『Anything is done for you』
初えっち編 ACT13
「んうっ、・・・」
インガを引き絞るように、未だひくひくとアルヴィスの内部が蠢いているのが妙にリアルで。
本当に、彼と一線を越えたのだ―――――という実感がインガに湧いてくる。
「・・・はっ、あ・・・・っ、は・・・・っ、はーーっ、・・・」
だが、お互いにもう荒い息しか付けず、何も言葉が喋れない。
インガに至っては、アルヴィスの身体の負担を考えればすぐにでも退くべきだと思いつつ、彼と身体を重ねたままの状態で呼吸を整えている状態だ。
それでも、こうして想いを遂げられたことが幸せで。
身体は疲労していたし呼吸もまだ落ち着かない状態ながら、インガは幸せに浸っていた。
「・・・・はっ、はぁ・・・っ、・・・・・・うっ・・・、」
「――――・・・!?」
しかし、ふとアルヴィスの呼吸音が変化した気がして。
うっとり閉じていた目を開いたインガは、ギョッとした。
―――――泣いている。
グッタリ目を閉じたアルヴィスの、長い睫毛の先から、ポロポロと透明な雫が零れ落ちていた。
それを、片手でグシグシ拭っている様子は―――――明らかに、泣いている。
「あっア・・アルヴィスさん・・・!?」
アルヴィスの様子に、インガは慌てて身を起こそうとした。
だがそのせいで、まだ繋がったままの箇所を深く穿ってしまう。
「!・・・ああっ、・・・・」
「わっ・・あっ・・すみません・・・! っ・・・・・・、」
途端、ビクッと身体を強張らせたアルヴィスに、インガは冷や汗を掻きながら動きを止めた。
「・・・・・・・・・・・」
そしてアルヴィスを気遣いながら、そろそろと彼の体内から自身を引き出す。
「んう・・・・・っ、・・・・は・・・・ぁ」
それでもやはり刺激を与えてしまったのか、アルヴィスは眉を寄せギュッと目を閉じて苦しそうな吐息を付いた。
「・・・アルヴィスさん・・・」
少しだけ、触れて良いのか戸惑ってから。
インガはそっと、アルヴィスの濡れた頬に手を添える。
「こんな・・・・泣かせたかったんじゃないんです、すみません・・・・・」
先程までの、熱に浮かされたような高揚感が萎んで、申し訳なさに胸が一杯になった。
アルヴィスと身体を繋げ、ひとつに解け合えることが幸せで―――――・・・幸せすぎて。
他のことが何も、考えられなくなっていたような気がする。
アルヴィスを抱いていると言うことが、この上もなく幸せすぎて、肝心のアルヴィスの気持ちを蔑(ないがし)ろにしてしまっていたのではと、今更に怖くなってきた。
だって、実際に今アルヴィスは泣いている。
そして彼を泣かせたのは、他の誰でもないインガなのだ。
そう思ったら、とんでもないことをしてしまった気がして・・・・インガの胸が、重苦しいモノで満たされていく。
天国から。急転直下。
しかも自らの落ち度のせいで、地の底へ落ちてしまったかのような気分である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスが潤んだ目で、ジッとインガの顔を見上げてきた。
澄んだ水底で揺らめきながら光る、青い宝石のようなアルヴィスの瞳はいつ見ても溜息が出るほど美しい。
瞬きする度にバサリと音がしそうな重たい睫毛が、ゆっくりと引き上げられ・・・・また伏せられる中、ポロリポロリと大粒の涙が頬を伝いインガの指を濡らしていく。
その涙もまた、見惚れる程に美しいのだが――――――それが自分のせいだとあっては、素直にキレイと賞賛している場合でも無かった。
「・・・・・インガ、・・・」
アルヴィスが、インガの名を呼ぶ。
擦れて、殆ど聞き取れないくらいの小さな声だ。
「すみません・・・っ!」
その様子がまた、アルヴィスが受けた身体のダメージを伝えてくるようで、インガは繰り返し謝罪の言葉を口にした。
「ボク、・・ボク、つい夢中になっちゃって! ・・・痛かった・・・です、よね・・・?!」
そうなのだ。
あれ程に、インガが悦楽を感じて忘我の域に到達出来たということは、それだけの無理をアルヴィスに強いたということになる。
受け入れる側であるアルヴィスの負担は、相当なものだろう。
挿入側であるインガの、最初の馴染むまでの痛みなどは比ではないはず。
「ボクひとりで・・気持ちよくて。幸せな気持ちに、浸っちゃってました・・よね・・・」
言いながら、インガはガックリと項垂(うなだ)れた。
さっきまでの、天にも昇るような浮かれた幸せ気分は何処へやら。
大切で、聖域であり不可侵だとまで思っていた大切な恋人へ働いてしまった無体ぶりに、打ちのめされて撃沈状態だ。
「途中から・・・なんか、自分見失っちゃってた気がしますし・・・アルヴィスさんの身体、ちゃんと考えられてませんでしたよね・・・・」
インガなりに反省し、それを言葉にすれば余計に自分の至らなさを実感してしまい、更に落ち込む羽目となる。
その時。
「・・ぉ・・れも、俺も」
不意に、アルヴィスの頬に添えていたインガの手の甲に、小さな声と共に細い指の感触が伝わった。
アルヴィスが、インガに手を重ねてきたのである。
「・・・ち、良かった・・・からっ、・・・」
「・・・・・・・・・・!?」
一瞬、耳を疑う。
消え入りそうな声だから、勝手に自分にとって都合の良い言葉に聞こえたのかも知れないと思った。
けれど確かに、インガの耳に届いたのだ。
―――――・・・気持ち、良かった・・・からっ、・・・。
「・・・・アルヴィスさん・・・!」
本当に?
今の言葉は、嘘じゃなく??
そんな思いを込めてアルヴィスを見れば、彼は白い貌(かお)をバラ色に染めて照れたように微笑んでくれた。
ぎこちなさのない、自然な笑顔だ。
嘘をつくのが下手くそな彼だから、アルヴィスの本当の気持ちが良く伝わる、キレイな笑顔だった。
「・・・・・っ・・!!」
ようやく、許された気分になって。
インガの身体から、チカラが抜ける。
そして、恋人としての最大の至難を乗り越えたことに安堵した途端。
インガは全く別の部分が、気になりだした。
「そうだ・・・・・・・ボク、あんなに思いっきりしちゃいましたし。
もしかしたら、傷になってたりなんて・・・・!??」
思わず叫んで、アルヴィスの頬に添えていた手を外し彼の下肢へと手を伸ばす。
そして、ガバッと彼の両足を掴んで局部を広げた。
「―――――───っ、!!!?」
アルヴィスが身体を硬くして、息を呑んだのが視界の片隅に入ったが、インガは今それどころでは無い。
さきほど自分を受け入れてくれたばかりの箇所に視線を固定して、凝視状態である。
「・・・・・・・・・・」
あんなに、我を忘れるくらいに思い切り致してしまったのだから、酷使されてしまった部分が心配だった。
「っ・・少し、赤くなってる・・・・・」
案の定、アルヴィスのその部分は濃ピンクに染まり。
まだしとどに濡れた状態だから、ハッキリとは確認出来ないが――――――もしかしたら多少出血しているかも知れない兆候が見受けられた。
切れていたらどうしよう・・・そう思いながら、指先でごく軽く触れてみる。
「アルヴィスさん、痛くないですか?」
ちょんちょん、とインガが指先を触れさせると。
ひゅっと喉を鳴らし、アルヴィスが身体を震わせた。
少しだけ頭を上げて、アルヴィスの表情を伺えば・・・・・彼は茹で蛸のように顔を真っ赤にして、何故かまた泣きそうに口元を歪めて震えていた。
「っ!」
やはり痛みが有るのかも知れない―――――――そう思い、インガは酷使してしまった箇所を入念にチェックし始めた。
デリケートな部分だから、切れている所があるなら放置せず消毒なりクスリなどを塗らなければと思ったのである。
「・・・うーん、中は・・・大丈夫かなと思うんですけど・・・・」
言いながら、インガは内部へと指を挿し入れて内側をぐるりと探った。
すると必然的に、粘膜に覆われた濡れた坑道を掻き回すこととなり、中からトロリと先程の残滓(ざんし)が伝い落ちてくる。
「・・・・なっ、なっ、・・・・イッ・・・・うあっ、!?・・・」
インガの行為を、身を震わせながら耐えていたアルヴィスだが、その感触が堪らなかったのか悲鳴のような呻き声をあげて身を起こそうとしてきた。
「・・・・っ、あ・・・・!」
しかし、その途端に身体が痛んだらしく、呆気なくまたベッドへと沈み込む。
「・・・アルヴィスさん・・・?」
「う、・・・・なんか、いろいろ・・・腰とか関節とか、・・・ギシギシ痛い・・・」
しどけなく下肢をインガに預けた状態で、グッタリと横たわるアルヴィスはパッと見、非常に艶めかしくて淫卑である。
しかも恋人に局部を押し開かれ、内部から零れ出た体液に濡れた指で触れられている状況とあっては、かなり刺激的な光景だといえるだろう。
しかし少し泣き言めいた口調や、実際に色々アチコチ痛んでいるのだろうが、拗ねたように顰めたアルヴィスの顔が幼い子供のようで。
インガには、とても可愛らしいモノに映った。
要はアルヴィスにベタ惚れ状態だからして、インガには何だって可愛いし愛しく思えるのだ。
「・・・すみません、アルヴィスさん。
今度は・・・もっと、ちゃんと・・・優しく出来るように頑張りますから・・・・・!」
手の平を伝う、彼と自分が繋がった証を見ながら。
インガは宣言するかの如く、アルヴィスに誓った。
「・・・・・・・・・・・・・・」
アルヴィスは、顔を赤くして無言のままである。
何だか、どんな顔をすれば良いのか分からない、といった複雑そうな表情を浮かべていた。
「・・・・あの。すぐ塗ったら、しみて痛いかもですし・・・後で薬塗りますね?」
「・・・・・え、いや・・・それは・・・・・!」
「遠慮しないでください? 赤くなっちゃってますし、ちゃんと塗っておかないと!」
「・・・・でも、」
薬がしみて痛みを感じるのが怖いのか、アルヴィスはますます困った顔になって首を振る。
だが、ちゃんと処置しておかないとインガの方が心配になるので、主張は譲らなかった。
「大丈夫ですよ、ボクそっと塗りますし。痛くないですよ・・・?」
「・・・・・・・・・」
「ね? ちゃんと後で、お薬塗りましょうね・・・!」
「・・・・・・・・・」
観念したのか、アルヴィスはそれ以上嫌だとは口にしなかった。
インガの強引な主張に、怒っているワケでも無いようである。
この顔は、どちらかと言えば戸惑っている時の表情だ。
そしてアルヴィスが、何か言いたいけれど言えないで困っている時に良く見せる様子である。
「・・・アルヴィスさん?」
「・・・・・・・・・・」
「どうしたんですか? 何か・・・?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・アルヴィス・・・さん?」
何が言いたいのだろうと、何度か即すように名を呼んでみれば。
「・・・・っ、ぁ・・・あ、・・・」
ようやっと、躊躇(ためら)いがちに。
金魚のそれを思わせる、可愛らしい小さめの唇が微かに動いた。
口の動きに声が伴わずパクパクと、無声で動いてるところまで金魚を連想させて、見ていて微笑ましい気分になる。
「・・・・・・・?」
「・・・・・・・、」
インガが、そのままアルヴィスが言わんとする言葉を待っていると。
「・・・・・・・・・・っ、・・・・・ぁ・・りがと・・・・」
僅かな間の後に、やっとアルヴィスがボソボソと声を発した。
しかし落ち着きなく目線を泳がせて、インガの方をチラチラ見つつも決して視線を合わせてこない。
かなり恥ずかしがっている時の、アルヴィスの態度である。
その姿が、あんまりにも可愛くて。
インガは思わず、患部を見ていた体勢を直し、彼の身体をぎゅうっと抱き締めた。
「・・・御礼言わなくちゃいけないのは、ボクの方です・・」
華奢な身体を抱き締め、素肌を密着させた状態で、耳元に囁く。
「いっぱい、辛い想いさせちゃうことになりますのに・・・・
ボクにアルヴィスさんを下さって、ありがとうございました・・・!!」
ボク、本当に嬉しいです――――――そう何度もなんども、インガは抱き締めながらアルヴィスに伝えた。
言わずにいられなかった。
可愛くて愛しくて、大切で大好きで・・・・・そんな気持ちが身体中に溢れて。
苦しいくらいに一杯になったから・・・・アルヴィスに言わずに、いられなかった。
「大好きです・・・・っ!!」
「・・・・・・おれ・・、も」
感極まり、溢れる思いのままに伝えれば、言葉少なにアルヴィスも返してくれるのが愛しい。
この状態こそを『幸せ』というのだと、今ハッキリと実感出来る。
愛なんて、実像を伴わない単なる脳の勘違いに過ぎない―――――などと冷めた考えを持っていた過去の自分を殴ってやりたい。
勘違いだろうとまやかしに過ぎなかろうと、今、ここで実際にインガは『愛』を感じている。
そして幸せだと思えている・・・ただ、それだけで構わないじゃないかと思う。
アルヴィスが居て、自分がいる。
一緒に居られる――――――触れて、語れて、共に過ごせる。
互いの存在を確かめながら、共に生きていけるのだ。
そんな相手に出会えた奇跡自体が、インガは幸せなことだと今、心から思える。
「・・・・・ごめん、俺、さっき・・・」
そろっと伸ばされたアルヴィスの指が、インガの背に触れてきた。
触られるとピリッとした痛みを感じ、その部分がさきほどアルヴィスに引っかかれた場所なのだと理解する。
どうやら、引っ掻いてしまったことをアルヴィスは気に病んでいるらしい。
キズがまだ乾いていなかったらしく、触れたことで僅かに血が付着した指先を見て、アルヴィスが更に泣きそうな顔になった。
自分のことにはさして頓着しないくせに、他人のこととなったら途端に過ぎるほどに気にしてくれるアルヴィスが本当に大好きだと思う。
「アルヴィスさんがくれたものなら、傷だって嬉しいですよ」
歯の浮くようなセリフだけれど、本心からの言葉である。
インガの背に爪が食い込むのを関知できないくらい、アルヴィスだって苦痛を感じていたのだから。
そんな辛い痛みを耐えて、一言も痛いと言わずに頑張ってくれたアルヴィスの爪ならば、インガにとっては何ほどのこともない。
そんなことくらいで、アルヴィスの痛みが少しでも軽減されるのなら――――――抉ってくれたって構わない。
むしろアルヴィスがそこまでの苦痛に耐えて、インガと繋がってくれたという証とも言えるのだから、一生残しておきたいくらいだ。
「・・・・インガ・・・・」
不意にアルヴィスが顔を寄せ、触れるだけの軽いキスを唇にしてくる。
「・・・・・・・・っ、!?」
滅多にない―――――というか、もしかしたら初めての、アルヴィスからのキスだ。
予想外の行動過ぎて、インガは顔を赤くして何もリアクションすることが出来なかった。
アルヴィスから、キスしてくれたのが嬉しくて。
してくれる様子が、また可愛くて可憐で・・・堪らない。
思わず、この盛り上がった気持ちのままアルヴィスの顎を捉え、濃厚なキスをしてしまいそうだ。
「・・・まだ痛い、・・・よな?」
舞い上がりかけたインガに、アルヴィスの心配そうな視線と声が掛かる。
ひょっとして今のキスは、ごめん、という謝罪の意味が篭められていたのかもしれない。
「大丈夫ですよ・・・?」
ひとまず、キスをしたいという願望を押し込め、インガは安心させるようにアルヴィスに笑って見せた。
「だけど・・・、」
それでもなお躊躇う様子を見せるアルヴィスに、インガは話題を変えるべく更に言葉を続ける。
「そんなことよりも。
・・・アルヴィスさんがいっぱい感じてくれてて・・・ボク嬉しかったです・・・」
言いながら、少しだけ身体を離して目線を下に落とした。
互いの肌に付着し、いまだ滑った感触を与えているモノ達は、先程までの快楽を物語っている。
淫らなイメージなど一切無く、清廉な塊そのもののようなアルヴィスにも、ちゃんと性を営むための機能が身体に備わっているのだ―――――――と思えば、余計に感慨深かった。
「こんなに沢山、イッてくれて・・・気持ちよかったです?」
聞いている内に、元から感じやすい敏感な体質なのかアルヴィスが本当に素直に愛撫に反応してくれた事を思い出してしまい。
インガはまた自分の身体が火照りだした気がして、内心で密かに焦った。
「! ・・・・・・あ、・・・その・・・・・・、」
インガの言葉に、アルヴィスが居たたまれない様子で視線を泳がせる。
否定しないということは、彼もそれなりに感じたと認めてくれたのだろうか。
「アルヴィスさん、1人でもあんまりしてないみたいですし・・・、だから・・ですか・・・?」
ちょっと露骨かな、と思いつつ先程から気になっていたことを、インガは話の繋がりついでに口にした。
プライベート中の、プライベートなことを聞いているという自覚はある。
男同士だからして、友人関連の付き合い上の度合いによっては逆に情報交換がてらに話題に登ったりもする内容だが、恋人同士となると途端に秘してしまう部分の話。
何せ、2人でする行為にも直結する内容だからして、事は非常にデリケートなのである。
だからインガも、その話題は付き合ってからずっと避けてきた。
もちろん、アルヴィスからその手の話題が登ることも有り得ない。
だが、今日からはそうも言っていられない理由が出来てしまったのだ。
「―――――っ、・・・・!」
露骨に、溜まっているのかと言わんばかりの質問をされた瞬間。
大きく目を開き、アルヴィスが絶句する。
「・・・・・・・」
真っ赤になったまま身体を硬直させ、ただただインガを凝視してきた。
インガとしても言った時点で覚悟していた、アルヴィスのリアクションである。
「え、・・・あ・・・・そのっ、・・・・・」
「あの・・さっき、自分で気持ちよくなれないって・・言われてましたし・・・・!」
何でそんなこと聞くんだ、と反発されてしまう前に、インガは一息に言い切った。
「それでしたら今度、ボクが・・お教え・・しましょうか・・・?
あっその・・っしないのも、体に毒だと思いますし・・・・・っ!!」
そう、男に生まれてしまった以上。
健康な男子ならば、思春期に突入するに至って自慰行為は避けられない。
ごくごく一般的な、思春期には当然の自然現象ではあるけれど。
アルヴィスの自慰なんて、そんな光景は想像するだけでも冒涜である気がして。
今まで一切想像しないようにしていたインガだが、さきほどアルヴィスが口走った言葉を聞いてから気になって仕方なかったのだ。
自分で上手く出来ない―――――そう、アルヴィスは確かに言った。
ということは、今まではどうしていたのか?
もちろん、性的に淡白でそういった衝動があまり起こらないタイプ・・・実際にアルヴィスはそうである気がするが・・・ならば、そう回数はこなす必要は無かっただろうけれど。
それにしたって、ちゃんと刺激したらイケる身体に育っている以上は、体内に蓄積していく『それ』を、何とかしなければならない。
じゃないと、逆に不健康だ。
けれども、自分では吐き出せないのなら必然的に夢精・・・という現象によって解消しているということになるだろう。
そしてそれが、インガにしてみれば大問題だ。
――――――アルヴィスさん、ギンタ先輩と普段一緒に寝てるって言ってたよな・・・?
それって、そんな悩ましい状態で夢にうなされてるアルヴィスさんが、ギンタ先輩に見られる可能性があるってことじゃないか・・・・・!!!
―――――――うわ、ダメだダメだそんなの!!
絶対そんなの、ボクが許せない・・・・・・・・っっ!!!
考えただけで、有り得ない。
絶対に嫌だ。
淫らな夢にうなされて、艶っぽく身体をくねらせながら感じているだろうアルヴィスの姿を、他人が見る可能性があるなんて。
そんなこと、インガは絶対に許容出来なかった。
「・・・い、いやっ!
・・・そんな・・・流石に、そんな・・・事まで・・・・・して・・・貰うのは・・・・その・・・」
けれど、インガの思いも察せずアルヴィスは必死に拒絶してきた。
インガの余りと言えばあんまりな申し出に、面食らった様子で顔をプルプルと横に振る。
もちろんインガだって、とんでもないことを言っているという自覚はあるのだが――――――此処は引けなかった。
なまじ、アルヴィスの乱れた艶っぽい顔を目にして、具体的に『その時』の様子が思い浮かんでしまうものだから・・・余計に、無理だ。
アルヴィスがドン引きしてようが、何だろうが、ここは引けない。
純粋にアルヴィスの身を案じて、邪(よこしま)な思いなど一切含まず提案しているつもりのインガである。
「・・・1人でよりも・・・・2人でします・・・・?」
「・・・・・・・・・えっ、・・・・?」
教えて、1人でするのが恥ずかしいのなら・・・・と違う提案をしてみるインガだが、彼はアルヴィスが戸惑っている部分が、何も改良されていないことに気付いていなかった。
とにかく、アルヴィスに生じるだろう性衝動を何とかしようと、一生懸命になっているインガである。
今までだったら口が裂けたって、こんな話題は触れられなかったけれど。
ようやく一線を越えられたことだし、この際、究極に羞恥が煽られるだろうこの状況のドサクサ紛れに、キワドイ意見も言ってしまえという心境である。
「だって・・しないと、体によくないですし。
・・・弓道してるのに・・そのせいで集中力が欠けたら大変ですよ・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・!」
何とかアルヴィスに、自分以外の相手にそんな艶っぽい姿・・・もといオカズネタを提供することになって欲しく無くて。
苦し紛れに部活動のことに言及したインガだったが、案外、効果があったらしい。
部活のことを口にした途端、戸惑っていたアルヴィスが真剣な目つきになった。
「そうか、・・・・そう・・なのかな・・・」
じっと、考え込む様子になる。
これは、脈有りだろうか。
「・・・・・だ、だけど・・」
けれどすぐアルヴィスは、また困ったようにインガを見つめてきた。
戸惑う様子で、躊躇いがちに口を開く。
「・・・・・・なんかっ、そのっ、・・・さっきすごく俺・・・おかしくなっちゃいそう・・・になった、から。
出来ればその、もう、あんな・・・あんなことは・・・・俺っ、・・・・」
「・・・・そんなに、・・・感じてくれたんですか・・・・・?」
おかしくなりそうなほど、と言われてインガの頬が自然に弛んだ。
アルヴィス的には一杯いっぱいで大変だったのだろうけれど、そうやって余裕が無い位に感じ入って貰えるのは、男冥利に尽きる。
「か、感じ、・・・!?」
だが、嬉しそうになったインガが、アルヴィスの気に障ってしまったらしい。
「・・違・・っ、そうじゃなくてっ、・・・ほ、本当にっ、・・・なんか死にそうだったんだ・・・・っ!!」
だからもうしたくない・・・!! 真っ赤になって、そう訴えてくる。
言葉通り受け取ると、エッチで死にそうに感じじゃって困ったから、もうしたくない――――――とい白状したことに他ならないのだが、アルヴィスは気付いていない。
ワケが分からなくなるし身体が燃えるかと思ったくらい熱くなるし、とにかくすごい何か大変で、死にそうだったんだ・・・と、赤い顔で泣きそうになりながら、更に言い募ってきた。
アルヴィスの熱烈な告白に、余計に綻びそうになる口元を何とか引き締めて。
インガは、可愛いことを言ってくれる恋人を宥めようと口を開いた。
「あ、でもすみません・・・ボクがアルヴィスさんの塞き止めたままだったから、・・・苦しかったですよね・・・」
初めてなのにアルヴィスがあんなに乱れてしまった原因は、インガが彼自身をずっと戒めていたせいというのも多大にあるだろう。
挿入前に何度も達するのは疲れてしまうし、アルヴィスもアノ時はまだ解放したがっていなかったから―――――というのがその経緯(いきさつ)だが、途中から行為に没頭してインガもうっかり、忘れてしまっていたのである。
何もかも、初めて尽くしで。
今まで経験したことのない感覚に翻弄され、我を忘れる域まで登り詰めさせられるのは。
恐らく、それが快感であろうともアルヴィスには恐怖の一種であり、さぞかし不安に駆られたことだろうに。
「ボクも・・・夢中になっちゃってて・・・もう、あんな風にはしませんから・・・・」
すっかり乱れた様子で、インガにしがみついて啼くアルヴィスは本当に可憐で可愛らしかったが、――――――恋人には、申し訳無いことをしてしまった。
元々無かっただろう余裕を更に無くし、アルヴィス自身はさぞ怖かったのではないかと今更に思い至る。
したくない、と思われても仕方がないことをしてしまった。
インガにしてみれば、アルヴィスの慣れない様子や戸惑う姿が可愛くて堪らず、それはそれは官能を煽られる素敵な状況だったけれど。
アルヴィスにしてみたら、それらは不安で怖くて・・・一杯いっぱいになりながら懸命にインガを受け入れていた状況に他ならない。
「・・・すみませんでした・・・」
笑みを消し真摯な態度で頭を下げたインガに、アルヴィスが慌てた声を出す。
「あっ、違・・・・! ・・・その・・・違うんだ・・・俺、・・・・変だっただろ・・?
あんな変な声とか・・・あんなのまた、インガに見せたら・・・その・・・・・・、・・・・・」
一気にそう捲し立てて来たかと思うと、語尾に行くに従い声が小さくなって中途半端に消えてしまった。
「・・・・・・・・・・」
それでも、インガが黙ってアルヴィスを見詰め、言葉の続きを待っていると。
「・・・・・・・嫌われるんじゃないかって、・・・・怖いんだ・・・」
ふいっと顔を逸らし、消え入りそうなくらい小さな声でボソボソと言ってくる。
「嫌いになるわけないじゃないですか・・・・!!」
その仕草が、あんまり可愛らしくて。
インガは再び、アルヴィスの身体をぎゅうっと抱き締めた。
「こんなに・・好きなのに・・・。
・・・・・・・それに、変なんかじゃないですよ・・・? ボクは、すごく嬉しかったです・・・・・・・!!」
「―――――─・・・・本当に・・・・?」
縋るようにインガを見上げ、そう問うて来るアルヴィスが本当に可愛い。
大きな瞳に不安の色が浮かんで、抱き締めた身体からもドキドキと、脈打つ彼の鼓動が伝わってくる。
アルヴィスのことで、インガが嫌いになる要素などタダの1つも有りはしないのに、嫌われるんじゃないかと本気で心配している様子が丸わかりだ。
出逢った時から、インガの心は魂ごと、アルヴィスに奪われているというのに。
―――――かわいい。
可愛すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
今日だけで、もう何度アルヴィスのことを可愛らしいと実感したことだろう。
「・・・俺、ゾウガメみたいに上手く出来なくて・・・・」
「・・・・・・ぞう、・・?」
だが、可愛さは増すばかりのアルヴィスだけれど、インガにとって意味不明なワードが混ざり始める。
「ゾウガメだって出来たんだから、俺だってって思ったけど、・・・なかなか・・・」
「・・・・・・・・???」
意味が通じない。
アルヴィスの可愛さにやられて、本気で自分の頭がどうかしたのかとインガは一瞬不安になった。
「ゾウガメ以下の俺だけど、本当にいいのか・・・・?」
「いや、・・・え、・・・あの・・・・?」
―――――――どっから、ゾウガメな話題・・・・???
インガの頭の中に、ごろんとした岩のように巨大なカメが思い浮かんだ。
あんまり知識は無いが、確か200年はゆうに生きるという大型のリクガメだっただろうか。
なかなかにユーモラスなフォルムで、のんびりと草を食む姿は和めなくも無いけれど。
どう考えても、・・・今の自分たちの状況には関連性が見つけられない気がする。
「・・・・・・・・・・」
少なくとも、ロマンチックじゃない。
今の、感動的なアルヴィスの可愛さを味わう場面に、こんなの(ゾウガメ)は相応しくないだろう。
「ゾウガメみたいにちゃんと出来ない俺だけど、インガは俺でいい・・・?」
「・・・・え、・・・あ・・・・」
―――――――いや、ボクはアルヴィスさんが良いんであって。
ゾウガメとか、そういうのは別にどうでもいいんですけど・・・・???
「なあ、ホントに俺でいいのか・・・?」
とはいえ、必死な様子で問うて来るアルヴィスは、文句なしに可愛い。
インガの表情と言葉をひとつも取りこぼさず、こちらの真意をくみ取ろうと一生懸命な様子が、可愛過ぎだ。
独りぼっちで放っておかれた子猫が、抱っこして貰いたくて懸命に寂しかったと訴えているような、抗いがたい可愛さがある。
こんな可愛いアルヴィスを見ているのに、ゾウガメのことなんて考えたくなかった。
「―――――・・・嘘なんか言いませんよ、」
インガは無理矢理に、頭からユーモラスでシュールなゾウガメ映像を追い払う。
今はそんなカメなんかより、愛するアルヴィスの可愛い顔を眺めてウットリしていたいのだ。
「大好きです、・・・アルヴィスさん・・・・」
誓うようにインガはアルヴィスの手を取り、その甲に口付けをした。
「――――――何があったって。
どんなことがあったって、ボクはずっとずっと、貴方が大好きです」
「・・・・・俺も。俺も・・・・好きだ・・・」
手の甲にキスをされ、赤くなって身体を強張らせたアルヴィスが、ようやく安心したような笑みを見せる。
にっこり、それこそ花が綻ぶような・・・と形容するのが相応しい、キレイで可憐な笑みを浮かべて、アルヴィスが自分からインガに抱き付いてきた。
キスに続いてまたも珍しい、アルヴィスからの愛情表現だ。
「っああ・・・っアルヴィスさん・・・!!???」
アルヴィスから抱き付かれ、その幸福感にインガは他のことが一瞬どうでも良くなりかける。
いつだって、アルヴィスのキレイな笑顔はインガの心を奪い、そのまま甘く蕩ける世界へと連れ去ってくれるチカラを持つ。
嘘じゃなく世界がバラ色に染まり、全てがふわふわとした甘く柔らかな感覚に包まれて・・・彼と自分さえ居たらそれでもう、それだけでいいような心地になってしまうのだ。
「・・・・・・大好きです・・・っ!」
このまま2人で抱き合い、イチャイチャと愛を語らいながら甘い空気を満喫したい―――――――そう、思い掛けたインガだったが。
そういえば、さきほどの提案が中断したままだったのを思い出す。
インガとしては放置できない、由々しき問題を孕んでいるので、おざなりにしておけない提案だ。
しかし。
「・・・・・・・・なんか、色々有りすぎて良く分からなくなっちゃったけど。
・・・でも今すごく、俺幸せな気がする・・・・・」
抱き付いてきたアルヴィスが、恥ずかしそうにインガの耳元でそんな可愛らしいことを言ってくれるものだから。
「――――――インガと、最後まで出来て良かった・・・」
しかも、インガの胸がキュンとなって愛しさに息苦しくなるようなことをぽそっと言ってくれるものだから。
「・・・・ボクもです。アルヴィスさんと最後まで出来て、すごく幸せです・・・・!!」
そんな提案を、無粋に蒸し返すのは気が引けて。
衝動的にきつくアルヴィスを抱き締め、大好きと繰り返し伝えたくなる。
「・・・・・・・大好きです。だから、ずっとボクと一緒に居てくださいね・・・」
諦めて。
インガは、抱き締めたアルヴィスの滑らかな頬に顔を擦り寄せた。
アルヴィスの1人エッチの問題だとか、謎のゾウガメ発言だとか。
色々と、これから確認したり解決しなければならないことは沢山あるけれど。
それはもう、全部後回しだ。
気にならないと言えば嘘になるし、決して放ってはおけないことではあるが、今はその時じゃないとインガは自分に言い聞かせる。
大好きだから全てを知りたいけれど、・・・急ぐことはないだろう。
これからゆっくり、もっともっとアルヴィスを知っていけばいいのだ。
きっと、これからも色んなアルヴィスを、インガは目にすることになるのだから。
言いたいことも聞きたいことも、――――――今は後回し。
「・・・・・こうしてアルヴィスさん抱き締めてるの、幸せすぎて夢みたいです・・・」
「・・・夢じゃないだろ? 俺はここに居る」
「そうですよね。でも、・・・なんか夢の中みたいなんです、あんまり幸せすぎて」
完全にアルヴィスの華奢な身体を腕の中へ包み込み、思ったままのことを口にしたら。
アルヴィスがクスッと笑って、インガの頬に手を伸ばしてきた。
「俺はここに居るぞ? ・・・ここに、こうして」
「・・・・アルヴィスさん」
触れてきた手に自分のを重ねるようにして、インガはアルヴィスの手に頬を擦り寄せた。
そして、なるべく冗談として聞いて貰えるような軽い口調を心がけつつ・・・口を開く。
「ボク、・・・アルヴィスさん相手にはウサギになっちゃうんです」
「・・・ウサギ?」
突拍子もない言い分に、アルヴィスが小首を傾げるのが可愛かった。
「はい。ウサギさんです」
笑顔で頷き、インガは言葉を続ける。
「それでね、アルヴィスさん。
ウサギって、寂しいと死んじゃう生き物なんですよ」
「・・・そうなのか」
「そうなんです♪」
ショックなことを聞いたと言わんばかりに、アルヴィスが少し表情を曇らせた。
それを払拭するように、インガは明るい笑顔で自分の口調を戯(おど)けさせる。
けれど話の内容はインガの纏う雰囲気とは裏腹に、なかなかにヘビィだ。
「だからアルヴィスさんが居なくなったら、・・・・ボクは生きていけません」
「・・・・・・・」
「絶対生きていけない。死んじゃいますよ確実に!」
「・・・・・・インガ、お前な・・」
インガの言葉に、アルヴィスが苦笑を浮かべる。
とくに真意など無い、恋人の単なる軽口だろうと思っている表情だ。
インガも、アルヴィスにマジメに受け止めて欲しいと思っているワケでは無いから―――――――これは、むしろ願ったりの反応である。
「アルヴィスさんだけが、大好きなウサギですからね。
他の人間が構ってくれても、無理なんですよ」
告げる言葉が一欠片(ひとかけら)さえも偽りなど無い、真実そのものであるとしても、それをアルヴィスに押し付けるつもりは無かった。
「アルヴィスさんじゃないとダメなんです」
「・・・・・・・・・困ったウサギだな?」
言うセリフとは異なり、腕の中のアルヴィスが楽しそうにクスクス笑う。
長い睫毛の隙間から覗く、細められた青い瞳が一対の煌めく宝石のようだ。
アルヴィスは相変わらず、冗談めかして言っている言葉の数々がインガの本音であるとは考えてもいない。
それが分かっていて、インガは尚も言葉を重ねる。
「だから何処にも行かないで下さいね。・・・このウサギ、結構寂しがり屋なんですから」
離したくない。
何処にも行かせたくない。
自分の傍(そば)で、ずっとずっと一緒に居て欲しい。
言えない本音を、ジョークめかした言葉に込める。
「わかったよ、俺もウサギが死んじゃうのなんて嫌だから・・・約束する。
――――――何処にも行かない、俺はお前の傍に居るよ」
「・・・・アルヴィスさん・・・」
変わらずクスクス笑いながら、誓うように手を挙げるアルヴィスを抱く手に力を込めて。
「約束ですよ? 破ったら、お仕置きししちゃいます」
インガも冗談交じりに、本音を告げた。
「ウサギ(ボク)は、アルヴィスさんの為だけに存在してるんですからね。
・・・・アルヴィスさん居なくなったら、・・・・・・・、・・・・・・・・」
―――――――何をしてしまうか、分からない。
アルヴィスを、失うことになったら。
インガは、自分がどうなってしまうか想像も付かなかった。
けれども、絶対に今の自分のままでは居られないのは確かだ。
それがどんな理由であろうと、どんな事情からであろうと・・・・インガはきっと、受け入れることが出来ないだろう。
自分の傍に、・・・・・・・・彼が存在しなくなる。
それはインガにとって、自分の存在理由が無くなることに等しかった。
インガにとってのアルヴィスという存在は、それ程に特別だ。
「・・・俺が居なくなったら、・・・?」
急に言葉を途切れさせたインガに、胸元に寄せていた顔を上げアルヴィスが無邪気に聞いてくる。
「・・・・。アルヴィスさんが、居なくなったら・・・・・」
その可愛い顔にキスの雨を降らせ、インガはニッコリ微笑んで見せた。
「・・・寂しすぎて、ウサギは泣いて泣いて・・・涙の海で溺れ死んじゃいます。
周りの奴らも道連れにして」
「すごいな、・・・それ」
「―――――ウサギはアルヴィスさんに出逢ったその時から、貴方だけに夢中なんですよ」
軽い口調に、本音を混ぜて。
インガは腕の中の大切な存在に囁きながら、その可愛らしい唇に優しいキスを繰り返す。
そうしていたら、とても幸せな気分になれた。
アルヴィスを抱き締めるたび、キスをするたびに――――――どんどんと幸福感が増していく。
彼のキレイな顔を見つめて、アルヴィスが見つめ返してくれたら、更に幸せで心が満たされる気がした。
一緒に居られるだけで、際限なく膨らんでいく幸福感。
それはきっと、アルヴィスとだけで得られる感覚だ。
「・・・幸せだな」
不意に、アルヴィスがそう呟いてきて。
彼もインガと同じように感じてくれているのかと思ったら、またインガの胸が甘く優しいものに満たされる。
「そうですね・・・ボクもすごく今、幸せだな・・って思います」
「俺達、ずっと一緒に居ような」
「・・・・っ、はい!」
屈託なく笑い、素直に言ってくれるアルヴィスが本当に可愛い。
本心からそう言ってくれているのが分かるから、余計にインガの胸を打つ。
「・・・・・・・・・・」
ずっと自分からしか、手を伸ばしていないような気がしていた。
羽ばたこうとしているアルヴィスの手を掴み、無理に地上へ縛り付けているような気がしてならなかった。
――――――・・・だって、恋い焦がれたのは自分の方で。
アルヴィスはただ、インガの想いに流されてくれただけだから。
インガが掴んだ手を解放すれば、アルヴィスは持てる白い翼を羽ばたかせて空へ還ってしまうような不安がずっと、・・・頭から離れなかった。
「・・・・・・・・・・」
だけど。
アルヴィスが、一緒に居たいと言ってくれた。
一緒に居ようと、インガに言ってくれた。
アルヴィスからも・・・インガを求めてくれている。
―――――――天使は、自分の意志で地上に留まり続けて居てくれるのだ。
「ずっとずっと、一緒です。
ボクがアルヴィスさんから離れることはありません・・・!」
細い身体を抱き締める腕にそっと力を込め、誓うように言う。
「大好きだから、離れません」
「うん」
「ずっとずっと一緒に居たいです」
「うん」
「大好きです・・・っ!」
「うん、俺も・・」
しつこいくらいに、『好きだ』と『離れない』を繰り返すインガの言葉に、アルヴィスはただ頷いてくれた。
当たり前だというように、何でも無いことのように、ごく自然に頷いてくれる。
それがインガには堪らなく嬉しい。
「でも、どうしたんだ? なんでこんな・・・」
だが、執拗に言葉を重ね過ぎたせいだろう。
そう言って、アルヴィスが少しだけ不思議そうに首を傾げる。
「・・・何でも無いです。
ただちょっと、アルヴィスさんが好き過ぎて頭の中が暴走しちゃったみたいで・・・・」
「・・・・・・・は?」
キョトンとするアルヴィスを、インガはまた笑って誤魔化した。
そして話を逸らすように、真面目くさった顔で深刻に言葉を告げた。
「ねえアルヴィスさん。・・・ウサギさんが、また寂しがってるみたいなんです」
「?」
「寂しくて死んじゃわないように、キスを頂けませんか・・・・?」
「――――――本当に寂しがりなウサギさんだな、・・・」
腕の中で、アルヴィスがキレイに微笑む。
受け入れてくれている、とインガが実感できる優しい笑みだった。
「ええ、手間掛かりなんです。嫌ですか・・・?」
「そういうウサギが好きだから、それでいいよ」
「・・・・・・・アルヴィスさん・・・」
「ほら、ウサギさん。もっと俺の近くへ来てくれよ?
じゃないと、お願いは聞いてあげられない・・・」
「・・・こう、・・・ですか?」
飛び立てないように、空へ帰れないように。
クスクス可愛らしく笑い続けている天使を、しっかり両腕で抱き締めて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
インガは腕の中の恋人へ、そっと自分の顔を近づけた――――――――。
END
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言い訳。
初えっち編、ラストです☆
・・最後は可愛く・・・と思ったんですが、ちゃんと可愛くなってるか微妙なとこですn(爆)
2人のイチャイチャなムードが出させていれば良いんですけど(笑)
まーぶっちゃけ、この時点でのインアルってインガ→アルヴィスな状態なんですよね。
アルヴィスがまだ恋愛面で未熟なので、インガにちゃんと恋はしてるんですけれど、まだ無自覚な状態です。
友愛も親愛も恋愛も、まだ区別が付いてない状態。
ダンナさんもギンタもインガも、皆好き状態です(笑)
幼馴染みのトム様には、もうすこし特別な想いがありそうですが・・・それでもまだ、恋愛感情にはなってないのかと。
そこら辺にインガは、薄々気付いてるんですよね。
恋して求めてるのは自分だけで、アルヴィスの方はただそれを受け止めているに過ぎないんだ、って。
先手を打つが勝ち、ってな状態でアルヴィスGetした彼ですが、そこら辺は内心悩んでるって設定です。
なので、アルヴィスを深く想いながら―――――――自分の事をアルヴィスが好きでいてくれるのかという部分に、インガはとっても自信がありません。
離れないで置いていかないで下さい、って一生懸命になってます(笑)
アルヴィス、ちゃんとインガのこと大切に想ってるんですけどね☆
何はともあれ、これでまた恋人としての仲が進展した2人です^^
次回からは、2人の日常を『君ため』のように追って書いていければいいなーと思っております☆
此処まで読んで下さってありがとうございましたvv
そしてこの話は、私のメッセのお相手をしてくださりインガの言動全てを担当してくださった鈴野さんに献げますvv
鈴野さんがインガやってくださらなければ、この話は絶対出来上がりませんでした(笑)
というか、メッセ意外に勝手に付け加えてる辺りが偽インガと化してそうで申し訳無いです(爆)
それでも何とか、こうして書き上げられたのは鈴野さんが、マジメで誠実でアルヴィス大好きで、それ故にちょっぴり姑息なインガを演じてくださったお陰ですvv
本当にありがとうございましたー≧▼≦
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