バラの花束贈っていいのは二次元の住人だけだからさ(or手編みマフラー) 「ねえテッちゃん、何色がイイと思いますか?」 雀ヶ森レンの日常は、ほぼ櫂トシキのことで回っている。 「は? 何のことですレン様」 だからそう聞き返しながらも、どうせ櫂に関する内容なのだと予想しつつ。 テツは、FF本部の執務室で椅子に腰掛けながらぼーっと宙を見つめたまま、いつもの如く全く仕事をしてくれない主に向かって問うた。 「んーもう、そんなの櫂のことに決まってますよ! 櫂には何色の薔薇が似合うかと聞いているんです」 「薔薇、ですか・・・?」 櫂トシキに、薔薇の花。 レンに負けず劣らず、タイプは違うが美しい顔立ちをした櫂に薔薇は似合うといえるだろう。 だが、似合うのと本人がそれを好むかというのは別問題。 そしてテツの知る限り、櫂は花に興味を持つような人間では無かった。 花などを贈るより、ヴァンガードのレアカードを贈った方が余程喜ぶのは間違いない。 だが、その旨をテツが告げれば、レンはチッチッと舌を鳴らしながら人差し指を揺らしてみせた。 「分かって無いですねえ、テッちゃんは!」 「・・・はあ」 分かっていないのは、絶対にテツではなくレンの方だろう。 「僕は愛の証として櫂に薔薇を贈りたいんですよ! カードじゃいつもプレゼントしてるのと変わりないじゃないですか!」 「ですがレン様・・・」 言いにくい。 こんなにノリノリになっているレンに真実を告げるのは、本当に言いづらい。 だがしかし、ここでちゃんと理解させなければ後々にテツ達が困り果てることとなるのだ。 花なんて、薔薇だろうが何だろうが、櫂に贈ったところで突き返されるに決まっている。 突き返されたら、レンがショックを受けてテツ達にどうにかしろと泣きつくか暴れるか他の人間に八つ当たりするか―――――そのどれになるかは分からないが、ともかく、面倒臭いことになるのだ。 ついでに言うと、お前はなんでレンを野放しにしておいたんだ、とテツが理不尽な責めを櫂から受けるのも確定である。 だからテツは、必死になってレンを止めた。 「赤ですね!やはりここは情熱の赤、愛を示す赤色が相応しいでしょう・・・ フフフ、櫂には深紅の薔薇が良く似合います・・・!!!」 けれど、レンは所詮レンであり、テツが何と言おうとゴーイングマイウェイ。 聞く耳など持ってくれる筈も無かった。 「1本で『ただ貴方だけ』。3本だと『貴方を愛してます』。 9本で『いつまでも末永く』で、24本だと『いつの時も貴方が恋しい』。 ・・・50本で『恒久の愛』、108本で『尽きることの無い愛』。 365本で『毎日まいにち貴方が恋しい』という意味になるんでしたよね・・・」 テツが返事をする間もなく、ぺらぺらと薔薇の本数の意味を並べ立てる。 良くもまあ、そんな意味をメモも見ずに諳(そら)んじられるものだ。 まあそれだけ、真剣に櫂への想いを込めているのかも知れないが。 「―――――うーん、どれもイマイチな気がします。 ・・・幾つか、いいなあと思うのもあるんですが・・・いっそもう999本で『何回生まれ変わっても永遠に変わらない』って辺りが素敵でしょうか?」 「レン様、しかし999本というのは・・・・」 多い。多すぎる。 100本だって、相当なボリュームであるし、貰った方も花瓶に生けるだけで大変だろう。 櫂の性格から言って、花には興味は無いだろうが、だからといって貰ってしまったモノをそのままうち捨てるようなことはすまい。 無碍に枯らしてしまうのは可哀想だからと、放置することだけはしない気がする。 流石にそれを思うと、櫂が気の毒だった。 「そうですよね!999本というのは僕もどうかと思います」 だから、レンがそう言って頷いてくれた時、テツは安堵したのである。 だがしかし。 レンの言葉には続きがあった。 「どうせなら、あと1本足して1000本の方がキリが良いですよね! そう、1000本にも意味があった筈なんです・・・!」 「・・・・・・・」 ―――――櫂、済まない。俺にはレン様が止められん・・・・!! テツはもう、レンに何を言うことも出来ずに押し黙った。 かくして、後日。 「な、なんだこれは!? なんで俺の部屋がこんな・・・!!!」 櫂トシキの自宅マンションには、無数の深紅の薔薇が届けられ、部屋中が花で埋め尽くされたのである―――――。 「レンか!?レンだな!?? くそっ、・・・アイツめ! こんな大量の薔薇なんて贈られて俺が喜ぶとでも思ってるのかあの馬鹿・・・!!!!」 薔薇で埋め尽くされた薔薇まみれの櫂の部屋に、主の悲痛な(というか怨嗟の)叫びが響き渡った。 「こんなに沢山、俺の部屋の何処に置けばいいと思ってる!?? ―――――というか俺は寝ることすら出来ないだろうが・・・!!!!」 『櫂へ。1000本の薔薇:1万年の愛を込めて。 レンより』 ―――――バラの花束贈っていいのは二次元の住人だけだからさ。 End |