『Anything is done for you』
告白編 ACT1
――――――良く、付き合ってくれって言われるんだよな・・・・。
「・・・・・えっ、」
一つ年上の、弓道部の先輩である少年にそう言われた時。
インガは咄嗟に返事をする事が出来なかった。
「だから、・・・付き合ってくれって。しゅっちゅう言われるんだよ」
インガの反応を、自分の言葉が聞き取れなかったと思ったのか、目の前の少年は同じ意味合いの内容を繰り返す。
「・・・・・・・・・・・」
だが、インガは別に聞き取れなかった訳じゃなく。
聞いてしまったからこその、固まった姿勢で相手―――――アルヴィスを見返した。
時は放課後、部活の帰り。
いつも通りに、徒歩のアルヴィスに合わせて自転車を押しながら歩く最寄り駅へと向かう道。
本当はインガの家と、アルヴィスの家へと向かうのに使う駅は逆方向で。
インガにとっては遠回りとなるのだが、少しでもアルヴィスと一緒にいる時間を延ばす為にはそれくらい何でもない。
普段と変わらぬ他愛のない会話をしつつ歩く下校時間は、インガにとって至福のひとときの筈だった。
それなのに。
何を思ったのか、並んで歩いていた一つ上の先輩はいきなり冒頭の言葉を発したのである。
それは、インガにとって正に青天の霹靂(へきれき)だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
固まったままのインガに気づかず。
目の前のアルヴィスはいつも通りのキレイな顔に、少しだけ笑みを浮かべた表情でこちらを見ている。
初めて彼を見た時から、少しも変わらないキレイさだ。
ギリシア神話か、何かで。
人間が恋に落ちる時は、恋愛を司る女神の息子キューピッドが『恋の矢』を胸に打ち込むせいだと言われていたらしいけれど。
自分の胸の、ど真ん中。
ズバッと射抜いてくれたのは・・・・・・・・白の着物に紺袴姿の。
――――――――和装が良く似合う、とびきりキレイな顔した先輩だった。
道場の中程にスッキリと立ち、背筋を伸ばした体勢で長弓を構えるその華奢な姿がとてもキレイで。
真っ直ぐ一点を見つめ―――――弓を構える白い横顔がまた、凛として美しかった。
思わず、馬鹿みたいにその場に立ち尽くし。
その姿をひたすら・・・眺めてしまったのをまだ覚えている。
長い睫毛、通った鼻筋、引き結ばれた形良い唇。
黒髪に白い肌が映える、人形のように整った顔立ちのその先輩に心を奪われるのは一瞬だった。
―――――─彼の、眼差しが。
一心に的を見つめる真剣な色が、・・・・・自分の心を射抜いたような気がして。
まるで、視線で的を射抜くかのような強い目だった。
熱くて真摯で、僅かな曇りも存在しないかのような・・・・澄んだ眼差し。
鮮やかな強い光りを宿す、青い瞳に。
的では無く、自分こそが射抜かれてしまいたい。
――――─・・・そんな衝動を覚えた瞬間。
きっともう、自分の胸に恋という名の矢が刺さっていたんだろうと、インガは思う。
その、自分の恋愛対象であるアルヴィスに。
そんな話題を提供されてしまったら、インガでなくとも一瞬ドキッとして固まってしまうのは仕方がない事だろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
別に内容が、予想外という訳ではない。
アルヴィスはキレイで何かと人目を引く存在だから、そういうことはさもありなん・・・と言ったところだ。
・・・多いんだよな、見た目だけでアルヴィスさん気に入っちゃうヤツ・・・・。
心の中で嘆息し、そういう輩をこっそりと軽蔑する。
インガには、見た目で判断し好きになるような連中が理解出来ない。
外見だけで相手を選んで、中身がスッカラカンだったらどうしようもないと思うからだ。
見た目に釣られてクダラナイ相手と付き合うなんて、人生を無駄にしていると思う。
いくら、キレイだからって。
その人間がどういう内面を持っているのか知らないうちに、好きになるのなんて馬鹿げている。
見目が美人なのに、魔女の如くに底意地の悪い姉・ドロシーのような人間だっているのだから。
「・・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスだけが、特別だった。
白くて人形みたいに、小さな顔。
睫毛の長い少し吊り上がり気味の大きな瞳は、鮮やかな深い青色で・・・吸い込まれそうなくらいに、美しく。
通った鼻筋や、形良い唇。
全体的な配置もパーツの形も完璧で、インガが見る限り一切の欠点が見当たらない気がするくらいキレイだと思った。
それもただ、キレイなだけじゃなくて。
気品というか、気高さというか、・・・・・知的な美しさが感じられる気がする。
そんな彼が、中身スッカラカンだなんて事は、有るはずがない。
あんなにも凛々しい表情を浮かべる彼が、箸にも棒にもかからないようなクダラナイ人間である筈も無い。
――――――――だから本当に、顔のキレイさに心惹かれたのでは無くて。
アルヴィスの内面の美しさが滲み出ている、その部分に惹かれたのだと思う。
(それこそ、所謂(いわゆる)『一目惚れ』の症状そのものだと言うことには、気づかないインガだった・・・・)
だからこそ。
アルヴィスが居る、弓道部に入り。
そこでアルヴィスの名前と、1学年年上であるという情報を手に入れ。
ついでに、彼がその秀麗な姿に相応しく、やっぱりインガが見込んだとおり品行方正、学術優秀、文武両道の優等生であるという事までも知り。
さらには、学区内でもキレイだと評判で、狙っている者は数知れずという有り難くないが、充分納得は出来る情報までもを耳にして。
自分の恋は果てしなく、難度が高くそして遠い道のりなのだと知った今でも――――――諦めることなど出来ずにアルヴィスを想っているのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
けれども、それだって。
当のアルヴィス本人が、とんと恋愛面に無頓着で興味がなさそうだからこそ・・・・忍ぶ恋だって出来ているというものだったのだが。
――――――良く、付き合ってくれって言われるんだよな・・・・。
これはもう、思いっきり恋愛関連の話題である。
単なる先輩と後輩という間柄、インガは今までアルヴィスとそんな内容の話題をしたことは無かった。
弓の構え方や狙い方などの練習面での会話か、甘いモノが好きらしいアルヴィスに合わせて、どこそこに何の菓子が売っているなどの食べ物の話、もしくは勉強などの話が関の山で。
そういった話は、ついぞ出たことが無かったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それは、つまり。
今までは聞き流してどうでもいいと考えていた、恋愛面で。
何か進展があったとか、もしかして付き合ったなんて、そんな報告をしてくるつもりなのかと悪い勘ぐりをしてしまう。
アルヴィスが好きだからこそ、考えてしまう不安事項だ。
だって、まだ。
ただでさえ年下だし、弓道だってまだ上達していないし。
ようやく後輩として、可愛がって貰えるまでの立場を獲得したばっかりで。
さすがに告白だとか、そこら辺にいけるまでの準備が整っていないのに。
これで告白されて付き合った、などと言われたら―――――・・・・ショック過ぎて自分でもどうなってしまうのか、インガ本人にだって分からない。
「放課後とか、・・・呼び出されてさ」
しかし、そんなインガの心境も知らず。
アルヴィスは屈託のない笑顔を浮かべながら、話を続ける。
「・・・・でも、なかなか言い出さないんだよな・・・・・」
放課後の呼び出し。
なかなか言い出さない・・・・つまりは、言いにくい話。
それはもう、告白としか考えられないだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不機嫌さを隠す為に自然と無表情になりつつ、インガは黙ってアルヴィスの話を聞いていた。
聞いていて不愉快になる話だが、とても気になる話でもある。
「それで、全然言わないからさ、帰ろうとしたら―――いきなり、ガッとスゴイ剣幕で肩掴まれちゃったりして」
「!?」
だが、さらっと言われた聞き捨てならない内容に、今度こそインガの顔が思い切り強張ってしまった。
ガッと肩を掴まれて!?
そのまま押し倒されたんだ、なんて言ったらどうしよう。
勢いで頷いてしまった、なんて言われたらどうしよう。
「・・・・・・・・・・・・」
悪い想像(妄想?)ばかりが、頭を巡る。
だって、彼を狙ってる人間は山ほど居て。
中にはそんな、突っ走ってしまうヤツだって居ないとは限らない。
「・・・・・・・そ、それで?」
激しく動揺し、ゴクリと唾を飲み込みながらインガが先を即すと。
アルヴィスはいつどんな時でもインガをときめかさずにはいられない、可愛い笑顔を浮かべて言った。
「好きなんだ、付き合ってくれ!!・・って」
「・・・・・・・っ、」
やっぱり告白ーーーー!!!
自分の予想が当たっていることを、インガは確信する。
だが、問題はその先だ。
「そ、それで何て返事を!!?」
「? それは・・・・勿論、」
意気込むインガに気圧されつつ、何故そんなにせっぱ詰まっているのか分からないのだろう。
アルヴィスが少し怪訝な表情になりつつ、答える。
「OKした・・・けど?」
「!!!????」
その言葉に、インガは今度こそ脳天を殴られたかのような衝撃を受けた。
告白して、さらっとOK。
それはつまり、・・・・・両思いですか。
僕、知らないウチに、すでに玉砕だったんですか神様?
「・・・・・・・・・・・・・・」
固まるインガを余所に、アルヴィスの暴言は続く。
「同級生だし、割と仲良くしてるし、いいぞって言った」
「・・・そう・・だったんですか・・」
意気消沈。
がっくりと俯く。
もういいですアルヴィスさん。
これ以上僕、傷口に塩塗りたくないです・・・。
・・・・つか、相手誰なんですか?
その羨ま・・・、いや先手必勝なズルイ人間は。
僕が告白するその前に、告白してOK貰ったその幸運なヤツは!?
「―――――――でも、変なんだよな」
「・・・?」
だが、続けられたアルヴィスの言葉に微かな怒りが篭もったのに気付き。
インガは顔を上げた。
「付き合ってくれ!って言ったくせに、『何処に?』って聞いたら泣いて走り去ったんだ」
「・・・・・・・・え・・・」
それって、・・・アルヴィスさん?
もしかしたらという、予想にインガはアルヴィスの言葉をじっと待つ。
いや、でも、まさか。
さすがに、こんな露骨に言われて・・・それはと思うのだけれど。
でも、アルヴィスだったらあり得る―――――という思いが捨てられなくて。
果たして、アルヴィスは憤慨したように言葉を続ける。
「・・・失礼だよな? 呼び出しておいて付き合えとか言って、それで置いていくなんてさ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「新手の嫌がらせかと思うだろ? でも、それ以外も結構似たような事あってさ・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
この、綺麗な綺麗な先輩が。
その繊細で美しい顔立ちと裏腹に。
すっごくすっごく、鈍いのは知っていたが。
本当に、予想に違わない勘違いをしているのだと知って、インガの身体から力が抜ける。
・・・・なんだ、ホントに意味分かってないんだ。・・・・・良かった。
「みんな、付き合えっていうクセに、連れてかないんだよな!」
拗ねたように唇を尖らせて言うアルヴィス。
いや実際機嫌を損ね拗ねてるのだろうが・・・・それがまた何とも可愛らしい様子で。
いやいやいやいや!! ・・・・問題はそこじゃ無い。
付き合ってって、何処かにじゃなくて―――――─貴方とソイツが、って事なんですけどね・・・・。
「なっ? ・・・失礼な話だろう?」
「・・・・えーと、そう・・ですね」
何と返事をしたものか、言葉に詰まりながらインガは歯切れ悪く答えた。
流石にアルヴィスを巡る恋のライバルとして、真実は教えたくない。
完全に誤解して、拗ねてるのも可愛いと思うし。
下手に事実を教えて『えっ、それならそれで俺、そういう意味でもOKしたのに・・・!』なんて展開は絶対に嫌だ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ただ、いつか自分が告白する時にも、そうボケられるのは哀しいので。
誤解を助長させるのは避けたいなー・・なんて思ったインガだったが。
「・・・・・・・・!」
そこまで考えて、インガはある事実に気がついた。
――――――待てよ? みんなってアルヴィスさん、どんだけ?
どんだけ沢山の人たちに、告られてるんですか・・・・?!
「・・・・・・!!」
その事実に気付き、インガの目が真剣味を帯びる。
「・・・インガ?」
インガの様子が違うのに気付いたのか、目の前のアルヴィスが歩を休める。
「どうした?」
此方を気遣い、小首を傾げながら此方を覗き込む顔がまた超絶に可愛らしい。
ああ・・・長い睫毛。
キレイな目だなー・・・唇がスゴイ近っ! ・・・もうちょっとで。
いやいやいやいや。だから、そうじゃなくて!
でも、―――――そうだよな。
こんなキレイで、可愛くて・・・・・・見てるだけでドキドキしてくる人なんだから。
いつ!
何時(なんどき)!
不届きなアルヴィスさん狙いの男共(←自分非対象)が、現れないとも!!!
そしていつアルヴィスさんが意味わかんないままOKして、それをタテに関係を迫る輩が現れないとも・・・・・!!
というか、・・・・やる。
―――――――僕だったらやってる!!(爆)
「・・・・・・・・・・・!!」
酷く緊張した面持ちで、インガはアルヴィスを見つめた。
「?」
「アルヴィスさん・・・・っ、」
そしてキョトンと此方を見つめるアルヴィスの肩をガッと掴む。
その体勢こそ、さっきアルヴィスが言ってインガが内心憤慨していたポーズそのままなのだが。
(やはり告白に意気込む者はこの体勢になってしまうらしい)
「僕と・・・・」
言え。
「僕と・・・・・っ」
「・・・・・・?」
言わないと、アルヴィスさんが誰かのモノになってしまう。
ああでも、そんなキレイな目でじっと見つめられると・・・・!!
アルヴィスの少し吊り上がり気味の大きな瞳に映る自分の姿に、再びゴクリと唾を飲み込んで。
インガは、一息に言い放った。
「好きです! 僕と・・・っ、付き合って下さいっっ!!」
「いいけど」
「・・・・・・・・・・・・・」
アッサリと返されるOKの言葉。
・・・・これって、これってやっぱり―――――さっきのアレ、・・・ですか?
「インガは、ちゃんと言ってくれるよな」
そう言いながらニッコリ笑うその顔がまた、最高にキレイだ。
けれど、そのキレイな顔のこれまたキレイな唇が、予想通りの言葉を吐く。
「何処にだ?」
や っ ぱ り ね !!
「アルヴィスさん・・・そうじゃなくてですね・・・」
先に聞いておいて良かった――――危うく僕、ハートブレイクでしたよ・・・。
気を落ち着けて、インガは言葉を続けた。
「貴方が、好きなんです」
「?」
また小首を傾げるアルヴィス。
大方、自分の好物か何かの事を思い浮かべているに違いない。
そこら辺はインガだって、習得済みだ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
このすごく鈍くて(←とはいえ先輩)。
とてつもなく鈍感で(←でもキレイ!)。
ヤバイくらいに伝わらない(←だけど可愛い!!)。
このキレイで可愛らしい先輩に、自分の気持ちを分かって貰うにはどうしたらいいのだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
目の前には、キスを誘うかのような、形の良い唇。
ほんのり赤く色づいて、柔らかそうで、うっすら開いたあどけない感じが何とも言えない可愛らしさだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
インガの喉が、鳴る。
したら、・・・分かるよな。
絶対、・・・誤解しないよな・・・?
だけど、―――ホントの意味で玉砕、かも・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何度目かの喉が鳴った。
「インガ?」
押し黙ってしまったインガに、不思議そうな顔でアルヴィスが声をかけてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・」
今ならまだ、間に合うのだ。
誤解したままだし、告白を無いことに出来る。
今まで通りの、先輩と後輩の関係に。
気まずくだって、ならなくて済む。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
けれど、・・・・いつか誰かが浚ってしまう。
誰かの差し伸べた手を取り、アルヴィスはインガの手が届かない場所へと行ってしまう。
先輩と後輩のままでは、彼の手を掴むことは出来ない。
それくらいなら、―――――───。
「アルヴィスさん・・・・」
インガの、アルヴィスの肩を掴む手に力が篭もった。
「・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスの、出逢った時から惹かれていた大きな瞳が間近。
どんどん、どんどん、彼のキレイで白い顔がアップになって。
長い睫毛。
通った鼻筋。
それらがどんどんボヤけて―――――─。
「・・・・・・・・、」
柔らかで温かい感触を、唇に感じる。
華奢な肩を抱き寄せて。
インガはそのまま、更に距離を近づける。
「・・・・ん、っ」
合わせた唇と唇の間から、漏れ出る甘い吐息に酷く気分が高揚した。
・・・キス、してる――――。
その事実が今更のように襲いかかってきて、心臓が破れそうなくらいドキドキした。
いつの間にか、アルヴィスの背に腕を回すように抱き締めて。
ぎゅっと目を閉じ。
何度も、押しつけるだけの拙い口付けを繰り返していた。
「・・・・・・・・・・・・・」
やがて、唇を離すと。
長い睫毛がゆっくり伏せられ、また上がり・・・少しトロリとした青い瞳と目が合った。
「・・・・・・・・・・・・・」
そろそろと、何か壊れ物に触れるかのようにアルヴィスの手が上がって、自身の唇に触れ。
白い頬を真っ赤に染め、無言のままにインガを見つめる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
暫しの間、お互いに無言だった。
謝るべきか。
それとも・・・・・言い訳?
一瞬戸惑い、インガは口を開いた。
「―――――好きです」
漏れ出た言葉は、そのどちらでもなく・・・・二度目の告白だった。
「こういう意味で、僕はアルヴィスさんの事が好きです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もう絶対に、誤解はされないだろう。
アルヴィスの返事は、インガの告白に対する返答だ。
インガが見つめる前で、アルヴィスは真っ赤な顔を俯かせた。
「―――――──、」
駄目なのか・・・・。
インガの胸に、覚悟していたとはいえ、痛みが走る。
「・・・・・・・・・・・」
けれど、目の前のキレイな人はとてもとても小さな声で、何かを言った。
「・・・・はい?」
聞き取れなくて、耳をそばだてながら聞き返せば。
アルヴィスは真っ赤な頬のまま、キッと睨むように顔を上げた。
「・・・だからっ、・・・・・」
機嫌を損ねた時のような、拗ねた顔。
いつもと違うのは、茹で蛸みたいに白い顔が赤くなっている事だ。
その顔の中で、さっきくっついた可愛い唇が物言いたげに何度かパクパク開く。
何てことをしてくれたんだと、怒りたいのかもしれない。
そうだよな。
もし、初めてだったら・・・初めてじゃなかったらそれはそれで僕は嫌なんだけど・・・・いきなりキスなんてされたら、嫌だよな・・・。
でもかといって、キスしていいですかって聞くのは、付き合ってないんだし不自然だし。
そもそも、キスした理由が・・・・・。
――――――ああでも、もっと別の方法にすべきだったのかも・・・・!
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
謝った方がいいかも知れない――――――そう考え、インガが口を開こうとした、その時。
「・・・・お前だったら、イイって、・・・言ってる!」
顔を真っ赤にしたアルヴィスが、ようやく言いたかったらしい言葉を口にした。
「え?・・・―――――あ」
咄嗟の事で、意味を理解するより先に間抜けな声を出してしまう。
「・・ア・・・アルヴィスさん・・・・!?」
それって、それって・・・・もしかして?
期待しちゃってもイイって事なんでしょうか・・・・・・・・??
そう聞き返そうとした時には、アルヴィスは脱兎の如く駆け出していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
早いはやい。
ぐんぐん、アルヴィスの姿が小さくなる。
弓道の腕前も凄いアルヴィスだが、足も速い。
インガだって遅い方では無いが、とてもじゃないけれど追いつけない。
ましてこう、呆然として見送った後では絶対に不可能だ。
――――――――今のアルヴィスは、羞恥も手伝い速度が倍増していそうだし。
「・・・・」
呆気に取られつつ、インガは表情を綻ばせた。
イイって事は。
「―――――OKってこと、だよな・・・・・?」
口に出して言うと、ジンとしたものが胸に広がる。
今日、イキナリに告白する気なんて、サラサラ無かったのだけれど。
告白するときは、学校での成績は勿論のこと、弓道の腕前だって完璧で。
アルヴィスの好みだって、完全に把握して。
しかもシチュエーションから何から、納得のいくまで全てをチェックし完璧に―――――――などと、思っていたのだけれど。
考えてみれば、行き当たりばったりで何て落ち着きのない告白だったのだと嘆きたくもなるのだけれど。
言って良かった・・・・・!!
案ずるより産むが易し――――――である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
これからは、アルヴィスさんと恋人同士。
それの響きの良さに、インガは周囲から王子様と称されるその端正な顔を、赤く染め。
それはそれは嬉しそうな笑みを浮かべたのだった―――――。
NEXT 2
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言い訳。
―――――はい、パラレルインアルです(笑)
『君ため』設定から派生した、アルヴィスが大学でファントムに再会しないバージョン。
まだアルヴィス高2、インガが高1で、高校生時代に二人が付き合っちゃったとしたら・・・・って仮定の下で生まれた話です(笑)
『らくがき館』の鈴野さんと、色々インアルな妄想話してるんですけどその殆どがこのネタから生まれてるので、妄想話をご披露するにも基本な話をアップしてないと読まれる皆さんが分からないよな、と思い・・・・今回書いた次第です。
とはいえ、今回の話は鈴野さんのサイトのインアルゲーム(告白編)で書かせていただいた文章の加筆修正版なんですが(笑)
コレが、インアルネタの基本話です。
ここから、初エッチ編や番外編の記憶喪失ネタやら、痛々しい輪姦ネタ、その他諸々が生まれたんですけど・・・それもやっぱり全部、基本のパラレル設定書いておかないと意味不明ですよね。
なので、今回アップしました。
これから、どんどんこうやってインアルネタ書けていけたらなと思ってます・・・!^^
シリーズタイトルは、『Anything is done for you.』。・・・曰く、貴方のためなら何でもしちゃいます!(笑)
インガ、アルヴィスの為になら、尽くしちゃいますからね・・・!!(爆笑)
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