『−天上の花−後編』










 

  ―――――――赤い、花。

 外界でも、部屋の中でも・・・・・その色は周囲の色に溶け込む事無く、ただひたすら、緋色のみを主張し続けている。

 真っ赤な色の艶やかなリボンを、美しく何重にも折り曲げ・・・形作られたかのようなその花は、ある意味とても美しい姿をしていると思うけれど。
 他の追随を許さないような、その際立った赫色も・・・・キレイと賞されるべきなのだとは思うけれども。

 その、圧倒的な――――――毒々しいまでの存在感が、アルヴィスの胸の内に言い知れぬ不安と拒絶をもたらすのだ。



「・・・・・・・・・・」


 だって、その赤は・・・・・・・床に飛び散った鮮血を思わせるから。
 発作を起こし、口元を抑えた手の平を染める・・・・血溜まりにそっくりだから。

 墓地に咲き乱れていた赤い花と、真っ白なシーツを汚す赤い染みが重なって――――――――アルヴィスに、『死』のイメージを連想させる。


「・・・・・・・・・・、」


 目の前に居るのは、死を司る美しき銀色の死神。

 漆黒の衣服を纏い、手には死人花のブーケを抱え。
 ・・・もう片方の手で、アルヴィスにこっちへおいでと手招きしてくるような・・・・・・。


 ほら、・・・・・・・・・死神が自分方に手を伸ばしてくる。

 その手に、掴まえられたら。
 捉えられてしまったら―――――――・・・・死の世界へ連れて行かれてしまう。


 でも、・・・動けない。
 掴まる。

 掴まってしまう・・・・。


 逆らえない。



 ―――――― 気 が 、 遠   く  な る  。










「・・・・アルヴィス君?」

「・・・あ、」


 心配そうな声で名を呼ばれ、頬を優しく撫でられる感触にアルヴィスは我に返った。


「・・・・・・・・・ファントム」


 至近距離にあるのは、見慣れた恋人の端正な顔だ。
 どうやら、けばけばしい赤い花の気に当てられて、少々意識が遠のいていたらしい。


「ちょっと顔色が悪いな・・・気分悪い?」


 抱えていた彼岸花の花束を、傍らのテーブルにバサリと置いて。
 ファントムは、ソファに座ったままのアルヴィスの顔を覗き込むようにしてきた。

 そしてペロッとアルヴィスの下瞼(まぶた)を指先で軽くめくり、色合いを観察してくる。


「・・・・貧血は起こしてないみたいだけど・・・・」

「いや、・・・平気だ。・・・何でも無い」


 尚も心配そうに前髪を掻き上げてきて、そのまま頭を撫でてくるファントムに、軽く首を横に振り。
 アルヴィスは、何ともないと口にした。

 それでもまだ、心配そうな顔をしているファントムに、アルヴィスはボソボソと言葉を補足した。


「ちょっと、・・・その花・・・苦手で。小さい頃、墓参りの時に一杯咲いてるの見てさ・・・・・怖かった記憶が拭えないっていうか、・・・・それで・・・・」

「リコリスを?」


 アルヴィスの言葉に、ファントムは一瞬だけ怪訝そうな顔になって彼岸花の英名を口にしたが。
 すぐに合点がいったように、何度か頷いて口を開く。


「・・・ああそっか、この花は虫除けになるだろうからねえ・・・・今の時代なら意味無いけど」

「・・・・虫・・・?」

「うん、リコリスの球根・・・鱗茎っていうんだけど・・・には、リコリンって言う可愛い名前の毒があるんだよね」

「?」


 墓場に咲いていて気味が悪い花だと話したのに、何故に虫除けの話題になるのか。

 予想もしなかった言葉に、アルヴィスが聞き返せば。
 ファントムはサラッと肯定して、説明を続ける。


「アルカロイド系の毒なんだけど、これ、虫とか動物が嫌うからね。・・・・昔、この国が土葬だった時代は重宝したんじゃないかな?」

「・・・・・・・・・あ、・・・・獣(ケモノ)に遺体が掘り返されたり、虫が付かないからか・・・?」


 彼岸花は、・・・てっきり、死体を好むというか・・・そういった土中の養分を好んで自然に生えてくるようなイメージがあったのだが。
 ファントムの説明に、もしかして花の性質を知った大昔の人間が、あえて植えた物だったのだろうかと言う気がしてきた。

 だとすれば、・・・・逆に彼岸花は死を象徴する花というより―――――――墓地とそこに眠る者達を守っていた存在では無いだろうか。


「うん、だから墓地とかに好んで植えられたって話、聞いたことあるよ。・・・ま、今は火葬が主流のこの国じゃ、あんまり意味は無いだろうけれどね」

「・・・・・・・・・・」

「その、昔に植えられた花が今もなお墓地とかで咲いてる事が多いから、リコリスは・・・そういえばこの国じゃ不吉っていわれてるんだったっけ」


 ――――――キレイな花なのに、勿体ないよ。

 そう言ってファントムは嘆かわしそうに、頭を揺らした。


「このお花、K国じゃ『サンチュ−相思華−』って呼ばれてるんだ」

「・・・さんちゅ。・・・そうし、か・・・?」

「葉は花を思い、花は葉を思う・・・って言ってね。花が咲いてる間は葉が出てこないし、葉が出た時にはもう花が散っちゃってるから・・・お互いに逢うことは絶対出来ないんだけど。そこら辺から派生した、情緒ある呼び方なのかもね」

「・・・・・・・・・・・」

「それに、リコリスって花言葉もロマンチックなんだ。確か、・・・・『悲しい想い出』?」

「・・・・・それ、・・・ロマンチックなのか・・・・?」


 お互いに決して出会えない間柄、というのはとても不毛では無いだろうか。
 想いあってるのに、絶対に逢えない・・・それはロマンチックというより、アルヴィスには切なさと悲しさしか感じられない。

 それに悲しい想い出、という言葉から連想するのは、やはり別れとか寂しさとか、そこら辺のイメージになる。
 だとすればやっぱり、死による別れなども連想するわけで・・・・・ロマンチックというより、それは不吉な印象の方が強いとアルヴィスは思った。

 だが、ファントムは帰国子女であり、長年海外で暮らしたせいで、此方での感覚が薄いから。
 ――――――『不吉さ』も、彼にとっては『ロマンチック』という事になるのかも知れない。


「ロマンチックでしょ? 思いっきり」

「・・・・で、その真っ黒な服装は何なんだ? タイまで黒なんて、・・・法事でもあるのか・・・・?」


 予測していた内容を、しっかり肯定されて。
 少々げんなりしながら、アルヴィスは花の次に気になっていた、恋人の服装を指摘する。

 そもそも、ファントムがこんな服装をしていなければ。
 喪服然とした、格好じゃなければ―――――――流石にここまで、彼岸花を薄気味悪く思わなかったと思うのだ。

 彼岸花だけで充分、死を連想するというのに・・・そこへ持ってきて喪服のような黒ずくめな格好をされれば、誰だって不気味に感じてしまうだろう。


「え、やだなあちゃんと見てよアルヴィス君・・・シャツがカジュアルでしょー? 法事じゃないよ!」


 だが、当の本人の回答は至ってケロッとしたものだった。


「Bバリーの新作なんだけど、この真っ黒さがリコリスの赤に映えるかなーって思って着ただけさ」

「・・・・・・・・・・」


 ファントムが着ているシャツはカラーワイシャツといったモノで、薄いグレーのストライプが入っている。
 そして彼の言うとおり、確かにその黒ずくめの服装は彼岸花の赤さを引き立て・・・・・壮絶な程の美を醸し出している・・・とも言えるだろう。

 だが、アルヴィスに言わせると如何せん―――――――。


「・・・悪趣味」


 そうすっぱり、アルヴィスが短く言い捨てると目の前の銀髪青年は、心外だ・・・と言わんばかりに目を大きく見開いた。


「ええっ?! ・・・そうかなー・・・赤と黒の組み合わせって、なんか刺激的で落ち着かない?? 黒ってとっても穏やかで優しい色だし、それに赤が適度に加わると刺激的でスリルがあって・・・ワクワクする感じでとってもイイと思うのに」

「・・・・・・・・・・・・・」

「赤と黒しか無い部屋とか作ったら、楽しそうだよね。きっと気分的にご機嫌になれるよ!」

「・・・・チカチカして、頭と目が痛くなりそうだ」


 ファントムの言う、『赤と黒の部屋』を思い浮かべて。
 アルヴィスは何となく、『不思議の国のアリス』のハートの女王他トランプ達を連想してしまった。


 赤と黒を基調とした・・・・いや、むしろ赤ばかりを使いまくった、目の痛くなるようなカラーリングのトランプの国。
 その城の、玉座に君臨するは――――――ド派手な赤黒衣装に身を包んだ、銀髪の王子様。

 サラサラの銀髪に大きな宝冠を被り、手には豪奢な杓(しゃく)を持って。


 『死刑! 死刑がイイよ! 早くソイツの首を斬っちゃって・・・!!!』


 そう叫びながら、その美しい顔に狂気の笑みを浮かべて―――――――・・・・・ああ、似合いすぎて怖い。




「!? ・・・・・っ・・・」


 アルヴィスは慌てて頭を振って、その想像を振り払った。

 とにかく、ファントムとは『ロマンチック』に関するイメージも色彩感覚も相容れそうにない。
 頭はいいけど、帰国子女だから。
 ホントは帰国子女とか関係無い気もするが、・・・・まあとにかくファントムとアルヴィスの感覚には大きな隔たりがあるのは間違いなかった。

 少なくともアルヴィスは、黒と赤の組み合わせにそんなイメージは持ち合わせていない。
 ミスマッチな組み合わせとは思わないが、どことなく危険な香りがするというか・・・とにかく、落ち着くといったイメージは無いのだ。



「・・・あ、それにね・・・リコリスの花言葉にはまだ、取っておきのがあるんだよ!」

「・・・・・・・へえ」


 どうせまた、―――――自分が抱く感覚とは、酷くズレた。

 もの悲しそうな・・・切ない意味合いか、不気味な呪いの言葉なんだろう、と期待しないでアルヴィスが聞いていると。
 ファントムは、傍らに放っていた彼岸花を1本、手に取りアルヴィスの方へと恭(うやうや)しく献げてきた。


「・・・・・・・・っ!!?」


 死人が埋まった土に勝手に生えてくる不吉な花・・・という思い込みは、先ほどのファントムの説明により訂正されて少しは不気味さが和らいではいたが。
 新たに毒がある、なんて説明をされた後ではやっぱり近寄りたくない花だ。

 漆黒のスーツを纏い、たった1本でも燦然とした・・・毒々しい存在感を放つ赤い花を捧げるファントムの姿は、相変わらず魂ごと奪われてしまいそうな美しさである。
 こんな姿で法事に出たら、参列者が皆見とれて、法要の邪魔になるのでは無いか・・・と思ってしまう程だ。

 しかし、・・・・アルヴィスに献げられるは、障気を放つ(かも知れない)毒花。
 もしかして法事じゃなくて、アルヴィスを亡き者にし、アルヴィスの葬式を行う為に、花を捧げてきたのでは・・・・・・・!!?

 ・・・なんて。
 あり得もしない、バカな妄想をしてしまいそうになる。


「やめろよ、・・・毒あるんだろそれ!!」

「え? ああ・・・鱗茎にはね。でも、よほど摂取しないと意味ないし、少し摂食したくらいなら軽い吐き気程度だよ? 重篤なら下痢とか中枢神経麻痺とかも起こす事はあるけど・・・たまに死んだりとか」

「充分危険だろ!!」


 アルヴィスが心から嫌がっていると分かるだろうに、ファントムは楽しそうに花を近づけてくる。


「よほどたっぷり取らないと死なないから、平気だってば。それにリコリスで怖いなら、スイセンだって同じ毒成分あるしアサガオとかスズランだって駄目ってことだよ」

「いや、・・でも・・・っ!」


 危険性は少ないと分かっても、やっぱり気持ち悪いのは気持ち悪いのだ。
 ずっと忌み嫌ってきた花を、多少誤解は解けたとはいえ早々好きになれる訳もない。


「俺、やっぱり形とか色とか・・・っ、・・・好きじゃないし・・・・!!!」


 ソファの上で、ジリジリと後ずさりながらアルヴィスは必死に叫ぶ。


「素敵でしょ? ほら、色なんて血みたいなスッゴイキレイな赤だよ!」

「それがイヤなんだよ!! なんか血の塊みたいで、すっごい不気味だ・・・・!!!」

「違うよ、凝固した血液っていうよりこの色は鮮血っていうか・・・動脈をスパッと切った時に吹き出す・・・、」

「生々しいこと言うなっ!! とにかく嫌いなんだ・・・・、・・・血吐いた時とか・・・思い出しちゃうし・・・」


 どうしたって、自分が吐血した時に飛び散った朱色を思い出してしまい。
 アルヴィスは蘇ってくる恐怖感を振り払うように、激しく首を振った。

 本当にもう、・・・・・・・どうしてこの男はこんなにも悪趣味なんだろうか。

 いつもは感心するくらいハイセンスなモノばかりをセレクトして、身の回りを固めている癖に。
 自分の容姿を知り抜いているかのように、似合うモノばかりを身に付けるパーフェクトさを誇っている癖に。

 時折、――――――目を覆いたくなる程の悪趣味に走る。
 それでもまた、似合い、サマになってしまうのが・・・・アルヴィスにしてみれば不思議で堪らないところだった。


「・・・・・・・・そっか、アルヴィス君は血が苦手だったね・・・ごめん」


 その様子に、ファントムはようやくアルヴィスに花を突き付けるのをやめて。
 匂いを嗅ぐように自らの鼻先へと、手にしていた赤い花を近づける。


「――――――・・・想うは、あなた1人・・・・」

「・・・・・・・・?」


 謳うように呟かれた言葉に、アルヴィスが背けていた顔をファントムへ向ければ、彼は花を手にしたまま静かに苦笑していた。


「これもリコリス・・・彼岸花の、花言葉だよ」

「・・・・・・・・・・」


 地獄に咲いている花のようなのに、意外な花言葉だとアルヴィスは思った。
 けれど、そのひたむきな情愛は・・・・同時にとても相応しい気もする。


「・・・『想うは、あなた1人』。・・・『再会』って意味合いもあったかなあ・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「お花は嫌いかもだけれど、花言葉は素敵でしょう?」

「・・・・・・・・・そうだな」


 今度はアルヴィスも、素直に頷いた。


「彼岸花って、色んな呼び方あるんだよね。『捨て子花』とか『死人花』とか『幽霊花』とか。・・・・ああでも、仏教教典で大きな赤い花を意味する、『曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』って呼び方とかもあった気がするよ。・・・不吉な意味合いの名前ばっかりじゃないね?」

「・・・・全部、不吉な意味合いな気がするけど。 仏教とか赤を意味する花って・・・・やっぱりなんか、血を思わせるっていうか・・・」

「仏教的な解釈だと、赤色って確か『慈愛、敬愛、可憐』なんて意味合いがあったと思うよ。むしろ青の方が、怖いイメージじゃなかったかなー? ああ、それにね・・・・」

「・・・・よく、知ってるな」


 まだ言うことがあるのかと、アルヴィスがファントムの顔を見つめれば、銀髪の美青年は此方に向かってニッコリと微笑んだ。


「曼珠沙華って、サンスクリット語・・・まあ古代インドで使われてた言葉で梵語(ぼんご)とも言うけれど・・で、『天上の花』って意味合いもある。天国に咲いてる花ってことかな」

「・・・・・・・天国に・・・咲いてる花・・」

「だから、仏教的に言うと極楽浄土? そこには真っ赤な、この花が咲き乱れてるのかもね」

「・・・・・・・・・・・・・」


 死後の世界で、咲き乱れている赤い花。
 そこは別に、地獄ではなくて。

 天上に・・・・むしろ天国とも覚しき場所で、咲いているらしい。


 だとしたら、・・・・・この極彩色の花は・・・・地獄の炎ではなくて――――――天上で咲く、人々の魂が化身した花なのでは無いだろうか?


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 想うのは、貴方ただ1人だけ。

 来世で再び逢えることを願い、ただ1人だけを想い続けながら待つ花。


 もし、自分が先に逝ってしまったとしても・・・・・・・また再び出会えることを願いつつ、天上で咲きながら待つ花。


 そう考えたら、別意味でこの花が特別に見える気がした。

 この花の赤さは、その命を失った人間の魂を取り込んで咲いているから。
 ・・・・・こんなにも、凄みのある美しさが在るのかも知れない。


「アルヴィス君は嫌いかもしれないけど、ボクはやっぱり、この花が好きだよ。血の色をした、・・・・この花が好き」


 言いながら、ファントムが片手を伸ばしてアルヴィスの頬に触れてきた。


「この皮膚の下には、赤い血が流れてる。・・・命の水だよ・・・・それが流れてるからこそ、君の肌はこんなにもキレイだ」



 ――――――血の気を失った肌が、どれだけ青褪めていて萎びた魅力無いモノになってしまうか・・・・君は知らないでしょう?


 そう口にして、愛しげに頬を撫で続ける。
 それから、背に腕を回して柔らかく抱き締めてきた。


「・・・・君が柔らかくて温かいのも、ちゃんと呼吸してくれてるのも・・・・・血液が、各臓器に酸素を送って生かしてくれてるお陰・・・」

「・・・・ファントム・・・・」

「だからボク、・・・・このお花の色がとても好きだよ。・・・命の色だ」

「・・・・・うん・・・」


 言い聞かせられるように、何度も何度も耳傍でそう囁かれ。
 甘い声音で言われる度に、アルヴィスは少しずつ花の色への拒絶が薄れていくように感じていた。

 由来や花言葉や・・・・ファントムの言い分を聞いているウチに、あれほど嫌っていた花への感情が変わっていく。

 やっぱり少し、気味が悪いけれど。
 ほんのちょっぴり、・・・怖い気がするけれど。

 でも、ファントムが好きな花なのなら、・・・・・好きになってみようかと思う。

 それに、もし自分が死んで―――――――あの花に生まれ変わって、ひっそりと墓地で咲く事が出来るのだとしたら。
 たびたび墓を訪れてくれるに違いない『彼』を、・・・咲きながら待ち続けるのも良いかも知れない。

 花言葉通り、ただ1人だけ想いながら・・・・再会することを夢見つつ咲いて待つのは、・・・・嫌じゃない気がした。

 『彼』が好きだという花になれるのだったら、それもまた良いのかも知れない。


 アルヴィスは、自ら望むモノよりも―――――――望まれるモノにこそ、なりたいと願う。


「・・・・なあ、」


 ソファに寝転んだまま、腕を伸ばして。
 アルヴィスは、自分からファントムに抱き付いた。


「じゃあ、もし俺が死んで・・・この花に生まれ変わったら。お前はちゃんと、俺を見つけて・・・・・墓参りとかに来てくれる度に、探して声掛けてくれるか・・・・?」


 お前だけ想って、また逢える事・・・ただそれだけ願って、咲いてるから。

 そう言ったら、ファントムはアルヴィスを抱き返しながら首を横に振った。


「ううん、探さない。・・・・だって、その時はボクも一緒に死んでる筈だから」

「・・・・・・・・・・ファントム」

「一緒に、アルヴィス君の横で咲いてるに決まっているよ。離ればなれは嫌だからね」

「・・・・・・・・・・、」


 てっきり、意味が通じず怪訝な顔をされるだけかと思っていたのに、意外な反応でアルヴィスは内心驚いた。


「・・・・だけど、それはまだまだ先の話で」


 驚きに固まっていたアルヴィスに、ファントムは言葉を続ける。


「アルヴィス君の寿命もボクのも、まだまだたっぷりあるから平気だよ。・・・死んだら何に生まれ変わるかを考えるのは、ずーっと先でいい」

「ファントム・・・」

「大丈夫。アルヴィス君の身体のことは、ボクに全部任せておけばいいよ。ボクが一生診てあげるから、平気。・・・ね?」


 よしよし、と幼子にするように頭を撫でられて。
 優しく、言い含められる。

 ファントムには、アルヴィスの気持ちなど全てお見通しのようだ。


「・・・・・・・・・・・・・」


 そう、・・・アルヴィスはきっと花では無く自分にこそ、恐怖を感じていた。

 幼い頃見た彼岸花は、別離の恐怖と、それまでの日常生活を大きく変化させられるキッカケのイメージと重なっていて。
 今見る彼岸花は、発作時に吐いた血溜まりを連想し・・・延いては自分の体調への不安に繋がっていた。

 いつまた、血を吐くことになるのかと。
 決して健康体とは言えなくなってしまったこの身体が、一体いつまで持ってくれるのかと。

 何度大丈夫だと言い聞かされても、心の片隅にある・・・・消えない小さな不安。
 彼岸花を見ると、それが煽られる気がして―――――――・・・怖かった。


 けれども。



「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ファントムに抱き締められながら、アルヴィスがもう一度、彼岸花を見つめれば。

 その毒々しい程の赤さは、ただの赤色であり。
 単なる大ぶりの赤い花・・・・といった風情に、アルヴィスの目に映った。

 血液でも、地獄の炎でも何でも無い・・・・単なる美しい赤い花。



 ――――――沢山の数を生けたなら、ファントムの言うとおりに、それはそれは見事だろう・・・・・・・・。


 『彼』さえ、傍に在ってくれるのなら。
 アルヴィスは、地獄の炎も単なる赤い花と思い・・・・・・・・・・手折る事すら、きっと出来る。


 もしかすると、本物の血を満たしたグラスでも。
 彼が赤ワインだと言ったなら、飲み干す事が出来るかも知れない―――――――そんな思いが頭に過ぎって。


「・・・・・・・・・、」


 流石にそれは無いかと、アルヴィスはファントムに抱き付いたままで、そっと苦笑を浮かべたのだった・・・・。

 





++++++++++++++++++++
言い訳。
なんか最後の方で、アルヴィス洗脳されてますg(爆)
それは無いか、・・なんて否定してますけど絶対、ワインだと思って飲みますよこの人!(爆笑)
トム様がダテに、小さい時からインプリンティング(刷り込み)してないです☆
完全に洗脳状態。
悪でも正義と丸め込まれたら・・・きっとそっち信じちゃいます(笑)
ついでにトム様が、すごいきれい事並べて、だからこの花が好きなんだ・・・なんて言ってますけども、嘘でs(殴)
単に、血の色だからお好みなだけです(笑)
カラー的に、眺めてると気分が高揚して良い気分になるらしいです☆
好戦的な性格ですからね、ファントム。
ちなみに、彼岸花が墓場で良く咲いているって印象受けるのは、話中でトム様が言ってた通りらしいです。
毒があるので、遺体を荒らすモグラとかその他の動物、虫なんかが嫌って近寄らないらしいんですね。
なので、好んで墓地に植えられたらしいです。
でも水溶性の毒なんで、球根は長時間(数日?)水にさらしてからだと食べたりすることもあったそうな・・・(笑)