『背徳のajmbrosiva(アムブロシア)』 ACT3 「たまには、こういう趣向も楽しいよね・・・?」 そう言ってファントムは、大きい方の小瓶の蓋を開け、高い位置からゆっくりと瓶を傾けた。 粘りを帯びた液体が、黄金色の細い紐のように瓶の口から零れ落ち・・・ファントムの手の平へと受け止められる。 蜂蜜にも似た琥珀色のそれを、手の平の窪みに溜め。 銀髪の青年は意味深に、アルヴィスを見据えた。 「・・・・・・・・・・」 アーモンド型の瞳を細め此方を見つめるその様子は、まさしく捕らえた獲物を食す寸前の・・・舌舐めずりする肉食獣のそれと酷似している。 今にも、その優美に弧を描いた形良い唇の下から、鋭く尖った牙と真っ赤な舌が垣間見えそうな邪悪さだ。 「・・・・・・・・・・・・・・・、」 しかし、アルヴィスはそう思っていながらも動けない。 為す術もないまま、ただファントムの前に無防備な姿を晒していた。 残った液体を全て、その手の上に垂らしてしまったファントム。 それをまた、アルヴィスに使おうとしていることは明白だ。 先ほど、同じ物を少量飲まされただけであんなに乱れたのだ――――――・・・今度また含ませられれば、どうなってしまうか分からない。 しかも未だ、含まされた薬の効果は残ったままで・・・・アルヴィスの身体を内側から焦がすような熱が、燻り蟠った(くすぶりわだかまった)状態にある。 皮膚が極度に敏感になっており、少し身じろぎしただけで背筋を這い上がってくる官能の波を、懸命に押さえ付けている状況なのに。 ―――――――それでも、アルヴィスに逃げる道は残されていないのだ。 仲間の命を握られ、民衆の生命を盾とされ、そして自分自身の魔力を全て奪われている状態では・・・・何ひとつ、抵抗など許されない。 ファントムの機嫌を損ねるような態度を、してはならないのだ。 どんな行為であろうともファントムが望むなら、アルヴィスは甘んじて受けねばならない。 ――――――それが、・・・自分に課せられた『罰』なのだから・・・。 「この薬はね・・・・」 身を固くしてただ自分を見上げているアルヴィスに、含みのある笑みを浮かべながら。 ファントムは手の平を傾け、溜まっている液体を見せる。 「服用しても気持ちよくなれるけれど、・・・・・粘膜から吸収させればもっと良く効くんだ。塗り込んだ部分が燃え上がるみたいに灼熱を帯びて、・・・・ソコを刺激して貰いたくて堪らなくなるらしい。・・・・・・・ふふっ、・・・・手足を縛ってコレを塗り込んで放置してやるとね・・・発狂した挙げ句に、死んじゃったりするんだよ!」 「・・・・・・・・・」 「芋虫みたいな姿でそこら辺のたうち回って、汚い涎(よだれ)垂れ流しながら訳わかんない事口走ってね。見苦しさと言ったらこの上無いんだけど、・・・・・まあそれくらい効くんだよ。何でもイイから突っ込んでくれって、自分から串刺しを願うくらいにね? アハハ、・・・望み通りに肛門から口まで杭を突き刺してやったらさ・・・・・ピクピク死にかけながらも悦んでるんだ! すごい効き目だよねぇ?」 「・・・・・・・・・っ、」 いっそ無邪気な程の口調でサラッと恐ろしいことを言われ、アルヴィスは顔を強張らせた。 服用してしまった時の効果は、自分が既に体験済みだ。 ファントムは、嘘を言っていない。 ならば――――――・・・今、言われた内容は全て本当の事なのだろう。 ファントムは以前、誰かにこの薬を試し・・・・今話した通り、残酷で人間としての尊厳全てを剥奪してしまうような仕打ちをその者に科したのだ。 「・・・・ああ、大丈夫だよ? アルヴィス君」 顔を引き攣らせたアルヴィスを宥めるように、薬が付着していない方の手でファントムが優しく頬を撫でてきた。 「そんな可哀想なこと、僕のアルヴィス君にする筈ないでしょ・・・。僕は、アルヴィス君を可愛がってあげたいだけなんだから! 可愛いアルヴィス君の、もっとも可愛い姿を引き出したいだけなんだからね・・・?」 語る声は、柔らかく。 口調はとても、甘やかで。 仕草も表情も・・・・・、酷く優しい。 ――――――見た目だけなら、天上に住まう尊い存在の如くに神々しい姿の、・・・悪魔。 けれどこの悪魔が他の誰より冷酷で非道であり、・・・他者の悲しみや苦しみの涙を、至高の美酒として飲み干す事に喜びを見出しているのをアルヴィスは知っている。 「・・・・・・・・・・・・・」 美しい悪魔の手を濡らす、琥珀色の液体を視界の隅に捉えながら。 どうすることも出来ずに、アルヴィスはきつく唇を噛んだ。 「―――――素敵だよ。とてもキレイだ・・・・そのまま足を広げて、僕に良く見せて・・・・?」 僅かに欲情の色を滲ませた嬉しそうな声の命令に、アルヴィスは顔を俯かせたまま言うなりに足を開く。 「・・・・・っ、・・」 恥ずかしさに、身体が震えた。 けれど、アルヴィスに拒否権は無い。 「ほら、・・・もっと広げてよ。じゃないと、・・・見えないでしょう・・・?」 「・・・・・・・・・・、」 噛み切ってしまいそうな程に、唇をキツク噛みしめながら。 アルヴィスは自分を支配する男の言うとおりに、更に両足を広げた。 「うん、・・・良く見える。とても淫らで、・・・素敵な眺めだ・・・」 「・・・・っ・・う・・・、・・・・」 何処かウットリとした響きで満足そうに呟く、ファントムの視線に耐え切れず。 アルヴィスは俯くだけでは無く、目の前の男から顔を背けた。 「駄目だよ」 だがすぐさまファントムが、アルヴィスの頭を片手で掴み強引に前へと向かせてくる。 「顔反らしてないで、ちゃんと自分でも良く見なくちゃ・・・・?」 「・・・・・・・・・・・っ、・・・!!」 「アルヴィス君の身体が、すっごく感じて沢山反応してくれてるんだから、ちゃんと自分でも見ないと! ・・・ね、アルヴィス君?」 「・・・・・・・や、・・・っ」 ファントムの傍若無人な物言いに、アルヴィスは泣きそうに顔を歪ませた。 しかし、ファントムは許さない。 「ねえ、アルヴィス君が美味しそうに咥えてるソレは、なぁに? ・・・気持ちいいんだよね・・? こっちもこんなに反応して、いやらしい蜜が沢山溢れてきてるんだから・・・」 言いながら、アルヴィスの下半身へと視線を固定させるように更に頭を押さえ付けてくる。 「ほら、見てアルヴィス君。・・・・見なさい」 「・・・・う・・・・うぅ・・・、」 言葉を強めて命令され無理矢理に頭を固定されたまま、アルヴィスは嫌々に自分の身体へと視線を向けた。 「・・・・・・・・っ、・・」 ―――――――剥き出しの白い太腿の間で、堅く屹立し淫らな蜜を先端から伝わせている自分自身と。 振動するグロテスクな異物を深々と咥え込み、ヒクヒクと喘ぐように痙攣を繰り返す体内へと繋がる秘められた箇所が残酷にアルヴィスの目に突き付けられる。 「・・・っ、・も・・・いや・・・だ、・・・・」 正視したくない光景に、アルヴィスは弱々しく首を振った。 「嫌じゃないよね、嬉しいんでしょう? ほら、・・・こんな美味しそうに食べてるし・・・」 ファントムが、また顔を背けようとしたアルヴィスの体内から飛び出している銀色の棒状の物の先端を、軽く掴んで動かす。 「!!?・・ぅああ・・・・っ、・・・・!!」 ぐちゅ、という水音と、アルヴィスの悲鳴が同時に上がった。 「・・・・う、・・・・や・・・だ・・・・っ、・・・」 ただでさえブルブルと振動し、アルヴィスを内側から苛んでいた玩具で体内を掻き回される感触に、勝手に身体が水揚げしたばかりの魚のように跳ね上がる。 「嫌じゃないでしょ? ・・・だって、欲しいって言ってソレを食べたの、アルヴィス君だもの。食べたくて食べたくて堪らなくて、――――――・・・僕の手から奪い取るようにして、自分からムシャムシャ食べちゃったんだよねえ・・・?」 尚も握ったソレを動かしながら、ビクビク跳ねるアルヴィスの身体を押さえ付けつつ。 ファントムは、楽しそうに言葉を続けた。 「・・・あ・・あっ、・・・・んっ、・・・それ・・・はっ、・・・・」 「ふふっ、・・・可愛いよアルヴィス君。・・・お薬が良く効いてて、中の柔らかい粘膜のトコ擦って欲しくて仕方ないんだよね?」 「あああっ、・・・・もう、・・・も・・・・動かさ・・・ない、・・・でっ、・・・・う、・・・!!」 喉を詰まらせつつ、アルヴィスは涙を浮かべ息も絶え絶えに訴えた。 念入りに媚薬を体内奥深くまで吸収させられてしまった身体は、否応なしに塗られた粘膜への刺激を求める。 勝手に疼きヒクヒクと痙攣する、淫らな粘膜への刺激が欲しくて。 アルヴィスは狂ったようにファントムを求め、彼が差し出してきた棒状の淫具を自らの狭い箇所へと差し入れてしまっていた。 いびつな突起がびっしりと付いた、男性器を象るグロテスクな異物。 普段なら目にしただけで嫌悪感を抱くか、そもそも使用目的すら理解出来なかったかもしれないシロモノだが―――――――・・・媚薬に狂わされたアルヴィスにはとてつもなく魅力的な存在に思えた。 「僕が見てるのに、その玩具で沢山気持ちよくなっちゃったんだよねぇ。自分で挿れて、中を一杯擦って・・・僕の目の前で何回もイッてくれて・・・・とっても素敵だったな! 僕のプレゼントをそんなに気に入ってくれて嬉しいよ。さあ、もっと気持ちよくなって、アルヴィス君・・・!」 「!?? あーーーーっ、・・・・ああああっ、・・・あ、あ、あ、・・・・・・・、」 言葉と同時に激しく体内に埋められた異物を動かされ、アルヴィスは目の奥が白く焼き切れるような強烈な刺激を感じながら身を震わせる。 羞恥を誘うファントムの露骨なセリフにも、反応出来る余裕など無かった。 「あ・・・あっ、・・・あぁ・・・・んっ、・・・あああ〜〜〜〜・・・・」 ・・・・・・気持ちがいい。 目が眩むほどの、快感だった。 下腹を重苦しく圧迫しながら、狭い内壁を押し広げ奥へ埋め込まれる異物が堪らなく気持ちいい。 敏感な粘膜を擦り、抽送を繰り返す度に脳を灼き尽くすかのような愉悦が訪れ、アルヴィスのなけなしの羞恥心を奪っていく。 屈辱も羞恥も、何もかも。 根こそぎ全て、奪われていく。 「・・あ・・・っ、・・ああ・・・・ぁ・・・」 ハッハッ、と浅く早い呼吸を繰り返し。 アルヴィスは、ファントムの手を誘うように更に大きく足を広げた。 もう、――――――何も考えられなかった。 こんな事は駄目だ・・・・そう思う端から、思考が溶けて流れ出していく。 自分の中を一杯に埋めて気持ちよくしてくれている、振動する異物に全神経が集中してしまう。 「・・・は・・・っ、・・ん、・・あああ・・・・・!!」 体内に埋め込まれた金属製の塊をきつく喰い締め、アルヴィスは呻いた。 「気持ちいい? アルヴィス君・・・またイキそうになってるのかな?」 「んっ、・・あ・・あっ、・・うぅ・・・んっ、・・・」 揶揄するようなファントムの問いにも、素直にコクコクと頷く。 今のアルヴィスは、自分の中心を穿ち愉悦をもたらしてくれるモノの事しか考えられなくなっていた。 埋め込まれた異物をファントムが動かす都度、堅く張り詰めたアルヴィス自身の先端から半透明になった蜜が溢れ出て、伝い落ちていく。 いくら、精神力を鍛えていても。 性的な行為に対して一切免疫が無かったアルヴィスの身体は、拷問による苦痛などより余程簡単に淫らな行為に籠絡(ろうらく)されてしまっていた。 身体的苦痛を精神力で押さえ付ける訓練はしていても、一方的に与えられる快楽への耐性は持ち合わせていない。 激しい悦楽が、精神的戒めや禁忌(きんき)事項を凌駕(りょうが)してしまうのだと――――――――――ファントムに捉えられ拘束されてから、アルヴィスは初めて思い知った。 「・・あ・・・・んっ、・・・もう、・・・・出るっ、・・・・あ・・・あ・・・・・・!!」 身体をくねらせながら、アルヴィスは屹立した自分自身に手を伸ばし。 ファントムの目の前にも関わらず、おぼつかない手つきでそれを握り込んだ。 「おや。僕の前で、また1人でしてくれるの・・・・? 今日は大サービスだね」 ファントムがからかうように言ってくるが、それに躊躇(ちゅうちょ)できる程の思考能力はもうアルヴィスには無い。 「・・・んうっ、・・あ・・・あ・・・っ、・・・あ・・・・」 両足を広げ。 ファントムの眼前に、屹立したアルヴィス自身も咥え込んでいる淫らな玩具も、全てを晒した状態で。 アルヴィスはもどかしそうに、自身を握り締めて腰を揺らした。 解放したくて、堪らないのだ。 極度の快感は、過ぎるとかえって吐き出さない限り苦痛となる。 その手に、ヒンヤリとしたファントムの手が重なった。 「・・・・・・、・・・?」 動かすのを止めるかのようなその手に焦れ、アルヴィスは僅かに顔を上げる。 快楽に霞んだアルヴィスの目と、深いアメシスト色の瞳の視線が合った。 「・・・・・・・っ、・・・」 悦楽に浮かされたアルヴィスが一瞬息を呑むほど、・・・・・・底の見えない、全ての光を吸収し奪い尽くすかのような闇を内包した瞳。 「・・・・その玩具も充分楽しんだようだし。そろそろ別の玩具で遊ぼうか・・・・ねえ、アルヴィス君?」 美しいとしか形容しようのない、白皙の顔がアルヴィスに向かって妖婉(ようえん)な笑みを掃(は)く。 「僕のアルヴィス君の可愛いところ、もっともっと、僕に良く見せて・・・・?」 「・・・・・・・・・・・・・」 銀色の髪を揺らし、僅かに首を傾げてアルヴィスを伺うように見つめてくるその姿は一見、悪意などまるで感じられず、天使の如くに神々しい。 けれど、――――――何処とは無しに、酷く禍々(まがまが)しい。 彼は、その美しい眼差しで魅入る者の魂を奪い、甘言を自在に操るその唇で近寄る者を凍て付かせ――――――・・・その長く優美な指先で、触れた者を容赦なく引き裂く魔王なのだ。 軽口めいた物言いも、彼が言うと意味が全く違ってくる。 「ねえアルヴィス君。・・・見せてくれるよね・・・・・・?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 美しい顔に柔らかな微笑を乗せ、甘く囁くように告げられたファントムの言葉に。 手を重ねられたまま、アルヴィスは顔を強張らせた――――――――――。
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