『君のためなら世界だって壊してあげる−inリゾート−2』





 後ろには瀟洒な造りの、白亜のホテル。
 前方には、エメラルドグリーンの海と白い砂浜、水底に美しい花が描かれたプール。
 その間にあるプールサイドには沢山の白いデッキチェアが置かれ。
 そこで休む人々やプールを楽しむ人達の為に、ステージでは歌や演奏が行われている。
 そして、それらの客のニーズに応える為に決して少なくない数のプール・アテンダントやベルボーイ達が、ご機嫌伺いに歩き回っていた。



―――――─つまりファントムとアルヴィスが居る場所は、とてもとても、人が多いのだった。



「・・ちょ、ファ・・ファントムッ!」

 いきなりにデッキチェアの上へ抱き込むように引き寄せられ、大きなバスタオルを被せられたアルヴィスは慌てた声で叫んだ。
 Tシャツを脱ぎ素肌を晒した背にガッチリと腕を回した逆側の手が、不埒な動きで脇腹を撫でるのを感じたからである。

 しかし。

 バスタオルを二人して被った状態とはいえ、すぐ傍をベル・ボーイやプール・アテンダントが通るような場所で、そんな、まさか―――――との思いがアルヴィスを過ぎる。
 だが、ファントムはそのサラサラした銀髪でアルヴィスの顎付近を擽りながら、首筋付近の皮膚をペロリと舐め・・・・楽しげな口調で言ってきた。

「ん? なあにアルヴィス君。・・・大きな声上げると、周りの人が注目しちゃうよ?」

「・・・・・・っ、!?」

 そのまま首筋の薄い皮膚をきつく吸い上げられ、アルヴィスはビクリと身を竦ませる。

「せっかくタオル被ってるのに・・・声出したら、バレちゃうよね。・・・僕たちがイケナイ事してるのが」

「・・・い・・いけない・・事って、・・・・・」

 ファントムの両脇に手を付き、何とか身体を引き剥がそうとしながらアルヴィスは小声で、必死に会話を続けた。



 まずい。絶対に、まずい。

 会話が途切れたら―――――・・・・ものすごくマズイ事態になりそうな気がする。

 何とか会話を続け話題を逸らして、この変なムードを変えなければ。

 じゃないと、こんな人が多い場所で・・・・何かされてしまいそうだ。




―――――冗談じゃない!




 焦りながら、アルヴィスは懸命に話しかける。

「・・・そんな。・・・・ここプール・・だしっ、!」

「うん、プールだね」

「プール・・・は、泳ぐ所だろっ!? そんな、いけない事っていうか、・・・・」

「泳ぐだけとは限らないでしょ」

「いや! 泳ぐとこだしっ! 泳ぐ・・・っ、あ!」

 しかしアルヴィスの必死の努力も虚しく、腰に伸ばされたファントムの手が腰骨を揉むように妖しく動いて、会話は強制的に終了となってしまった。

「・・・・っ、あ・・・やっ、」

 腰骨や下腹辺りを掴まれたり撫でられると、アルヴィスの身体にどうしようも無い疼きが生まれてしまう。
 それは条件反射のようなもので、毎晩のようにファントムに散々抱かれ刺激されているアルヴィスにとってはある意味、身体の切り替えスイッチみたいなものだった。
 こんな場所で・・・・・・と思いつつも意識とは裏腹に、身体が勝手にこの場で抱かれる事を考え始める。

「・・・・・・・・・・っ、」

 動けずにそのまま硬直するアルヴィスを、ファントムはようやく腰付近を撫でていた手を離し、宥めるように頭を撫でてきた。

「――――いい子だね。・・・そのまま、大人しくしていて?」

 そしてボソッと、耳元で囁いてくる。

「!」

 反射的に顔をそちらへ向ければ、とても楽しそうな光を浮かべる紫色の双眸と目が合った。
 間近にある端正な顔立ちに一瞬気を取られ掛けて。

「ぅあっ!?」

 次の瞬間、アルヴィスは硬直した。
 ファントムが、頭を撫でていた手をアルヴィスの胸元へと滑らせたのだ。

「・・・あっ、・・・っ、〜〜〜〜〜〜!!」

 敏感な突起をキュウッと指で摘まれ、咄嗟に声が漏れてしまった。
 慌てて、ファントムから身を離そうと付いていた手を離し口許を覆う。

「・・くっ、・・・う・・・・」

 強く唇を噛み締め、手の平で口許を圧迫するように押さえつけるが、胸元から伝わり下半身を直撃して背筋を這い上がる、強烈な感覚を簡単には押し殺せなかった。

「ふふっ、・・・・気持ちいい?」

「・・っ、あ・・・、もうやめ、ろ・・・ここ、何処だと・・・思って、る・・・!」

 揶揄するように聞いてくるふざけた相手に、アルヴィスは摘み上げられるたびにビクビクと反応する身体と声を必死に押さえながら訴えた。
 身体を離そうにも、背中には依然としてファントムの腕が回っておりデッキチェアから降りるのは不可能だ。

 せめて上半身を起こしたいが、それも、俯せ状態でファントムの身体の上に乗っている状態のため―――――体勢上、厳しい。
 第一、上体を反らせれば下半身がより強く密着してしまう事になる。
 それはそれで、アルヴィス的には何が何でも避けたい。

「・・・あっ、も・・・なんでこ・・なっ、・・」

 胸元に唇を寄せられ、戦慄きながらアルヴィスは必死に訴えた。



 信じられない―――――─だって、隣の椅子にだって人が居るというのに。

 バスタオルたった1枚隔ててるだけで、周囲には沢山の人。

 少しでも変な動きや、大きな声を立ててしまえば・・・・モロバレだというのに。



「え、だって・・・」

 それなのに、ファントムはクスクス笑って何でもない事のように言ってくる。

「アルヴィス君がイケナイ子だからね・・・お仕置きしないと」

「・・・は・・あっ、・・・お・・しおき、って・・・・」




 勝手に泳ごうとしたのが、そんなに駄目な事なのか――――!?




 声を押し殺さなければならない辛さと、勝手にファントムの指や唇に反応して跳ねる身体を恨めしく思い、涙目になりながらアルヴィスは胸元に顔を埋める青年を見た。
 わざと見せつけるように、舌先を尖らせてアルヴィスの胸の飾りをつつきながら、銀髪の青年が楽しそうに笑う。

「だって、アルヴィス君・・・・Tシャツ脱いじゃったでしょう・・・」

「・・んっ、・・・だって、暑かった・・から、・・・あっ、あ・・・あ、」

 敏感な箇所を濡れた舌先で苛められ、アルヴィスは声を震わせつつ言い訳をした。

「およ・・ぎ、たかった・・! 濡れるの・・やだっ、・・んうっ、・・・」

「―――――僕が駄目って言ってたのに?」

「・・あっ、あ、あ、・・・だ・・・って!」

 再び突起に吸い付かれて、アルヴィスは掠れた声を上げる。
 もう片方も指で摘まれ、アルヴィスは荒い呼吸を繰り返した。

 片手だけでは自分の身体を支えていられなくなり、アルヴィスは口を覆っていた手を離して、もう一度ファントムの頭の両脇に付く形で、両手をデッキチェアの上に置く。
 それは、見ようによってはアルヴィス自らがファントムの顔に胸を押しつけているような状況だった。
 だが、その恥ずかしい体勢を何とかしたくても、ファントムの片腕がアルヴィスの背に回っている為に身体を離す事は不可能である。

「やあっ、あ、あ、・・ファントムっ・・・・!」

 押し殺した声で、行為を中止して貰おうとアルヴィスは懸命に恋人の名を呼んだ。

「・・っ、おねが・・・っ、こんな、・・・あ・・あ・・・」

 胸への刺激は、ダイレクトに下腹部を直撃する。
 既にアルヴィス自身はすっかり反応して、ファントムの足にその膨らみを押しつけている状態だ。そして、その刺激すらも・・・・・官能を煽る。

「・・う、あっ、・・・駄目っ、も・・・やめ・・・!」

 腰が揺れるのを止められない。
 声を抑えていられなくなる。
 喉に力を入れ唇を噛み締めて、漏れ出る声を必死に押さえようとするが、ファントムの唇が・・指がアルヴィスに触れる度に、はしたない位大きな声が出そうになる。
 だが、ファントムは一向に行為をやめる様子が無い。

「ねえアルヴィス君・・・ほら、ココ見て」

 それどころか、とても静かな声でそんな事を要求してくる。

「・・・・・?」

 快楽に潤んだ瞳でアルヴィスがファントムを見れば、彼はその長い指でアルヴィスの胸の突起を摘み上げていた。

「こんなに赤く熟して――――・・・男を誘ってるよ」

「・・ああっ、・・・!」

 摘み上げると同時にまたキュッと強く抓られて、アルヴィスは堪らず声を上げる。
 潤んでいた瞳から、涙が零れた。

「アルヴィス君は、こんな厭らしいトコロを周りの男に見せたいの・・・・?」

 摘み上げた突起を軽く引っ張り、その先端にファントムは舌を這わせた。

「・・・・・・・ひっ、う・・!」

 そのゾロリと濡れた感触に、アルヴィスの肌が総毛立つ。

「―――――誘惑したいんだ・・・? 僕という恋人がいるのに?」

「・・・・違っ、・・あ・・あうっ!!」

 問われる声の低さに、アルヴィスは冷たいモノを感じて必死に否定しようとした。

 だが、ファントムが再びアルヴィスの胸に吸い付き、その白くキレイな歯でカリリと歯を立ててきた事によって弁解は悲鳴に変わる。
 じん、と痺れるような強い痛みが、快楽に変換されてアルヴィスの下腹部へと走る。
 達しそうになり、思わずアルヴィスは白い喉元を反らせた。

「―――――ね。こんな感じる場所を晒して、・・・・他の男に吸って下さいって誘惑するんだ・・・?」

「・・・っ、う・・・そ、んな事っ、・・はっ、・・あ、あ・・・」

 唇を離し、指先で突起を苛めるファントムに、アルヴィスはもう言葉もロクに吐けない。
 既に、水着の中でアルヴィス自身は蜜を溢れさせてビクビク震え―――もう解放直前の状態である。
 少しでも気を抜けば、達してしまいそうで・・・・・アルヴィスは荒い息を吐きながら身体を強張らせるしか無かった。

「アルヴィスのココ、感じるから吸って?って・・・触って摘んでって、・・・・お願いしたいんだね・・・・?」

 指を離し、敏感な胸元に吐息が擽るような近さに、唇を寄せたまま・・・ファントムが静かに言う。

「う・・・っ、ち・・・が、・・・あ・・・・」

 吸う。触る。摘む―――――その単語の行為が、実際にファントムによって為されているかのような錯覚に陥って、アルヴィスは身を震わせた。

「厭らしく乳首尖らせて、見せつけたいんでしょ・・? だってTシャツ着たくないんだもんね・・?」

「・・っ、あ・・・あ、あぁ・・・・!」

 吐息が触れる、その焦れったいような絶妙の柔らかい刺激に、アルヴィスは身悶えるしかなかった。
 触れられていないのに先程まで散々いたぶられた箇所がジクジクと疼き、全く刺激をされていない下腹部が限界を訴えドクドクと脈打っている。

「・・・っ・・あっ、も、・・・ごめんなさ・・・っ、・・!」

 ピン、と背を反らせて。
 アルヴィスは泣きながら降参した。


 官能を強引に煽られて、もはや思考が纏まらない。

 人通りなど、どうでも良くなって。

 散々嬲られて堅く凝り、存在を主張する胸の尖りを苛めて欲しくて。

 ファントムの足に擦り付けるように、腰を揺らして悦楽を貪っているアルヴィス自身を何とかして欲しくて。

 しかし自分ではどうしていいか分からず、アルヴィスはただそのままの体勢で啜り泣いた。




 助けて。

 ・・・たすけて。

 救ってくれるのは―――――ファントム、だけ。


 おねがい。




「んっ、あ・・・ファントムっ、つら・・いっ、・・・・!」

 声を殺す事も苦しくて、アルヴィスは息を乱して懇願する。
 自然と、ぼろぼろ涙が零れて、それらは頬を伝い顎を滴って――――ファントムの肌へとぱたぱた落ちた。

 すいっとファントムの、アルヴィスの胸を弄っていた手が目元に伸びてきて。
 アルヴィスの涙をすくい取る。

 そのまま濡れた頬に手を当て、今までの冷たい声とは違う柔らかな声で言った。

「・・・・・すご。・・・・アルヴィス君は僕を煽るのが本当に上手だね・・・」

「・・・・・・っ、・・?」

 涙でぼやけた視界で、必死に自分を下から抱き締めている青年を見れば、ファントムはその端正な顔に苦笑を浮かべていた。

「・・・・・・・はっ、・・あ、・・・う、・・」

 ちっとも静かにならない呼吸で、アルヴィスがファントムを見つめ続けていると彼は両手を背に回し、抱き締めてくる。
 ずっと突っ張っていたアルヴィスの肘がガクンと折れ、自然とお互いの身体が完全に密着する体勢になって、アルヴィスはファントムの首元に顔を埋めた。

「ね、・・・お願いだよアルヴィス・・・」

 アルヴィスの耳元に、甘く柔らかな声でファントムが囁いてくる。

「・・・そんなエッチで可愛い顔は、僕以外に見せないで。――――僕以外の人間に、その肌を見せないで」

「・・・・・っ、・・?」

 意味を掴みかね、表情を伺おうと、アルヴィスはファントムの首もとから少しだけ顔を上げた。
 ファントムの秀麗な顔がすぐ間近にあり、見つめ合う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 アルヴィスを見つめるファントムの紫の瞳が、優しく細められた。
 薄く形良い唇が、笑う形に吊り上がる。

「・・ね。約束・・・だよ?」

 抱き締めていた片方の手を、アルヴィスの後頭部に回してきて―――――─ファントムが深く唇を合わせてきた。

「・・・ん・・・っ、・・・」

 柔らかく唇を割り、舌先が口内へと入り込んでくる。
 歯列の裏側を擽り、アルヴィスの舌を絡め取り、そのまま口内を激しく蹂躙していく。

「んう、・・・ふ、・・ん・・・・んっ、」

 時折、掠めるだけで背筋を這い上がるような快感を覚える場所があり、そこにファントムの舌が触れる度にアルヴィスはビクビクと身体を跳ねさせた。
 唾液と唾液が混じり合い、吐息すらも混ざり合ってどちらがどちらのモノなのかも分からなくなり、アルヴィスは混乱しながらファントムの首に縋り付く。


 その間も、身体が熱くて。

 互いの肌の間で押し潰される、胸の突起が勝手に快楽を貪り。

 足の間で刺激される、アルヴィス自身が蜜を零す。


「・・は・・・っ、ああっ、あっ、・・・・!」

 息苦しさに唇を離し、アルヴィスは激しく喘いだ。

「んっ、・・はっ、あ・・・ファントムっ、・・・出る・・・っ」

 腰をくねらせ、ビクビクと身体を痙攣させながらアルヴィスは限界を訴える。

 もう、耐えられない。

 はっ、はっ、と犬のように短く荒い息を吐き。
 アルヴィスはファントムの首に回した手で、ネックレスの鎖を引き千切るかのように引っ張った。

「・・・もう駄目? イキそう・・?」

「っ、・・・・!!」

 銀色の睫毛に縁取られた紫の瞳に見つめられ、アルヴィスは必死に涙目で訴える。
 目の前の端正な顔が、クスリと笑った。

「じゃあ、ちょっとだけ我慢してね・・・」

「・・・・・っ、!?」

 そう言われた途端。

 更にアルヴィスを抱く腕に力が込められ、そのままファントムがデッキチェアの上で身体を起こした。
 ファントムの足に乗るような形でアルヴィスも身体が起こされ、今まで被せられていたバスタオルがアルヴィスの背を滑りファントムの足下に落ちる。
 それを素早く拾い上げ、ファントムはバスタオルにくるむようにしてアルヴィスの身体を器用に抱え、ぐるりと反転させた。

「・・・・・・・・・・・・・・・?」

 今までファントムの抱きつくような形で抱き締められていたのが、上体を起こしたファントムの足の間にちょうどお座りをするような形に抱きかかえられたのだ。
 一瞬、事態がよく掴めず呆然としたアルヴィスの下肢に、スルリとファントムの手が滑り込んでくる。

「・・・・んあっ、・・・!」

 待ち望んでいた感覚に、アルヴィスの喉が鳴った。

 だが、慌てて唇を噛む。

 何故なら・・・・目の前には陽射しに煌めくプールや、それを楽しむ人々。
 飲み物を運ぶプール・アテンダントやベルボーイが颯爽とデッキチェアの合間を縫って歩いている光景が広がっている。
 今まではバスタオルとファントムのせいで視界が遮られ、状況的には変わらないのだが見なくて済んでいた。

 けれど、これでは丸見えだ―――――自分からも、外からも。


「・・う、・・・はっ、あ、・・・」


 羞恥に耐えきれず。

 しかし、追い詰められていた身体も限界で。

 アルヴィスは身体を震わせながら、ファントムの首もとへすり寄せるようにして顔を伏せる。


「大丈夫。・・・ばれてないから、気持ち良くなっていいよ・・」

 優しく言って、ファントムが水着の中に差し入れた手を動かしてきた。
 柔らかくアルヴィスを握り込み、指先で、窪みからトロトロと溢れている蜜をまた戻すかのように優しく先端を擦り上げてくる。

「あっ、・・・う・・・・うんっ、・・くっ、」

 それだけで、アルヴィスはびくびく身を震わせてファントムに限界を訴えた。



 気持ち、いい。

 自身に絡められる指が、堪らない。

 恥ずかしい程ヌルヌルに濡れている先端を、指で擦られるのが気持ち良くて仕方がなかった。



 もっと、・・・もっと。



 気持ち良くて、堅くなったソレをギュッと握って。

 ひくひくしてる、先端を指で擦って。

 厭らしい液体を流す、その窪みを――――苛めて。



「っあ、・・・・ああっ、」



 こんな、場所なのに。

 プールがあって、海があって。

 人が沢山歩いてて・・・。

 隣にだって、人が居るのに。



「・・・・ん・・・んうっ、・・・!」



 変な声出したら。

 おかしな表情を浮かべたら。

 全部ぜんぶ、バレてしまうのに。

 こんな事、してるなんてバレたら死にたくなるくらい、恥ずかしいのに。



「・・っあ、ああっ、・・・ファント・・・ムッ・・・・」

「気持ちいい? ・・・すごい、ビクビクしてるね・・・可愛い」



―――――───気持ちいい。



 こんな所で出すなんて、考えられないのに。



 ・・・出ちゃう。




「・・・あ、あ・・・っ、出るっ、・・・出ちゃう・・・!」

 見られないよう、ファントムの首もとに顔を埋めて。
 そんなアルヴィスの頭を宥めるように優しく撫でる、ファントムの手を感じながら。

「あ・・んっ、やぁ・・・・出る、・・・ああっ、・・・!!!」

「いいよ、・・・出して。アルヴィス君・・・」

 バスタオルにくるまれ自由にならない両手で、アルヴィスは必死にそのタオル越しにファントムの膝を掴み、震えながら悦楽の頂点を迎えた。

 いつの間にか水着をずらされ、タオルの中で露出させられていたアルヴィス自身に、ファントムの指が器用にタオルの布地を巻き付け、その解放した証を吸い取らせる。

「・・・は・・・・っ、はぁ・・・っ、・・・」

 解放の余韻に、一瞬意識が遠のいた。
 汗ばんだ肌を低い体温の男に懐かせ、アルヴィスはぐったりとファントムにもたれ掛かる。








「大丈夫? 苦しくない?」

 荒い呼吸を繰り返すアルヴィスの様子を伺うように、ファントムが耳元で囁いてきた。

「・・・・・・・・・・・」

 黙って頷くと、宥めるように大きな手の平で髪をくしゃくしゃと撫でてくる。

「――――汗、かいてるね。部屋、・・・戻ろうか」

 そう言ってファントムはもう一度アルヴィスの身体をバスタオルでくるみ直すと、傍らに引っ掛けていたシャツに手を伸ばし、袖を通す。
 それから徐に、アルヴィスを抱えて立ち上がった。

「!?」

 余韻に意識がはっきりとしていなかったアルヴィスは、されるがままになってしまう。

 その隙にファントムは子供を抱くようにアルヴィスを抱き締めたまま、一瞬だけ屈み先程アルヴィスが脱ぎ捨てたTシャツを拾い上げて。
 プール・アテンダントに何事か英語で話し、ファントムはスタスタと歩き始めた。
 あまりに素早く、とても滑らかな動きで、アルヴィスは抵抗も忘れてそのままになってしまった。








「・・ファントムっ、・・・!」

 ホテルの入り口付近になって、ようやく自分で歩けると慌てて藻掻こうとして―――――身体に全然力が入らない事に、今更ながらアルヴィスは気づき、顔を赤くする。
 抱きかかえたまま、ファントムがクスッと笑って頬に口づけてきた。

「なあに?・・・まだ泳ぐ元気でもある・・・?」

 絶対、そんな余力など無い事を確信している口調だ。
 けれど、アルヴィスを見つめるその顔があんまり楽しそうで―――――腹を立て文句を言おうと開き掛けた唇は、途中で動きを止めてしまう。

「・・・・・・・・・・・・・、」


 サラサラと風に靡く、柔らかそうな銀色の髪。

 傾き掛けた陽射しに赤く染まった、白い顔。

 その強い陰影が、ファントムの端正な顔立ちを更に引き立てアルヴィスの目を奪う。

 夕日に透ける紫の瞳が、何かの尊い宝石みたいに赤く輝いていてキレイだった。

 そのキレイな顔が、アルヴィスを見つめてこの上も無く嬉しそうに笑っている。


「・・・・・・・・・・・・・・・無い」

 アルヴィスはぶすっとひと言だけ口を開き、自分を抱く男の胸に顔をすり寄せた。




 この笑顔に、弱いのだ。

 何をされても、どんな恥ずかしい事をされたとしても―――――─この笑顔を見ると、許してしまう。

 思えば、随分勝手な事を言われてる気がするのだけれど。

 かなり、身勝手な言い分を通されている気がするのだけれど。


 それでも、―――――──・・・許してしまう。



「よしよし。明日、泳ごうね・・・Tシャツ着て」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 取りなすように頭を撫でられ、日中から続けられていた言い争いの元を再び口にされたが、今度はアルヴィスも反論はしなかった。


 結局、どんな身勝手な言い分だろうと許してしまうのだ―――――自分は。


 そんな諦めと共に、息を吐く。



 だって、・・・好きだから。

 身勝手で傲慢で、嫉妬深くて、変な勘ぐりばっかりして―――――。

 アルヴィスを隙あらば閉じこめようとするような、予測不可能な思考の持ち主なのだけど。

 それでもやっぱり、大好きだから。

 傍にいたいと、思ってしまうから。



 この嬉しそうな顔を、ずっと傍で見ていたいと思うから・・・仕方ない。




「・・・・お前も着ろよ」


 せめてもの意趣返しに、そう念押しして。

 アルヴィスは恋人の身勝手な言い分を受け入れたのだった―――――───。








++++++++++++++++++++

言い訳。
はい、拍手SS初のエロです(笑)
でも本番じゃないですから! 指すら挿れてませんから!!(←主張)
ちょっと出しちゃった(爆)だけですからー!!
本番は、確かにこのリゾート編の続きで書きますけど(笑)