『1 しあわせにしてあげる』





ファントム×アルヴィス(原作・チェス勝利設定ver)









 特別に誂(あつら)えさせた広い寝台の上から、ボクを見上げる少年。

 その髪は、月明かりに輝く海のような青色で。
 その肌は、アラバスター(雪花石膏)のように白い。

 そしてその、人形を思わせるその繊細に整った小さな顔が、ボクのお気に入り。
 彼が持つ、眦(まなじり)が吊り上がり気味の大きな瞳がボクを魅了して止まないんだ。

 本当に、・・・・キレイな青色。

 見ているだけで、心が洗われるような心地になる。


 ―――――――・・・キレイだな。


 発色の鮮やかな深い青の瞳は、この世に存在する何物よりも、ボクの心を癒してくれる存在だ。



「・・・・・・・・・・」


 けれど。

 そんなキレイな目を持つ彼なのに。
 どうしてか、・・・浮かべている表情が険しい。

 せっかく、キレイな顔立ちをしてるのに。
 笑ったら、すごく可愛い筈なのに。


「どうしたの、アルヴィス君?」


 キレイな顔が、可憐に微笑む様子を思い浮かべたら、すごく見たくなって。


「そんな顰(しか)め面より、ボク、キミが笑った顔見たいんだけど」


 ボクは寝台に歩み寄って、キレイな顔の少年に笑いかけた。


「・・・・・・・・・・・・・」


 少年は、ますます顔を険しくして、ボクを睨んでくる。

 青い瞳に本物の険が宿るさまは―――――――・・・それなりに見事というか凄みが増して、キレイといえばキレイだ。
 視線の温度が下がれば下がるほど、氷みたいな鋭利な美しさが増していく。

 でも、どうしてかな?
 彼にこんな・・・敵視されるような覚えは、ボクには無いんだけれど。


「なんかご不満・・・・って顔してるね? どうしたの、何が不満なのかな?」

「・・・・っ、・・・全部に決まってる・・・・!!!」


 おやおや。
 分からないから聞いたのに、『全部』とは随分な言われようだ。


「寝台も、シーツも枕も、全部最高級の物を用意させたし、・・・室温も完璧にコントロールしてるから、寒いはず無いし。
 食事だって何だって、全部行き届いた管理してるのに・・・・何が不満なんだい?」


 これでも、お気に入りの彼の為に、色々と手間暇掛けて最高の環境を作りあげたつもりなんだ。

 彼の美しさを少しも損なわないように、考え得る限りの、最適な『部屋』を用意したはず。
 それで気に入らないって言われちゃうんだから、・・・ホント我が儘なんだよね! ・・・ボクのお姫様ったら。


「・・・・・俺が言いたいのは、そんなことじゃない・・・・!」


 あれ? 不満なのって調度品のことじゃないのかな。

 なら、こっちのことかなー・・・・?
 でもそれは、不可抗力だと思うんだけれど。


「ああ、・・・じゃあこの部屋にベッドしか無いことを怒ってる?」

「!!」


 アルヴィス君の、表情が変わった。

 やっぱり、・・・これが正解?
 ま、正解だったとしても、どうしてあげることも出来ないんだけどね!


「んーでも、それは仕方ないよ」

「・・・・・・・・・・・」


 相変わらず険しい顔で此方を見つめる少年に、ボクは少しだけ考える素振りをしてから、そう言った。

 アルヴィス君、気難しいからね。
 こういう細かいアクション入れてからじゃないと、かなりの確率でヘソ曲げちゃうんだよ。

 それはそれで可愛いけれど、そうなっちゃうとまた、話がややこしくなっちゃうから。


「他の物を置いていくと、アルヴィス君が怪我しちゃうでしょう」


 幼い子に言い聞かせるように、ボクはゆっくりと言葉を発する。

 実際ちゃんと理解して欲しいし、納得してボクの言うとおりにして欲しいからね。
 何せ此処へ連れてきてからの彼は、幼い子というか、まるで駄々っ子だ。


「――――――キミ、良く暴れるから」

「・・・・・・・・・・」


 だからベッドしか置けない・・・・そう言ったボクの眼前で、アルヴィス君は盛大に顔をしかめた。


「不満? ・・・でも事実だよね?」


 そう。
 ここへ連れてきてからの彼は、良く暴れる。

 今は首輪と鎖だけで済んでいるけれど、最初なんて手足も縛っておかないと駄目なくらいだった。
 自分の身体が傷付くのも顧(かえり)みず、滅茶苦茶に暴れるものだから―――――――酷い打撲や切り傷、そして脱臼から骨折に至るまで・・・・死にたいのかと思うくらい、アルヴィス君は自らの身体をボロボロに痛めつけ続けた。

 縛(いまし)めた手首や足首の、皮膚が擦り切れて血が滲んだり、関節が外れたりするのなんて序の口。
 固い壁に頭や肩を何度も打ち付けて、酷い打撲や脱臼を生じさせてみたり・・・・骨にヒビが入ったり折れたりするのも連日のことだった。

 けれども、そんなことをいつまでも許しておけるワケは無い。
 だって彼の全ては、ボクの物なんだからね。

 彼自身が彼の身体を傷つけることを望んだとしても、―――――――・・・このボクが許さない。

 だから、彼の身体が傷付かないように、この部屋を特別に誂えさせた。

 大きな寝台、1つきりしか無い部屋。
 三面は石の壁、残りの一面は鉄格子の填った大きな窓があるだけの・・・・床は殆どが寝台で埋まっている部屋。

 そこに彼を、魔力を封じる首輪で鎖に繋ぎ、寝台の上でしか過ごせないように閉じ込めている。
 彼の肌を傷つけないように、三方の壁には絹に綿を入れて仕上げてあるクッション材を配置して、鉄格子にも同様に柔らかな布を巻くという徹底ぶりだ。



















「もう暴れないって、約束できるなら・・・考えてあげてもいいけれど」

「・・・・・・・・・・・」

「それで、何が欲しいのアルヴィス君?」


 ふくれ面になってる彼をこのまま見てるのも楽しそうだけど、一体何が欲しいのかも興味があった。

 大抵の物なら、用意してあげられる自信はあるんだけど・・・・・・・・・さて、彼は何と言うだろう?
 可愛くお願い出来たら、叶えてあげてもいいかな。

 もちろん、ベッドしかないこの部屋から彼を移す、っていうのは却下だけどね?


「・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・、・・・・・・・・・ふく」


 キレイな顔の少年は、散々に言おうか言うまいか迷う仕草を見せてから、ようやく短く言葉を発してきた。


「・・・・服・・・・返して、・・・くれ」


 途切れ途切れにそう言う少年の姿は、一糸まとわぬ裸体。
 彼の持ち物は・・・・・・・・その細い首を飾る、赤い光を仄かに放つ首輪だけ。


「どうして? 寒くは無いでしょう」


 そう言う意味で言ったのじゃないと知りつつ、ボクはとぼけてみる。


「・・・・・・・・!!」


 案の定、彼は青い瞳に再び憤りの色を浮かべた。

 その色は、嫌いじゃないよ。
 とてもキレイだから。

 感情が高ぶると、瞳の青色が鮮やかさを増す。
 ボクはその色を見るのが、大好きだからね。


「この部屋にはボクとキミしか居ないんだし、・・・・服を着てようと着ていまいと、問題は無いよね?」

「そ、ういう問題じゃなくて、・・・・!!」


 白い肌をほんのり朱に染めて、少し言葉を詰まらせながら叫んでくる彼。

 すっごく可愛いんだけど・・・アレ?
 もしかして、恥ずかしがっているのかな?


「ふうん・・・・ボクに見られてるのが、恥ずかしい?」

「・・・・・・・・・」


 認めるのが悔しいのか、アルヴィス君は黙ったままだった。


「キミの服・・・クロスガードの紋章付きなんて気に入らないから、処分させちゃったよ」


 だからとっくに無い、って教えてあげたら。
 可愛い顔の眉間に刻まれたシワが、一層深くなった。

 あーもう、ダメだよ・・・・そんな悲愴な顔したら。
 可愛くて、キミがもっと嫌がるようなことがしたくなっちゃう!

 ―――――コレは、ボクのせいじゃないよ?

 ボクを煽るようなことばっかりする、キミが悪いんだから。
 あんまりキミが、可愛いことばかりしてボクを煽るからイケナイんだ。


「それにさぁー・・・、」


 もっともっと、しかめ面の可愛らしい顔が見たくて。
 ボクは、じーっと彼の顔を見つめながらゆっくり、言葉を発する。

 こういう言い方、彼は嫌うんだよね。
 いつもすっごく、悔しそうな顔してくれるんだよ。

 それがまた、クラクラ来ちゃうくらい可愛いんだ!


「キミの身体を・・・・今更、隠す必要は無いでしょう?」

「・・・・・」

「――――――ボクが知らない所ひとつも無いんだから、・・・・・その身体」

「・・・・・っ、・・・!!」


 ほぅら。
 怒りで瞳孔が収縮して、また更に瞳の青さが増す。

 ああでも、唇を噛みしめるのは頂けないな。
 熟れたみたいに真っ赤になって、しっとり濡れている様はとても扇情的でキレイなんだけれど・・・・そう噛んでいては切れてしまう。

 彼の身体ぜんぶは、ボクのモノだ。
 傷つけるなんて行為は・・・・たとえ彼本人だとしても許せない。


「噛まないで? ・・・切れちゃうよ」


 そう言って、傍にある身体へと手を伸ばしたら。

 びくん、と。
 見て分かるくらい大きく、アルヴィス君は身体を跳ねさせた。

 興奮に紅潮していた顔が青ざめ、元から人形みたいな顔が表情を失う。

 ―――――――そういう顔も好き。

 ボクは、アルヴィス君が浮かべる表情なら、何だって大好きなんだ。・・・・ゾクゾクする。


「・・・や・・・・っ、・・・!」


 必死に手を突っ張り、逃れようとする身体を押さえ付けて、ボクは彼をベッドへと縫い止めた。


「・・・・・・・・・・・、」


 気丈にボクを見返す視線も顔も、険しいけれど―――――・・・隠せてないね、恐怖と絶望。

 敵わないって、知ってるんだよね。
 抵抗しても無駄だって、理解してるんだよね。

 だけど、受け入れられないんだよね・・・・・・・・・全部、良く分かってるよ。


「ふふ、・・・これからボクが何するのか・・・・もう分かるよね?」


 でもね。
 その、悟りつつも受け入れられない―――――・・・って、葛藤しているキミが1番、キレイで大好き。

 屈辱に震えながら、でも快楽に抗い切れず翻弄されるキミが可愛くて好き。
 悦楽に落ちる寸前までの、躊躇(ためら)いながら切なそうに耐えているキミも・・・・陥落して、気持ち良さそうに啼き始めるキミも大好きだよ。

 だから、見せてね。
 ボクが大好きな、・・・・・・・・キミの色んな表情(カオ)。


「・・・・・・・・っ、」


 組み敷いたキミを上から見下ろせば、アルヴィス君はキツイ瞳でボクを睨んできた。

 緊張してるのか、押さえ付けている身体もガチガチに固くなってる。
 ボクは、・・・・可愛がってあげたいだけなのにね?

 仕方ないのかな、・・・・彼はまだまだ、何が幸せかを理解していないから。

 だって、あんなに醜い世界や人間達の元に、帰りたがっているものね。
 幼い頃から歪んだ世界に居たせいで、真実が何たるかを理解していない。

 キミの身体に絡まり守っていたタトゥも完成して、永遠の命を手に入れ・・・・かつてのキミの仲間達だって、全部始末してあげたのに。
 あの腐った世界に心残りなんて、無い筈なのに、・・・ね?

 でもボクは、そんなキミを見捨てたりしないよ。
 大好きなキミを、諦めたりなんて決してしない。

 だって、アルヴィス君――――――・・・キミは、ボクだけの為に存在しているんだから。


「・・・・鼓動が早いな。・・・緊張している?」

「・・・・・・・・・・・」


 右手の平を、彼の白い胸元へと押し付ければ、薄い皮膚と肋を通してドクドクと心臓が激しく震えているのを感じた。
 ボクを噛み殺さん、とばかりに気丈に見つめてくれているけれど・・・・怖がってるって、身体が正直に訴えている。

 ホント、・・・・可愛いなあ。

 こうしてキミの胸に手を置いていると。
 ボクの右手の甲にある炎の形をしたタトゥと、・・・・キミの胸にある同形の痣を重ねているようだよね。

 ボクのプレゼント、ちゃんと受け取ってくれて嬉しいな。
 タトゥは既に完成している――――――・・・一緒に、永遠を生きようねアルヴィス君。

 どんなにキミが嫌がっても、逃げようとしても、ボクは決して離さない。
 醜くてどうしようもない世界への思慕なんて、その世界ごとボクが全部壊してあげる。

 キミの間違った思想なんて、ボクが根こそぎ覆(くつがえ)してみせるよ・・・・・・・・時間なら、永遠にあるからね。

 ね、・・・嬉しいでしょ?
 幸せでしょう・・・ボクにこんなに愛されて。


 アルヴィス君、ボクがキミを幸せにしてあげるからね。


 キミをボクだけの檻に閉じ込めて、――――――・・・永遠の幸福を与えてあげる。



 ――――――― し あ わ せ に   し て あ げ る ・・・・ 。



++++++++++++++++++++
言い訳。
『狂気』ってことで、1.5倍ほどそれを余計に念頭に置いてトム様一人称を書いてみました・・・が。
予想以上にキモくなりましたね!(爆笑)
お約束の監禁ネタですが、やっぱファントムはこういうの似合います☆
アルヴィスを裸に剥いて監禁、というのは、普通に監禁するだけじゃツマラナイかなーと思いまして・・・(爆)
身に付けてるモノが首輪だけ、ってチョット萌えじゃないですk?(←アンタだけです)。
身体を覆うモノが無くて、裸でシーツにくるまってるのとか、構図的に好きなんですよねー(笑)
や、描けませんけど・・・!
今回は、原作・チェス勝利設定verのファンアルでお送りしてみましたv