『背徳のajmbrosiva(アムブロシア)』








ACT2






「今日は、イイモノを持ってきたんだよ」

 部屋に現れた見目麗しい悪魔は機嫌良くそう言って、手にした小箱をアルヴィスの前に差し出した。
 一足の靴を入れるのに丁度良いくらいのサイズの、真鍮製の箱。
 その黄色味の帯びた金属の箱を寝台横のサイドテーブルに置き、ファントムはアルヴィスの隣へと腰を下ろしてきた。

「・・・・・・・・・」

 無駄な抵抗と分かりつつもアルヴィスは少しだけ身動ぎ、腰掛けた彼と距離を開ける。
 そんなアルヴィスをどう思ったのか、ファントムはクスッと柔らかな笑みを浮かべると腰に手を回して引き寄せてきた。

「そんな君に相応しい、素敵なプレゼントだよ」

「・・・・・・・・・?」

 ファントムが口走る、意味の掴みにくい言葉遊びめいた言い方はいつもの事だ。
 そして、今日もやっぱり、彼の言わんとする事は良く分からない。
 だが決して、自分にとって愉快な意味では無いのだろう―――――─そう思い、アルヴィスは眉を顰めた。
 第一、彼が『素敵』やら『イイモノ』と言った時に、アルヴィスにとってそれらが本当にそうだった試しなど殆ど無いのである。

「・・・・・・・・・」

 ファントムの言葉に不穏なものを感じて、アルヴィスは身を固くした。

「どうしたのアルヴィス君? 大丈夫だよ、怖いモノなんて入ってないから」

 宥めるようにアルヴィスの柔らかな黒髪をクシャリと撫でてから、ファントムは小箱に手を伸ばす。
 そして、中から大小2つのガラスの小瓶を取りだし、サイドテーブルの上に置いた。

 繊細な模様が彫り込まれた、透明な硝子瓶。
 中はどちらも琥珀色の液体で満たされている。

「・・・・・・・・・・?」


 一瞬、酒だろうかと思う。
 けれども、小さい瓶に満たされた方だとせいぜい一口で飲み干せてしまう量だし、大きい方の瓶でもグラス1杯程度しか入っていない。
 一体何なのかとアルヴィスは暫し2つの小瓶を凝視した。

「ふふっ・・・コレはね・・・・」

 小さな方の小瓶を手にして、ファントムが意味深に笑う。

「これからのアルヴィス君とのひとときを楽しむ為のアイテムさ」

「?」

「慣れてなくて怖がってるのもそそるんだけど・・・・そろそろ、可愛くお強請りするのも見たいんだよね」

「いったい、」

 どういう意味だ―――――そうアルヴィスが言い終わる前に、ファントムは手にしていた小瓶の中身を一気に呷り、そのまま唇を重ねてきた。

「ん!?・・・んんっ、」

 口内に、何か甘ったるい液体が流れ込んでくる。舌を痺れさせるような、変な甘み。
 アルヴィスは咽せそうになって、必死に顔を逸らし吐き出そうと試みたが、ファントムの指がしっかりと顎を掴み固定している為、ままならない。

「んんぅ・・・ん、ん・・・・っ」

 呼吸も出来ず、苦しさからアルヴィスはその液体を必死な思いで嚥下した。
 液体が通過していく箇所が焼けるような灼熱感を帯び、胃の賦が熱で満たされる。
 それは、酷く強い酒を飲まされた時の感覚に、良く似ていた。

「ん・・・・むっ、」

 アルヴィスが飲み込んだのを確かめ、ファントムがようやく唇を解放する。

「・・・は・・・っ、・・・なに・・・・を、」

 ファントムから顔を背けつつ荒くなった呼吸を整え。
 アルヴィスは今飲み込んだ液体の正体を問いただそうとして―――――何か、くらっとするような眩暈を感じ、押し黙った。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 酔っぱらってしまったかのような、軽い酩酊感。
 身体の芯がジンワリと熱くなり、それがやがて手足の末端まで広がって・・・・肌を焦がし始める。身につけている衣服と肌の間に熱が篭もり、汗がジットリと滲み出てきた。

「・は・・・ぁっ・・、」



 身体が熱くて―――――息苦しい。
 息苦しさに比例して、心臓が何故か早打ち始める。




 なん・・・で・・・?





 酔っぱらってしまったのかと、思う。
 先程ファントムに無理矢理飲まされたものは、やはり酒だったのだろうか。
 けれど、ただ酔ったにしては少し感覚がおかしかった。

「・・・・ふ・・・・ぅっ」


 こんなに、身体が熱くて。
 こんなに、息苦しい。
 だけど、それ以上に―――――肌の表面が、神経を剥き出しにされているみたいに酷く敏感になっている。
 苦しさに微かな身じろぎをしただけで、衣服と皮膚が擦れる感覚に肌の表面がザワザワと粟立つ。
 そして、その感覚はダイレクトに下肢へと響き―――――疼きを生むのだ。


「・・・・う・・・ぅ、」

 触れられてもいない下肢が、ひくりと反応する。

「―――――─っ、」

 その感覚を必死に遮断しようと、アルヴィスはギュッと目を閉じて寝台に腰掛けたまま上半身を丸めた。
 こんな状態な事がファントムに知れれば、何をされるか分からない。
 シーツを握りしめ、懸命に深呼吸を繰り返し・・・・落ちつこうと試みる。

「・・は・・・っ、は・・・・ぁっ・・・、」

 だが、アルヴィスの身体を這い回る妖しい感覚は治まってはくれなかった。
 治まるどころか、ますます内側からアルヴィスを焦がし、官能を煽り始める。

「・・・・・・・・・っ・・」

 アルヴィスは、余り強い酒を飲んだことが無かった。
 元から酷くアルコールに耐性が無いらしくて、弱い酒をほんの少し飲んだだけでも酔ってしまう程だったのだ・・・・・・・それでも、その酔ってしまった時でも確かに身体は熱くなったが、すぐ眠気が襲ってきて―――――こんな風な状態になる事など、無かったというのに。




 ファントムに飲まされた酒は、それ程に強かったのだろうか・・・・・・。





「―――――苦しい?」

 身体を襲う変な感覚に動揺するアルヴィスに、ファントムが声を掛けてくる。とてもとても、楽しそうな響きの声だった。
 クスクスと笑いながら、苦しげな吐息をつくアルヴィスを後ろから抱き込んでくる。

「・・っ!?」

 その感触にすら声を上げそうになって、アルヴィスは身体を大きく震わせた。

「即効性だからね・・・もう、身体熱くなってきたでしょ?」

 身を強張らせるアルヴィスの、項に向かって息を吹きかけながら―――――ファントムが意地悪く囁くように話しかけてくる。
 首筋にかかる吐息がゾクゾクするほどくすぐったくて、アルヴィスは細い顎を仰け反らせて戦慄いた。

「・・・・・・・・・・」

 息苦しくて、熱くて、ゾクゾクして――――アルヴィスはファントムの言葉の意味を上手く掴めなかった。
 自分の息づかいと激しく脈打つ心臓の音、そして首筋にかかるファントムの吐息がまるで愛撫のようにアルヴィスを刺激して、いくら頭を冷やそうとしてもすぐに靄がかかってしまうのだ。
 耳は確かに低くて甘い、優しげに聞こえる声を捕らえているのに―――――─意味を理解する前に、バラバラに解けて消えていく。
 明らかに、異常事態だ。・・・・けれど、そう思うことすらアルヴィスの脳裏から、思った端から消えていってしまうのである。
 ファントムはそんなアルヴィスの白い喉もとに唇を寄せ、薄い皮膚を吸い上げながら更に囁いた。

「ふふっ・・・さっき飲んだアレ、少量でも飲んじゃうとスル事しか考えられない色情狂になっちゃう薬なんだよね・・・・・・・どう? もう我慢できなくなってきちゃった?」

「・・・・な・・・っ、・・・・・」



 色情狂。我慢できなくなる―――――2つの言葉だけを耳で拾い、意味をゆっくり噛み砕いて・・・・・・アルヴィスは自分が陥っている状況をようやく察した。



「―――――─・・・・っ!?」

 熱くなっている身体とは裏腹に、頭の一部がスッと冷える。
 先程のは、媚薬だったのだ。官能を無理矢理呼び起こす作用をもつという、薬。
 ファントムは普通にアルヴィスを抱くだけでは飽きたらず、薬まで使って自分を弄ぼうという意向らしい。

「・・あ・・・あっ!」

 だから、ファントムにこうして指先で肌をなぞられるだけで―――――耳元で囁かれるだけで、こんなにも反応してしまうのだと理解する。
 軽く触れられるだけで、その場所からジワリと官能の波が訪れ、下腹部を熱くしていく。

「あうっ!・・あ、あ、あ・・・・ぁ・・・・」

 まだ服も脱がされておらず、肝心な場所など一切触れられていないのに、アルヴィスの身体は水に揚げられた魚のようにビクビクと跳ねた。

「は・・・っ、あぁぁ・・・・・!」

「すごい効き目。――――触らないままで、イケちゃいそうだね?」

 後ろから羽交い締めにしたまま、ファントムが楽しげに言う。

「このまま1回イッちゃう?」

「や・・・っ!やだ・・・・、服っ・・・汚、・・・・・!!!」

 ファントムに背後からのし掛かられ、前に回された手で身体をまさぐられつつアルヴィスは必死に声を上げた。
 達しそうになっていたのは事実だが、このまま解放するのだけは嫌だ。
 ファントムが見ている前で吐き出すのも抵抗はあるが、服を着たままイカされるのはもっと抵抗がある。
 けれど、舌が縺れ喘ぎ喘ぎに言葉を紡ぐので、上手く喋れない。

「や、だ・・・・やだっ!・・・服・・っ上から・・は、・・・・っ!!」

「なに? アルヴィス君良く聞こえないよ?」

 ファントムはクスクス笑ってそう言うと、布越しにアルヴィスの肌を焦らしながら触れていった。アルヴィスの願いなど、ハナから聞く様子も見受けられない。

「あ・・・っ!あ・・ぁ・・・・」

 上着越しに爪を立てアルヴィスの胸元を擽りつつ、耳孔にネットリと舌を這わせ耳朶を軽く噛む。
 ファントムの、耳朶を噛むついでに彼の形良い鼻先が頬を掠めるのすら快感で、アルヴィスは後ろから抱きしめられた体勢のままに、白い喉を反らせ大きく身を震わせた。

「・・・そうだね、とりあえず上着だけは脱いじゃおうか」

 上体を反らせるようにベッドに手を付いているアルヴィスの、上着のファスナーに手を掛けながらファントムが優しい口調で言う。

「・・・アルヴィス君が、早く脱ぎたいみたいだから、ね・・・」

 そう言って、一気にファスナーを下げ上着を脱がしてきた。
 そしてアルヴィスを抱きしめたままの状態で、ついでのように自らの左腕を覆う包帯の端を口に咥え、一気に引く。

 どんな仕掛けになっているのか―――――ただ口に咥えて引っぱっただけに見えるのに、ファントムの左腕をすっぽりと覆っていた白く細い布がシュルシュルと解け、上着がある寝台の下へと、歪な円を描きながら落ちていく。
 それと同時に彼の腕がチリチリと何か澄んだ金属音を立てた。

「・・・・・・・・っ!」

 薬のせいで熱に浮かされたような表情を浮かべていたアルヴィスが、その音に気付いて顔を強張らせる。ファントムが左腕を露出させた事を悟ったからだ。

「・・・・・・・・・」

 彼の左腕を完全に覆う包帯。それは決してファントムがその腕を負傷しているから・・・などと言った理由からでは無いのを、アルヴィスは既に知っている。


 彼の左腕は―――――───・・・・・。



「・・・・・・・・、」

 肩越しに視界に入るそれを、アルヴィスは怯えの混ざった色の瞳で見つめた。

 ファントムの左腕。それは、普通の人間の腕と何ら形状は変わらない。
 腕は1本で、上腕があり前腕があり、手首の先には手の平があって、その先には指が5本・・・・何ら、通常の人間と形自体は変わらない。
 だが、その白い腕の至る所にはマジックストーンやら銀製のリング、チェーンなどが無数に埋め込まれ縫いつけられている。
 更に、翡翠色の鱗状のモノが上腕から手の甲までの側面をほぼ覆い尽くしている―――――─異様としか言いようのない形容の腕だ。
 それら皮膚に直接縫いつけられているモノ全てがARMだというのだから、それもまた驚きである。
 親指を除く指全てに填められているリングが、縫いつけられているのでは無い事だけが左腕における唯一の救いだろうか。

 その左腕が、アルヴィスの肩を掴む。

「―――――─っ!!」

 アルヴィスの身体が、官能からではなくビクリと震えた。

「ふふっ。アルヴィス君は、僕の左手が嫌いなんだよね・・・・」

 その反応に、ファントムが楽しそうに笑う。

「左手で触られると、すごく悦んでくれるのに・・・嫌いなんだよね」

「・・・ああっ、・・さ・・・わるな・・・・・っ!!」

 肩を掴んだ左手が滑るように胸元に降りてきて、既に硬く凝っていた突起を弄ばれアルヴィスは身を震わせた。
 尖った爪の感覚に翻弄されながら、アルヴィスは顔を歪める。


 ファントムの、左腕―――――─夥しい数のARMを直にその肌に縫いつけるというのは、異常だ。
 普通の人間ならば、決してしないだろう行為。タトゥやピアスとは訳が違う。
 それはファントムが人間では無い証拠であり・・・・人間としての感覚を超越している証のようでもあり―――――──そして、自分もそんな彼と同類なのだと思い知らされるようで、その腕で触れられる事はアルヴィスにとって耐え難い行為だった。

 彼の左腕を直に見せられる度・・・・その手で触れられる度に、どうしようもない絶望感と嫌悪感が同時にアルヴィスを襲う。

 だから、嫌いだった。

 見たくなかった。

 けれどファントムは、アルヴィスを抱く時には必ずと言っていいほど左腕を露わにする。
 逆に言えば、それ以外の時に彼が左腕の包帯の中身を人目に晒す事は滅多に無い。


「そんなにこっちの手で、触られるの嫌? でもね・・・片腕だとやっぱり君を愛してあげる時、不自由だからね・・・・」

 胸元を擽る指はそのままに、ファントムは声もなく身を震わせるアルヴィスに言い聞かせるように囁いてくる。

「ほら・・・嫌いな指で弄られてるのに、こんなに硬く凝ってるよ・・・? 気持ちいいからなんだよね・・」

「あ・・っ! ん・・あぁ・・・・・っ、」

 既にぷっくりと腫れ上がり、存在を主張していた胸の突起を尖った爪先で軽く刺され。
 アルヴィスは甘い声を上げて顎を反らせた。

「―――――こうやって、両方摘まれるの、大好きなんだよね」

「・・・っあ!・・あっ、あっ、や・・・っ!あーーーっ・・・・・、」

 左右の突起を指先で強めに挟まれ、その感覚はアルヴィスの下腹部に強烈な疼きをもたらす。堪らず、絶叫した。
 触れられていないのに、ズボンの中で反応しきっている前が激しく疼く。
 先走りの蜜が溢れて下着をしとどに濡らしているのを感じていた。
 今まで散々嬲られ、れっきとした性感帯となってしまっているポイント。
 只でさえ触れられれば泣きたくなるように感じる場所なのだ―――――─まして媚薬を使われてしまっては、もうどうしたって抗えない。

「は・・・っ、あ・・・・うぅ!」

 ズボンの前がキツイ。下着が湿ってヌルヌルするのが気持ち悪かった。
 自分の身体なのに、意志に反してファントムが喜ぶ反応しかしない事が恨めしい。

「アルヴィス君、胸触られるの好きなんだよね・・・・下触らなくてもイッちゃうくらい」

「んっ、あ・・・・っ! も、触らない・・で・・・・、」

 キュッキュッと強弱を付けて突起を摘み上げられ、アルヴィスは無意識に腰を揺らした。
 本当に達してしまいそうだった―――――・・・一度も触れられないまま、下着を着けた状態で。

「あ・・・ああっ!・・・・っく・・・・んっ、」

 何とか耐えようと、顔を上向かせ歯を食いしばる。
 しかしファントムの指先は胸元で不埒な悪戯を繰り返し、更に刺激に耐えて震えているアルヴィスの耳朶を責め・・・・舌先を耳坑へと差し込んでくる―――――──我慢も、限界だった。

「あっ、あっ!・・やだっ、・・・出る・・っ、で・・・るからっ、」

 アルヴィスはついに降参した。
 後ろから抱きしめているファントムから逃れるように、アルヴィスは上体を寝台の上に投げ出し、シーツを皺になるくらいに握りしめる。

「あっ、・・も・・・・摘まな・・いでっ、・・・・あああっ!!」

 ビクビク身を震わせて、アルヴィスは哀願した。

 もう自分でも、何を口走っているのか分からない。
 今のこの状態から逃れられるのだったら、悪魔とでも契約してしまいそうだった。
 気持ちよさと恥ずかしさと屈辱感で頭が一杯になって―――――─脳裏が白く染まる。

「いいよ。・・・イッちゃいなよ。胸だけで、イッちゃえばいい」

 アルヴィスの滑らかな背中に口付けしながら、悪魔が楽しそうに答えた。もちろん、指先の動きは止めないまま。

「アルヴィス君の身体は淫乱だからね・・・・胸だけで簡単に気持ちよくなって、イッちゃえるんだよね・・・」

 ファントムはクスクスと笑いながら、更にアルヴィスの官能を煽ってくる。

「―――――─さあ、僕が見ててあげるから・・・・イッてごらん?」

 低く言われた言葉と同時に、軽く耳朶を噛まれた。
 ズクン、と下腹が疼く。

「・・・っ、!? あ・・・あっ、ああーーーーーっ・・・・!!」

 アルヴィスの胸元から下半身へと感電してしまったかのような衝撃が走って、下腹部の熱が急速に高まり一点へと集中する。
 そして堰が切れたかのように、熱が一気に放出された。



 堪えられなかった。

 見られてるのに。

 下着を着けたままなのに――――汚して、しまうのに。

 まだ一度も、触れられていないのに。



 達してしまった。




「・・・あ、・・あっ・・う・・・、」

 アルヴィスは解放した体液の熱さと悦楽に、苦しさとも心地よさとも付かぬ声を発した。
 下腹を濡らし、ジワジワと腿の方へ伝ってくる感覚が生々しい。

「・・・・・・・・・・・・」

「まだズボン履いたままなのに・・・出しちゃったね。我慢できなくなるほど・・・気持ちよかった?」

 荒い息をつくアルヴィスの肩口に唇を押しつけ、ファントムがそっと抱きしめた身体を膝の上に乗せるように自分の方へと引き寄せる。

「・・・・・・・・・・・、」

 羞恥と吐精による疲労感から、力無くされるがままになっているアルヴィスを見て、ファントムは甘くとろけるような笑みを浮かべた。

「いいんだよ、それで。すごく可愛かったから」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「僕にアルヴィス君の全部を見せて? 恥ずかしいところも厭らしいところも、全部。全てを晒け出した姿を僕だけに見せて・・・・・・」

「・・・・・っ、・・」

 肩口に頭を乗せるようにしてアルヴィスを覗き込んでくる端正な顔を、涙に曇った瞳で見つめる。


 とても柔らかくて甘い、優しい言葉。

 綺麗な悪魔がその形良い唇から零す言葉は、いつだって縋ってしまいたくなるくらいに心地良くて、全てを委ねてしまいたくなるくらいに包容力に溢れている。
 その心は永久氷壁にも似た冷たさで凍り付き、温もりなど存在しない氷そのものの様な筈なのに。



 けれど、身体が―――――───ファントムを求める。

 込み上げてくる熱が、身体の奥が・・・・・彼を求める。



「・・・・あ、・・・・ファン・・トムっ・・・」


 掠れた声で、アルヴィスは抱きしめる青年の名を呼んだ。



 足りない。

 まだ、足りない。

 その指で触れて。

 唇で愛して。

 その身体で―――――満たして。

 身体の奥を、全てを満たして欲しい。

 熱さを止めて。

 身体の奥を掻き混ぜて、この熱を止めて。




―――――じゃないと気が狂いそう。





 後ろ向きに抱き留められていた身体を返し、アルヴィスはファントムの首に縋り付いた。

「・・・・ん・・・・うっ、・・・」

 苦しげに息を吐き、両手でもどかしげに首に抱きつく。

「足りない? ・・・もっと?」

 そんなアルヴィスを宥めるように抱き締め、ファントムが耳元で囁いてくる。

「我慢できないよね・・・・アルヴィス君、もっと気持ちよくなりたいんだもんね」

「・・・ファントムっ・・・・」

「大丈夫だよ。僕が一杯気持ちよくしてあげるから。アルヴィス君の中を一杯にして、奥まで満たしてあげるから―――――何度でも、天国を見せてあげるよ」

「・・あ・・・あっ、・・・・」

 まともな時に言われれば、赤面して何も言えなくなってしまいそうな卑猥なセリフ。
 だが媚薬に翻弄され理性の溶けたアルヴィスには、その言葉さえ・・・耳を擽るファントムの声音ですら、性的刺激を受けてしまう。

「・・・・ん・・・・・っ、・・あ・・!」


 触れられていないのに。

 正真正銘、今はただ抱きしめられているだけなのに。

 ファントムに耳元で囁かれただけで、アルヴィスは再び達してしまいそうな程の官能に全身を震わせ甘く吐息をついた―――――───。









NEXT 3



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言い訳。
こんな甘い展開ですけど・・・次回、本番です(笑)
しかも、アブノーマルいっちゃいます。
アルヴィスごめんね?(爆)