『Your voice is dedicated only to me.4』





「・・・・・ダメだからな。俺以外にそういうの聴かせるの、・・・・・禁止」


 聞き終わった後。
 すごく嬉しくて、けれど同時にひどいワガママを言っているという自覚もあり、更に照れくささもあって。
 アルヴィスは素直に、聴かせてくれてありがとうと言えず。

 つい、真逆な言葉を口走ってしまった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 これでは、ファントムに感謝の意志が全然伝わらないだろう。

 1人で勝手に、皆の前で歌ったファントムに嫉妬して。
 独り占めできないことに、苛立って。

 自分に見せる為に、イルミネーションスポットの演出までしてくれ。
 今だってこうしてアルヴィスのワガママを聞き入れて・・・・・自分だけの為に歌ってくれた彼なのに。

 これはもう、どう考えたって―――――――どこの女王様だ、どんだけだよ!と、言われたって仕方がない。


 だが、ファントムはアルヴィスの高飛車とも取れる態度に気分を害した様子も無く。
 いつものように、少しだけ眉尻を下げて困ったような笑みを浮かべただけだった。


「うん、ごめんね? 今度からは、アルヴィス君の前でだけ歌うよ」


 さっきも、聴かせたかったのはアルヴィス君にだけのつもりで歌ってたんだけど・・・・・・・・・・・そう言い足しながら、機嫌を取るようにアルヴィスの頬に顔をすり寄せてくる。
 まるで大きな猫が、ゴロゴロと喉を鳴らし甘えてくるかのような仕草だ。
 纏っているのが毛皮だから、余計にそんな感じがして・・・・・アルヴィスはつい、ファントムに回していた手で背を撫でてしまう。


「・・・・・・・・・・・、」


 ファントムがふと、アルヴィスにくっつけていた顔を離し紫色の瞳で、じっと此方を見つめてきた。

 彼の、キレイなアーモンド型の瞳は、どこか神秘的で感情が伺えない所までも、猫に似ていると思う。
 ファントムは良くアルヴィスのことを猫に例えるが、彼こそ猫みたいに捉えどころが無くて気まぐれで、感情が読み取れない瞳なんかがそっくりだと思うのだ。


 ―――――――しかも、この大きな銀色の猫はアルヴィスから色々と奪うのが、本当に巧い。



「僕が愛してるのは、アルヴィスだけ。・・・だから、僕が口にする愛の言葉はぜんぶ――――――君への想いだ」


 言いながらファントムはアルヴィスの顎をすくい上げ、そっと唇を重ねてきた。
 顔の角度を変えて、何度もなんども重ね合わされる唇。
 いつもされる、舌を絡ませるような激しい口付けではなくて・・・・・・・・・・・・・・・・啄むような優しいキスだった。

 後頭部を包み込むように抱かれ、腰に回された方の手がそっとアルヴィスを更に引き寄せる。




 ―――――――視線も耳も唇も、・・・そして心も、・・・アルヴィスを丸ごと奪うのだ。




「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 アルヴィスがうっとりと閉じてしまっていた瞼を少しだけ開けば、間近にファントムの伏せられた長い銀色の睫が見えた。
 その、機嫌の良さそうな嬉しそうな表情に―――――――アルヴィスも気持ちが浮き立ってくる。

 大好きな人のそういう表情(カオ)を引き出せるのは、何よりも嬉しいことだ。

 再び目を閉じて。
 アルヴィスは年上の恋人に抱きつく腕に力を込め、またキスを強請(ねだ)った。

 光が満ちた公園に、2人だけ。
 気にしなければならない視線は、何処にもない。













 だが。

 不意に、周囲の星空が弱々しい点滅を始め、急激に辺りが暗くなってくる。


「・・・・・・・・?」


 何事かと辺りを見回したアルヴィスに、ファントムが残念そうな表情を浮かべて口を開いた。


「・・・あーあ。魔法、解けちゃったね。時間切れだ」

「・・・あ・・・・」


 言われてみたら、10分などはとっくに経っている気がする。
 時間のことなど、すっかり頭から消えていた。


「これは魔法が解ける合図なんだ。・・・・そろそろ邪魔者達がライトアップを見にうじゃうじゃ押しかけてくる筈だから、帰ろうか」


 ファントムが歩いてきた道を引き返そうと、アルヴィスの手を引いた。


「ほら、行くよアルヴィス君。魔法が完全に解ける前に、僕たちは元の世界へ戻らないとね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ひとつ、またひとつと、星が満ちていた空から光が消えていく。

 少しずつ辺りが闇に戻っていく中で自分の手を引く青年はまるで、暗黒の世界へとアルヴィスを引き込もうとしている魔王のようだった。
 先ほども錯覚した光景だが、今の方がよりリアルにそう思う。
 目映い光に照らされた姿も神々しく美しかったが、今の方がより一層凄みが増し妖艶で・・・・キレイに見えた。

 銀の髪が月の光に反射して輝き、アメジスト色の瞳が妖しくアルヴィスを捉える。


 前世は、本当に。
 どこかの異世界で、魔王みたいに君臨していた存在だったりして――――――――・・・などと、脈絡もなくそんな想いがアルヴィスの頭を過ぎった。



 アルヴィスの手を引く彼は、月明かりの中それほどに幻想的な雰囲気を醸し出している。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 けれどアルヴィスは、自分の手を取る優美な繊手をしっかりと握りかえした。





 ―――――――ずっと愛し続ける。僕を信じて――――――――――




 先ほど歌ってくれた、歌詞の文句に絆された訳では無いけれど。

 何処までも付いていくと、・・・・・・・・・・もう決めている。


 アルヴィスだけに囁かれる、ファントムの甘い言葉。
 それは、自分の為だけに紡がれる言葉だ。



 この先が例え、何処に続こうと。
 地の果てや闇の底、煉獄の業火に焼かれる場所であろうとも――――――――――アルヴィスは、何処までだって付いていく。


 そう、決めている。



 心はもちろん、身体も声も眼差しも・・・・・そして影ですら、誰にだってあげたくない。
 髪の毛一筋だろうと、彼という存在を作り出す要素全ては一欠片(ひとかけら)だって誰にもやらない。

 そんな、あり得ない程の独占欲を掻き立てられ・・・・全てが欲しいと思うほどの強い想いは、彼にしか感じない。


 だから、導かれるままに歩くのだ。



「クリスマスプレゼントにしては、少し呆気なかったかな?」


 イルミネーションが消えていくのを見渡しながら、ファントムが言う。


「バースデー用のはちゃんと用意してあるけど、クリスマスのも何か欲しいのあった? こういうのじゃなくて、欲しい物があるなら・・・・」

「いや、充分だ」


 アルヴィスは、慌てて首を横に振った。


「そう? これで満足してくれる・・・?」


 ファントムの言葉に、アルヴィスは大きく頷く。
 ここで曖昧な態度を取れば、この年上の恋人はまたどんな破格な贈り物をしてくるか分からない。


「もう充分だ。俺はすごく嬉しいモノが貰えて満足してる・・・・!」


 アルヴィスが、一生懸命にそう言ったら。
 銀髪の青年は、端正なその顔立ちに酷く嬉しそうな笑みを浮かべた。


「アルヴィス君に喜んで貰えて、僕も嬉しいよ。じゃあ来年はもっとキレイな、イルミネーションをプレゼントしてあげるね!」


 ファントムの笑顔に、アルヴィスの顔も自然と綻ぶ。

 恋人が浮かべる表情なら、どんな顔だって怒って怖い顔以外なら大好きだと言える自信はあるのだが。
 やっぱり一番大好きなのは、こういう嬉しそうだったり楽しそうだったりする笑顔だ。
 大言壮語とも取れるような、大胆な発言(でも実際、言ったとおりにやってのけてしまう所が驚きだ)には少々、戸惑いが隠せないけれど。
 それをつい、仕方ないなあと受け入れてしまうだけの魅力が、この笑顔にはある。

 だからアルヴィスも笑って、繋がれていた手を離しファントムへと抱きつくように身を寄せた。


「いらない。・・・イルミネーションも確かにすごくキレイだったけど・・・・・俺が一番嬉しかったのは・・・俺にだけ、歌ってくれたことだから」


 ライトアップのプレゼントより何より、自分だけに歌ってくれたことこそが嬉しいのだと。
 抱き返してくれた腕の中で、そう告げる。


「来年も再来年も。・・・・クリスマスプレゼントは・・・・歌がいい。クリスマスだけは、・・・俺だけに歌って」


 耳元で、くすっと笑う声が聞こえた。
 アルヴィスに回される、腕の力が強くなる。


「そう? ・・・でもね、クリスマスだけじゃなくて僕はいつだってアルヴィス君の為なら歌うし、・・・・歌だけじゃなくて僕の声は全部、君のだよ。もちろん、声だけでもなくて僕の全てはアルヴィス君のモノなんだけどね・・・・」


 だから全部貰ってね、と告げられる甘い声に。
 アルヴィスは肯定の意味を込めて、さらにしがみついた。


「―――――――・・・My voice is dedicated only to you.」


 耳元で囁かれる柔らかい声に、アルヴィスはそっと目を閉じる。


「・・・・Your voice is dedicated only to me・・・・」


 そう返しながら、そっと目を開けば。
 極上の宝石のような、アメジスト色の瞳と視線が合う。

 すっかり明かりが消えた公園で、引き寄せられるように2人はまた何度もキスをした。

 繰り返しくりかえし、・・・離れることを厭うように、僅かの間も、離れがたいかのように。
 愛おしむように、何度もなんども。

 ――――――再びライトアップが開始され、公園を訪れる人々の喧噪が耳に届くまでいつまでも。

 2人は繰り返し、キスをした――――――――。


















―――――――・・・My voice is dedicated only to you.

(――――――僕の声は、君だけのモノだよ――――――)




・・・・Your voice is dedicated only to me・・・・。

(――――――俺だけだぞ。ファントムの声は、俺だけのなんだからな・・・・・)







END

++++++++++++++++++++

言い訳。

My voice is dedicated only to you.
(私の声は、貴方だけに捧げられます。)

Your voice is dedicated only to me.
(貴方の声は、私だけに捧げられます。)

↑直訳だと、多分コレなんですが(笑)
すみません、タイトルも落ちも、当初はトム様カラオケネタとしか考えてなかったので、こんな妙なノリになってしまいました。
全てゆきのが、クリスマスもついでだから盛り込んじゃえ!と余計なエピソードを加えてしまったのが敗因かと思われます(汗)
つか、書き上がったの1月だし(爆)
でも、歌うトム様は是非書きたかったので、ネタ的に微妙だろうが何だろうか、書けてゆきのは満足です(笑)
日記でずっと読み切りのつもりで書いてて、全然終わらず結局は書き直してみたり(日記で)連載にしてみたり、挙げ句に番外編としてこうして『君ため』のコーナーに置いたりしてる辺り、読んで下さってる方々には???と混乱されてるかもですよね・・・すみません><
日記の方は、あとで小説部分消しておこうと思います^^;
そういえばコレ、『君ため』の設定で書いたんですが。
ロランやガリアン達はACT9で登場予定です(笑)
まだACT8シリーズが終わってないので、しばらくは書けないでしょうが(爆)
番外編としてフライングで書けて、幸せでした^^
余談ですが、作中でトム様が歌ってるのはEXILEの『I Believe』辺りです(笑)
トム様には是非、アルヴィスをじーーーっと見つめて歌っていただきたいvv
この曲聞いてる時に、ふと思い浮かんだネタでございました・・・・。