『01 どこかで会った気がする』





 大きくて少し吊り上がり気味な、濃い青の瞳。
 うっすら涙を浮かべて、幼いながらも険しい表情をで此方を睨み付けている。

「・・・・・・・・・」

 うっかり瞳の色の鮮やかさだけに目を惹かれてしまったが、よくよく見ればとてもキレイな顔立ちの子供だった。
 鼻筋も通っているし、眉だって唇だって形良い。まだまだあどけなさを残す幼くて可愛らしい顔だが、バランス良く整ったその配置は完璧で、近い将来目を見張るような美少年に育つ事は間違いないだろう。
 黒髪と白い肌、そして紺青の瞳。色合いのコントラストも素晴らしい。



―――――──けれど、ファントムの気を惹いたのは、そんなことでは無くて。



 もちろん、その幼い子供のキレイな目にはとても強く惹かれたのだけれど・・・・・でも、気になったのはそれだけでは無くて。
 辺りにはゴロゴロと死体が転がっていて、自分も返り血で血塗れ状態。
 そんなときの自分は、敵方で此方を倒そうとしているらしいクロスガードの男達でも近寄りがたいらしく、ファントムがチラリと視線を向けただけで喉奥で悲鳴を詰まらせながら必死に逃げていく輩が多い中。
 小さな子供が目の前に飛び出してきて睨み付けている―――――──といった極めて珍しい状況に感心した訳でも無くて。
 ふと、その子供をどこかで見かけたような気がしたからなのである。




 君、どこかで会ったっけ?




 その場の空気に全くそぐわない、のんきな口調でそう問いかけようかと口を開いて・・・・・ファントムは思い出し笑いを浮かべた。

「・・・・・・!?」

 睨み付けるように此方を見上げる、気丈な瞳。
 怯えているのが丸わかりなのに、それでも懸命に虚勢をはるその姿が、そっくりで。

「・・・・・・・・・」

 野良犬か何かに襲われたのか、傷だらけになり息も絶え絶えになった小さな子猫。
 あの時も、怯えながらも必死にファントムを見上げて身構えていた。
 吊り上がり気味の、大きなアーモンド型の瞳。
 キレイな、青い目をしていた。
 その子猫と、目の前にいる子供の姿が重なる。




 そうか、似てるんだ・・・・・。




 子猫は、助からない傷を負っていた。
 ホーリーARMを使えば傷を治してやれたけれど、その時は持ち合わせていなくて。
 せめて楽になれるように、この穢れた醜い世界をこれ以上見なくて済むように―――――───空へ、還してやった。
 可愛かったから、本当は連れて帰ってやりたかったのだけれど。

「・・・・・・・・・・」

 でも、今目の前のいるこの子供は、何処も怪我なんてしていなくて。
 強く惹かれる青い目も、赤い袖無しの上着から伸びた腕や僅かに覗く足首も・・・・白くてスベスベしていそうで、とても健康的だ。
 片手で握りしめてしまえる程に細くて頼りない首は・・・何ともファントムの加虐心を煽ったけれど。




 空へ還す必要は無い―――――───汚れて腐敗したこの世界から、自分が隔離してやれる。




「いい目をしている」

 言いながらファントムは、子供に手にしたARMの尖った切っ先を向けた。

「勇気ある君に、いいプレゼントをあげよう・・・・」

 子供がハッとしたように大きな瞳を見張った。
 鮮やかに濃い・・・澄んだ瞳。その瞳に怯えの色が走るのを見て、ファントムは柔らかな笑みを浮かべる。

「これは、僕が君を気に入った証だよ・・・・受け取って、またいつかおいで・・・」




―――――──とはいっても、ウォーゲームが終わったら連れて帰ってあげるけどね―――――───




 心の中でそう付け足し。ファントムは魔力を子供に向かって放った。

「ゾンビタトゥ!」




 今度は空へ、還してあげない。
 またせっかく逢えたんだから―――――─今度はずっと傍においてあげる。



++++++++++++++++++++

言い訳。トム様は猫好きだと思います。ていうか、動物好き(断言) アルの事もきっと、ペットみたいな感覚なんでs(爆)