『逆転の発想−Epilog−』













「・・・・・・・・・・思い出すな・・・・・まだちゃんと、持っててくれたんだな・・」


 くすんだ色合いの銀製ネックレスを弄びながら言われた言葉に、インガはくすりと笑みを浮かべた。


「当たり前ですよ。だって大切な人から貰ったお守りですからね。一生手放せないです」

「・・・・・・・・・・あの時はビックリしたな・・・・まさかあんな風にしてくるとは思わなかったから・・・・・」

「アルヴィスさんが、ボクを煽ってくれたからですよ。あの頃のボクは、貴方に自分を見て欲しくて必死だった・・・・・・」


 懐かしむような表情で苦笑を浮かべる相手を、インガはそっと抱き寄せる。


「誕生日のプレゼントより、本当はバレンタインなんていう、異世界の習わしの菓子を本当の意味で受け取りたくて堪らなかったんですからね? それなのに、意地悪するから」

「・・・・・・・・・・ちゃんと、・・・あげただろさっき・・・! それに、意地悪したんじゃなくて、あの時は本当についでのつもりだったからっ、・・・」


 白く滑らかな頬に唇を寄せながら囁けば、腕の中のアルヴィスがむくれた様子で言い返してきた。
 それが可愛らしくて、インガはまたこっそりと笑みを浮かべてしまう。


「そうですよね、・・・アルヴィスさんはボクのことなんて、全然見てくれてなかったですし。ボクだけが必死で四苦八苦してたんですよね」

「・・だって、・・・それは・・・・」

「アルヴィスさんより、全然弱かったし身長だって低かったし、これっぽっちも恋愛対象になんて見てくれて無かったんですよね〜〜」

「そりゃ、・・・だって、・・・・6歳も違う・・・し、・・・・・」

「ボクの気持ちなんか、まるで知らないでいつもボクをドキドキさせるような事ばっかりしてくれて。ホントに青少年を誘惑するイケナイヒトでしたからね、アルヴィスさんは」

「・・・なっ、!? ・・・俺はそんなこと・・・・!!」

「ああもう、・・・・本当に可愛いんだから!!」


 ボソボソと言い訳してくる、アルヴィスの言い分が本当に可愛くて。
 今や自分の方が身長を追い越し、両腕にすっぽり収まるくらいになったアルヴィスの身体をぎゅうっと抱き締める。


「――――――今はちゃんと、ボクだけ見てくれているから・・・・許してあげます」


 微笑みながら、そう言えば。


「・・・・・・・だけど、・・・・・」


 出逢った頃からさして変わらぬ、キレイな顔を不服そうにしかめながらアルヴィスが口を開いた。


「・・・・・・・・・あのバレンタインから1年も経たない内に、いきなり行方不明になって。どうしたのかとすっごい心配していたら―――――――・・・2年後に突然俺の前に現れて、それも俺と同い年なってるって、・・・・・・・・・・・・・・詐欺だよな」

「それは、修行中にARMが暴走して時間軸が狂っちゃって・・・・別の次元に飛ばされちゃったんだから仕方ないです。そこでの時間の進み方が、こっちより早かったんだから当然の現象ですよ。それでもちゃんとアルヴィスさんの元に還ってきたんだから――――――・・・ボクとしてはそこをホメて欲しいんですが??」


 自分より低い目線にある、アルヴィスの顔を嬉しそうに見ながらインガは言う。

 当時は憧れて見上げるだけだった彼の顔を、こうして眺められるのが本当に嬉しい。

 年齢差や経験の差は、もうどうにもならないからと腹をくくり。
 それ以外で絶対に彼を振り向かせるんだと心に誓ってはいたが――――――――こうして偶然のアクシデントで、彼と対等な立場に立てたのは純粋に嬉しい。


「当たり前だ。・・・還ってこなかったらタダじゃおかない!」

「還ってきますよ絶対に。・・・・ボクは、ボクの全てでアルヴィスさんを守っていきたいですからね。・・・・悲しい思いなんか、させません」


 むくれている恋人を抱き寄せて、甘いキスを贈る。


「・・・ボクなんて10年近くもアルヴィスさんから離れちゃってて、すっごく寂しかったんですから!! ・・・・・・これから一杯、アルヴィスさん満喫させてくださいね・・・?」

「これからって、・・・・もう既にしてるだろ!」

「え、まだまだですよ? まだ全然、足りません。・・・アルヴィスさん待たせてしまった分も、沢山頂かないと! ・・・・ボク、必ずバレンタインには頂くって言いましたよ?」


 初めてのバレンタインのセリフを繰り返せば、腕の中のアルヴィスがぎょっとしたように藻掻いた。


「それは、バレンタインの意味を込めた菓子ってことだろう!? もうあげたんだからいいじゃないか・・・・・・!!」

「確かに、そういう意味もありましたけど・・・・」


 アルヴィスの言葉にクスクス笑いながら、インガはその顔に少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。


「――――――ボク、あの時は何を頂くかは明確に言いませんでしたよね? ・・・・・貴方を頂く、って意味も込めてたんですが・・・・?」

「!!??」


 子供だったくせに・・・・!!

 真っ赤になって、アルヴィスが小さく呟く。


「すみませんねアルヴィスさん。ボク、・・・純情な子供じゃなくて。でも好きだから・・・・純情なだけじゃいられないんです」


 本当に愛してますよ。

 ―――――――ボクの全てで貴方をこれからずっとずっと守ります。

 ・・・・貴方にはボクだけを見ていて欲しいから、うんとうんと大事にします。


 宣言するようにそう言えば、アルヴィスは黙ってインガに抱きついてきた。


「・・・・・・・・・・・ゆるす」


 ぶっきらぼうな口調で言う、その姿は以前と変わらずキレイで可愛らしい。
 そして以前とは違って、アルヴィスの余裕の無さが今のインガには理解出来る。


「お許し頂けたので、・・・・・アルヴィスさん貰いますね・・・・?」


 宥めるように、アルヴィスの頭を撫でながら。
 インガはそっと、すっかり赤く染まった恋人の顔へと自分の唇を近づけた――――――――――。







 END


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言い訳。
原作Ω沿いの話設定だと、どうしてもネックがインガとアルヴィスの年齢差なんですよね(笑)
なので、強引に年齢を同じにまで引き上げてみました(爆)
これなら流石にアルヴィスも、インガの事を子供扱い出来ないですよね。
ていうか多分、アルヴィスって年下インガにも恋愛面では、知識的にかなり負けてそうなんですけどね(爆)