『Halloween&Birthday−side闇−』
※『君ため』の番外編です。
ナナシとアルヴィスしか登場してませんが、ベースはファンアルです☆
「アルちゃん、手ェ出して?」
言われる通り差し出せば、コロンと手の平に、色鮮やかな包み紙にくるまれた袋が落ちてきた。
「・・・・アメ?」
アルヴィスが、オレンジやら黄色の紙に包まれた飴の袋を手に乗せたまま、くれた張本人を見上げると。
最初こそ気さくに人懐こく話しかけてくれていたのに、最近では滅多に姿すら見せなくなった1つ上の先輩は静かな笑みを浮かべていた。
いつもの・・・・・・・・らしくない、何処か遠慮がちな笑顔だ。
明るくて気さくで、・・・・はた迷惑なくらい煩くて――――――・・・そんなイメージがあった彼なのに。
いつ頃からか、彼・・・ナナシはアルヴィスに対してそういう笑みを見せる。
こうして、大学内で彼に呼び止められるのも久しぶりの事だ。
「もうすぐ、ハロウィンやろ? あちこちの店で、それ用の菓子売ってるやん・・・見とったらなんや、アルちゃんにあげたい思うてな・・・」
アルちゃん、甘いの好きやろ? ・・・やから、あげる。
そう続けて、ナナシはまた笑った。
今度は青灰色の瞳を細め目尻を下げる、優しい笑みだった。
「・・・・ありがと」
本当は、それ以外の事こそ言いたいし、聞きたい筈なのに。
何も言えないまま、アルヴィスは礼を言った。
よそよそしくなったのは、どうしてだ?
俺が、何か気に入らない事をしたのか?
・・・・・どうしてそんな、・・・・切なそうな表情(カオ)をする・・・・・・?
「・・・・・・・・・・・、」
気にはなっていたが、アルヴィスはやはりどうしても言葉には出来なかった。
―――――――口下手な方だから、どう問えば良いのか分からないというのも本音だが。
訝(いぶか)しく思う程の事も、具体的に挙げられる程には無い。
「・・・・・・・・・・・」
ナナシは。
話しかければ避けられるという訳では無いし、ちゃんと受け答えしてくれる。
たまにはこうして彼から話しかけられたりすることもあるし、その間だってナナシはいつも笑顔だ。
だから少なくとも、嫌われたとか・・・彼に恨まれるような事をアルヴィスがしでかしたという訳では無いのだろう。
しかし、最初に比べれば明らかに彼と話す機会は減っていたし、ナナシからアルヴィスに接触してくる事自体が殆ど無くなっている。
その部分に、アルヴィスは違和を感じていた。
とはいえ、それはあくまでアルヴィスが感じている、一方的な主観で。
・・・・そもそもナナシがアルヴィスに近づいて来なければならないという、理由なんて無いのである。
だからアルヴィスには、何も言えないまま目の前の青年を見上げる事しか出来ない。
「・・・・あのな。自分のバイト先で、月末にハロウィンパーティーがあるねん。」
そんなアルヴィスの顔を見つめ返し、ナナシがポツリと口を開く。
「・・・・・え、」
ハロウィン・パーティーと聞いて、アルヴィスの心臓がドクリと跳ねた。
「一般客も従業員の関係者もごちゃ混ぜに招待して、派手に騒ごぉいう集まりで・・・・食いもん仰山あるし、お菓子もいっぱい出るんやて。 ・・・・あ、ギンタ達も来るねんで?」
「・・・・・・・・・」
ナナシの話に、アルヴィスはソワソワと気持ちが落ち着かなくなる。
この話の流れは、そのパーティーに来ればいいと、誘われる展開では無いだろうか。
ここ数ヶ月余りの、彼の態度を考えれば・・・・その可能性はかなり低いだろうけれど。
だが、逆にここで呼ぶと言ってくれるなら、それはナナシとの距離感を再び詰められるキッカケとなる。
しかし。
アルヴィスは例え、そのキッカケを手に入れたとしても―――――――・・・利用することは出来ないのだ。
「俺は、・・・・」
「分かっとるよ」
思わず、行けないと言いかけたアルヴィスを遮るようにナナシが言葉を発する。
「あの白いオニーサンが、許す筈もあらへんよな! それにハロウィンなんて、自分で盛っ大なのを開きそうやし? アルちゃんがそっち出ないワケ行かへんもんなあ?」
「・・・・・・・」
『白いお兄さん』。
ナナシは、アルヴィスの幼なじみであり現在同棲中の恋人でもある、ファントムの事をそう呼んでいた。
サラサラした銀髪に白い肌、色素の薄い美貌を持つファントムには。
纏う衣服の色は関係無しに、確かに『白』の印象が強いからだろう。
1度だけ言葉を交わしたことのある2人だが、ウマが合わないと直感でもしたのか、その時から何かお互い毛嫌いしている風がある。
とはいっても接点など無い2人だから、たまにアルヴィスの口を通じてのぼる名前に、お互い反応する程度だ。
そしてナナシは、ここ数ヶ月ずっと、アルヴィスから距離を置いている状態だからして―――――――最近ではそれすらも無い。
「ホンマは、誘いたいトコやねんけど。どうせ来れへんやろうから、最初から諦めてん!」
「・・・・ごめん」
明るい笑顔でそう言うナナシに、アルヴィスはただ謝ることしか出来なかった。
ナナシが言っていたとおり、ハロウィンには絶対にパーティーが催される事が決定している。
それをファントム自身が開くのか、はたまた彼に負けず劣らず華やかな彼の知人達が開くのかは知らないが・・・・とにかく、ド派手なのが催されるだろう事は間違いなかった。
ファントム本人の海外生活が長かった上に、彼の父方の実家が元々洋風に著しく傾いた家柄らしいので、こういった年中行事はまず、欠かすことはないのだ。
ファントムのせいで幼い頃から、七面鳥を食べるパーティーだの、中に菓子が詰められたチョコレートの卵を、家の中で探すパーティーだの・・・・ハロウィン以外だって、奇妙なイベントに幾つも参加させられた経験がアルヴィスにはある。
まして、ハロウィンはファントムにとって単なるイベントのひとつでは無い。
10月31日は、彼が生まれた日だ。
ただのイベントパーティーならば、アルヴィスだって別に参加する義務は無いし、ナナシが誘ってくれた方へ行く事だって出来るのだが。
―――――・・・如何に恋愛面において鈍いアルヴィスでも、流石に、恋人の誕生日に他の用事を優先させるのはイケナイ事だと分かる。
「それ、・・・やっぱ31日だよな? 違う日だったら、もしかしたら・・・」
「ええって、ええって! ばっちり31日やし、・・・また別の機会にな!」
「・・・・でも、」
それでも、せっかく暫くぶりに声を掛けてくれたナナシと、それっきりになりたくなくて。
アルヴィスは、諦め悪く食い下がった。
別にパーティーに行きたい訳では無い・・・・ただ、彼と前のように普通に話せるようになるキッカケが欲しいだけだ。
ナナシに特別な感情を持っている訳では無いが、・・・・やはり気になる。
あんなに・・・見た目は怖そうだけれど中身はやたらに人懐こい、大きな犬みたいだった彼が。
いつからか、アルヴィスから距離を置き・・・・傍に寄りつかなくなってしまった。
嫌われている訳じゃ無さそうなのは、顔を合わせた時の態度で分かる。
けれど此方から近づこうとすると、すうっと身を引いてしまうのだ。
それでいて、・・・・そういった態度を取るときのナナシは、とても辛そうな表情を浮かべる。
自分から触れられる事を厭い(いとい)、伸ばされた手を避けておきながら・・・・・本当は自分から、近寄りたいと思っているような顔だ。
もちろん、はっきりとそういう表情を現す訳では無いが、何となくそういう印象を受ける。
笑っているのに、何処か辛そうというか悲しそうな顔なのだ。
切ない、と表現すれば1番ピッタリ来るだろうか。
その表情が、アルヴィスの心に引っかかり――――――・・・・どうにも気分がスッキリしない。
放っておけないというか、放っておいたらダメな気がして、・・・・大学内ではつい、彼の姿を探してしまうアルヴィスだった。
根拠も無い、罪悪感だ。
だが、何を言われた訳でも、何を咎められた訳でもないのに(実際、ナナシは別に何も言っては来ないのだ)・・・・もし彼がどうにかなってしまったら、それは自分の責任だと言う気がして。
アルヴィスを、ひどく落ち着かない心地にさせる。
「・・・・・・・・・・・」
しかし、パーティー当日に抜けられない用事がある以上は、食い下がるにも良い方法が見つかる訳も無く・・・アルヴィスはただ押し黙るしか無い。
そんなアルヴィスを、ナナシは暫く感情を伺わせない眼でじっと見つめていたが―――――――やがて、ニヤニヤとした笑みを浮かべ口を開いた。
「・・・けど、残念やなあ」
「?」
「アルちゃんが参加出来るんやったら、可愛ええ格好見れたかも知れんのに」
「・・・・は?」
「ハロウィンいうたら、やっぱり仮装やろ? メイドさんやら猫耳やら、アルちゃんの可愛ええ姿見るチャンス逃した思うたら、えらい残念やわ!」
「・・・・・それは仮装じゃなくて女装だろう」
切なそうな表情など欠片も失せて、ヘラヘラと相変わらず軽薄そうな笑みを浮かべて言ってくるナナシに、アルヴィスは憮然とした。
何となく、・・・思い悩んでいた自分がバカみたいである。
「ええやん! どっちでも。ホンマ残念やで〜〜〜アルちゃん、こうなったらパーティー来れへんでも可愛ええ格好だけ、してみてくれへん!?」
「 お 断 り だ っ ! 」
当然、語調荒く拒絶する。
女装など、まっぴらだ。
それでなくとも、家に帰ればファントムにアレコレと着せ替え人形よろしくに、洋服をとっかえひっかえ着替えさせられている状態なのである。
最近は、毎日の服装だってアルヴィスは自分で選んではいない。
・・・・殆ど、ファントムが決めた服を着ている。
このシャツには、このパンツじゃなくちゃダメだとか。
この色にはこっちの靴が似合うとか、色々言ってきて煩いので、もう反抗する意志も失せてしまっていた。
元々、安価でそれなりに着やすければそれで良し・・・と思っているアルヴィスには、衣服に関するこだわりもそうは無い。
だからもう、身に付けるモノはファントムの言うに任せている状況なのだが、これがまた稀にトンデモナイような服装があったりする。
似合うから。
・・・たった一言そんな理由で、某有名女子高校の制服やら得体の知れない着ぐるみやらを着せられるのは、ファントムにだけで沢山だ。
「なら、しゃあないな。アルちゃん来てくれても、可愛ええ格好見られんなら残念さは半減や。・・・誘うのはやっぱ止めとこ」
「誰が誘われても行くかっ!」
完全に機嫌を損ねたアルヴィスは、まだしつこく女装に未練があるらしいナナシにキッパリと言い切る。
「そうそう、やからそんな気にせんといて!」
「・・・・・・・気にしてないっ!!」
本当に、何を気に病む必要があったのか。
仮装パーティーと、自分の恋人の誕生日を秤(はかり)に掛けなければならないような、そんな理由はまるで無かったのだ。
「大体その日は、ファントムの誕生日だし。パーティーあろうと無かろうと、俺はハロウィンには出掛けられないしな!」
だから誘われたって、仮装パーティーになど行くもんかと悪態を付けば、ヘラヘラしていた1つ上の男が以外な反応をした。
「へえ・・・?」
にやけていた顔を引き締め、眇(すが)めるようにしてアルヴィスを見る。
「あの白いオニーサン、・・・・・・誕生日あるんや」
「ああ、そうだけど・・・?」
「てっきり、木の股から生まれたんや思てたけど、・・・・そうか・・・人並みに誕生日なあ・・・・」
「・・・・・・・・・・?」
木の股、とはどういう意味か。
ナナシの声がやたら冷たく響いて、アルヴィスは無意識に身を縮めた。
「けど、・・・・ハロウィン言うのはピッタリやね。似合っとる」
「ああ、そうだな?」
確かに、賑やかで派手派手しい事好きなファントムには、似合いの誕生日な気はする。
悪戯したり、他人を驚かせたりすることが大好きな彼には、似合いの誕生日だろう。
けれどナナシが次に口にした言葉は、そういう意味合いで言ったのでは無いと知れる内容だった。
「・・・・・・・化け物や悪魔がこぞって祝ってくれる日や言うし・・・さすがオニーサン生まれた日や」
「・・・・・・・・・・・、」
陽気な好青年、といった風貌が剥がれ落ち、昏い(くらい)表情が顔を覗かせている。
声も口調も、硬く翳りがあった。
その変化に驚きつつ、アルヴィスが先ほど疑問に思った『木の股』というワードが、頭の中で1つの答えを弾き出す。
『木の股』。
そういえば、魔女狩りだとか本気で悪魔が居ると信じられていた時代、悪魔は木の股から生まれると・・・・そう伝えられていたのでは無かっただろうか。
つまり、ナナシはファントムを悪魔のようだと言っている・・・?
そう考えれば、ハロウィンが誕生日というのは相応しい・・・そのセリフにも繋がる。
それに気付いて、アルヴィスの顔が曇った。
「・・・・・・・・・・・・・・ナナシ」
確かに、アルヴィスの幼なじみ兼恋人であるファントムは、決して性格が良いとは言えないだろう。
自分勝手だし、かなりワガママだし、他人を振り回すことを何とも思わないタイプだ。
気に入らない事があったら、口も出すが手も出すし、それなりに凶暴な一面も無いとは言えない。
だが、それでもアルヴィスにとって大切な存在である事に変わりは無く―――――――そんな相手が悪し様に言われるのを聞くのは、複雑だ。
「ファントムは、・・・・ああ見えてちゃんと優しいとこもあるし、イイ所だって沢山、・・・・」
「ああ、そうやね。アルちゃんの大事な人、悪く言うつもりは無かったんや堪忍! ・・・今の忘れて?」
何と言えば分かって貰えるかと、困りながらアルヴィスが訴えようとした途端。
また、遮るようにナナシが口を開いた。
「余計な事、言ってもうた。アルちゃんは今で、幸せなんよね・・・・あのオニーサンと、幸せやねんな?」
「え、・・・・」
「けどもし、そうやないなら・・・・・」
「・・・・・ナナシ、・・・?」
何処か思い詰めたような、顔と声。
何を言うつもりかと不安になりながら、アルヴィスが名を呼ぶと。
ナナシは唐突にまた笑顔になった。
「・・・嘘や嘘! 堪忍、今のもや。今のも忘れて!」
そしてご丁寧に、両手を合わせて拝むポーズまでしてくる。
「ついでに、自分がアメさんあげたんも、オニーサンにナイショな?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
表情までもすっかり、いっそ軽薄なほど明るい顔だ。
どうやら、さっきの態度はアルヴィスをからかっていたらしい。
「アルちゃんにあげとうて、つい買うて来てんけど。・・・あの白いオニーサン、怖いからなあ」
怒られんのは、勘弁や。
そう言って片目をつむって見せながら、ナナシは子供にするようにアルヴィスの頭を撫でてくる。
「・・・わかった」
恋人が、自分以外の人間からの貰い物にやたらと煩いのは事実だったから、アルヴィスも黙って頷いた。
スーパーで良く見かける、昔好きだったメーカーの飴。
ファントムもチョコだの飴だのをアルヴィスに良くくれるが、どれも知らない海外のメーカーのモノだ。
それらはとても美味しいが、・・・・アルヴィスにはこの、ありふれたメーカーの飴やチョコレートが酷く恋しい。
ファントムに見つかればアレコレとケチを付けられそうだから、この貰った飴は隠しておいた方がいいだろう。
自分が好きなモノを貶されるのは、やはりいい気がしないし・・・・くれたナナシにも申し訳無いから。
「・・・・ほな、またなアルちゃん」
アルヴィスが頷いたのを見てから、ナナシがそう言ってクルリと背を向ける。
「あ、・・・ナナシ! アメありがとな・・・」
その長身の後ろ姿に、アルヴィスは声を掛けた。
背の半ばまである茶色い髪を揺らして振り向く彼に、飴の入った袋を摘んで礼を言う。
ナナシはアルヴィスに向かって軽く手を挙げると、そのまま歩き去っていった。
本当は、もっと形に残るモノをあげたかった。
本当は、・・・・格好なんてどうでも良かった。
本当は。
一緒に過ごせる時間(とき)が作れるのなら、―――――――それだけで他に何も要らなかった。
「・・・・好きや」
後ろで佇んでいる気配が、自分が歩み去る事によって、どんどん遠ざかるのを背に感じながら。
ナナシはそっと、小さな声で呟いた。
好きだと思う気持ちは、どんなに頑丈な箱に入れて閉じ込めたとしても完全に封じられるモノでは無い。
ふとした時に、少しだけ出来た隙間からスルリと抜け出し、勝手に溢れ出してしまいそうになる。
どんなに駄目だと思っても・・・・・、抱き寄せ自分の腕の中に閉じ込めたくなる衝動は抑えきれない。
けれど、駄目なのだ。
彼だけは・・・・アルヴィスだけは、駄目なのだ。
――――――あの蒼の姫君は、悪魔に愛されている。
彼に手を出せば、自分だけではなく周り迄もが手酷く地獄の業火に焼かれる羽目になるだろう。
それが分かっているから、決して彼に想いを告げる事は出来ないし、接触も避けねばならなかった。
本当なら、いっそ彼をことごとく避けて、2度と顔を合わせないのが1番良い。
しかし、彼を見かける度に・・・・無意識に寄っていこうとする自分がおり。
そんな自分を見つけると、アルヴィスが声を掛けてくる。
そうなればもう、ナナシは彼を避ける事が出来なかった。
本心は、彼に会いたいし言葉を交わしたいし、触れたいと思っているのだから避けられよう筈も無いのである。
そんな折、以前にアルヴィスが食べたいと言っていた菓子を見つけた。
小学生くらいの頃に良く食べていたが、廃盤になったのかいつの間にか見かけなくなり、最近はスーパーなどへ行く機会も無くなってしまったから探せもしない・・・などと言っていたアメを。
ちょうどもう時期ハロウィンだし、それならプレゼントしても他のに紛れて怪しまれないだろうか・・・・そう考えて、購入した。
せめて、少しくらいは自分の気持ちを表したかったのだ。
ここ数ヶ月のよそよそしい態度は、流石にアルヴィスにも薄々気付かれているらしく―――――――ナナシは、彼が自分を不安そうに見るのが辛かった。
アルちゃんを。
嫌ってるワケやない。
何か、気に喰わんこと有るワケもない。
・・・・好きなだけや。
そう言えない替わりに、せめて何か。
嫌うてないよ?
可愛ええ、思うとるよ?
・・・・・・自分中では一等、誰より大事やねん。
そう伝えられない替わりに、―――――その想いを込めて。
どのみち、叶わない恋だから言えたとしても結果は変わらないのだろうけれど。
「愛しのおひいさん(お姫様)は、オニーサン大好きやしね・・・・」
あの、美しいが恐ろしい白き悪魔を、うっかりアルヴィスの前で化け物呼ばわりした時の彼の様子を思い出し。
ナナシは頬に、シニカルな笑みを刻んだ。
ナナシとしては、犬に向かって犬と呼ぶような。
ごく当たり前の言い方だったのだが、アルヴィスにはやはり受け付けなかったらしい。
あの悪魔は巧妙に、アルヴィスの前では猫ならぬ人の皮を被って見せているのだろう。
外見のみは、天使みたいな神々しい美形だから、周囲は簡単に騙される。
あの悪魔の本性を知るのは、アルヴィスに近づく彼にとっての邪魔者かもっとも近しい部下のみに違いない。
だからこそナナシも、アルヴィスの前ではあの悪魔のことを『オニーサン』と呼ぶのだが。
オニーサン・・・・漢字で書けば、『鬼ぃさん』である。
アルヴィスは、『お兄さん』だと思っているだろうけれど。
「しかし、生まれがハロウィンやねんて・・・どんだけ似合っとるっちゅーねん!? まさしく悪魔の申し子やないか・・・・」
悪魔の誕生を祝うパーティーは、どれ程盛大なのだろうとふと思う。
きっと、見たこともないような豪華で珍しい料理や菓子が所狭しと並んで、さぞかし煌びやかなのに違いない。
悪魔への貢ぎ物がうずたかく積まれ、そのどれもが溜息出る程高額な品ばかりでパーティー参列者の溜息を誘うだろう。
けれど、恐らく1番視線を集め溜息の素となるのは、アルヴィスだ。
悪魔の1番の宝物であり、掌中の珠である存在。
アルヴィスこそが、あの悪魔にとって、どんな贈り物にも優る存在に違いない。
そのアルヴィスはあの悪魔にエスコートされながら、良家の子息らしく上品に振る舞うのだろう。
彼の容貌と気品ならば、その豪華な空間に馴染んで当然だ。
だが、それでも何となくアルヴィスはそう言った場所が好きではないような、・・・そんな気がする。
輸入物の、王室御用達の菓子などより・・・チープな国産のあめ玉を好んでくれるような。
洗練されたコース料理より、単なる居酒屋の食事を好きだと言ってくれるような。
高級ブランドの洋服を着ていても、・・・・・そこらのスポーツ店で購入したジャージの方が着やすい、なんて言ってくれるような。
アルヴィスはそんな、――――――素朴な性格だから。
「・・・・雰囲気的には全然似合わへんけど、ウチで飯喰わせたらごっつ、喜びそうなんよね・・・・」
白飯に焼き魚に、白菜漬け。
それにきんぴらゴボウと、豆腐の味噌汁。
大した物は出せないが、なんかそれで喜んでくれそうな気がする。
もちろん、これはナナシの叶わぬ夢だが。
常に悪魔の眼が光っている状態である―――――――大学内だって危険が伴うのだ、外は愚か、自分の家に連れ込むなどは間違っても出来ない。
ナナシに出来るのは、せいぜいがキャンディをあげるくらいの事である。
1番欲しくて大切に想うのはアルヴィスだが、それ以外にだって大切で守りたいモノがあるナナシには・・・・・たった1つだけを選び取る事は許されないのだ。
「アメさんしか、あげられんのや。・・・・・情けな!」
先ほど撫でた時の、アルヴィスの柔らかい髪の感触を思い出しながら。
ナナシは諦めの境地で、そう低く呟いた――――――――――。
END
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言い訳。
何だかもう、ホントに意味不明でスミマセン(汗)
書いていたら、なんかやったらに暗くなってしまいました。
しかも、ナナアルで微妙に略奪フラグ立ってる!?みたいな話n(殴)
でもしっかり、前提はファンアルですが。
トム様が、アルヴィスに近づくなってナナシに釘を刺した後・・・ですね(笑)
・・・・それで、とてもじゃないけどバースデーとかハロウィンの華やかな雰囲気は書けそうも無かったので・・・・タイトルを『闇』にして、2つに分ける事にします(笑)
続きが、『光』で今度こそファンアルのバースデー話となります☆
書けたら、・・・ですが!(爆)
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