『二人笑っていられる世界』








「アルちゃん・・・・!?」

 切れ長の青灰色の瞳が自分を映した途端、驚いたように大きく見開くのが見えた。
 そして、一度ギュッと唇を噛み締めると、緊張した面持ちで口を開く。

「―――――ええ子やから・・・・それ、放し?」

 言いながら、そろりと手を差し出してくる。

「嫌だ」

 俺は短くそう答え―――――・・・首元にかざしたままの短刀を持つ手に力を込めた。
 闇に染まる、レギンレイヴ城のテラス。
 月明かりだけが、俺と、ナナシを照らしている。

「近づいたら・・・・・これを首に突き立てる」

 ナナシの足が、テラスの縁に腰掛けた俺に近づくのを制止させる為に再び言葉を発した。
 ナナシの動きが、止まった。

「アルちゃん・・・・」

 呆然としたように呟いて、ナナシが此方を見つめた。
 苦渋に満ちた表情だ・・・・・彼には、俺が何故こんな行動に出たのか―――――もう察しているのだろう。

 だから、動かない。

 俺が命を絶つ気だと・・・・・知っているから。
 近づけば、その瞬間に、本当に首に短刀を突き立てるのだと、分かっているから。

 だから、動かない。

「アルちゃん・・・・」

 もう一度、ナナシが名を呼んだ。


 こうして名を呼ばれる事は・・・・あと何回、あるんだろう。
 ふざけた呼び名を腹立たしく思ったこともあったけれど―――――今はただ、胸が痛くなるくらいに・・・・・・・呼ばれる事を嬉しく感じる。


「アルちゃん・・・・早まらんといて? まだ・・・タトゥは、」

「―――――もう完成する」

 宥めるように言われた内容を、遮った。
 だってそれが、事実だから。
 左胸に喰い込んでいる、ゴーストARMが・・・・既に決定されていた運命を更に早めて―――――──呪いを成就させる。

「・・・・知ってたんだ。本当は・・・知ってた」

 風に流れる、ナナシの色素の薄い髪。
 それを目にしながら、俺は静かに言った。

「俺にはもう、この世界の行く末を見る事は出来ないだろうって」





 分かってたけど、気付かないふりをしていた。




「たとえギンタがファントムを倒せたとしても・・・・ヤツの不死を砕く方法は見つからない。もしその方法が本当にあるとしても―――――俺には間に合わないだろう」

 淡々と、表情を変えずに言い放つ。

「だからずっと・・・・思ってたんだ」

 きっと、これを言ったら。
 彼は悲しむだろう―――――返すべき言葉を失って。
 そんなナナシを、見たくは無いし同情されたくも、無い。

 でも、現実だから。御免―――――言わせて?


「そうなる前に・・・・・俺は、この世界(メルヘブン)から離れなくちゃ、って」

「アルちゃん!!」

 ナナシが悲痛な声を上げた。
 俺が見たこと無いくらい、悲しそうな顔をしている。
 いつも笑ってて・・・たまに怒って。表情豊かな男だと思っていたけれど―――――─そんな悲しい顔も、出来るんだな。

「・・・・・・・・・・・・・」



 でも、ごめん・・・・その表情を引き出してるのが俺だって言うことが・・・・何でだろう少しだけ嬉しい。

 俺、少しはお前に―――――─想ってもらえてたのかな? 仲間として、だけじゃなく。

 もしそうなら、それだけで。

 それだけでも俺は・・・・・・。




「なあ、ナナシ・・・・」

 首元に短刀を突き当てたまま、俺は静かに話しかける。

「もしさ、・・・もしもだけど・・・・・俺にこんなタトゥが無くて、俺もお前もこんな大変な時代に生まれて無くて―――――ギンタが居た世界とか、ここじゃない別世界に生まれて出逢ってたとしたら・・・・・・・・・」






 俺、お前の手を取っても良かったのかな?

 お前に好きだって・・・・言っても、許されたのかな?





「ギンタが言ってたみたいに・・・・勉強に励んだりスポーツとかして笑っていられたのかな・・?」

「―――――どの世界生まれたって、自分とアルちゃんは笑えるよ?」


 ありがとう・・・・心の中だけで、礼を言う。
 真摯な想いが篭もった言葉だった。

 それだけで、・・・・・もう俺は。


「―――――そっか。・・・そうだよな」



 でも・・・・今は。




「ナナシ・・・・」

 悲しそうに自分を見つめる、ナナシに笑いかける。
 そんな悲しそうな顔、させたくないんだけど。
 最後は笑った顔・・・・見たいんだけど・・・・・それは無理だろうか。





―――――─出逢いたく、無かったな。

 ナナシと、こんな風に出逢いたくなかった。

 でも・・・。俺の最期に見れる世界が、ナナシで―――・・・良かった。





「―――――ありがとう」




 本当はもっともっと、生きたかったよ。お前の傍で。


 でも、言わない。お前が悲しむだろうから・・・・言わない。





「―――――─、」






 好き。



 言わない、けど。



 大好きだよ。



 絶対言わないけど。・・・・心を縛る言葉は、言えない。



 だから。





「・・・・さよなら、ナナシ」

「アルちゃんっ!!」

 駆け寄ってくるその姿を目に、焼き付けて。
 首元のナイフを、躊躇わずに突き立てる。



「・・・忘れて・・・いいから・・・」




 思ってもいない言葉を吐いて。

 俺はそのまま眠りにつく。






 大好きだから。


 心は俺に、縛られないで。







 でも、許されるなら神様。

 今度は、二人、笑っていられる世界で・・・・・俺をナナシに、逢わせてください。






―――――───大好きな人に、大好きなのだと・・・・笑って告白できる、世界で。









end




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言い訳。

ナナアルです、そして死にネタです(爆死)
なんか急に思いついて書きたくなってしまいました。
ナナアル、好きなんですよ・・・でも、思いつくのはこんなんしか_| ̄|○ 
アルヴィスって、ゲームDSのクラヴィーアのラストの方でタトゥが完成しかけると
自ら死ぬ為に、皆に別れを告げるじゃないですか・・・いや、告げるんですけど。
でもって、ナナシは内心スゴイ葛藤しつつもアルちゃんがそう決めたならって
(死ににいくのを)送り出すんですよね。
でもやっぱり、全然それを納得してるワケじゃなかったので。
もし、目の前でアルが命を絶とうとしていたら・・・・こんな感じかなと
書いてみました(良く分からない説明ですね、すみません)。

まあぶっちゃけ、ギンタの居た世界とかに生まれ変わっていたら―――――
ゆきのなんかはナナアルって某サッカー漫画の二人のようになるんじゃないかと
思ってたり(死)
だって攻めさま関西弁だし!受け子は生真面目くんな美少年だし!
・・・って、分かる人にしか分からないネタですねすみませn(爆)