『ハロウィン2009−後編−』






※※『Anything is done for you』な、インアル話のイレギュラーな話です☆
でも、シリーズ知らなくてもそのまま読めます(笑)














「これから、首噛まれにステージ上がるんだ」


 コンテストが開かれるステージ裏へと移動中に、後輩のインガに会い、彼が驚いた様子だったので掻い摘んでそう説明したら。


「!? えっ、・・ええぇ・・・・」


 何故か、そのアクアマリンの両眼が零れ落ちそうなくらいに見開かれて、盛大に驚かれてしまった。
 少しキツい印象を与える大きな瞳が、まん丸だ。

 さきほど、白ずくめの姿の自分を見てポカンと口を開けていたのとは、また違う驚きのリアクションである。


「く、くびっ、・・・首を噛まれるって、・・・・!?」

「ああ、・・・別に本気で噛まれるワケじゃないぞ? たぶん」


 本当に噛まれると思って驚いたのかと、アルヴィスが笑って言っても後輩は戸惑いの表情を崩さなかった。


「何かさ、俺は吸血鬼に血を吸われて死んだ幽霊の役らしくって。ステージで、首噛まれて倒れてればイイらしいんだ」

「・・・・・・・・・・」

「その噛まれた痕ってことで、さっき思いっきり絵の具を首に垂らされてさ・・・すごい冷たくて大変だったよ」

「・・・・・・・・・・」


 それどころかアルヴィスの説明に、何か考え込むように目線を落とす。


「・・・・インガ?」

「アルヴィスさん!」


 どうしたのかと首を傾げて後輩の名を呼んだアルヴィスの声と、どこか思い詰めたようなインガの声が重なった。

 何、と言おうとしてインガの両手が自分の肩に掛かり、重心を掛けられるのを感じる。


「―――・・・?」


 ふわり、とアルヴィスの首筋に何かが触れた。

 柔らかな唇の感触と・・・・サラリとした銀髪が、アルヴィスの首を撫でる感覚を一瞬だけ感じて・・・すぐに離れる。


「・・・・・・・・・・、」


 何が起こったのか分からないままアルヴィスが眼前の後輩を見つめれば、インガは手の甲で自分の口元を拭っていた。
 彼の白い手の甲に、擦ったような赤い色が走る。

 擦っていた唇にも、僅かに赤色が付着していた。
 さきほどアルヴィスが首筋に垂らされた絵の具が、まだ乾いていなかったのだろう。


「――――――・・・すみません」


 アルヴィスが黙って見つめている中、後輩はただそれだけを言って頭を下げる。


「・・・・・・・・・・・・・」


 それをアルヴィスは、呆然として眺めていた。

 何が起こったのか分からない。
 いや、何が起こったのかは分かる―――――・・・インガがアルヴィスを引き寄せて、自分の首筋に唇を触れさせたのだ。

 けれども、何故そうしたのかも・・・何故謝ってるのかも分からない。


「先越されたく無かったので、・・・・しちゃいました」


 アルヴィスが見守っている先で。
 周囲から王子と呼ばれているらしい端正な顔が、すっかり悄気(しょげ)た様子で弁解をしてくるけれど、やっぱり意味が通じない。


「・・・・・・・さき、・・・?」

「ボクが最初でありたかったんです、・・・・ごめんなさい!」

「あっ、・・・おい!?」


 しかもそれだけ言って、後輩の少年は脱兎(だっと)の如く走り去っていってしまった。

 足には自信があるアルヴィスだったが、流石にこのズルズルしたドレス姿では追いつけないし・・・だいいちあんまり、人目に晒したく無い格好だから追いかけるのは無理である。


「・・・・・・・・・・・いったい、何なんだ・・・・?」


 頭を傾げながら、アルヴィスは首筋に手を当てる。

 最初でありたかった――――――と、インガは言っていた。

 つまり、噛みたかった?
 というか、吸血鬼役がやりたかったということだろうか。

 それならそれで、吸血鬼役が誰かは知らないが言って替わって貰えば良かったのにとアルヴィスは思う。
 どのみち、その吸血鬼役に抜擢されたヤツだって、別にやりたかったワケじゃないのだから喜んで替わってくれたと思うのだ。
 インガの容姿なら、確かに吸血鬼でも似合いだろうし―――――――何なら、元が銀髪で白いイメージなのだから、自分がやる幽霊貴婦人だって出来ただろう。


「でも、意外だな。そういうの、・・・好きじゃないようなイメージなのに」


 部活中いつも人懐こく話しかけてくる、優等生然としたクールなイメージの後輩を思い浮かべつつ、アルヴィスは1人ごちる。


「ま、いっか。・・・そんなことより、とりあえず言われた通り首噛まれに行かないと・・・」


 けれど、いつまでも後輩の不可思議な行動に気を取られている場合ではない。
 コンテストに遅れたら、部の先輩方に大目玉である。

 アルヴィスはすっかりとインガのことを頭から振り払い、長いドレスの裾を鬱陶しげに引きずりながらステージへと急ぐのだった――――――――――。

 












END


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言い訳。

短いですが、せっかくインアルverのパラレルなのにインガ出てないなーと思いまして追加です(笑)
コレは、アルヴィスがインガとまだ付き合う前設定(ホントは夏辺りに付き合っちゃってるんですけどね、この話ではそれが発生してないことにしてください/爆)。
なので、アルヴィスはインガの真意に気づけてません。
インガ的に、アルヴィスの首筋に他の野郎がキスするなんてトンデモナイ!!(怒)って思っての衝動的行為だったんですが。
アルヴィスは、インガが吸血鬼役やりたかったんだと勘違いしてます。
ちなみに、余談ですが幼い頃アルヴィスが猫の着ぐるみ着たときだけダンナさんが一緒に付いてきてたのは・・・・あんまり可愛いから浚われないように、って用心のためでした(笑)
ナイトがギンタだけじゃ、心もと無かったんですねー(笑)