『04. かすれた声で呼ばれたら』 正体も無いくらいにぐっすりと眠り込んでいる、キレイな顔を覗き込んで。 そっと、その白く滑らかな頬を指先で撫で上げれば、黒々とした長い睫毛がゆっくりと持ち上がって鮮やかな青色の瞳が下から覗く。 「・・・・・・・・・」 「あ、ごめんね? 起こしちゃったかな」 「・・・・・・・・・」 「おはよう、アルヴィス君」 「・・・・・・・・」 昨夜少し無理をさせすぎたからか、まだ完全に覚醒はしていないようだ。 瞬きも緩慢で、表情も茫洋としている。 けれど昨日散々泣かせてしまったせいで目元は赤くなっているし、全体的に何となく怠そうだ。多分、身体を動かそうとすれば、腰の痛みに顔を顰める事だろう。 「・・・今、なんじ・・・?」 間をおいて。 乾いた唇が普段の可愛い声じゃなく、掠れた声で時間を聞いてきた。 「・・ん・・8時だよ」 「・・・・・・!」 ベッド脇に屈んだまま。かさついた唇を潤すように口付けして答えれば、驚いた様にピクリと身体を跳ねさせ起きあがろうとしてくる。 「今日は無理だよ。・・・寝てようね?」 「・・・・・・・・・・」 それを優しく抑えつけ。 元通り掛け物を肩先まで引き上げてやり、あやすようにポンポンと叩いてやったら、不満そうな目つきで此方を見てきた。 物言わず黙って見上げてくる大きな瞳が、まるで猫みたいだ。 可愛くて、ついグシャグシャと柔らかな黒髪を掻き混ぜるように撫でたら、更に不満そうに顔を顰める。 「・・・誰の、せいだ・・・」 喉が痛いのだろう。途切れ途切れに抗議してきた。 「僕のせい、かな。アルヴィス君、昨日一杯声出しちゃったもんねえ」 「!?・・ばっ、・・・」 サラッと答えたら白い顔が赤く染まって、何かを言いかけたかと思ったら盛大に咳き込み始める。痛めた喉に負担が掛かったのだ。 「・・あー、ほら、駄目だよ喉痛い時に声無理に出そうとしたら。あんまり咳き込むと発作出るよ?」 「・・・ッ、ゴホッ」 「あとでちゃんと、ネブライザーやるんだよ。吸入ステロイド剤もね」 咳を止めてやるために一度、身体を起こさせて。 吸入器と喘息の予防薬を指示をしてから、ベッド傍から立ち上がる。 「じゃ僕、学校行って来るから。アルヴィス君はこのまま休んでてね」 「・・・・・・・・・・・・・」 クッションに上体を預けベッドに寝た体勢で、可愛い恋人は無言だ。 いってらっしゃい♪くらいは聞きたい所だが、喉が痛そうだし原因は自分だし、無理に喋らせてまた咳が出るのは可哀想。 仏頂面でも可愛い顔の少年に笑いかけ、そのままファントムは寝室を出ようとした。 「・・・ファントム・・・、」 「ん?」 小さなちいさな声が、ファントムを引き留める。 「なあに、アルヴィス君?」 足を止め少年の元に引き返せば、彼は俯き、白い拳を握りしめてボソリと言葉を発した。 「・・・・行くな」 「・・・・・・・・・・」 小さなちいさな、掠れた声。 「―――――──」 身体は怠いし。 腰は痛いし。 喉も痛くて、・・・・咳も出る。 もしかしたら発作も起こすかも知れない――――─とでも思って、心細くなったのだろうか。 「アルヴィス君・・・・」 「・・・・嘘。なんでも、ない・・・」 掠れた声で、ボソボソ言うのを聞いてしまったら、もう駄目だ。 今日は、大事な講義が、あったんだけど。 面倒くさくても、サボらない方がいいかな・・・ていうか、提出するものがあったんだけれど。 あとで、どうなろうともう駄目だ。 君の方が、優先。 「―――――いいよ。一緒に居よう」 笑って、ベッドに腰掛けて。 そのまま少年を抱きしめる。 掠れた声で、呼ばれたら。 もう、逆らえない・・・・僕は君の虜、だからね―――――───。 ++++++++++++++++++++ 言い訳。 引き続き、『君のためなら世界だって壊してあげる』の二人です(笑) 別に、03のお話の続きって訳じゃないんですが。 トム様、前の晩にアルヴィスを堪能しすぎた模様です(爆) アルヴィスが声掠れてるのは、そのせい。 この後、二人でラブラブすればいいと思います(笑) |