『救いの手』 「アルヴィス・・・・僕の傍に、ずっといてくれるかい・・・?」 ベッドの上に二人で横たわり、腕の中の少年にそう問いかければ―――――───その人形のように整った容貌に相応しく、表情を失ったままの虚ろな瞳でファントムを見つめ、コクリ、と子供のように頷いた。 ファントムがあれほど切望した、鮮やかな濃い青の瞳からは光りが消え。 魅了して止まなかった幾つもの可愛らしい表情も、今はもう見ることは出来ない。 それを少しだけ残念に思いつつ、けれども腕の中に大人しく収まっているという事実に、ファントムは喜びを隠せなかった。 どんな姿になったって、構わない。 どんなに穢れようと、かつて誰に心惹かれていたとしても、関係ない。 最後に、自分の元にいればいい。 『アルヴィス』という存在が。 「ねえアルヴィス・・・・僕は、君が居てくれたら他に何もいらないよ」 言いながら、自分の腕に頭を乗せ大人しく横になっている少年の頬を、自由な方の手で優しく撫でた。 月明かりだけが照らす室内で、少年が気持ちよさそうに目を閉じる。 「―――――─でもホントは、君はそうじゃないんだよね。僕だけが、・・・・そう思ってるんだ」 「・・・・・・・・・・・・・」 少年は、答えない。ファントムに頬を撫でられるまま、大人しくしている。 「タトゥと、暗示が解けてしまったら・・・・君は僕の元から、去ってしまうんだよね」 指先で滑らかな白い頬の感触を確かめつつ、ファントムは笑った。自嘲的な笑みで。 でも、離せないから。 傍に居て欲しいのは、君だけだから。 君が居ないと―――――─僕の世界が、壊れてしまうから。 「ごめんね・・・・」 その時。 つ、・・・と少年の指がファントムに向かって伸ばされた。 「アルヴィス・・・・?」 そして、ゆっくりゆっくり・・・・優しい仕草でファントムの髪に触れてくる。 真っ直ぐなファントムの銀糸を梳くように、サラリサラリと・・・その細い指で。 何度も、何度も。 ゆっくりと・・・・・拙い仕草で、頭を撫で。細い指で髪を梳く。 光りを失ったままの、虚ろな瞳のまま・・・・あどけない子供のような表情で、繰り返し。 少年の、深いふかい海の底のような青い瞳に、自分の顔が映っている。 「・・・・・・・・・」 それは、癒しだった。 決して、命じたワケでも無く。 自分から望んだワケでも無く。 アルヴィスが自ら、進んで、してくれたこと。 ファントムの顔が、笑いながら歪んだ。 どうしてだろう? 今までで一番嬉しい気がするのに―――――─何故か上手く笑えない。 喉が苦しくて、鼻がツンと痛くなる。 目から止めどなく水が出て・・・・・シーツにシミが出来てしまう。 「ありがとう・・・アルヴィス君・・・」 「・・・・・・・・・・・・・」 少年からの、返事は無い。 けれど、優しく彼の髪を梳くアルヴィスの指は止まらなかった。 癒すように、慰めるように、何度もなんども、髪に指を滑らせる。 それは決して上手くは無かったが、何よりもファントムの心を癒すものだった。 「やっぱり君は、僕のたったひとつの大切なものだよ」 少年の頭を掻き抱き、柔らかな黒髪に唇を寄せる。 手放せない。 離せない。 このままずっと、腕の中に閉じこめておいてしまいたい。 それが出来ない時は―――――─── いっそ、彼と共にこの身を全て、滅ぼして。 ――――───君が居なけりゃ、僕は生きてる意味が無い―――――─── end
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