『Alviss in Wonderland』



 ACT2










 ―――――――時計ウサギ。

 『不思議の国のアリス』なお話で。
 赤いチョッキを着け懐中時計なんかも持っていて、喋ることが出来るというのが特徴・・・・だった気がする。

 物語をきちんと演じなければならない立場として、アリスであるアルヴィスは、とりあえずそのウサギさんを探さねばならないらしいのだが。


「・・・・・・・・服着て喋るウサギなんて、・・・・メルヘブンじゃ珍しくないじゃないか・・・・・!!」


 服着て喋る動物なんて、そこら辺に溢れている。

 果たしてどれが、その『時計ウサギ』なのか。
 自分から名乗ってくれなければ、とうてい判断が付かない気がした。


「まあ、そうかもね。でも、・・・ボクがそんなありきたりな想像する訳ないから、きっと分かる筈だよ!」


 途方に暮れるアルヴィスの頭上から、ぷらりとピンクの尻尾を垂らし猫姿のファントムが自信を持って言い切る。


「ボクがそんな、普通のニンゲン共と同じ発想すると思う?」

「・・・・・・そうだな、お前は異常だからそんな訳ないよな!」

「いやそんなホメられても照れちゃうんだけどね・・・」

「全くほめてない貶(けな)してるんだ」


 チェシャ猫らしくニヤニヤと、アルヴィスの気持ちを逆撫でするような笑みを浮かべるファントムを一息に否定して。

 アルヴィスは可愛らしいエプロンドレスの裾を翻しながら、辺りを素早く見回した。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 辺りに広がるのは、キレイに澄んだ大きな湖と木々が茂る鬱蒼とした深い森。

 見渡した限り、自分とこのムカツク猫しか存在しない。


「そんな焦らなくてもいいよ。ここでボクとゆっくりのんびり、ゴロゴロしよう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねーねー、遊ぼうよアルヴィス君vv せっかくこんな楽しい状況になったんだからさあ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「別に急がなくたって、皆それなりに勝手に楽しんでるよ。だからボク達も遊ぼう!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「アルヴィス君てば〜〜〜〜」


 猫姿のファントムは、全く焦る様子もなくムカツク言葉をアルヴィスに投げかけてきた。

 それはまあそうだろう、・・・・このチェスの司令塔自らが仕掛けてきたARMのせいでこうなったのだ・・・・・この状況は彼にとって望む状態なのに違いない。
 終始ご機嫌な様子で、アルヴィスに話しかけてくる。


「生憎(あいにく)と、俺はそんな気分じゃない。・・・・他ならないお前のせいでな!?」


 頭上を振り仰ぎ、木に寝そべっているピンクのしましま猫に向かって怒鳴る。
 可能なら、自前のARMである13トーテムポールをロッド化して、空の彼方までこのふざけた猫をぶっ飛ばしてやりたいくらいだ。

 だが、今のアルヴィスの腰に、そのお気に入りARMは存在せず。
 存在したとしても、魔力を失っている今は使うことは不可能だ。

 それもこれも、皆、このピンクのしましま猫・・・・もといチェスの司令塔ファントムのせいである。


「・・・・もういい、俺1人で探すからお前はどっか行け!!」


 苛立ちがピークに達し、アルヴィスはその場を後にした。

 これ以上、神経を逆撫でされたら、どうにかなってしまいそうだ。

 物語を遂行し、メルヘブンを元に戻さなければならないのにそれを失念して、・・・・あのふざけた猫の尻尾を引っこ抜き皮を剥いで塩でも塗り込んでやらなければ気が済まなくなってしまいそうである。

 到底掴まらないだろうという予測が付くだけに、―――――それは無謀だ。


















 はき慣れないスカートの裾をひらひらと足にまとわりつかせながら、アルヴィスは深い森の中を歩く。

 絶対、うっとうしく付いてくると思ったのに、ピンク猫はアルヴィスを静かに見送っただけで寄ってこようとはしなかった。


「・・・・・・・・なんだよ、ほんとに勝手なヤツだ・・・・!」


 一緒に探してあげるなんて言ってたくせに、ホントいい加減だ・・・などと、アルヴィス自ら1人で探すと言っていたというのに悪態を付きながら森を歩く。

 がさがさっ、がさがさがさっ。

 下草がびっしりと生い茂り、木々の枝が視界を邪魔して歩きにくいことこの上なかった。
 明るい昼下がりだった筈なのに、森の中は不気味に薄暗い。

 普段ならば慣れたもので、別段どうとも思わない所なのだが・・・・・・・・。


「・・・・歩きにくい・・・・・・・・・」


 一歩ごとに、ヒラヒラしたスカートが草に引っかかり。
 微妙に厚底になっている靴が、折れて転がっている枝を踏んで転びそうになる。
 そう歩かない内に、アルヴィスはすっかりと辟易(へきえき)してしまった。

 いっそ、こんな面倒な靴やスカートなど脱いでしまいたい気分だったが、服がこれしか無い以上そういうわけにもいかない。


「・・・・遭難しそうだ・・・・・」


 辺りに見えるのは、鬱蒼と茂った木々ばかり。
 これでは時計ウサギなど、見つける前に行き倒れてしまいそうだとアルヴィスは内心すこし焦り始めた。


「闇雲に歩いても仕方がないな・・・ここは、方角を見定めるべきか・・・・?」


 とりあえず、遭難はしたくなかった。
 かといって、あのふざけた猫に助けを求めるのはもっと嫌だ。

 ファントムに助けを求めるくらいなら、―――――――アルヴィスは遭難を選ぶ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 考えた挙げ句に、アルヴィスは傍らの木に手を掛けた。
 ARMがあれば簡単な事だが、使えない以上は自力で木に登り高い場所から方角を把握するしかない。


「・・・・・・・・・・・はしたない・・・か・・・?」


 スカートが思い切りめくれ上がり、太ももが露出するのを目にして少しだけ躊躇した。

 ご丁寧に、真っ白なカボチャ型パンツ(ドロワーズという、ヒラヒラのレースが付いた女性用の下着だがアルヴィスは名前を知らない・・・)を身につけた生足が思い切り露出しているのを見て、ほんのちょっぴり考え込む。

 アルヴィスがそんな場面に出くわしたら間違いなく、なんだこの女は・・・・・と白い目で見るだろう。
 けれどまあ、辺りに誰もいないの上に、自分は男なのだしと考え直して。

 アルヴィスは再び、木によじ登り始めた。

 スカートがめくれた格好で、勇ましく木の枝に足を掛けて上っていく。


「・・・・・うーん・・」


 上っていく内に、どうにも靴が邪魔であることに気がついた。

 厚底のエナメル靴は、見た目はとても可愛らしいが(そんなことはアルヴィスにとってはどうでもいい事だが)、木を上るにはツルツル滑ってとても危険だ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 アルヴィスは器用に足を持ち上げ、片手で靴のストラップを外す。

 はたから見たら、とても目に入れられないような破廉恥(はれんち)な格好だ。
 下から見れば、全て丸見え。
 見かけは楚々とした美少女が、大股開きで靴を脱ごうとしている――――――などという目を覆いたくなってしまう状況だ。

 だが、辺りには誰もいないから気にする必要も無い・・・・筈だった。

 しかし。


「アッ、・・・アルヴィスさんっっ!!? や・・やめてください危ないです〜〜〜〜!!!!」


 突如、聞き覚えのない少年の声が辺りに響いた。


「・・・・えっ、・・・うわっ・・!?」


 予期せず耳に届いた声と、しっかりと自分の名を呼ばれた事への驚きに、アルヴィスは思わず枝に掴まっていた手を離してしまう。


「・・・ぅわ〜〜〜〜〜っ!!!!?」

「ああっ、危ないーーー!!!!」


 ガサガサガサ、ザザザザーーーーーーッ!!!!


 アルヴィスの叫びと謎の少年の声、そして宙に張り巡らされている葉や枝にぶつかりながら落下する音が同時に森に木霊した。


「――――――・・・・っ、・・・!?」


 咄嗟にARMを発動しようとして、手元にそれが無いことに気付く。

 どうしようもない。

 重力に従い、落ちるしか手立ては無かった。
 しかもこんな格好では、受け身も取れるかアヤシイものだ。



 痛いだろうな・・・・落ちたら。

 打ち所、悪くなけりゃいいんだが、・・・・・。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 覚悟を決めて、目を閉じる。
 悪いのは、自分だ。
 勝手に驚いて、勝手に手を離したのだから。

 痛かろうが何だろうが、甘んじてそれは受けなければ・・・・・・・・・・・・・そう思った瞬間。


 どさっ。


「?」


 軽い音と衝撃があっただけで、アルヴィスの身体が停止する。


「・・・・・・・・・・・・・・?」


 不思議に思って目を開ければ、銀色の髪が視界に飛び込んできた。


「・・・・・・ファントムっ!??」


 知り合いに銀髪は1人しかいない。

 あの忌々しいピンクの猫だ。
 途端に、アルヴィスの目が険しくなる。


「えっ!? ち、違いますよっ!!!」


 だが、相手は明るい青色の瞳をぱちぱち瞬かせ、一生懸命首を振った。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 声が違う。

 あの蠱惑的で柔らかで、美声とは言えるんだろうムカツク声じゃなかった。

 瞳の色も、アクアブルーというか、キレイな水色。
 ファントムのような、紫色では無い。

 ――――――というかそもそも、顔が違った。

 淡くグリーンがかった銀髪に澄んだ青い瞳、賢そうな顔・・・・・ファントムと同様に美形は美形だろうが、こっちはもっと真面目そうだし常識的な印象がある。

 一体もう何年生きてるんだかも疑わしいゾンビなくせに、妙に顔だけは美少年面のムカツク某司令塔とは大違いだ。


 しかし。



「・・・・・・・だれだ・・・・?」


 自分が謎の少年に抱き抱えられたままの体勢である事も、失念し。
 アルヴィスは、瞬きを繰り返した。

 相手は、確かに自分の名を呼んでいたが・・・・・・・・・・・・・アルヴィスは彼の事を知らない。
 赤いベストが目に痛い、黒の蝶ネクタイにドレスシャツ着た派手な少年。

 真っ白な長いウサギ耳と、邪魔になるくらい大きな懐中時計が妙に似合っている。


「・・・・・俺はウサギに知り合いなんか、・・・・・・ああっ!?」


 少年の姿を、胡散臭そうに見つめながらボンヤリとそう言いかけて。
 アルヴィスは、大声を出した。

 確かにウサギに、知り合いは居ない。

 けれど今、最優先に探さなければならないのはウサギだった!!
 しかも、赤いチョッキで懐中時計。


 ――――――探している条件にドンピシャだ。



「時計ウサギ!! 時計ウサギだなお前っ!!??」


 逃げられてなるものかと、アルヴィスは興奮のままにウサギ少年の首に抱きついた。


「あっ、・・・え、・・・・・・・は?? ・・・確かにボク、ウサギですけど・・・・・・わっ、アルヴィスさんっっ!!?」


 急に抱きつかれバランスを崩したウサギ少年は、アルヴィスを抱えた状態で背中から倒れて草の上に転がる。


「わっ、・・・痛っ、・・・・・〜〜〜〜〜〜><!!」

「・・・・・・・・・っ・・・」


 ドサッという音と共にアルヴィスの身体にも軽い衝撃が走ったが、下敷きにしたウサギほどでは無かっただろう。

 だが、そんなことには構っては居られない。


「時計ウサギ!! 良かったお前を捜してたんだ・・・・!!!」


 ウサギを押し倒し。

 スカートではしたなく大股開きに乗っかった体勢で、アルヴィスは叫んだ。








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言い訳。
不思議の国のアルヴィス、第二弾です(笑)
段々アルヴィスのガラが悪くなってきた気がしますが、まあそこは気のせいということd(爆)
ファントムが作った、むちゃくちゃな世界の無茶苦茶なお話。
アルヴィスがヤサグレちゃうのも無理ないかな、と言うことにしといて下さい(笑)
今回登場したウサギさんは、もちろんインガ君ですvv
今回の彼、アルヴィスと同い年設定なんですが・・・・・本来原作だと5〜6歳年下の筈の彼が何故、16歳なのか(笑)
そこら辺の事情は次回と言うことで(←別にどうでも良いですよね!/笑)。

実はこの話って、微妙に日記で書いてたインアルバレンタイン話とも繋がってたりして(←?)。
ただし、・・・こっちはファンアルですが・・・!!(笑)