『Black or White? −1−』








 ―――――・・・うわ、黒くて白いってば・・・!



 初めて、サスケを目にした時。
 ナルトの胸を過ぎったのは、そんな感想だった。

 金髪碧眼の父親を持ち、自分も同じ色合いの髪と瞳で、更に母も栗色の髪と瞳という環境に育ったナルトにしてみれば、こんな黒白な人間は珍しい。
 海外で育ったナルトは、日本では黒髪黒目の人間の方が多いとは聞いていたものの、余り目にする機会が無かったのだから余計だ。

 目の前にいる自分と同じ年くらいの子供は、とにかく黒くて白い。
 喩えるなら、真っ白な紙に真っ黒なインクで姿を描き、髪の毛と目の部分を塗りつぶせばサスケが完成するという印象だ。

 それほど、目の前に居る子供は髪と目が真っ黒で、肌がとにかく白かった。
 ついでに言えば、ナルトが今まで見た中で、1番可愛い。


「・・・・・・・・・・」


 くっきり二重の大きな丸い目は、いつか見た人形みたいに長い睫毛がバサバサで。
 小造りだけれど形のキレイな鼻は、ツンと高い。
 やっぱり小さめだけど、ぷくっとした唇も何だか可愛らしくて。
 真っ白で柔らかそうなほっぺたは、思わず触りたくなるほどだ。

 真っ黒な髪の後ろ部分はナルトのようにツンツンと逆立っているが、前髪部分は白い額を見せて真ん中からスッキリと分けられ、耳や頬にサラリと掛かっているのが良く似合っている。
 ニコリともせずに、じっとその真っ黒な瞳にナルトを映し、此方を見つめている様は―――――――・・・とても可愛かった。

 少々気が強そうだけれど、それだって何処かのお姫様みたいに見えて、可愛らしさが増している気がする。


「サスケ君も4歳なんですか、じゃあウチのナルトと同じですね――――――」

「あらそうなの? 良かったわねサスケ、お友達が出来たわよ・・・」


 引っ越してきた挨拶をしてくると言った父親にくっついて、お隣の『うちは家』にやってきたナルトだったが、本来の目的も忘れてただただ、サスケを見つめ続けてしまう。

 うずまきナルト、初めての恋に落ちた瞬間であった。



「・・・・・・・・・・・・・」



 ―――――――・・・可愛いってばよ! 俺が今まで見た子の中で、1番かわいいってば・・・・!!



「・・・あ、あの・・・さ、・・・・」


 ちゃんとご挨拶しなさい、と父親のミナトに何度かせっつかれて、ようやくナルトは口を開いた。


「えと、あの・・・・」

 しかし、せっかく出会えた可愛い子と何か話したいと思うのに、言葉が出てこない。
 ちゃんと喋りたいと思えば思うほど、喉に何かが引っかかっているかのように、声が出なかった。


「・・・・・・・・・」


 そんなナルトに、何を言うでもなく。
 サスケはただ、じいっと此方を見つめている。

 微動だにしないから、自分と同じ大きさで出来た人形みたいだ。
 実際、すごく高級なお店で売っていそうな人形みたいに可愛い顔をしているから、本当にそう思ってしまいそうになる。


「・・・あ〜う〜〜、・・・・・」


 ナルトはそれにまたドキドキしてしまい、余計に言葉が出なくなった。


「ほら、サスケもご挨拶しないとダメでしょう」


 そうこうしている内に、サスケと同じに黒い髪と瞳をしたサスケの母が、ナルトの方へとサスケを押しやってくる。
 サスケはそれに少しだけ嫌がるような顔をしたが、大人しくナルトの方へと近づいてきた。

 動いたから、やっぱり人形ではない。

 本物だ。
 本物の、生きてる可愛い子だ。



 ――――――あ、瞬(まばた)きした・・・睫毛、長いってば。



「・・・・・っ、・・」


 たったそれだけで、またナルトの胸がドキンと跳ねる。

 近づいてみれば、目線が少しだけ自分よりサスケの方が上で。
 今日から沢山牛乳を飲んで、絶対サスケより背が高くなってやろうとナルトは勝手に決意した。


「・・・・・・・・」


 吸い込まれそうな真っ黒な瞳にナルトの姿を映したまま、サスケが微かに唇を動かす。

 そういえばまだ、サスケの声を聞いていなかった。
 ――――――・・・そう考えながら、ナルトはサスケの発する声を聞き漏らすまいと意識を集中する。

 この可愛い子は、どんな声をしているのだろう。
 既にナルトは、出逢った瞬間からサスケに夢中だ。


「・・・ヘンナイロ」


 サスケは、ナルトの胸にスッと飛び込んでくるような、少し硬い感じがするけれど良く通った声をしていた。

「へっ?」


 だが、愛想の欠片も無い声で発せられた言葉の意味が、ナルトには分からない。


「・・・へ・・んない、ろ・・・??」


 意味が通じなかった。

 家で使っている言葉と、こっちの国の言葉は一緒だから、話すのには困らないよ・・・と父親のミナトは言っていたのだけれど。
 もしかしてやっぱり、こっちでは違う言葉を話してるのだろうかとナルトは焦った。

 どうしよう・・・それなら早く、覚え無いと。
 サスケと、話せないじゃないか。


「サスケ、ダメでしょうそんなこと言ったら!」


 しかしすぐ、言葉を発したサスケを窘(たしな)めるように、サスケの母が彼の頭に手をやり頭を下げさせてくる。


「ごめんなさいね、ナルト君。この子、貴方みたいな髪や目の色の子を見たの初めてで・・・照れてるのよ」

「!? ちがっ、・・・!!」


 言われた途端、サスケが頭を上げようとするのを、またグイッと下げさせて。
 サスケの母は、ナルトに向かって謝ってきた。

 何故か、次に発せられたサスケの言葉は、言いかけだったにも関わらず意味が通じる。


「ホントごめんなさいね」

「・・・・・・・・・・」


 そこまで言われて、ようやくナルトは先程の言葉『ヘンナイロ』が『変な色』と言われていたことに気付く。
 こっちの国では、金髪や碧い目は珍しいらしいから、それをサスケは言っていたらしい。

 変、とひとことで言われるとは思わなかったけれど。


「べつに、・・・いいってばよ! 俺もサスケの髪とか目・・・おばちゃんのもだけど、初めて見たーって思ったし・・・」


 でもそれは、ナルトだって同じだ。
 さっきから、見慣れぬサスケの真っ黒な髪と瞳に釘付けなのだから。


「よろしくな、サスケ? 俺、ナルトっていうんだってばよ」


 幾分、緊張が解れて、ナルトはようやくサスケに言葉を発することが出来た。

 ナルトとしては、すでにこの出逢ったばかりの子供と仲良くなりたくて堪らない。
 早く友達になって、一緒に遊びたくて堪らなかった。


「・・・・・・・・」


 だが、サスケは黙りこくったままだった。
 また人形みたいに整った顔で、じーっとナルトを見ているだけだ。

 挙げ句、ナルトの前からスッと離れて、母親の影に隠れようとする。

 完全に無視された形だが、それでもサスケのそんな仕草があんまり可愛くて、ナルトは怒る気になれなかった。
 だってまるで、物陰からビクビクしつつ様子を伺う、ちび猫みたいだ。

 母親の後ろに隠れつつ、大きな真っ黒い瞳でナルトを見ているのが凄く可愛らしい。
 出来るなら、ナルトが彼の母親に替わってサスケを後ろの庇いたいくらいである。


「もう、・・・!」


 母親がサスケの頭を撫でながら、ナルトに向かってまた苦笑してきた。


「ゴメンなさいね・・・ナルト君。・・・・サスケは人見知りで、お兄ちゃん以外になかなか懐かないのよ」

「ひとみしり・・・」


 その単語は、知っている。
 確か、知らない人を怖がったり、話しかけたりするのを恥ずかしがったりすることだ。

 気が弱くて大人しい子に、多いらしい。


「・・・・・・・・・・・」


 ナルトとサスケは今日が初対面だから、サスケはナルトに人見知りをしているのだろう。
 でも今日知り合ったんだから、これからはサスケはナルトに人見知りはしないということで。

 今度サスケが誰かと出会って、また人見知りしたら・・・ナルトが庇ってあげればいい。
 そうしたらサスケは、今、母親の背に隠れているように、可愛くナルトの後ろに隠れてくれるに違いない・・・。



 ―――――――・・・うんうん、可愛いサスケに、ぴったりだってばよ!



 ナルトの頭の中で、勝手に妄想という名の、勝手な想像が繰り広げられ始めた。







「おや、サスケ君にお兄ちゃんが居るんですか?」

「そうなの、イタチといって5歳上の男の子。で今は学校行ってるから居ないんだけれど・・・帰ってきたらとにかく、サスケがべったりで」

「仲が良い兄弟なんですねえ」

「ええ、ちょっとだけ将来が不安になるくらい懐いてるの。お兄ちゃん以外とは、マトモに喋ろうとしないんだから」

「おやおや、じゃあウチのナルトがすっかりサスケ君のこと気に入ったみたいですけど、前途多難だなあ」

「あら、ウフフ・・・それは光栄ね。この子、ホントにイタチにべったりだから・・・・ナルト君と仲良くしてくれたら嬉しいわ」

「此方こそ、こんな可愛い子なら是非ナルトのお嫁さんに欲しいくらいです」

「まあ、それは名案ね! ・・・ウチの人と、長男が顔色変えそうだけど・・・今から子離れ弟離れして貰うには良いかも知れないわ」

「アハハ・・・」

「ウフフ・・・」





 ナルトは、自分の父親とサスケの母親の間で為される、子供の意見を無視した会話は、全く聞いていなかった。

 脳内は、見知らぬ大人に怯えるサスケを庇い、人見知りな彼に頼られる想像で一杯である。
 ナルトの中では既に、可愛いサスケは人見知りで口下手で、頼りがいのある自分無しでは満足に他人と接することの出来ない大人しい内気な子供とインプットされつつあった。

 初対面の相手に対し、挨拶も何も無く、開口一番ナルトの髪や目を指して『変な色』、と言い放ったサスケが内気である筈も無いのだが。


「へへ、・・・俺が守ってやるってばよ・・・!」


 そして脳内の想像に、にへらにへらと顔を弛ませて悦に入る自分を眺め、サスケが何というアホ面だろうと呆れ顔になっていることも知らずに、ナルトは誓うのだった。


「サスケ、これからは俺がずっと一緒に居てやるってば・・・!!」


 もちろん、自分の妄想で作りあげた可憐で純情で、内気でおとなしいサスケに―――――――である。


「なに、気持ち悪ィこと言ってやがる・・・・!!」


 だが、そんなナルトの顔面に、大人しくて可憐な筈の。
 実際は、兄至上主義でありそれ以外はどうでもいいと思っている、傍若無人なサスケの足裏がヒットするのは時間の問題であった――――――――――。









...To Be Continued 


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言い訳。
イタサス前提な、ナルサス物語・・になる筈でs(爆)
原作沿いは好きなんですが、やっぱりパラレル系の方が書きやすいみたいです^^;
今回は幼い2人の出逢いを書きましたが、メインは高校生になったサスケと大学生なイタチ兄さん(+ナルト)って感じになります☆
設定は追々、判明していくように書くつもりですけど、どうなるかなー(笑)
とりあえず、長編になる予定です☆