『☆オトナ仕様のAdvent Calendar☆』 ――――――はいアルヴィス君、コレあげる。 そんな言葉と共に、12月に入った途端アルヴィスにファントムが押し付けてきたのは、一抱えもある紙製のツリーを象ったBOXだった。 小さな立方体の箱が積み重ねられ、ちょうどツリーの形になっている箱だ。 表面に描かれているのもクリスマスツリーの絵で、裏を返せば一個いっこの箱に1から24まで数字が振ってある。 「1日1つしか、開けちゃダメだからね」 「ファントム、これ・・・・」 おぼろげに幼い頃にも、似たようなモノを渡された記憶が蘇(よみがえ)り、アルヴィスは軽く眉間にシワを寄せた。 小さな箱の1つひとつは引き出しになっているようで、軽く揺すればカタカタと何かが入っている音がする。 ちょっとサイズは大きいが、これは間違いなく『アドベントカレンダー』だ。 日付が書かれた部分が窓のように開けられる仕組みになっており、中には菓子などが入っている。 12月初日から毎日1つずつ、カレンダーの日付通りの窓(もしくは扉)を開け、中から出てくるモノが貰えるシステムである。 そして大抵、その中・・・もしくは数字が書かれた窓には、『○○にクリスマスカードを書く』とか『お母さんのお手伝いをする』とか、『苦手な勉強を頑張る』などなど・・・・約束事や指令のメモも入っており、それが実行出来なければ中のお菓子も食べられないという取り決めがある。 Advent(降臨節)・・・つまり、クリスマスイヴまでの約4週間を祝いながら、毎日一個ずつお約束ごとをこなしていくというカレンダーだ。 言うまでもなく、子供対象のものである。 「懐かしいでしょ? AdventCalendar(アドベントカレンダー)だよ」 「・・・・・・・・・」 アルヴィスの表情を気にする風も無く、ファントムがサラッと肯定してきた。 「アルヴィス君、毎年コレすごく喜んでたじゃない」 「・・・・・・・・・・」 確かに。 幼かった頃は、このアドベントカレンダーなるモノを貰って、とても喜んでいた記憶はある。 毎日1個だけというのは、待ちきれなくて焦れったくて、つい全部開けたくなる衝動には駆られたが――――――――・・・1日1個という『お約束』を守らなければ、サンタが来てくれないと言われて必死に我慢して、楽しみに1個ずつ開けていた。 中に入っているキャンディーやチョコレートは、いつもファントムがくれるモノと同じくとても美味しくて・・・しかもクリスマス仕様の為か包み紙もキレイで、アルヴィスは食べた後のそれを大切に取っておいていた位である。 しかも、そのカレンダーの窓が全部開いた日がアルヴィスの誕生日であり。 ファントムがすごいオモチャとケーキでお祝いしてくれる日になるとあって、幼いアルヴィスにとってアドベントカレンダーは楽しいことを連れてきてくれる魔法のアイテムだったのだ。 だけどそれは、ファントムが留学する前の話。 アルヴィスが小学校へ行く前の、ほんのお子様だった時代の話である。 すっかり大人になってしまったアルヴィスに、『今日1日良い子にしている』とか、そんなお約束は意味無いだろう。 「俺、・・・・もうすぐ19歳になるんだけど・・・」 「やだなあ、そんなの知ってるよ」 だが、今更コレ(アドベントカレンダー)は無いだろ? というニュアンスを込めて言いかけても、ファントムは全く動じない。 「だから、・・・そんな俺にコレくれても仕方ないだろ?」 「なんで?」 「いや、だから俺もう19になるしっ! 今更こんなのやる歳じゃ・・・」 「え、大丈夫だよ?」 アルヴィスがファントムに伝わるように言っても、全然だ。 「それねえ、ボクが今のアルヴィス君専用に作ったんだよ」 それどころか、ますます自信たっぷりな表情で口を開いた。 「・・・作った?」 「うん、キット取り寄せてね。 ボ ク み ず か ら が 、 ア ル ヴィ ス 君 の た め に 、 作ったんだよ!」 わざわざ、強調するように区切って発音される。 「・・・・・・・・・・」 ファントムが自ら、ハサミやテープなどを使って工作するところなど想像は付かなかったが・・・手先が酷く器用なのは知っているから、本当なのだろう。 渡されたカレンダーの余りの出来の見事さに、勝手に既製品だと思い込んでいたけれど、作ったのがファントムならばあり得る話だ。 海外では、子供のために母親が作ったりするのが多いと言うから・・・手作りなのは普通なのかも知れない。 けれど、そこまで手を掛けて子供用のものをプレゼントされるというのは、アルヴィスとしては複雑である。 「今のアルヴィス君が好きなチョコレートやキャラメル、それから似合いそうなリングとかブレスレットなんかも入れてみたんだよ」 ね、それなら開けたい気分になるでしょ? と言い足され、アルヴィスは少しだけ眉間のシワを緩めた。 「・・・・・・・随分と豪勢なアドベントカレンダーだな。・・・・ていうか、ちゃんと俺の歳に合わせてはくれてたのか・・・・」 「うん。もちろんだよ、ちゃんとグレードアップさせているさ!」 子供扱いされたのかとカチンと来ていたアルヴィスだが、それならいいかと少し思い直す。 別にアクセサリーが欲しいワケでは無いけれど、ちゃんとファントムが考えて大人のアルヴィス用にしてくれたのならいいかと考えた。 「・・・・・・・・・・ありがとう」 突き返そうとしていたカレンダーを、ぎゅっと抱き締める。 「じゃあ、貰っておく・・・」 久々に、幼い頃のように。 毎日、何が入っているのか楽しみにするのもいいかも知れない―――――――などと思いながら、アルヴィスはファントムに礼を言った。 「あー・・・そうだアルヴィス君、」 そんなアルヴィスに、思い出したようにファントムが言葉を付け加える。 「ちゃんと、『お約束ごと』だってグレードアップしてあるからね☆」 「・・・・・・・・・・は?」 「だからァー、『お約束ごと』だよ! 毎日1個ずつそれ開ける時に守らなきゃならないヤツ。覚えてるでしょ?」 「・・・・・ああ、う・・・ん・・・」 確かに、アドベントカレンダーに『お約束ごと』は付きものだ。 それは覚えていたけれど、今は素直に何故か頷けなかった。 思わず、抱き抱えていたツリー型のボックスカレンダーを突き返したくなる衝動に駆られる。 「アルヴィス君は、とっても良い子だからちゃんとお約束は守ってくれてたんだよねー!」 もちろん今回だって守ってくれるでしょ? そう言って、にっこり笑うファントムにアルヴィスは、ひくりと顔を引き攣らせた。 機嫌の良い時の、猫のような。 ファントムの浮かべている満面の笑みが、アルヴィスの不安を煽る。 玲瓏(れいろう)と輝く月を思わせる美貌の持ち主が浮かべる笑みは、一見、天上に住まう存在の如く邪気の無いものだが。 ――――――・・・その実、性格は決してそのイメージ通りという訳じゃないことをアルヴィスは知っていた。 「・・・・・・・・・・」 小さい頃に貰ったアドベントカレンダーには、『お風呂に入ったら、髪の毛をちゃんと乾かすこと』だとか、『好き嫌いしないで、ちゃんとご飯を沢山食べること』などという主にアルヴィスの身体を気遣った内容や、『クリスマスカードを書くこと』だとか『今日お泊まりにくること』などという遊びの約束などがメモに書かれていたのを覚えている。 カードを書いたり、泊まりに行く相手は当然、カレンダーをプレゼントしてきたファントム自身だ。 そして、メモと一緒にキラキラした包装紙にくるまれたメダル型やら丸い形のチョコレート、ステッキ型や星型などの色とりどりなキャンディやクッキーが入っていた。 それらが、子供時代のアルヴィス対象で選ばれたものだとすると・・・。 「・・・・・・・・・・・」 キャンディやチョコレートが大人仕様となっている、と言われた今。 それに伴い、グレードアップしたというメモの内容は・・・・・・・・・・どう変化したと言うのだろう? ――――――・・・不吉だ! 不吉な予感しか全然しない・・・っ、・・・!! 「あれ、どうしたのアルヴィス君?」 表情を強張らせ、カレンダーを手にしたまま固まっているアルヴィスにファントムが声を掛けてくる。 「・・・ああ、もしかしてボクが変なこと書くとか思ってる?」 「・・・・・・・・・・」 白く美しい顔に微苦笑を浮かべて、そう問うて来る様子は、如何(いか)にもそんなことは有り得ないと言いたげではあるが。 残念ながら、可能性は大有りなのでアルヴィスとしては首を横に振ることは出来ない。 「やだなあ、・・・ボクがアルヴィス君が困るようなこと書くワケ無いでしょ!」 「・・・・・・・・・だけど、・・・」 何と言えばいいものやら、上手く今の感情を伝えられずにアルヴィスは口籠もった。 ファントムが、アルヴィスのことをこの上なく大切に想ってくれているのは分かっている。 アルヴィスの為なら、何だってしてあげると豪語するこの幼馴染み兼恋人である彼の気持ちに、一片たりとも嘘偽(うそいつわ)りが無いことも。 だから、ファントムのそういった気持ちを疑う心は、アルヴィスにだって微塵(みじん)も無い。 だが、しかし。 この4歳上の恋人が、・・・・この上もなく悪戯好きで、常識の範疇(はんちゅう)に囚われない発想力の持ち主で、とてつもなく破天荒(はてんこう)な行動や突拍子(とっぴょうし)もない思いつきを実行する性格であることだって知っていた。 つまり、・・・・ファントム本人にとっては取るに足らないようなことであっても。 アルヴィスにしてみたら、とんでもなく大事(おおごと)である可能性だって充分に考えられる。 「へ、・・・変な格好しろとか、変なことしろとか、・・・そういうの書いてあるんじゃ無いだろうな!?」 着せ替え人形のごとく、やたらとアルヴィスを色々な格好にさせたがるファントムの性癖を考えれば、あり得ない事ではないだろう。 それに何度か、ベッドを共にし恋人としての行為の最中にも、視覚や手足の自由を奪われる羽目になったり、変な道具や薬品を用いられそうになったことがある。 そんなのが、もし万が一メモに書かれているのだとしたら。 ―――――――・・・想像するだけでゾッとする・・・・というか、絶対にイヤダ。 「変・・・?」 しかしファントムは、微笑を浮かべたままアルヴィスの言葉を軽く言いなぞっただけで、とくに何も反応しなかった。 肯定するわけでもなく、けれど否定もしないままだ。 「だって、グレードアップとか言ってたし、普通の約束事じゃない気がするし・・・」 アルヴィスがボソボソと戸惑い気味に口を開けば、ファントムは微笑していた口元の両端を更に吊り上げる。 「普通のじゃないって、・・・例えば?」 童話に出てくる笑い猫・・・・チェシャ猫が実際に居たら、こんな笑みを浮かべているのではと思うような・・・・キレイだけれど、何処か意地悪そうな笑顔だ。 「えっ、・・・」 「ボク的にはそんなつもりは一切無く、『お約束カード』を書いたんだけど? 変って、どういう風に変なのかな?」 「そ・・・れは、・・・・・」 『あんなこと』とか『そんなこと』――――――・・・今までファントムに困らされた事柄が、山のようにアルヴィスの脳裏に蘇る。 かといって、それを口に出すのは憚(はばか)られた。 「ねえ、どういう風に変なこと? ボクに教えてよアルヴィス君」 「・・・う、・・・」 何故なら、下手に言ってしまえば・・・・『ああ、そう言うヤツか。いいねえ、ボクは思いつかなかったけどステキなアイディアだよ! それも入れようか』・・・なんて羽目になってしまいそうである。 もし仮に、ファントムがそういった内容を考えついていないのならば―――――――わざわざ、墓穴を掘る必要は無い。 「いや、どういう風って・・・具体的なのはその、・・・・・・・・別に無い・・んだけど、・・・」 「ふぅん・・・?」 しどろもどろに弁解するアルヴィスの顔を見て、ファントムはただニヤニヤと笑っているだけだった。 「だからその、・・・なんか、・・・ヘンな・・・変わったことさせられるかもって、・・・思っただけで」 「そうなんだ?」 軽い相づちをしてくるその表情からは、何を考えているのかアルヴィスにはサッパリ伺えない。 「う、・・・うん・・・」 「そう。・・・じゃあいいか」 下手に追求されたら墓穴を掘ってしまう、と身を固くしたアルヴィスの予想に反して、ファントムは更なる問いかけをしては来なかった。 「ねえ、開けてみて」 代わりに、アルヴィスが持っているツリー型の箱・・・アドベントカレンダーを指さして、そう即してくる。 「・・・・今か?」 「うん、それ今日からのだし。後で開けるのも、今開けるのも変わらないでしょ」 「・・・・・・・・・・」 「変な命令入ってる、とか誤解してて欲しくないし・・・ねえ開けてみて?」 「・・・・・・・・・・」 ニッコリ微笑まれながら勧められても、正直、気は進まない。 けれどファントムは、アルヴィスがアドベントカレンダーの1つめの窓を開くまでは解放してくれないだろう。 それに考えようによっては、本人の前で開ければとんでもない内容の命令が書かれていた場合に、即刻駄目出しが出来る。 「・・・・・・・・・わかった」 腹をくくって、アルヴィスは美しいシールで封印の封印を剥がし、カレンダーの1つめの窓をそっと摘んで開いた。 「・・・・・・・・・・・」 ボックス状に区切られたその部屋の中には、小さな布の袋とアルヴィスが最近気に入っているチョコーレートが1つと、2つに折りたたまれた紙が入っている。 「・・・・・・・・・・・」 ゴクリと思わず固唾(かたず)を呑みながら、アルヴィスはその厚手の紙で出来たカードを手に取った。 ――――――――『ボク宛のクリスマスカードを書くこと』 真っ白な紙に繊細な模様が型押しされたカードには、極めて簡素にキレイな文字でそう書かれている。 「・・・・・・・・なんだ、・・・・」 カードを手にしたまま、アルヴィスは安堵(あんど)の溜息を付いた。 内容は、幼い頃貰ったアドベントカレンダーの、『お約束ごと』そのままだ。 中のプレゼントもメモも、どっちもグレードアップしたとか言うから、すっかり警戒してしまったけれど、どうやら普通のアドベントカレンダーらしい。 カードと共に入れられていた袋の中身も、シンプルなプレートと透かし彫りのロゴマークがぶら下がったシルバーの携帯用ストラップだ。 一緒に住んでいる相手にカードを書くと言うのは照れくさいが、それでもまあ、無理難題では無いのだから、これくらいなら許容しても良いだろう。 「ね? 別に変なことは書いてないでしょう」 「・・・・そうだな」 幾分、拍子抜けしつつアルヴィスはファントムの言葉に頷く。 とりあえず、カードに書かれているだろう内容は普通のことらしいので、安心した。 幼い頃の約束事とあまり変化が無いのなら、実行もそう苦労はしない筈である。 一件落着――――――・・・・そう、思った途端。 「ねえねえ、アルヴィス君」 「・・・・ん?」 安心してすっかり気を抜いたアルヴィスに、ファントムがニヤニヤ笑いを崩さずに話しかけて来る。 「さっきの話だけど、・・・・・アルヴィス君は、ボクがどんな変なお願いすると思ったのかな?」 「・・・っ、・・・!??」 言われて、アルヴィスはそのままの体勢でぴきっと固まった。 先程は上手く誤魔化せたと思ったのだが、どうやらファントムはしっかり、アルヴィスが言っていた内容に拘(こだわ)っていたらしい。 さっきは深く追求してこなかったから、そのままあの話は終わったのだと思っていたのに・・・・・・・見通しは甘かったようだ。 「やっぱさあ、気になるんだよね? ボクがすると思われてる『変なこと』ってなあに?」 「・・・・・・・・・・・・・それ、・・・は・・・・」 「それは?」 「その、・・・・えっと、・・・・う、・・・・・・・・」 ―――――――女装とか女装とか女装とか、エッチな事とか変態ちっくなことだよ!!! いっつもオマエ、そういうこと言って俺のこと困らせてるだろうがーーーーーーっ・・・!!!! 「・・・・・・だから、えっと、・・・・・」 心の中でそう叫べはしても、実際には口に出せない。 何故なら、言った途端にそれが現実になりそうな気がしてならないからである。 たとえそれが当たっていたとしても、アルヴィスがそういった内容を想像していた・・・ということで、何だかんだ言って実行されてしまう予感がヒシヒシだ。 そう思ったら、口が裂けたって言いたくない。 「あ、もしかして・・・・・・・えっちなこと?」 「なっ、・・・ち、違・・・・っ!??」 しかし、反応したら負けだと思っているのに―――――――サラッと問われたファントムの言葉に動揺して、身体を跳ねさせてしまう辺りがアルヴィスの敗因なのだろう。 「あ、ゴメンね。図星だった?」 「・・・・・・・・・・!」 プラチナの輝きを放つ銀髪をサラリと揺らし、眼前の天使とはかくなる者・・・と称したくなるような美貌が邪気の無い笑みを浮かべる。 だがしかし、天使とは上辺ばかりであり・・・・年上の幼馴染みの中身は、結構にえげつなく底意地が悪い性格だ。 「そっかー・・・ゴメンね? アルヴィス君がせっかく期待してくれてたのに・・・」 「ち、違うって言ってる・・・! 俺べつにそんなの、・・・ていうかオマエが・・・・・・・・・」 「あー・・・うんうん、そっかあ、艶っぽいのも入れておくべきだったんだね!」 にこやかにそう言い切る顔に浮かぶのは、確信犯的な笑みのそれである。 「だからっ、俺そんなのっ・・・・!」 「え、オモチャとかそういうの興味あったんだアルヴィス君。じゃあ今度、別にプレゼントしてあげるから、是非ボクの前で使っ・・・・」 「・・・・っ!?? な、・・なんのオモチャか知らないけど、いらない!! いらないからな俺は!!??」 アルヴィスの気持ちを、分かっていて言っているのだろうセリフが白々しい。 けれど酷く気紛れな性格だから、本当に実行しかねないのが怖ろしい所だ。 下手な反応を返せば、実現してしまう可能性がある。 「えー・・・? でも、それじゃあアルヴィス君が欲求不満に・・・・・」 「ならないから!!! いいよ、俺はこのカレンダーので充分だからっ・・・・!!!」 「そう?」 少し詰まらなそうに、ファントムがようやく納得する素振りを見せた。 「そ、そうだよ! 俺、このカレンダーだけで充分なんだ。カードも、コレに入ってるヤツだけで充分だからっ・・・!!」 ここが肝心である。 ここで押し切らなければ、本当に怪しいオモチャを贈られかねない。 ファントムが言うオモチャがどんなモノかは想像も付かないが、きっと怪しくてイカガワシイ物体に違いないというのは確信している。 断じて、そんなモノをプレゼントされる羽目になるわけにはならないのだ。 「物足りないんじゃない?」 「全然!!」 「そう・・・? それだけでいいの?」 「もちろん! 俺、このカレンダーのカード通りにするの、すごい楽しみなんだ・・・っ、・・・小さい頃思い出して、懐かしいし!!」 ここぞとばかり、心にも思っていなかったことを力説する。 自分で想像してトンデモナイと思った内容を実行させられるより、まだ子供じみていてもカレンダーの指令に毎日従う方がリスクは小さい。 「・・・さ・・・さっき、『クリスマスカードを書く』ってメッセージ読んで、すごく懐かしくなったんだ。だから俺、・・・カレンダーのヤツがやりたい!!」 「そう・・・? じゃあカード達に書いた内容は、アルヴィス君が想像してたのじゃないけれど、いいのかな・・・」 「!? いい、いい!! 全然いいよ!!! 俺、それがやりたい・・・・!!!」 いつもの自分らしくなく、かなりテンションの高いリアクションだと自分でも思ったがそんなことは構っていられない。 平穏無事にクリスマスイヴ・・・もとい、自分の誕生日を迎える為には、労力は惜しんでいられなかった。 というか、想像してたなんて風に言われるのもアルヴィスとしては不本意だが、藪(やぶ)をつついて蛇を出す訳にはいかないからひたすらにシカトする。 「そっか。・・・・アルヴィス君がそう言うのなら、ボクは構わないけれど」 「うんうん、俺、これがいいよ!」 「じゃあ、そのカレンダーのお約束ごとは守ってね?」 「分かった! そうするから、新たに何か変なのは贈ってくれなくていいからな・・・・?」 「OK。じゃあ今回は諦めておくよ」 「・・・・ありがとうファントム」 ―――――――良かった、・・・・・危機は免れた・・・・・・・・!! 内心でガッツポーズをしながら、アルヴィスは安堵(あんど)感の滲み出た笑みを浮かべる。 とりあえず、危機は去ったのだ・・・・・危うく墓穴を掘るところだったが、既(すんで)の所で助かることが出来た。 そう考えると、手にしたアドベントカレンダーだって、口からの出任せでナシに中に書かれたメモを実行するのが楽しみになってくる。 自分で勝手に想像した、ファントムが考えつくだろう、いかがわしかったり怪しかったりすることをさせられるのと比べれば、他愛のないことだ。 ―――――――クリスマスカードを書く? 可愛いじゃないか、そんなの。 ―――――――ツリーを飾る手伝い? 軽い軽い、そんなの全然苦にならない・・・ていうかそういうのなら、歓迎だ! ―――――――・・・・変なことやらされる危険を思えば、全然問題ナシ・・・!!! 「毎日、楽しみに1個ずつ開けるからな?」 だからアルヴィスは、アドベントカレンダーを抱き締めつつこんな『良いお返事』をしたのである。 「うん。ボクもカレンダー開けるアルヴィス君、楽しみにしているよ・・・?」 その返事を聞いて、ファントムが殊更(ことさら)に笑みを深いモノにしたことも露知らず――――――――――。 オマケ。 「ファントム、本当にあの内容が書かれたカードをカレンダーに入れたのですか?」 「勿論だよペタ。ボクが書いたあのカード達は、全部漏れなくカレンダーに仕込んだ」 「・・・・・・・・・・」 「なに?」 「いえ、・・・あの内容を読んで、アルヴィスがそれを守るとは思えないのですが・・・」 「ふふっ、・・・平気だよ。だってアルヴィス君、ちゃんと実行するって約束してくれたからね」 「・・・・・・・『猫耳メイド服を着て膝枕させる』とか、『1人でしてみせる』などと書かれているアレをですか・・・・?」 「アルヴィス君はまだ、お子様だからね。コドモは1度約束したら、それは絶対守ろうとするものなんだよ」 「・・・・・・・・・・・」 「フフ・・・アルヴィス君も、最初は疑ってたみたいなんだけどね。1個目を開けたら、普通の命令しか書いてなかったから安心したみたい」 「・・・・・・・・内容は徐々にエスカレートしていくものなのに、・・・・ですか?」 「ボク、ちゃんと言ったんだけれどね。プレゼントと一緒に、中の指令だってグレードアップしているよ、って」 「―――――・・・巧いものですね」 「やだなあ、騙した訳じゃないよ? アルヴィス君が勝手に慌てて、勝手に想像して、・・・勝手にカレンダー通り頑張る、って宣言してくれただけだもの!」 「・・・・・・・・・」 「可愛いよね! ヒトを疑いきれないとこがホント可愛い。疑おうとして、全然出来てない辺りが可愛すぎだよもう!!」 「・・・・・・・・・でもその可愛いアルヴィスを、罠に掛けたんですね・・・」 「恥ずかしがったり困ったりしてるアルヴィス君、ホント可愛いからね・・・ボクも罪悪感が無いわけじゃないけれど、誘惑には勝てないんだよ」 「・・・・・・・・・」 「だってほら、ボクったらアルヴィス君にメロメロだからさ!? 愛ゆえの行動だから、アルヴィス君だって分かってくれるよきっと!」 「・・・・・・・そうです・・・ね・・・」 「でしょ? ボクのアルヴィス君への愛は、何よりも尊くて何よりも激しくて何よりも―――――・・・優先されるべき、たった1つの崇高なる『想い』だからね・・・?」 「・・・・貴方がそう思われるのでしたら、そうなんでしょうね・・・ファントム」 END ++++++++++++++++++++ 言い訳。 クリスマスネタで何か・・・と思ったんですが。 なんか月並みなのしか思いつけなくて、こんなのにしてみました(笑) アドベントカレンダーなんて、幼稚園の頃にやってた記憶しか無くってウロ覚えなんですけど・・・大体こんなだったかなー・・・と。 待ちきれなくて、ゆきのはこっそり数日分とか開けちゃったりしてましたg(爆) もちろん、中に書かれてたのはお手伝いするとか、そういった他愛のないもので・・・トム様が書いてるようなのではありませんでした(笑) 余りこのネタは書かれてるの見たことないので、書いてみたんですけど・・・微妙に何だコレ?って話ですね。 もうちょっとイチャコラさせる予定で、実際にアルヴィスが実行するとこまで書こうって思ってたんですけれど、それだと長くなって拍手SSに向かないと思ったんで断念しました☆ あの後は、オマケでトム様がペタ氏に語っている通り、あのアドベントカレンダーが普通の命令なのは最初の方だけで、段々と変態ちっくな命令へとシフトしていきます(爆) けれどアルヴィスは約束してしまった手前、それを無視するわけにはいきません。 まあ無視したらしたで、トム様が物足りないんだと都合良く解釈して、自分好みなシチュエーションを創り出すだけかと思われますが(笑) 要は、どっちに転んだってALLオッケーなトム様です☆ |