『Sweet Valentine Day−インアルver・2−』
そして時間は、最初のアルヴィスとの会話へと戻る。
「そっか、インガって甘いのダメだったのか・・・」
予想に反して、アルヴィスはインガに対し、怒りも幻滅もしなかった。
ただ驚いただけの様子で、それなら言ってくれれば良かったのに・・・と言っただけである。
インガにしてみれば、告白の次くらいには勇気が要ったカミングアウトだったから、拍子抜けもイイ所だ。
今までの、あの血の滲むような努力?は一体何だったのだろう。
「でもそれだったら、バレンタインとか大変だな。インガもチョコレート、沢山貰うだろ?」
「・・・・・・ええ、まあ」
「貰えるチョコって、普段買えないような美味しいの多くて俺は嬉しいけど・・・甘いの嫌いなら大変だよな?」
けれど、ホッとした直後。
「・・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスに言われたセリフに、インガはつい渋い顔をしてしまう。
その通りだ。
昔から、バレンタインにチョコレート漬けにならない年は無かった。
そういう、恋愛ごとに一切興味はないという態度を普段から貫いているにも関わらず、イベントの有る無しに関係無くインガに告白してくる女子は多い。
だからそういう告白を推奨するようなイベント日ともなれば、水を得た魚の如くにチョコレートを持参して想いを告げてくる子は倍増する。
そして、インガの場合は更に――――――・・・バレンタインデーにチョコレートを贈られる確率が倍増する、『理由』があるのだ。
「それはもう、・・・嫌がらせかと思うほどには渡されますよ・・・・」
ゲンナリした口調で、インガは言った。
毎年のウンザリする光景を思い出し、ついうっかりと本音を漏らしてしまう。
「あ、いや・・・ちょっと大袈裟に言っただけですけどね!?」
「・・・・・・・・」
漏らした後で、そんな沢山貰っているなんて言ったら恋人であるアルヴィスが機嫌を損ねるのでは、とヒヤリとしたが既に遅し。
アルヴィスの表情に、とくに変わった様子は無かったけれど・・・何もコメントしてくれないのが不安を煽る。
仕方なくインガは、どうせいつかバレることだし・・・・と、貰う理由に不可抗力さと叙情酌量(じょじょうしゃくりょう)の余地を加えて貰うべく、ずっと黙っていた秘密を打ち明けた。
「――――――ボクの誕生日、・・・・バレンタインなんですよ」
「え、・・・?」
アルヴィスが、パチリと大きく瞬(まばた)きをする。
「バレン、・・タイン? インガの、・・・誕生日が??」
「はい」
「チョコ、・・・ていうか甘いのダメなのに?」
「そうです」
「・・・・ぷ、!?」
短く吹き出して、アルヴィスが慌てて笑いたそうに歪めた口元を抑えた。
「・・あ、悪い・・・」
だが根が正直であるアルヴィスは、表情を完全には隠せず、眉間にシワを寄せて身体をプルプル震わせている。
笑ってるのが、丸わかりだ。
確かに、甘い物を嫌っている人間の誕生日が、チョコレートを贈られる日だなんて・・・・・・・『神様の嫌がらせ』以外の何物にも思えない。
でもまあ、これでアルヴィスがもし機嫌を損ねていたとしても、直してくれただろう。
「・・・・笑ってもイイですよ・・・自分でもギャグだなって思ってますし・・・」
笑われると思ったんだよな――――――内心でそうぼやきつつ、インガは拗ねてそっぽを向いた。
バレンタインが、誕生日。
姉のドロシーにも、毎年からかわれているネタである。
甘い物が大の苦手だというのに、甘い物代表格なチョコレートを贈るイベントデーに生まれてしまった悲劇。
でも生まれてくる本人には、生まれたい日が選べるわけもないのだから、どうしようもないのである。
2月14日は、チョコレートを贈って想いを告げる日。
そんな習慣がこの国から消え去ってくれない限りは、インガの誕生日にチョコレートの姿が消えることは無いだろう。
「いやその、・・・ゴメン。チョコ駄目なのにバレンタインが誕生日って、・・・なんかちょっと面白くて・・・・」
アルヴィスは相変わらず、楽しそうにクスクスと笑っている。
その姿は、うっかり見惚れてしまいそうなくらいには可愛らしいのだが――――――楽しそうにされている内容が、自分のことだと思うと素直に見蕩れてもいられない。
「いいですよ、別に」
憮然としながら、インガは唇を尖らせた。
「・・・今年は今までと違って、越境して進学しているからボクの誕生日知られてない筈ですし、今までよりはマシだと思いますしね」
気にしていない、というスタンスを装ってコーヒーを飲む。
「じゃあ俺がバレンタインにあげるのは、別のモノにするな」
「・・・・えっ?!」
アルヴィスの言葉に驚いて、口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
バレンタインといえば、主に女の子が好きな男にチョコレートをあげる日。
同性婚も一般的になり、男子がチョコレートをあげる側になるのも珍しくなくなった昨今だが―――――――・・・何となく、アルヴィスはくれるとは思って無かったインガである。
というか、そういうイベントごと自体に疎いタイプだと思っていた。
ついでに言えば、アルヴィスはその可憐に美しい見た目に反して・・・いや、彼の凛々しさを考えればイメージ通りとも言えるのだが・・・性格的には、かなり男前なのである。
だから、未だ女性から男性へチョコを献げる日という印象が強いバレンタインに、アルヴィスから何かくれるとは思っても見なかった。
立場的に、アルヴィスからインガにくれるのは全然問題無いというか自然だけれど・・・何となく、アルヴィスからは貰える気がしないインガだ。
「ボクに、・・・・くれるんですか?」
それでも現金なモノで。
そうとなれば、今までは自分への嫌がらせだとしか思っていなかったバレンタインが、急に楽しみになってくる。
「うん。だって誕生日なんだろ?」
だが、アッサリと告げられた理由に、インガはアルヴィスの言葉の真意を知った。
あ、そっちの意味か・・・・それなら、納得。
少なからず落胆しつつも、腑(ふ)に落ちる言葉だ。
バレンタインの意味では無く、誕生日という意味合いでなら、確かに恋人であるアルヴィスがくれても不思議は無い。
「――――――それに、バレンタインだしな。チョコが駄目でも・・・何かあげたいし・・・」
けれど、その次の瞬間。
アルヴィスが口にした内容に、インガは再びドクリと心臓が跳ね上がった。
「・・・・っ!?」
えぇ!? それって、それって・・・・・??
ちょっと伏し目がちに長い睫毛を伏せ、ほんのり白い頬を赤く染めながらそんな可愛いことを言われたら、――――――インガの方まで顔が赤くなってくる。
「だって、・・・・バレンタインはチョコ贈る日でもあるけど、・・・好きな人に何かプレゼントして・・・気持ち伝える日でもあるだろ・・・・?」
俺、インガが好きだから、ちゃんとそういうのしたいし・・・・・ボソボソと、小声でそう言ってくるのが壮絶なまでに可愛かった。
「・・・・・・・・・アルヴィスさん・・・」
あんまりアルヴィスが可愛くて、今までの運命の皮肉としか思えなかったバレンタインなんか、どうでも良くなってくる。
こんな可愛いアルヴィスから何か貰えるなんて、バレンタインは何て素敵な日だろうか。
今まで思っていたのと180度違う想いで、インガは暫しの間幸せに浸った。
だが。
「俺さ、・・・幼馴染みが居るって前に話しただろう?」
「ああ、・・・はい聞きました」
「そいつが毎年、俺にカードと一緒に、ホントはお花なんだけど・・・って言いつつヌイグルミとかオモチャとかくれてたんだよな。バレンタインだからね、って」
もちろんチョコもくれたんだぞ、と続けるアルヴィスの言葉を聞いているウチに、だんだん雲行きが怪しくなってくる。
「・・・・・・・・そうなんですか」
やはりというか何というか、バレンタインというキーワードはインガにとって、嬉しさだけを運んでくれるモノでは無いようだ。
「それがすっごく嬉しかったから。 俺、バレンタインはちゃんとやりたいんだよな・・・」
「・・・・・・・・へえ・・・? 本当に仲良かったんですね・・・」
平静を装って応えつつも、インガの心境は穏やかでは無い。
だってつまりは、その幼馴染みとやらの影響で、インガにもバレンタインに何かくれる気になった・・・と言わんばかりなのだから。
「うん、大好きだったんだ」
「!?」
それなのに、インガの男心も知らず、アルヴィスは可愛い笑顔でアッサリと肯定する。
「そうそう、当時貰ってたカードって英語で書かれててさ・・・俺、意味分からなかったんだけど。中学の時に気になって調べてみたら・・・なんかすごいイイ言葉で、」
憮然とするインガにはまるで気付かない様子で、アルヴィスはゴソゴソと鞄から生徒手帳を取り出した。
そして挟んであったらしい、1枚のカードをインガの方へと寄越して見せる。
「・・・・・・・・・I love you more・・・・」
―――――――『I love you more and more as years go by.(時を重ねるごとに、ますます貴方が愛しくなります)』
金の縁取りが付いたシンプルな二つ折りのカードには、キレイな筆記体でそう書かれていた。
「なっ? イイよなこういうの。だから俺も真似して、好きな人できたら絶対こういうメッセージ書いて、こう言おう・・・って思ってて・・・」
「・・・・・・・・・・・」
照れた風に言うアルヴィスは、本当に可愛らしい。
けれど、口にしている内容が内容だから――――――――インガは、恋人の可愛さに和む心境には到底なれなかった。
アルヴィスの爆弾発言は、この後も更に続く。
「別にコレ、バレンタインじゃなくても使えそうだと思うんだけどな。
でもこのカードくれた後に絶対アイツ、『Please Be My
Valentine!』って言ってて・・・それがスゴイ、様になって格好良かったから。やっぱりバレンタインに言うべきかなと思って・・・」
「・・・っ!?」
衝撃に言葉も出ないインガに、屈託無くアルヴィスはそう言って笑った。
恋人に、何も考えずこんなメッセージカードを見せてくるということは、アルヴィス的には何ら後ろ暗いことは無いのだろう。
口ぶりからして、幼い頃の想い出らしいから言われた内容の意味も、可愛がって貰っている・・・くらいにしか考えていないに違いない。
けれどもこれは、恋する男の勘がそうじゃないと訴えている。
―――――――このメッセージは絶対、熱烈なる愛の告白だ。
だってその後に必ず言ったという、『Please Be My
Valentine』は・・・・・・・・俺の恋人になって欲しいなあ、という意味である。
Valentine=恋人という意味合いがあるのだ。
アルヴィスはそれを知らないみたいだし、敢えて教える気は絶対無いけれども。
「その幼馴染みって、・・・・アルヴィスさんより4歳上なんでしたっけ? 遊んで貰ってたのは、アルヴィスさんが4、5歳の頃でした?」
「うん、そうだな小学校上がる前くらいかな・・・アイツその後、どっか外国行っちゃったから・・」
今は居ない幼馴染みとやらを思い出したのか、アルヴィスがちょっと寂しそうな顔をする。
しかし、今だけは流石に慰める気にはなれない。
「・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスが4歳頃なら、相手は8歳にはなっていた筈。
だとすれば初恋なんて、充分しててもおかしくない年頃だ。
というか、その年で英語で告白なんて、なんっっっってキザな野郎だろうか。
―――――――小学生なら大人しく、ガキな日本語使ってろ!!
アルヴィスがちゃんと、『そういう意味を込めて』そのメッセージカードの言葉をインガに告げてくれようとしてるのは嬉しい。
嬉しいが、――――――・・・そのソース(元ネタ)がとっても気に食わない。
アルヴィスが未だに、そのカードを持っているのもかなり、気に入らなかった。
「ねえアルヴィスさん・・・・・・・」
インガは、手にしたカードをさりげなーくテーブルの上に置き。
「バレンタインに何かくれるって言うんでしたら、ボクもアルヴィスさんに贈りますね」
話を逸らすべく、話題を自分たちのバレンタインへと引き戻した。
「俺に?」
「だって、バレンタインデーは恋人達の日でしょう? だったらボクも、アルヴィスさんに贈るべきですよね?」
アルヴィスさんは甘いのお好きですし、やっぱりチョコがいいですかと聞けば、嬉しそうな顔になる。
その隙に、インガはテーブルに置いたカードを自分のトレイの下へと追いやった。
ドサクサに紛れて、トレイを片付ける時に一緒に処分してしまおうという心づもりである。
アルヴィスが気付けば悲しむだろうことは予想出来たが、彼氏としてこれはやっぱり許容出来ない。
面と向かって、捨ててイイですよね?とは流石に聞けないけれど―――――――・・・こっそり処分するくらいは許して貰おう。
アルヴィスだって、紛失したからといってそう長い時間、気に病まない筈である・・・・多分。
「ああ、それは・・・嬉しいな。インガの作るヤツ、何でも美味しいし」
「じゃあ、チョコレートケーキ作りましょうか。ケーキも、お好きですよね」
せめて罪滅ぼしじゃないけれど、作る菓子にはいつも以上に精一杯の愛情を込めようとインガは思う。
「この前焼いてくれたのも美味しかったよ。シフォンケーキ」
インガが何かあげるとなると、自然とインガの手作りを連想してくれるアルヴィスが可愛い。
付き合う前から、何かと差し入れして餌付けした甲斐があったというものだ。
――――――そう、自分たちにだって歴史がある。
まだ始まったばかりで、まだまだその幼馴染みとやらと過ごした時間には敵わないけれど・・・・これから積み重ねていく歴史があるのだ。
過去になんて、・・・・絶対負けてなるものか―――――――。
「アルヴィスさんの為ならボク、毎年バレンタインに何かチョコレート菓子を作りますから」
「それは楽しみだ。・・・・じゃあ俺は、インガの誕生日でもあるんだからもっと頑張らないとだな」
「ふふっ・・・じゃあボクも期待してますね?」
「任せてくれ。頑張って、気に入ってくれるヤツを選ぶから。もちろん、・・・その・・・毎年な?」
照れながら。
それでも毎年と・・・これからも2人はずっと一緒に過ごす、という前提で話してくれるアルヴィスが可愛い。
顔も知らないアルヴィスの幼馴染みに嫉妬して、話を逸らそうと出した話題だけれど・・・・これはこれで、恋人同士ならではのラブラブトークになっていると言えるだろう。
―――――――見たか、小学生のウチから色ボケしたマセガキ。
アルヴィスさんはもう、ボクの恋人なんだ。
Be My Valentine.(恋人になって下さい)なんて言ったって、返事はNOなんだからな――――――――!!
内心で、勝手にイメージを作りあげた子供相手に悪態をつきつつ。
インガは、目の前の恋人に甘く蕩けるような笑顔を向けた。
「約束ですよ? ボクも何が貰えるか、楽しみにしてます」
この際、その幼馴染みとやらの方が年上なのだから、自分よりオトナになっていることは、都合良く頭から抜いておく。
「その代わり、ボクもバレンタインにはアルヴィスさんが好きなチョコレート、頑張って作りますから・・・・」
「うん、約束。バレンタイン、楽しみだな」
インガの言葉に、アルヴィスもキレイな顔を綻ばせて、それはそれは可愛らしい笑みを浮かべた。
「まだまだ先だけど、待ち遠しくなるくらい楽しみだ」
「ですよね、まだ夏ですし」
「でも、楽しみだぞ」
楽しそうに細められた、青い瞳。
造り物じゃないかと思ってしまうような、白くて人形みたいに整った顔。
月明かりに照らされた海を思わせる、青みがかった黒髪。
成長途中の、独特な未成熟さを感じさせる伸びやかな肢体。
――――――――・・・その時のインガの目には、アルヴィスの全てが完全で、欠けた物など何1つ無いように映っていた。
完璧すぎて・・・アルヴィスを見る度に、漠然とした不安が胸を過ぎった。
だって、人間がこの世に産み落とされるのは、現世での修行を積むためと言うじゃないか。
現世は、修行して足りない部分を補い、完全な美しい魂となって・・・・天へ帰るための準備をする場所だと、まことしやかに言う人間が居る。
だったら、こんな完全なる存在(アルヴィス)は、現世に留まる理由がどこにあると言うのだろう。
もう此処に居る必要は無いと判断されて、――――――いつ連れ去られてもおかしくないじゃないか?
その背に突然、白い翼が生えて。
自分を置き去りに、空へと還っていくことになっても不思議は無い・・・・・・・・・そんな気がして、インガはいつも不安になる。
彼のキレイな背中の、肩胛骨(けんこうこつ)から真っ白な羽根が生え、地上から飛び立っていく。
そんな妄想が頭から離れなくて。
アルヴィスを抱き締める都度、彼の背に羽根が無いかと指が勝手に探るのは・・・・・いつの頃からか、インガの癖になっていた。
「じゃあ、・・・約束ですからね」
だからインガは、事あるたびアルヴィスに、『約束』をする。
心のキレイな彼は、必ず決めごとを守ろうとするだろうから。
幾つもの善意と執着と、純粋なる恋情から作られた鎖は、――――――――地上に天使を繋ぎ止める、唯一の方法だ。
羽ばたき、空へ還るべき天使は、・・・・・鎖によって、インガの元に留まり続ける。
――――――――・・・その鎖を、インガは永遠に解き放つつもりは無かった。
「ね、アルヴィスさん。約束しましたもんね・・・・・・バレンタインに、チョコレート以外のモノくれるって」
白いベッドに横たわり、眠り続ける少年の髪を、インガは優しく撫でる。
あの頃と変わらぬ、海色の髪を梳き―――――そっと手を、冷たい頬へと滑らせた。
「ボクまだ、1度も貰ってないんですよ? ずっと、楽しみにしてるんですけど・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「ボクは今年も、約束を守りましたよ? だからアルヴィスさんも、絶対守ってくれますよね。ボク、ずっとずっと待ってますから・・・・」
微動だにせず、懇々と眠り続ける恋人の姿を見つめながら。
インガは自分の誕生日・・・・つまりバレンタインデーのことが話題になった、ある夏の日を思い出す。
クリスマスイヴ前日に倒れ、そのまま意識が戻らないアルヴィスとは結局・・・・・まともに付き合えた時間などは、半年程度の短い期間だ。
恋人同士ならば一緒に過ごすだろうイベントだって、彼と経験できたのは片手で余る位の僅(わず)かなもの。
初夏から冬半ばまでの、――――――・・・たったの数ヶ月間だけだ。
アルヴィスの誕生日であるクリスマスイヴも、初詣(はつもうで)も、インガの誕生日である今日・・・バレンタインだって、1度も過ごせた試しは無い。
「・・・・・・・・・・・」
今では、彼と付き合っていた期間より。
こうして眠っているアルヴィスに話しかけている時間の方が、遙かに長くなってしまった。
起きているアルヴィスより、眠っている彼を見ている想い出の方が、増えていく。
それでも。
それでも、インガは信じている。
彼と交わした『約束』を。
それがある限り、―――――――アルヴィスは必ず目覚めて、『約束』を果たしてくれる。
『約束』がある限り、天使が地上を離れていくことも無い。
「待ってますからね。・・・ボクはずっと、貴方だけを待ち続けます」
眠る少年にそっと話しかけ、インガはその唇へとキスを贈る。
その傍らでは、サイドテーブルに置かれたケーキの箱だけが、今年も誰に顧(かえり)みられることも無く寂しげに佇んでいた――――――――――。
END
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言い訳。
ファンアルと対にするつもりで書いたのに、なんかすっごい長くなっちゃいました(爆)
これもう、拍手SSの長さじゃ・・・!(汗)
カードのメッセージ、『I love you more and more as years go
by.(一緒に過ごせば過ごすほど、キミのことがどんどん好きになるよ)』って言葉は、トム様が幼いアルヴィスに良く言ってた言葉です(笑)
インガは英語かぶれのマセガキだと思ったみたいですけどね!
トム様は英語の方が母語なので、日本語で伝えるより言いやすかったんですy。
せっかくなので、後輩設定インガも、その後のオトナ設定なインガも盛り込みたかったんで書いちゃったんですが・・・・長くてすみませ・・・(爆)
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