ACT2





 強引にファントムに手を取られ、アルヴィスがディメンションARM・アンダータで連れてこられたのは海沿いの町だった。
 二人は、その町を一望出来る高台の―――――─大きな城の屋根に移動してきたのだ。

「・・・・・・・・・っ、」

「来たことある? パラディって町だよ」

 ファントムが軽い口調で説明するが、アルヴィスはそれどころでは無い。
 突如、いきなりこんな高い場所の屋根の上になど移動させられたのだ―――――町を見回す余裕など全然無い。
 丸い屋根の上。滑りやすい靴を履かされ更に動きが制限されるドレスを着ているアルヴィスは、バランスを崩しそうになって咄嗟にファントムにしがみついた。

「―――――っ!」

 そんなアルヴィスに、ファントムは何が嬉しいのかクスクスと機嫌良く笑う。

「大丈夫。怖くないよ。・・・・やっぱり可愛いね・・・ずっとその格好のままでいようか」

 風にサラサラとした銀色の髪を靡かせ、紫の瞳を細めて笑うその姿は、まるで天使みたいに邪気が無く優しげだ。
 けれどその美しい悪魔は、平然と穏やかな笑みを浮かべて残虐の限りをし尽くす。

「・・・・・・・・・・!!」

 言われた内容に自分の行動を笑われたのだと悟ったアルヴィスは、カッとなってしがみついた手を離そうとする。




 もう落ちたって構わない―――――屋根に貼り付こうが、地べたに落下しようが、絶対にこの男にだけは掴まるものか・・・・・!!!




 しかし手を離した瞬間、ファントムが素早くアルヴィスの細い腰を掴んで落下を阻止した。

「危ないよ」

「・・・・・・・」

 アルヴィスの行動を読んでいたかのように全く驚く様子も無く、ファントムは笑みを崩さないままゆっくり言った。

「アルヴィス君は今、ARM持ってないし・・・持ってたとしても使えないんだし。いくら身体能力がイイといってもこの高さからは危ないよ―――――─それに今はお姫様なんだから」

 大人しくしていてね? と、揶揄するように付け加えられる。

「・・・・・・、」

 ふざけるな、と言いかけて、アルヴィスは口を噤んだ。
 ファントムは、いつだって不真面目だ。自分の楽しみの為だけに世界をひっくり返し、人々を恐怖のどん底に陥れている悪魔。
 今更この程度・・・・目くじらを立てる程の事でも無い―――――そう自分に言い聞かせる。
 そして、考えた。

「・・・・・・・・」



 イイモノとは、この高台というかこの城の屋根から見える、景色の事だったのだろうか。
 それとも、こんな所にアンダータで移動して、慌てる自分を見て楽しみたかったのだろうか。

 もしくは、その両方・・・・?



「―――――─、」

 けれど、どのみち気まぐれな悪魔の思考など、分かる訳も無いのだとアルヴィスは結論づけて、唇を噛む。




 いっそ、本当に人形になれればいいのに。
 そうすれば、この心の痛みも苦しみも―――――──感じなくて済むのだろうに。




 アルヴィスが目を伏せ、顔を僅かに俯かせた瞬間。

「下、降りるよ」

 背を通して肩に包帯を巻いた手が回され、裾の長いドレスごと膝裏をもう片方の腕に持ち上げられる。

「!??」

 抱き上げられた―――――と思った時には、既にファントムはフワリと屋根から飛び降りていた。
 青い空に、アルヴィスの長い黒髪と白いドレスが宙に舞う。
 ファントムの前髪が上に靡いて珍しく白く形良い額が露わになり、いつもは隠されている右目が見えた。
 かなりの高さから飛び降りている筈なのに、落下している感覚など全然無い。

「・・・・・・・・・・」

 ただ、時間が止まったかのような静かな空間。
 耳は確かに、ゴウゴウという風の音を聞いているのに。
 穏やかで――――時が置き去りにされたかのような、止まった時間だった。

「・・・・・・・・、」

 ファントムがアルヴィスの方に完璧な左右対称を描く端正な顔を向け、触れるだけのキスをしてきた。




―――――─錯覚出来たらいいのに。彼が、決して悪魔などではないのだと。




 その感触にアルヴィスが目を閉じた瞬間。
 ふわっと、まったく重みを感じさせずに、ファントムが地に降り立つ。

「・・・・・・・・・・・」

「この城の地下に、面白い『モノ』があるんだよ。きっと、気に入ると思うんだ」

「・・・・・・・・・・・」

 声も無いアルヴィスに、掠めるようにもう一度口づけて。ファントムは機嫌良くそう言った。










 ファントムはアルヴィスを抱えたまま、どんどんと城内を歩いていく。
 アルヴィスは自分で歩けると抗ったが、その靴ではいつ転ぶか分からないから―――――と、ファントムは取り合わない。
 実際、前科があるためアルヴィスも言い返せず、そのまま抱えられて歩く事となってしまった。
 ファントムは石造りの長い階段を下り、暗い地下へと降り立つ。

「―――――─・・・・、」

 冷たく、饐えた匂いが鼻を突いた。
 崩れかけた石壁、所々に打ち付けられた錆の浮いた鎖や枷・・・・左右にズラリと並んだ太い格子の填った部屋―――――─ひと目で地下牢なのだと察する。
 シーンと静まりかえった地下で、ファントムの靴音だけがカツリ、カツリと辺りに響いた。

「・・・・・・・・?」

 左右の牢には誰も居なかった・・・・・・生きた存在は。
 皆、牢の壁に打ち付けられた鎖に絡まれ、磔状態になったまま・・・・・ほぼ白骨化している。
 身につけていた衣服だけが、かろうじて生前の身分を判別出来る状態だ。



―――――──まさか、これを見せたかった訳では無いだろう。



 そう考えて、アルヴィスは間近にある、男の秀麗な横顔を見つめた。
 もしかして、自分を此処に閉じ込めでもするつもりなのだろうか。
 それならあり得るのかも知れないが・・・・けれど別に、わざわざレスターヴァから此処に来る必要は無いだろう。あの城にだって勿論、地下牢はあるのだから。
 チェスの勝利によって、数多くの罪もない人達・・・・主にクロスガードに所属していた兵士達・・・が捕らえられ、拷問に掛けられ殺された事をアルヴィスは知っている。
 だから、今あえてファントムが彼らのなれの果てを見せるつもりで、此処へ連れてきた筈は無いのだ。




 だとしたら、何故・・・・・? もしや・・・・・・。




 嫌な予感がした。

 黙って自分を抱えたまま歩を進めるファントムに痺れを切らし、アルヴィスが目的を問おうと口を開き掛けたその時。
 行き止まりの牢の、数メートル前でファントムは足を止めた。
 そして、そっとアルヴィスを降ろす。

「―――――─この先に、面白いモノがあるよ・・・行ってごらん?」

 耳元で囁かれながら指し示されたその先は、やっぱり鉄格子が填められた堅固な牢だった。

「・・・・・・・・・・、」

 ドクン。アルヴィスの心臓が跳ねる。
 嫌な予感が頭から拭えない。
 あの悪魔が楽しそうな理由は何だろう。

 決して、自分が喜べるような内容では無い筈なのだ―――――─だとしたら、イイモノとは一体・・・・・・・・。

 縺れそうになる足を叱咤して、歩きにくいドレスでヨロヨロと前に進む。
 何度も裾を踏みそうになり、躓きそうになりながら・・・・・歩を進める。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 牢の中は暗すぎて、内部が良く見えない。
 けれど懸命に目を凝らせば―――――─くすんだ金色・・・いや薄茶の長い髪が目に入った。

 覚えのある、色。

「―――――っ、・・・・・!?」

 牢の中の人物が誰なのかを、瞬間に悟りアルヴィスは目を大きく見開いた。

「ナナ、シ・・・・・・ッ!!」

 自分の姿も忘れ、アルヴィスは鉄格子に飛びつき、彼の名を呼んだ。
 踵の高い靴のせいで、強かに膝を打ったが構わずその場に座り込む。

「・・・・・・・・、」

 両手を後ろで拘束され、転がった状態でいた男がピクリと反応し、不自由な体勢のまま振り返った。
 その彫りの深い整った顔立ちは汚れ幾分やつれてはいたが、深い青灰色の切れ長な瞳は健在で、依然と変わらぬ光りを湛えアルヴィスを見る。

「―――――─アルちゃん・・・? その格好・・・」

 ナナシは一瞬、怪訝そうな顔をした後にアルヴィスだと分かったのだろう、昔と同じ呼び方をして此方を見つめてきた。

「・・・・・・・・・・・ナナシ・・・・」




―――――─心臓が引き絞られるみたいに、痛い。




 格子を握りしめ、アルヴィスはただ、彼の名を呼ぶ事しか出来なかった。
 彼の身に付けた衣服は所々血にまみれ、肌の露出した部分も夥しい傷が出来ていて痛々しい。端正な顔にも、幾つもの傷があり唇の端だって切れて血が滲んでいる。
 見たところ命には別状は無いようだったが、深い傷が何カ所も見受けられた。




―――――──彼はウォーゲームで勝ったのに・・・・・・。




「・・・・・・・・・・・・・、」

 口惜しさにギリ、と歯噛みする。
 ナナシは、ウォーゲーム最終戦で勝利を収めた―――――─のに、今、こんな所に幽閉されて過酷な運命に身を晒している。
 何故?
 キャプテンである『彼』が、負けたから。
 否―――――、自分が『彼』を助ける為に、試合中に飛び出したから。

「・・・・すまない・・・・・・」

 アルヴィスがやっと、絞り出せた言葉は、それだけだった。
 それしか、言えない。




 そんな目に遭わせて、ごめん。

 勝手に試合終わらせて、ごめん。

 ウォーゲームの勝敗を、勝手に決めて―――――ごめんなさい。



 助けられなくて・・・・・ごめんなさい。



 何を言おうと、どんな風に言い繕おうと・・・・自分の罪は消えないだろう。





「アルちゃん・・・」

 ナナシは、鉄格子に縋り付き弱々しい声で言うアルヴィスをじっと見つめていたが。
 やがて、不自由な体勢で格子の傍までにじり寄り―――――アルヴィスに顔を近づける。
 そして、口を開いた。

「―――――ええよ。それでギンタ、助かったんやし」

 穏やかな、アルヴィスを責めるような響きはひとつも感じさせない声。

「それより自分、アルちゃんの元気な姿見れて嬉しいわ」

 目の保養になる綺麗な姿、わざわざしてきてくれたん? などと、昔を彷彿とさせる軽口まで叩いて。

「・・・ナナシ・・・・」

「自分こそ・・・、アルちゃん守れんで堪忍な?」

 とても悲しそうな、切ない笑顔だった。
 見つめる、アルヴィスの胸が詰まり涙が零れそうになるくらい。

「泣かんで、アルちゃん。自分、手が不自由やねん・・・涙、拭いてやれんから」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「せっかく、何処ぞの姫さんみたいに綺麗やのに・・・化粧落ちてまうよ?」

 軽い物言いも、ニカッと笑う表情も・・・・昔のまま。

「―――――・・・・・、」



 その、骨張った肩を、痩せた背を、抱きしめたかった。

 逞しい首もとに顔を埋め、背に流れる色素の薄い髪の感触を確かめたい。

 やつれた傷だらけの頬を両手で掴んで、その乾ききった唇を―――――───そう思うけれど、二人の間隔てる冷たい鉄格子が、それを阻む。



「ナナシ・・・」

 アルヴィスは思わず、格子の隙間から手を伸ばし―――――すぐ傍にいる彼の頬に触れようとした。
 しかし、その瞬間アルヴィスの腰に腕が回り、グイッと強い力で鉄格子から引き離される。

「!?」

「アルちゃん!」

 アルヴィスの伸ばされた腕は、空を切った。

「―――――─駄目だよ。お姫様は、王子様のモノでしょ?」

 冷えた口調。

「・・・・・・・・・・・・・・」

 いつの間にか、すぐ傍までファントムが来ていた。
 思いがけず出逢えたナナシの事で頭がいっぱいになって―――――失念していた。

「ファン・・・トム・・・」

 振り仰いで見た彼は軽口を叩いたくせに、珍しく笑みを浮かべてはいなかった。
 全くの無表情。
 なまじ整い過ぎている彼の容貌は、表情を失うと酷く冷酷に見える。
 綺麗なカーブを描くアーモンド型の瞳も、高い鼻梁も、形の良い薄い唇も・・・そしてシャープな輪郭も―――――─総じて冷たい印象を抱かせる。
 白い肌に銀色の髪。感情を伺わせない紫水晶のような瞳で此方を見下ろすファントムは、アルヴィスがついぞ目にしたことが無い程の冷気を纏っていた。
 今この瞬間、地下牢の空気が数度下がったように思えるのは、決して気のせいでは無いだろう。

「ねえ・・・・」

 不意にファントムがアルヴィスから目を離し、真っ直ぐ前を見て―――――──静かに口を開いた。
 とてもとても、冷たい声だ。かなり機嫌を損ねているらしい。
 アルヴィスは慌てた。
 理由は分からないが、その怒りの矛先がナナシに向くのは避けたい。




 せっかく、逢えたのに。

 居所を、掴む事が出来たのに―――――─ここで失われてしまうなんて嫌だ。




「ファ・・・、」

 しかし、アルヴィスの声は遮られた。

「・・・なんで、こんなに『コイツ』の扱いヌルイ訳?」

 アルヴィスを抱く腕は離さないまま、ファントムが無表情を崩さずに言葉を続ける。

「僕、言ったよね? ギンタ以外は必要無いんだけど、ゾディアックの君たちが欲しいならって事で殺すのはヤメた―――――・・・でも、苦しみは与えるように、って」

 ね、ガリアン。そう名を呼んで、チラリと後ろを振り返った。
 アルヴィスも反射的に後ろを見る。

「・・・・・・・・・・・・・」


 其処には、いつの間にか見覚えのある長い黒髪の男がいた。

 ガリアン・・・・ゾディアックの1人で、盗賊ギルド・ルベリアの元ボス―――――ナナシの命の恩人であり、戦った相手でもある男。
 以前のナナシのように額にバンダナを巻いた姿のため、目元が影になって表情は伺えない。

「・・・しかしファントム。ナナシは実力もあるし、我らチェスの事を理解さえすれば―――――」

 必死の様子で言い募る。
 ガリアンは恐らく、ナナシの事をそれなりに気に入っていたのだろう。
 だから戦いたいと思ったのだろうし、仲間に引き入れたかったのかも知れない。

「・・・・・・・・・」

 アルヴィスはこっそり、安堵の息を吐く。
 この地を統治するのがガリアンで、ナナシがここに居る限りは・・・・少なくとも、命の保証はされるような気がした。
 彼がアカルパポート・・・・ハロウィンが支配する土地に捕らえられていなくて良かったと心底思う。
 昔の馴染みならば――――しかもそれなりにナナシの実力を認め気に入っているのなら、これ以上酷い事にはならないだろうから。

 自由は無いだろうけれど・・・・望みは、潰えた訳じゃない。


「―――――愚考だね、必要ないよ」

 しかしファントムの冷たい声が、アルヴィスの胸を凍らせた。

「僕は、アルヴィス以外のMARのメンバーは、地獄に落とすと決めている」

「ファントム・・・・、」

 ガリアンが尚も何かを言い募ろうとしたが、ファントムに見据えられ押し黙る。ファントムが醸し出す黒いオーラに怯んだのだろう。

「少し、罰が軽すぎる―――――これくらいは、欲しいな」

 ファントムがナナシの方へと向き直り、パチンと指を鳴らす。

「ぐ・・・・・っ!?」

 途端にナナシが苦悶の声を上げた。

「ナナシッ!!?」

 ナナシの首と戒められた腕や上半身から、真っ赤な鮮血が溢れるように滴っている。
 見れば、今までナナシを縛り上げていたロープが細い金属製の無数に棘がビッシリついた鎖に変わっていた。
 それが幾重にもナナシに巻かれ、きつく肌に食い込んでいるのだ。

「うぐ・・・・・っ、」

 ナナシは、喉を締め上げる痛みで声も出せないのか身体を小刻みに震わせて、石畳の床に倒れ込む。
 アルヴィスは思わず傍に駆け寄ろうとするが、ファントムの腕が未だ腰に巻かれたままの為、動けない。

「ナナシ・・・・ッ!」

 代わりにガリアンが慌てた様子で鉄格子に駆け寄った。

「―――――──少しでも動けば棘が皮膚に食い込み血が流れ、やがて肉が削げて骨が見えるようになる・・・・・死なせたくないなら、ホーリーARMを上手く使ってやる事だね」

 それを冷たい目で見下ろしたファントムは、ようやくその顔に笑みを浮かべる。

「・・・・でも、骨見えるまで使っちゃ駄目だよ? 使ったら――――、許さないから」

「―――――─、」

 彼の顔を見上げたアルヴィスさえもゾッとして息を止めてしまった程、氷そのもののような氷点下の微笑みだった。

「・・・・・・・・・・・・・」


 ファントムから視線を逸らし。

 アルヴィスは、目の前の光景をじっと見つめた。
 黒髪の男が牢を開け、苦しむ彼を抱き寄せている。
 ナナシは、身を震わせながら苦悶の表情を浮かべていた。
 灰色の無機質な色合いの床に、幾つもの赤い花が咲き―――――それはポタポタと新たにどんどん花を増やしていく。
 綺麗な、色素の薄い茶色の髪も、毛先が少しずつ赤く染まっていく。


 少し傷んだ、硬くて―――――でも干し草みたいな温かくて安心するような匂いがする、彼の髪。触るのがとても・・・・・好きだった。


「・・・・・・・・・・・・、」

 アルヴィスの目から、また涙が零れる。

 声が出ない―――――先程とは、全く別の意味で。

 何も出来ず、ただ見ているだけの自分の不甲斐なさに、涙が堪えられない。


「・・・・・・・・・・・!?」


 その時、確かにナナシの青灰色の瞳がアルヴィスを見た。

 そして、声にならない声で、唇が何かを紡ぎ出す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・、」


「      」


 6文字の言葉を。

 そして、苦しげにひん曲がった唇の端を、無理に吊り上げる―――――笑ったのだ。





 泣 か ん と い て 。



 大丈夫やから―――――泣かんといて?






 アルヴィスは必死に頷き、懸命に唇を噛み締めて涙を堪える。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そのアルヴィスを、ファントムはまた笑みの消えた顔で見つめていたが―――――やがて諦めたようにひとつ溜息を吐き、指に填めたリングに目線を落とした。

「帰るよ」

 短く言って、アンダータを発動させる。
 まるでアルヴィスの目に、一時でもナナシの姿を映しておきたくないかのような、性急な行動だった。




 ナナシ・・・・・・・!!




 アルヴィスの頬から、ぽろりと涙が一粒こぼれ落ちた瞬間、彼はもうレスターヴァの自分の居室へと戻されていた―――――───。







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