初エッチのキッカケになるとはこの時はまだ予想だにしていなかったインガだった――――――――――。
















NEXT 2



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言い訳。
インアルverの初えっちネタです(笑)
これも、鈴野さんにインガのセリフ&行動を担当していただいて出来上がった話ですvv
これからどんどん、インアルネタでアップしていきたいと思ってます^^
初えっち、初々しいんですよ〜〜(萌)