『君のためなら世界だって壊してあげる』




ACT 92 『モノクロのkiss−9−』



 

 ―――――お前たち。





 その言葉には、間違いなくファントム以外の人間が含まれている。

 それがアルヴィスであることは、明らかだった。


「ていうか、『ゆっくり』って・・・」


 露骨に眉根を寄せ、ファントムはオーブを睨み付ける。

 余裕の笑みを浮かべた姿は如何にも暇を持て余しているようにしか見えないが、一応この男、大会社のオーナーであり世界各国を飛び回る大忙しの身の筈なのだ。
 スケジュールはそれこそ分刻みで組まれている筈だろうし、他国で油を売っている暇など皆無である筈。


「・・・キミ、いつまでこっちに―――」

「ああ、ファントム。オーブさんな、暫(しばら)くこっちに居られるらしいぞ?」


 言葉の意味を問い糾そうと口を開いたファントムだが、最後まで言い終わらない内にアルヴィスが会話に加わってくる。


「え?」


 唐突の発言に、思わず隣の恋人の方に顔を向けるが、アルヴィスは罪の無い可愛らしい笑顔で更なる爆弾を投下する。


「仕事の関係で、暫くこっちに滞在するんだってさ」

「・・・・、」

「良かったな、お前とオーブさんずっと逢えて無かったんだろ? これで沢山、話も出来るな!」

「・・・・・」

「オーブさん、このホテルに滞在するんだって。だからほら、居る間は俺たちといつでも逢えるだろ」

「No kidding!(はあ!?)」


 続け様に落とされる爆弾に、堪らずファントムもうっかり英語で拒絶気味の驚きを口にしてしまったが、アルヴィスによる(主にファントムへの)言葉の暴力はまだ終わらなかった。

 一瞬だけファントムの呟きに?と小首を傾げる仕草をしたアルヴィスは、何が楽しいのか殊更(ことさら)に機嫌良さそうな笑みで言葉を続ける。


「――――というか、ここで過ごして貰えばいいよな。こんなに部屋いっぱいあるんだし」

「!? ・・・・ちょ、・・えっ、・・・ええっ!!?」


 ――――冗談じゃない。こんなのと一緒の空間で過ごすなんて僕は御免だよ!!

 と、ファントムは言いたかった。


「・・・・・・・・」


 だがアルヴィスがあんまり嬉しそうに言ってくるので、即座に否定することは躊躇われる。


「親友同士なんだし、わざわざお金掛けて別に部屋取って泊まるなんて勿体ないしさ」

「・・・・・・・・」


 親友じゃないし、今の心境的には何回かイメージ内で殺しちゃってるくらい大嫌いだし。
 そもそも、いつでも顔を合わせる距離に居たいなんて気持ち悪いことは、1度だって思ったことは無い。

 それにホテルの1つや2つ、簡単に丸ごと買収できるような財力を持つ男なのだ―――――滞在費のことなど、最初から考えてもいないだろうことは断言できる。


「・・・・・・・・・」


 心の中で全否定しつつも、アルヴィスには言い淀んでしまうファントムだ。


「ウチに滞在して貰ったら丁度良いよな♪」

「えぇー・・・、それは・・・・!!」





 ―――――嫌だ、無理。

 ていうかキミが居る場所にコイツ近づけるなんて、絶対駄目!!





 そう訴えたいところだけれど、機嫌良く言ってくるアルヴィスに言うのは微妙な状況だった。

 アルヴィスが機嫌を損ねるばかりか、自分への評価が下がりまくる恐れがある。

 というか、何故こんなにアルヴィスはオーブに好意的なのか?
 自分が居ない内に、無防備なアルヴィスを何かで誑(たら)し込んだんじゃないだろうか?


「・・・・・・・・」


 そんな邪推までしそうになって、ファントムは恨みがましい目つきでオーブへ向き直った。


「私は、自分で部屋を取ろうと思っていたのだがな。アルヴィスが、どうしても!と言ってくれるのでお言葉に甘えようかと」


 対する4歳上の男は、傲慢さのにじみ出た(ようにファントムには見える)満面の笑みで此方を見返し、いけしゃあしゃあとそんな言葉を口にする。

 しかもわざわざ、『アルヴィスが、どうしても』の部分を強調した言い方をする厭らしさだ。


「・・・言っとくけど、このフロアは僕が年間契約で借りてるんだからね。泊まらせる泊まらせないの権限は、僕にある」


 苛立つ気持ちごと払拭するかのように前髪を片手で掻き上げながら、ファントムは笑みを消して目を細めた。


「それ、分かってるよね?」


 大抵の者ならば息を詰め、緊張に身体を硬くするだろう、不機嫌MAXなファントムの態度である。

 実際、壁際に控えているオーブの側近達が全身に緊張を張り巡らせるのが視界の隅に映った。

 だが、次の瞬間。


「こら!」


 顎を上げ気味に、正面に居るオーブの顔を睥睨(へいげい)したファントムの後頭部を、アルヴィスがべしっと叩いた。

 途端に、ファントムが纏いかけていた黒いオーラは跡形も無く霧散してしまう羽目となる。


「痛ァ!?」

「お前、せっかく遠路はるばる訪ねて来てくれたオーブさんに、なんて口の利き方するんだ!?」


 反射的に頭に叩かれた箇所に手をやりつつ、ファントムが隣を見れば、明らかに憤慨(ふんがい)していると分かる顔で、アルヴィスが此方を睨んでいた。


「仲良しな友達に、久々に逢えて嬉しくて照れちゃうのは分かるけど」


 その態度はどうなんだ、と昏々と説教するかのように言ってくる。


「照れっ、・・・!?」


 怒っていたって何をしていたって、その顔立ちの美しさは溜息で。
 ファントムだとて、こんな状況で無ければウットリと鑑賞していたいところなのだが―――――如何せん、言われている内容が少しも受け入れられないものだった。


「や、照れてないしっ!!」


 そもそも嬉しくないし、仲良しでも友達でも何でも無いと訴えたい所だが、今の状況ではそれは叶わない。


「アルヴィス・・・お前の気持ちは嬉しいが、どうやら私はファントムの機嫌を損ねてしまったようだ」


 そこへ持ってきて、ファントムの親友だとアルヴィスの誤解されたままの金髪男が、柄にも無いしおらしい態度でそんなことを言い出すから、益々状況が悪化していく。


「私としては久しぶりに逢えた友人との時間を満喫し、かつ新たに出会えたお前ともゆっくり、交流を深めたかったのだが――――・・・」

「オーブさん、そんな・・・!」


 ファントムをそっちのけに、テーブルを挟んで見つめ合う二人。


「オーブで良いと言っただろう? アルヴィス・・・・」

「・・・オーブ・・・、」


 かたや、傲慢(ごうまん)そうだとかエロボイスだとか、キンキラキンで慎み深さがまるで無い派手な印象は受けるが、ファントムですら認める美貌を持つ金髪緑眼男。


「いいんだ、アルヴィス。
・・・確かに此方まで出向くのに掛かった旅費は安くは無いし、ここのホテル自体ルーム料金設定も高めで、こちらに滞在出来れば助かるとは思いはしたのだが・・・・」

「そうだよ! 遠くから来てるんだから飛行機代とか沢山掛かってるよな!? これ以上無駄な出費したら駄目だオーブ!」


 そしてその相手は、ファントムが愛して止まない、存在していること自体が奇跡な天上の青の瞳を持つ美青年。

 その少し癖のある青みがかった黒髪も、透けるような白い肌も、造りものめいた現実味の薄い儚さを感じさせる顔立ちも、まだ少年らしい甘さが残った声も。
 その全てがファントムを魅了して止まない、この世で唯一の宝物だと豪語できるアルヴィス。


「しかしなアルヴィス。先ほどファントムも言っていた通り、ここは彼が借りているフロアだ。お前の一存、ましてやこの私の意志など、ファントムがNOと言えばそれまでの話なのだよ・・・」

「そんなのっ!
・・・っ、いいよ、だったらさオーブ、俺がファントムから貰ってる部屋に来れば良い。客室じゃないから色々不便なのかもだけど、でも部屋代掛かるくらいならっ、・・・」

「アルヴィス・・・」


 ファントムが認める、美しい二人。

 キレイなモノに醜悪なモノが混ざるのは、罪だ。
 美しいモノは美しいモノとだけ、共にあれば良いとファントムは思う。

 その理屈からいけば、アルヴィスとオーブが共にあるのは許されることかも知れない。

 だが、しかし。


「・・・・・・・」





 ――――コレは何?

 何なの、このふざけたシチュエーションは!??






 何故に自分が蚊帳(かや)の外に追いやられ、二人が見つめ合うのを傍観していなければならないのか。

 オーブと自分の恋人が見つめ合う―――――そこから既に、大間違いで大罪だ。


「ちょっと! 僕を差し置いて何ワケ分かんない話展開してくれちゃってるのさ!?」


 そう怒鳴りつつ、ファントムはとりあえず眼前のタラシ男の邪眼からアルヴィスを救出すべく、隣に座る恋人を腕の中へと強く抱き込んだ。

 腕の中でアルヴィスがジタジタと藻掻いたが、後頭部を胸に押しつけるように片手で抑え付けて益々強く抱きしめる。

 アルヴィスの視線の先にあるのは、ファントムだけでいいのだ。
 他の男の姿など、一切その美しいブルーアイズに映す必要は無い。


「僕の許可無しで、アルヴィス君と勝手に見つめ合わないでくれる!?」

「おや、嫉妬したのか? 私はただ、アルヴィスの可愛らしい提案に聞き入っていただけだというのに」


 アルヴィスを抱きしめたままオーブへと噛みつけば、付き合いの年数が長いことだけは認めてやってもいいだろう相手は、態(ワザ)とらしい嘆かわしそうな態度で肩をすくめた。


「私の移動費や滞在費を気にしてくれている彼の気持ちを思うと、例えお前が反対したとしても、此処に居させて欲しいと頼みたくなってしまうな」

「・・・・良くもぬけぬけと」

「それに此処に居れば、いつでも可愛いお前に逢えるし―――――」

「そういうのヤメてくれない? 本気で気持ち悪いんだけど!」


 本当に首筋辺りが寒くなって、肌が粟立つような感覚に襲われながらファントムは呻く。

 先ほどから続いている、わざとらしさ見え見えなオーブの演技に苛立ちは募る一方だ。

 移動費や滞在費のことなど、オーブ本人が気にするワケも無い。
 その程度の額の捻出など彼の総資産を考えれば、計算に入れる必要すらない問題外の支出。

 ファントム自身にしてみたって、どうでもいいような金額だ。
 つまり、先ほどオーブが口走った『此方に滞在できれば助かる』云々の言葉は、全くの言葉のアヤで嘘っぱちなんである。

 絶対に嫌だが、もし彼が自分でこのホテルのフロアを新たに借り切ったとして、オーブなら別に何十年そのまま滞在しようとも彼がその支払いに困ることはあり得ない。

 けれども。


「なあファントム。滞在費の節約になることだし、私としては是非にこのままお前の所に居させて欲しいのだが・・・・」


 そんな風に『節約』なんてキーワードに、絶対的に弱い人間がこの場に居るのだ。


「・・・・・・・・・」


 ぎりっ。
 音がしそうな程に奥歯を噛み締め、ファントムは自分の向かいに座る男の姿を睨んだ。


「ん? なんだ、ファントム?」

「・・・・・・・・」


 自分が浮かべているだろう険しい表情を物ともせず、悠然と此方を見返してくるオーブの分厚い面の皮を、物理的な意味で引きはがしてやりたいと真剣に思う。


 黄金信望者であった古代エジプトの王(ファラオ)が見たら、さぞかし欲しがるだろう目が痛くなるキンキラキンの派手なロン毛。

 最高級のエメラルドを思わせる・・・というか実際に抉り取ってやって、眼球単品で飾るなら美しい色だと認めてやってもいい緑眼。

 ギリシャ彫刻の男神のような、無駄に背が高く立派で圧迫感のある体躯。

 顔立ちも、非常に偉そうで傲慢さが滲み出てはいるが、その整いぶりは最上レベルだろう。

 身につけているスーツや小物なども、見てそれと分かる程には質が良い。

 育ちというものは、ある程度ならばその人物の様相や物腰から伺い知れるものである。


 そしてそういった意味なら、ファントムとアルヴィスの向かいに腰掛けた男―――オーブは、お世辞にも『金銭面で不自由がある人間』には絶対見えない筈だった。

 それなのに。

 アッサリ、そんな男の臭い演技に騙された者が居る。


「・・・・・・・」


 演技なのは、明らかだ。

 けれど、それを暴けば暴くほど――――・・・ファントムの分(ぶ)が悪くなる。
 アルヴィスの前で、オーブのことを悪し様に言えば言うほど、アルヴィスの中でファントムの評価が駄々下がりになってしまうのだ。

 彼は純粋にオーブをファントムの親友だと信じ、彼とオーブの交流を喜んでいる。
 オーブがどんな軽口を叩いてアルヴィスに信じ込ませたかは知らないが、とりあえずオーブとファントムは『とても仲の良い親友同士』という位置づけになってしまったらしい。

 そうなると、下手にオーブのことを言えば此方のイメージが悪くなるだけである。

 アルヴィスがオーブのことを、かなり高評価している現時点では、うかつなことは一切言えない。


「・・・OK。滞在は許可するよ」


 仕方なしに、ファントムは渋々そう口にする。


「そうか有り難い。しばらく世話になるぞファントム」

「・・・Be my guest.(勝手にすればぁー)」


 自分とは正反対に、満面の笑みで嬉しそうにしているオーブを見ていると余計に気持ちがささくれ立つので、目線を外してぶっきらぼうな口調で言葉を返すファントムだ。

 本心からのOKじゃないことは丸わかりな態度だが、取り繕っても看破するだろう相手に、わざわざ笑顔を見せる必要は無い。

 ついでに言えば、今はアルヴィスを抱きしめ胸に押しつけている状態だから、憮然とした顔を彼に見られ咎められる心配も無いのである。
 アルヴィスが見ていない時に、どうして『こんなの』に愛想良く振る舞う必要があるだろう?

 大体、此方の態度が刺々しかろうと何だろうと、眼前の男がそれらのことで傷付くような人物では無いと、ファントムが1番良く知っている。


「これでゆっくり、色々と親交を深められるな」


 そう口にしたオーブの声は、酷く満足そうなものだった。

 予想通りファントムの投げやりな態度にも、オーブの傲慢そうな笑みは少しも消える様子は無い。


「・・・・・・・」


 イラッ、としつつも腕の中にアルヴィスが居る状態では、ファントムは何も言えない。

 怒りに燃える瞳で、オーブを睨み付けるくらいが精々である。


「Advice is given to you.(忠告しておくけど)」


 それでも、どうにも腹の虫が治まらず。


「・・・Supposing you tell him an excessive thing, I will give you a misfortune.
(・・・もし何か余計なこと彼に言ったら、酷いからね?)」


 ファントムは英語で、早口にそう囁いた。


「Cosa e parlante circa?(何を言ってるのか分からんな?)」

「・・・・・・・You must die.(死ねばいいのに)」


 言ったところで、目の前の男が少しも堪えないだろうことは承知してはいたが、それでも言っておかずにはいられない。

 何しろこの男は、ファントムの後ろ暗い部分を知りすぎている。

 というか、この男の存在自体が既にアウトゾーンだ。

 表向きは製薬会社オーナーであり、貴族の血を引く由緒正しい家柄出身という立派な肩書きがあるものの、その実態はI国有数のマフィアの次代ボスである。
 オーブが何か一言、ポロッとアルヴィスにそれら関連の言葉を継げたり、もしくはスーツに隠しているだろう銃でも見せてしまえば言い逃れは難しい。

 オーブがアルヴィスに怖がられたり軽蔑されるのは一向に構わないしむしろ大歓迎だが、自分も一緒に巻き添えに『そういう眼』で見られたりしたら一大事である。








「――――Io gli do similmente consiglio.(キミたちも、だよ)」


 眼前でニヤニヤしている傲慢金髪男から目を離し、ファントムは壁際に控え直立している赤毛と黒髪の青年を見据える。

 主には効き目が無いから、せめてもの意趣返しだ。
 恐らく英語で話しても理解するのだろうが、リアルに脅しを掛けてやる為にも彼らの母国I国の言葉・・・イタリア語で話してやることにする。

 アルヴィスに余計なことを吹き込まれないように牽制することが、今この時点での最重要項目なのだ。


「『Out of the mouth comes evil.』―――・・・Probabilmente, Lei capisce questo significato, anche se io non dico tale cosa?
(『口は災いの元』―――・・・分かってるよね?」


 言った途端に、二人の顔が見る見る青ざめていくのが分かった。

 その様子に、ファントムの溜飲(りゅういん)が僅かに下がる。


「Io sono spiacente. E chiamato『In bocca chiusa non entrano mosche. 』 in Italia? 
(あ、ごめん。イタリアじゃあ『※閉じた口にハエは入らない』って言うんだっけ?)」※イタリアでの『口は災いの元』の意味。


 二人の強張った顔を眺めながら、ファントムはようやく唇の両端を吊り上げた。


「Comunque. Lei non deve dirgli una cosa eccessiva. Se parla, io L'uccidero.
(とにかく。余計なこと言ったら殺すから)」


 眼を細め、脅しかけるようにゆっくりと言葉を吐けば―――――赤髪の青年が、ビクリと身を震わせた。


「・・・・・・・、」


 そういえば、赤髪の彼はいつだったかサンドバッグ代わりに手酷く痛めつけたことがあったような、とその姿を見てファントムは朧気(おぼろげ)な記憶を引っ張り出す。

 理由は忘れた―――恐らく、単に自分の機嫌が悪かった時にたまたまあの目立つ赤毛が気に障ったとか、そんな程度だろう―――――が、喉元を絞め腹部を蹴りつけ、足の腱も数本断裂させてやった筈だ。
 なかなか気分がスッキリして壮快になったが、その後に彼の主であるオーブから言い咎められて緊急手術をファントム自ら執刀する羽目となり、―――――腱の再生やら内臓破裂の後始末やら、色々と面倒くさいことになり、散々だったことまで思い出して憮然とする。

 腹いせに、損傷を免れた健常な回腸部分を少々切除してやったのだが、その後にこうして普通に護衛の任務に就いているのだから、支障は無かったようだ。
 支障あったところで別に、ファントムとしてはどうでもいいことではあったけれど。


「・・・・・・・・・・」


 まあ、ともあれ。
 1度あれだけ酷い目に遭っていたなら、赤毛が余計なことを口走る恐れはまず無いだろう。

 残るは、その隣に立っている黒髪の方だが―――――彼も確か、やはり記憶は朧気だが、何度かファントム自ら『躾けた』筈である。
 ちゃんと言い含めておけば、口は慎むだろう。

 黒髪は、赤毛よりは頭が良さそうだしそこら辺は理解出来そうだとファントムは踏む。


「作為中国人的你,也現在,我説的内容理解完成了嗚?你,理解了喲」
(チャイニーズなキミも、僕の言ったこと分かったよね? ・・・理解してるよね?)」


 普段I国に住んでいるのだから、イタリア語で通じているだろうとは思うが念のために中国語で確認すれば、黒髪青年は強張った顔のままぎこちなく頷いて見せた。


「那个很好(それは良かった)」


 その態度に満足し、ファントムは腕の中でまだ諦め悪くモゾモゾ藻掻いているアルヴィスの拘束をようやく緩める。

 これ以上自由を奪っていてはアルヴィスの機嫌が悪くなってしまうだろう、流石に限界だ。
 顔を上げた恋人の頭を再びすかさず引き寄せ、その頬にキスをしながら、ファントムはゆっくりと、テーブル越しに不意に訪れた来客達を見据えた。


「I say to you.(キミ達に言っておくよ)」


 此処が肝心。

 これだけは、絶対に言っておかなければならない。


「―――I am Rule. (僕が、ルールだ)」


 目の前で笑う、緑柱石の瞳を睨み付けながら。

 ファントムは宣言するかのような厳(おごそ)かさで、語気強く短くそう言い放つのだった―――――。

 

 

 

 

 To be continued...

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言い訳。
さっさとオーブさんをファントム宅に滞在させて、色々と交流を深めていくシーンが書きたかったんですが、予想外(予想通り?)にトム様がゴネてしまったために難航し挫折orz
いやー、何としても早くオーブさんを帰してしまいたいんですよね、トム様としては(笑)
自分の腹黒い部分をアルヴィスに暴露されるんじゃ!?とヒヤヒヤなのです(笑)
次回はもうチョイ、オーブさんや護衛のシェンやルベウス達とアルヴィスの交流を書きたいなー・・・あーでもその前にトム様が、友人への態度がなってない!!ってアルヴィスに怒られる方が先かもですね・・・(爆)