『背徳のajmbrosiva(アムブロシア)』








ACT1





 寝台に横たえられ、口付けられながら衣服を脱がされ、身体中をまさぐられ。
 あられもない声を上げさせられて、身体の内部を蹂躙される―――――─それが、アルヴィスに繰り返される『罰』だった。

 それは酷く屈辱的で恥ずかしく、そして耐え難い程辛くて、苦痛を伴う行為でしか無かったが―――――──それでも、全てを諦め従う事こそがたった一つの贖罪なのだと・・・そう思い、アルヴィスは何とか『それ』をやり過ごすことが出来ていた。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 それでなければ、こうして己の境遇を受け入れる事など決して出来なかっただろうとアルヴィスは思う。
 寝台の上に腰掛け、肌触りの良いシーツを指先で撫でながらアルヴィスは小さく溜息を吐いた。


「・・・・・・・・・・」


 もうすぐ、銀色の悪魔がこの部屋を訪れる。

 自分を抱く為に―――――─身体中を隈無く探り身体の奥深くを穿つ為に。
 初めての時は酷く屈辱を感じて、待つ間の身体は口惜しさに震えが止まらなかった。
 二回目からは行為の内容に恐怖して、不甲斐ないけれどもやはり震えが止められなかった。

 そして今も・・・・やはり、これからの事を考えれば決して冷静ではいられない。

 連日では無い事だけがアルヴィスにとって救いではあったけれど、それだとて別に決定事項な訳では無い―――――───単にファントムがここ、レスターヴァに居るか居ないかだけの理由である。

 何をしているのかは知らないが・・・・いや決して知りたくは無い内容だろうが・・・・ファントムは時折、このチェスの本拠地であるレスターヴァ城を不在にする。
 その時だけが、アルヴィスにとって安堵の息を吐ける時でもあった。

 ファントムは、レスターヴァに居る時はとかく―――――──アルヴィスを傍に置きたがる傾向があるので。

 そしてファントムは、レスターヴァに居る時は必ずアルヴィスを抱く。
 それはいつもお決まりな事実であり、今日も変わらず行われるに違いなかった。


「・・・・・・・・・・・・・」


 けれど、そうとは言ってもアルヴィスにしてみれば慣れられるものでは無い。
 分かり切った決まり事、と頭で理解はしてみても―――――どうにも避けられない事柄なのだと分かってはいても・・・・こうして寝室で彼を待つのは心穏やかでは無かった。


「・・・・・・・・・・」


 この部屋で。この寝台で。今、手に触れているシーツの上で、彼に抱かれる。

 絶望と恐怖と、屈辱に・・・・アルヴィスの身体は震えた。

 でも、これは『罰』だから。

 己の勝手な一存で仲間を地獄に陥れ―――――─自分だけがのうのうと暮らしているという、到底許されないだろう境遇への、『贖罪』だから。
 自分への苦痛は出来るだけ深く辛く耐え難いモノであれば良い、とさえアルヴィスは思う。




 だから・・・・今も震えは止まらないけれど、これでいいのだ。

 もっともっと、耐え難い苦痛が自分を襲えばいい。

 そうでなければ、『罰』にならないのだから・・・・・・。





 アルヴィスは極度の緊張の為にすっかり冷え切った、震える指を膝の上で握りしめ。
 深く息を吸い―――――ゆっくりと吐き出した。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 もうすぐ、『彼』が来る。

 見た目だけは神々しい程に美しい、銀色の悪魔が。
 優しげな微笑を浮かべて、数刻前まで真っ赤な鮮血に浸していただろう白い手で、自分に触れる為に。
 アルヴィスの身体を、蹂躙し尽くす為に―――――───。


 その瞬間を、アルヴィスはただ待ち続けた。







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