『05. もっと妖しく誘ってよ』 1・妖艶で、とろけるような表情。 2・艶っぽい仕草。 3・何だか透けてるヤバ目な衣装。 4・濃厚なキス。 ―――――妖しく誘う、のイメージは大体こんなものだとアルヴィスは思う。 しかし。 この中で自分がクリア出来そうなのは・・・・・4しか無い。 1も2も漠然とし過ぎていて良く分からないし、3は絶対に嫌だ。 4ならば何とか――――具体的だし、したこと無いワケでは無いし、イケル気がする。 それでもかなり、難易度は高め。 どうすれば良いのだろう? ウマイ奴に聞く? ・・・そうだ当の本人に聞けば教えてくれるかも知れない。 だが、それではバレてしまうし第一恥ずかしい。 それに実践だとか言ってキスされたらもう・・・何も分からなくなって結局コツなんて分からなくなってしまうに違いない――――だってそれがいつもの事だ。 じゃあ、他の上手いヤツに聞く? ロランとか意外と上手そうだけど、ファントムに筒抜けになる気がするし・・・ギンタは下手そうだ・・・・ドロシー辺りに聞くとからかわれそうだし―――――ナナシとかなら絶対上手い気がする。 ナナシに聞こうか? けれど、何か変な見返りを要求されそうな気がする。 「・・・・・・・・」 いつもなら真剣にノートを取っている、大学の授業中。 アルヴィスは人形のように整ったキレイな顔を顰め、真剣に考えていた。 「・・・・・・・・」 ノートを開き、シャープペンシルを握ったまま考え込んでいるので、端から見れば真剣に講師の話に聞き入っているように見える。 だが、アルヴィスの頭の中は冒頭の内容で占められていた。 ちなみに、ノートには先程から考えている@〜Cが書き込まれている。 「・・・・・・・・・・・」 けれど考えても考えても、解決法が見当たらない。 第一、誰かに聞こうにも、何故そんな事を聞くのかと逆に問われれば・・・いや絶対に聞かれるだろうが・・・・・事情を言わなければならなくなる。 「・・・・・・・・・」 アルヴィスの眉間に、ますますシワが寄った。 ―――――─それは、嫌だ。 「・・・・・・・・・」 ペンを握っている指先にギュッと力を込め。 アルヴィスは再び解決方法に考えを巡らせた。 何故アルヴィスがそんな事を考え始めたのか。 それは、昨夜に遡る。 「え、駄目に決まってるでしょ? 許さないよ」 言った途端、誰もが振り返るような銀髪の美青年は涼しい顔でそう答えた。 「・・・クラスコンパなんて行く必要無いよ。単なる飲み会なんだし」 キャンドルが揺らめく、落ちついた店内。 フレンチ・レストランの個室に設けられたテーブル席に着き、黄金色のシャンパンが満たされたフルート型のグラスを手にしながら、ファントムはそう言葉を続ける。 「アルヴィス君まだ未成年だし。わざわざお酒飲みに行くこと無いよね」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 なら、自分の前に置かれているこのシャンパングラスは何なんだ―――――そう言いたいのをグッと堪え。 アルヴィスは目の前の相手に不満を示すように、眉根を寄せる。 「でも、・・・せっかく誘ってもらったし・・・前々から何度も言われてたけど俺、ずっと断ってたから・・・・」 だから行きたいのだと、意思表示をした。 「そうだよね。アルヴィス君、春先はずっと調子悪かったから・・・大学休みがちだったし、コンパどころじゃなかったもんね」 「だから、・・・」 「駄目だよ。お酒飲み過ぎると、発作起きやすいんだから。僕の居ない所で飲むのは禁止」 更に言い募ろうとしたアルヴィスを遮り、ファントムは再度訴えを却下する。 「最近、喘息出なくて安心してるんだろうけど・・・・アルコールは発作を誘発させるよ。余り飲まない方がいい」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 目の前で、くーっとシャンパンを嚥下する白い喉を見ながら、アルヴィスは唇を噛んだ。 大学入学前から、突如、頻繁に引き起こされるようになってしまった、喘息発作。 奇跡的な確率で偶然出逢い、そのままなし崩しに同居する事となってしまった年上の幼なじみが医学生(正式に言えば海外で既に医師免許取得済みなので医師なのだが)な事もあって、今やファントムとアルヴィスは、恋人同士である上に主治医と患者のような関係だ。 春先からずっと、環境の急激な変化やら何やらどれが原因かは不明だが、何度も喘息の発作を起こしその内の数回は入院騒ぎになってしまっていたので、―――――体調面の事を言われると、流石に弱い。 けれども、その体調不良が原因で、大学の仲間達の再三の誘いを断っているのもまた事実なのだ。 アルヴィス自身、あまりそういった付き合いは好きではないし、自ら進んで行きたいと思う方では無かったが、・・・・それでもそれなりに話して楽しい友人達が出来つつあったし、彼らが誘うのならという気持ちが無くもない。 最近は調子も良くて咳も出ていないし、大丈夫だろうという気がしている。 だから、行ってもいいかと聞いてみた訳なのだが―――――─主治医の答えはNO。 「・・・・・・・・・・」 黙り込んでしまったアルヴィスを、どう思ったのか。 ファントムが、野菜のテリーヌをクレープ包みにした料理にナイフを入れるのをやめ、じっと此方を見つめてきた。 そして、クスリと柔らかく笑う。 「お酒飲んでみたいなら、こうやって僕が連れてきてあげるよ。グラス一杯くらいなら平気だろうし」 「・・・・・・そうじゃなくて、」 論点がずれている。 アルヴィスは別に、酒が飲みたい訳では無いのだ。 「酒が飲みたいんじゃなくて、俺は・・・・」 「じゃあ尚更、・・・駄目」 ファントムがアーモンド型の双眸を細めた。 アメジスト色の瞳が、テーブルに置かれたキャンドルに映えて揺らめく。 「コンパなんて、野獣の群れに羊を投げ込むようなモンだしね」 「・・・・・・・・・・・・は?」 低い声で言われた言葉の意味が掴めず、アルヴィスは何度か瞬きを繰り返した。 野獣? 羊? 投げ込むって、・・・何?? 「だから心配でしょ・・・僕の目の届かないトコでアルヴィス君が襲われたりしたら」 言いながらファントムは、投げやりな調子で手にしていたナイフとフォークを皿の上に置く。それでも音が殆どしなかったのが不思議だ。 「・・・いや、クラス・・・・殆ど男しか居ないんだけど・・・」 襲われるも何も。そう思い、アルヴィスは戸惑いがちに言葉を返した。 「・・・・・・・はー・・・・」 するとファントムは、ヤレヤレといった様子で溜息を吐き首を横に振る。 「―――――何だよ?」 いかにも馬鹿な子だと言わんばかりの態度にムッとしてアルヴィスが聞き返せば、銀髪の美青年は膝のナプキンで口を拭いながら苦笑を浮かべた。 「アルヴィス君は本当に無頓着だよね・・・・5年前の法律改正、知ってるでしょう」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「DNAの研究が進んで、男女関係なく子供が作れるようになって。そして性同一性障害なんかの問題もあって、世界的に同性婚が認められるようになったよね。勿論、この国も」 「知ってるけど?」 そんなのは常識だ。でもそれが何なんだとアルヴィスは思う。 今や恋愛をするにあたって、性別を意識するほうが珍しい風潮となってきている事は知っている。 だが、それとクラスコンパがどう繋がるというのだ・・・・・・。 「だからね、・・・・・」 意味が掴めず顔を顰めたアルヴィスを見ながら、ファントムは言葉を続けた。 「今は、同性とか関係なく狙われるって事だよ。アルヴィス君みたいにキレイな子は特にね?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 狙う狙わないという問題じゃなくて、別に単なる飲み会―――――酒を飲んでクラスの人間達と交流を図るというだけの事だろう・・・・そうアルヴィスは言いたかったが、喋りでこの年上の幼なじみに勝った試しは無い。 「そんなの、許せる訳無いでしょ? アルヴィス君は僕のモノなのに! だから、コンパは却下ね」 「・・・・・・・・そんな変な事にはならないし、酒だってそんな飲むつもり無い」 だからアルヴィスは、とりあえず自分の主張だけを訴えてみた。 「でもアルヴィス君、まだお子様だからね・・・」 「もう子供じゃないっ!」 眉尻を下げて苦笑され、カチンときたアルヴィスは声を荒げる。 荒げてしまってから、そういう態度が子供扱いされる原因なのだと気付くがもう、後の祭りだ。 「うー・・ん・・・」 予想通りにクスクス笑いを浮かべて、ファントムがアルヴィスを見つめてくる。 そして、何かを企んでいるかのような表情を浮かべた。 「―――――そうだなァ・・・アルヴィス君がベッドの上で、もっと妖しく誘ってくれたら・・・子供じゃないって、認めるよ?」 「・・・・・・・・・なっ、!?」 挑発するような、紫色の瞳。 白いクロスが掛けられたテーブルの上に両肘を付き、組んだ指の上に顎を乗せながら。 恐ろしいほどに整った、白皙の美貌に浮かぶ笑みを深くして。 「―――――そうしたら、認めてあげる」 銀髪の青年は上目遣いにアルヴィスを見つめながら、楽しげに言い放った。 ―――――─もっと妖しく誘ってよ―――――─ 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 そして、時間は今に戻るのだ。 アルヴィスとしては、何としても、ファントムに意趣返しをしたいのである。 この際もう、コンパに出るとか出ないとか、それはもうどうでもいい。 挑発されたからには、何としても一矢報いたいというのが心境なのだ。 けれど、方法が思いつかない。 「・・・・・・・・・・」 いや、方法は決まった。 濃厚なキスを、ファントムにしてやればいいだけの事である。 しかし、だ。 「・・・・どうやればいいんだ・・・・・?」 そこで途方に暮れてしまう。 キス。経験が無いワケじゃない。 むしろファントムとならたっぷりしてる―――――というか毎日だ。 だが、いつも仕掛けてくるのはファントムだし、やり方を思い出そうにもそういう濃厚な手合いのモノは・・・・その時のアルヴィスの記憶が不確かになってしまっていて、全然思い出せない。 これはやはり、誰かに聞くしかないのだと思うのだが、・・・・適任者がイマイチ見当たらないのだ。 「・・・・・・・・・・・」 アルヴィスのノートには、ギンタやナナシ、ドロシーやスノウなど友人の名前が書き込まれ、グルグルと円で囲まれたり、×印が付けられたりしている。 もはや授業とは全然関係ない。 「・・・・・・・・・・・・・・」 詳しそうだと思うのは、ナナシかドロシーだ。 けれども、どちらも素直に教えてくれるとは思えない。 第一、理由は言いたくない。 彼らもファントムとアルヴィスの関係は知っているが、だからといって・・・・まさかベッドで妖しく誘いたいから濃厚なキスの仕方を教えてくれ―――――などとは流石に言えない・・・生々しすぎて。 ならばもう、調べるしかない。 「・・・・ネットか・・・本、だよな・・・」 ネットは、家で調べるからファントムにバレる可能性がある。 「・・・本・・・・雑誌で、・・・あるかな」 いわゆる、how to本。 デートマニュアルだとか、そんな特集が載っている雑誌を書店で見かけた事があったのを思いだし、アルヴィスはそれしかないと決断した。 ノートに書いた、友人達の名前を羅列した場所に大きく×を書き。 アルヴィスはノートを閉じる。 帰りに、書店寄って見ていこう・・・・そう、心に決めて。 大学が終わる頃を見計らって迎えに来た車に乗れば、予想通りファントムは居なかった。 医学部の4年ともなれば、なかなかに忙しい。 まだ1年であり医学生でも無いアルヴィスよりも、ファントムの帰りが遅い事は多々あった。 運転手に書店へ寄って欲しい旨を告げ、アルヴィスはホッと息を付く。 流石に、ファントムと一緒の時に雑誌を探すのは避けたかったから。 アルヴィスは行きつけの書店で、キョロキョロと周囲を見回した。 「・・・・・・・・・・」 普段は参考書の類しか殆ど見ないので、そのコーナーしか勝手が分からない。 けれど、何となくここら辺だろうと察しを付けて、平置きされている雑誌達を目で追っていけば―――――──。 「・・・・あった」 すっごくベタな名前の、『Hのテクニック』なる雑誌が。 表紙のイラストは可愛い感じだが、男女が抱き合ってキスしている構図。 イラストで描かれているくらいだし、雑誌のタイトルがコレなのだから、キスのやり方は載っているに違いない―――――そう思って、ちょっと周囲を気にしつつ、手に取る。 「・・・・・・・・・」 パラパラとページを繰って、アルヴィスは目的の項目を探した。 野外でエッチ・・・・騎乗位でエッチ・・・お風呂でエッチ・・・ポリネシアンSEXって何なんだ・・・・ひ、ひとりエッチ初めてセットって・・・!? じゃ、なくて。 少々顔が熱くなってくるのを感じながら、アルヴィスは必死に探した。 早くしないと、恥ずかしくて目的の項目を見つけられないまま、雑誌を放り出してしまいそうだった。 「・・・・・・・・・あった」 そしてやっと、『キスのテクニック』なる文字を見つける。 「・・えーと、・・・」 ―――――─ディープキスをする時は、ヌルヌルと舌を絡ませるだけでなく、気持ちのいいポイントを攻めること。 ―――――─舐めて気持ちのいい場所は、上顎、歯茎、舌の裏側、唇の両端。 ―――――─ゆっくりと舌全体を這わせたり、舌をとがらせて小刻みにチロチロ動かしたりすると変化が出る。 ―――――─吸って気持ちの良い場所は、上唇と下唇と、舌。 ―――――─あんまり強く吸うと痛がる事もあるので、様子をみながら優しく吸い上げよう。吸い上げた後、唇で優しく甘噛みしてあげるとより良い。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 つい、雑誌の通りに舌を動かしてしまうものの、こればかりは相手が居ないと非常に難しい。 アルヴィスは無意識に唇を舌で舐めながら、真剣な形相で雑誌に見入った。 先程までは、雑誌を手にしていることが恥ずかしくてならなかったのだが、持ち前の集中力と生真面目さで何とか内容を把握し暗記してしまおうと、そのページを凝視する。 だから、モヒカン頭の派手なサングラス男が近寄ってきた事にも全然気が付かなかった。 「・・・・・・・・・・・・・えーと、舌を突きだして・・・」 ともかく、相手の口の中に舌を入れなければ話にならないのだからして。 雑誌で顔を隠すようにしながら、アルヴィスは仮想ファントムの口、と想定して目を閉じ唇を薄く開けて舌を出してみた。 「・・・・・・・・・・」 相手の舌と絡まった、と想像し上顎―歯茎―舌の裏側―唇の両端―とマニュアルで読んだ通りに舌を動かそうとして―――――─不意に、手にしていた雑誌に自分以外の別の力が加わった事に気が付く。 「・・・・・?」 鼻先の空気が動いて、次の瞬間には雑誌が誰かの手によって取り上げられていた。 「!?」 舌先を出したまま驚いて目を見開くという、自分的にかなり間抜けな表情でアルヴィスは前方を見た。 視界に入ったのは、派手なモヒカン頭をした、サングラスの男のドアップ。いかにも柄が悪そうだ。 「こんなキレイな顔してて、彼氏いねーの? キスのお勉強中?」 「・・・・・・・・・・・・・・」 超絶至近距離からイキナリ話しかけられ、アルヴィスは驚きのあまり言葉も無い。 「そんなにキスに飢えてんなら、俺様がしてやろうか」 「―――――──!」 避ける間も無かった。 雑誌を持っていないもう片方の手で肩を掴まれ、そのまま顔を更に近づけられる。 唇に男の息が掛かり、そして・・・・・。 ザシュッ。 その時、耳元で何かが突き刺さる鋭い音がした。 「・・・・・・・・・・・・・・」 アルヴィスと、男の動きが止まる。 「・・・・・・・・・・?」 男の手が肩から離れ、雑誌の表紙を確かめるようにもう片方の手を二人の間に持ってきた。 先程アルヴィスが一生懸命読んでいた雑誌。 その表紙には、ざっくりと細いナイフが刺さっていた。いや、ナイフじゃなくて――――柄が金色の特殊カッター・・・・もとい医療用のメス。 剃刀メーカーの名前が刻まれたこの凶器には、見覚えがある。 「―――――手元、狂っちゃった」 呆然と雑誌に突き刺さっているメスを見つめていると、すぐ傍から聞き覚えのある声がした。 「・・・・ファントム」 顔を上げれば、自分より頭一つ高い青年の姿。 その整った顔は、端から見てもそれと分かる程、不機嫌そうだった。 「その薄汚い口と鼻、削いでやろうと思ったんだけど」 着ているのはVネックのTシャツとブラックジーンズ。 華美な格好をしている訳でもなく、変に周囲を威嚇している訳でもない。 頭身が高く細身の体型、酷く整っている顔をしているから、ただ立っているだけでもポージングしたモデルみたいに見えて、人目を惹き付ける。 格好だけでいうならかなり派手だろう、モヒカン男が霞んでしまう程の存在感だ。 「・・・・・なんで、ここに?」 というか、メスなんか投げて本当に誰か怪我したらどうするんだ・・?と問いかけたい気持ちを抑えつけ、アルヴィスは聞いた。 「学校終わって迎えに来て貰おうと思って電話したら―――――アルヴィス君が此処に寄ってるっていうから僕もこっちに来たんだよ」 不機嫌な表情を崩さないまま、アルヴィスの問いにファントムが答える。 そしたらこんな、トサカ野郎が僕のアルヴィス君に近寄ってるし―――――プラチナブロンドの髪を揺らしながらファントムは低い声で呟いて、アルヴィスの身体を抱き締めてきた。 そしてアルヴィスの黒髪に顎を埋めるようにしながら、眼前の男を冷たい目で見据える。 「―――――未遂で良かったよね? じゃなかったら・・・本当に唇削いでやるとこだったよ。もちろん麻酔ナシで」 目と同じ冷たい声音で言われ、モヒカン男が怯んだのが分かった。 本当にやりかねない――――ファントムの事を知らない男でも、それを悟ったのだろうか。 「・・・ちっ、」 サングラスの奥で、男の顔が歪む。 「彼氏いんなら、こんな本読むなっつーの!」 そう声を荒げて叫ぶと、雑誌をアルヴィスの足下に投げつけて大股に去っていった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 その姿を、アルヴィスはファントムに後ろから抱き締められたまま、見送る。 既に雑誌のことは忘れていた。 見ず知らずの人間に、キスをしようとしてくるヤツが居るなんて、驚きだった。 自分なら考えられないな・・・そう思ってゆるゆると頭(かぶり)を振る。 「・・・・・・・・・、」 不意にファントムの腕に力が込められ、アルヴィスの身体がクルリと反転させられる。 「?」 何事かと思って口を開きかけたアルヴィスを遮るように、ファントムがぎゅーっと抱き締めてきた。 「あー、良かった!」 そして大きく息を吐きながら、しみじみとした口調で言う。 「アルヴィス君の唇が、あんな得体の知れないトサカ野郎に奪われちゃうかと思った!」 「・・・・・・・・・・」 「間に合わないかと思った。・・・良かった」 アルヴィスの髪に顔を埋め、息が出来なくなるくらいぎゅーっと抱き締めてくる。 「・・・ファントム、」 大袈裟な、と思う。 キスくらいで、と思う。・・・・そりゃ、知らない人間になんかされるの、嫌だけど。 そんな死にそうな声を出して・・・どっちが子供なんだ、と突っ込みたくなるけれど。 守られなくても、自分だけだってあれくらい、撃退してやるとか思うけど。 でも、―――――その必死さは嬉しかった。 大抵の事には真剣にならない人間だと知ってるから、その必死さを引き出したのが自分だということは・・・・嬉しい。 だからそっと、抱き締め返した。 「・・・・・・・・・・・」 色んな思いを込めて、安心させるように。 けれど、足下には例の雑誌。 刃物が刺さった雑誌を、そのまま放っておく訳にはいかない。 ファントムが、メスを引き抜くついでに雑誌を手に取り―――――─ 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 パラパラとページを繰って、そのキレイな顔に悪魔のような笑みを浮かべたのはその数分後の事である。 その夜。 寝室のベッドサイドに、その雑誌が置かれ。 アルヴィスの手を引き一緒にベッドに倒れ込んだファントムが、とても嬉しそうに少年の顔を見上げ目を細めながら口にした内容に、―――――──アルヴィスは自分の行動の浅はかさを後悔するしか無かった。 ―――――──ほら。勉強したんでしょう? もっと妖しく誘ってよ―――――─── ++++++++++++++++++++ 言い訳。 ・・・長くなりました。 お題なのにこの長さって何なんでしょう(汗) でも、タイトルからこんな話しか思いつかなかったんですよ、ね・・・。 自分でこの『微エロなお題』を全部『君のためなら〜シリーズ』で縛ろうと 思ったのが良くなかったんでしょうか(爆) むしろコレ、本編でネタに出しても良かったよーな気がします。 本編で、コンパの様子(アルヴィス結局行ったんだ!)は書こうかと。 長くて、スミマセンでした・・・・。 |