『Clytie-クリュティエ- 2』












「・・・・・・・・・・・」






 幼なじみって、どんな人ですか。

 今は、どうしてるんですか。


 アルヴィスさんとは、今・・・・・?




 聞きたいことは山ほどあるのに、何故か聞く気になれない。

 アルヴィスが話す表情を見れば、決して彼にとって『その他大勢』では無い特別な存在らしいと分かるのに。
 アルヴィスを想っているインガとしては、絶対に知っておかねばならない情報だろうと思うのに。

 だからこそ、―――――怖くて彼に確認出来ない。


「・・・・・・・・・・・」




 だって。


 すごく格好良くて頼りになって、尊敬できる凄いヤツなんだ・・・って、言われたら?

 今は大学生で、近くのアパートに住んでるんだ。よく遊びに来るよって、・・・言われたら?


 ――――――実は付き合ってるんだ・・・・なんて言われた日には、立ち直れない気がする。





 しかし、インガが聞きたかった真実は意外と早く判明した。


「・・・・・ヒマワリって、英語でSunflowerっていうし学術名でもヘリアン・・・なんとかって言う、太陽の花って意味の名前付けられてるんだよな、確か。あの頃って、俺が3歳ぐらいだからアイツも小1くらいだったはずだけど・・・・知ってたのかな」


 俺は花に全く興味無かったから知らなかった、と。
 ふと、アルヴィスが独り言のようにそう口にしたのだ。


「昔から頭が良い奴だったし、知ってたんだろうな。・・・今だって、どっか海外に留学しちゃってる筈だし・・・」

「え? 留学・・・・?」

「ああ。俺が6歳になるかならないかの時に、A国だったかに留学したんだ。それっきり逢ってないから・・・・今は何処にいるのかも、どうしてるかも知らないけどな・・・」


 だから、ヒマワリ見ると少しだけアイツ思い出すよ―――――そう言ったアルヴィスの声を、インガは言いしれぬ安堵感と共に聞いていた。


「そうなんですか・・・・」


 それなりにアルヴィスにとっては、大切だったらしい想い出として残っているのは気に入らないが、とりあえず自分の恋の障害とはならなさそうだ。
 過去は過去として、・・・・ヒマワリの花と一緒に、このままアルヴィスの記憶の底へ埋没していけばいいと思う。


「じゃあもう、遠い想い出ですよね。・・・お花で誤魔化さなくても、アルヴィスさんはもう、本物の太陽が眺められますし!」


 暗にヒマワリで代用する必要は無いでしょうと言って、インガは花屋の店先でずっと立ち止まっていた歩を進め――――――アルヴィスに帰ろうと即した。


「そうだな」


 インガに即され、アルヴィスもそのまま歩き始める。

 さりげなく勇気のいった『遠い過去』発言にも、引っかかりは覚えないでくれたらしい。
 アルヴィスはいつも通りの、キレイな顔で終始和やかに笑ったまま、インガと帰路を共にしてくれたのだった・・・・。













 ヒマワリの花言葉。

 いつわりの富、にせ金貨。
 崇拝、熱愛、光輝、愛慕・・・・・・・・憧れ。


 ―――――――私の目は、貴方だけを見つめる・・・・・。




 神話では、太陽神に恋をした水の精が。
 決して振り向いてくれない彼に恋い焦がれ続けて―――――・・・やがては姿を花に変えたという。

 だからヒマワリは、いつも太陽の方に顔を向けているのだとか。
 大好きな彼を、いつも眺めていたいから。





 早速、インガが家に帰って調べてみれば。
 ヒマワリの花言葉は、人目を引く派手な外見とは裏腹にとても謙虚なモノが多かった。

 神話の言い伝えからして、けなげと言ってもいいだろう。
 アルヴィスに花を渡した人間達は、言葉で伝えられなかった想いをその花言葉に託したのだろうか。

 残念ながら、本人にその意は全く伝わらなかったみたいだが。



 それに、――――――。




「・・・・・・・・僕なら、ヒマワリに自分の気持ちは託さないな」



 目を通していた本を置き、インガはそう1人ごちた。

 そして、部屋の窓から、沈み掛けている夕日を眺めつつ。
 アルヴィスと一緒に花屋で見かけた、鮮やかな黄色い王冠のような花を思い浮かべる。



「・・・・縁起が悪くて、とてもじゃないけど告白には使えない・・・・・」





 太陽神に、恋をして。
 他の娘に、心奪われてしまった恋人に。
 なりふり構わず、再び愛を得るため、在る事無いこと吹聴して。
 ついには、永遠に太陽神の寵愛を失った水の精霊。

 それでも諦められず、娘は常に太陽神を求めてその目映い光を見つめ続け・・・・。
 やがては、その姿を花に変えたという。


 その花が、ヒマワリ。

 つまりは、悲恋の言い伝えが残る花。




 想い続けて、その挙げ句に愛を得ることが出来ないなんて、悲恋以外の何物でもないだろう。





 これからも、アルヴィスには事ある度にヒマワリが贈られるのかも知れない。

 言葉で伝えられない、切なる想いを込め。
 花言葉に、気持ちを託して。


 けれど、それらがヒマワリの言い伝えと同じようになればいいとインガは思う。



 悲恋でいい。

 実らない恋を象徴する花を、思い人に贈り・・・・諦めてしまえばいい。

 恋い焦がれ、ただひたすらに太陽を想い―――――地に根を張った動けない姿で、そのまま枯れていけばいい。





 アルヴィスの心を捉え、あの瞳を見つめながら想いを伝えるのは――――――自分だけでいいのだから・・・・・・・・。







 END

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言い訳。
さりげなくっていうか、大っぴらにインガが黒くてスミマセン(爆)
そしてヒマワリ、けなげな花なのに可哀想な花にしちゃってスミマセン(滝汗)
神話は嘘じゃないんですけど><
花言葉も本当なんですけど、かなり曲げて解釈してますよね(汗)
まあこれは、「インガがそう思ってる」んだとお考え下さいませ^^;
(↑でもコレ『君ため』設定がベースなので・・・ファンアルだとすると、微妙にインガは自分の想いこれからも成就しないんですよね・・・こんな黒いこと考えてるのに、実らない辺りがすっごい不憫でs/笑)

ていうか、こんなのが拍手御礼SSで、スミマセン・・・(土下座)